セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000611510

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    内容(「BOOK」データベースより)
    『「思想もことばもすべてが他人のおさがり、なにか昨日のもの、だれかのお古のよう」私たちは「使い古しの時代」を生きているのか―21世紀の国家像をあぶり出す、ポスト・ソ連に暮らす人びとへのインタビュー集「ユートピアの声」五部作、完結編にして集大成。2015年ノーベル文学賞作家、最新作。2013年メディシス賞(エッセイ部門)受賞(フランス)、2014年ボリシャーヤ・クニーガ賞(読者投票部門)1位(ロシア)、2015年リシャルト・カプシチンスキ賞受賞(ポーランド)。』


    冒頭
    『わたしたちはソヴィエト時代と別れつつある。わたしたちのあの生活と。わたしは、社会主義ドラマに参加していた全員の声をおしまいまで誠実に聞こうとしている。』

    原書名:『Время сэконд хэнд』(英語版:『Secondhand Time』)
    著者:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ (Svetlana Alexievich)
    訳者:松本 妙子
    出版社 ‏: ‎岩波書店
    単行本 : ‎624ページ
    ISBN ‏: ‎9784000611510

  • ソ連からロシアへの移り変わり。
    国家の崩壊と誕生を生き延びた人々へのインタビューから本書は成り立っている。

    貴重にしても、ありふれた題材ではある。
    国家による抑圧と解放、偽りの国民概念。
    実際、本書もその領野からの声をひろっている。

    ただ、もっと切実な日々の生存者としての言葉と、
    きらめくような共産主義/自由主義への憧れの言葉、
    そうしたものは国家の変遷とは無関係に充満している。
    (憧れとは、そこに在るものであってはならない)

    そうして密度を増した人間的時空の中に「ソヴォーク/粗連人」
    という不名誉な表現で現れる国民概念はフィクションであったとしても、
    真実であることを妨げない強度を持っている。

    かつての共産主義者から、兵士、革命にかかわったもの、アルメニア難民、エトセトラ
    本当に幅広く、一人一人粘り強く耳を傾け続けた労作だ。

    ロシアの精神を見るとともに
    断絶した声の交錯は、どこの社会にも普遍的に見られるものだ。
    それは和声としてまとめるべきものでもない。
    ただ春雨が来る前の空気と鳥の声を身体が覚えていられるように
    こうした声の地鳴りに耳を澄ませてもいいんだと思う。


    >>
    わたしたちには西側の人間が幼稚にみえる。というのも、彼らは、わたしたちのように悩んでいないし、ちっぽけなニキビにだってあっちには薬があるんだからね。それにたいして、わたしたちは収容所で服役して、戦時中は大地を死体でうめつくし、チェルノブイリでは素手で核燃料をかきあつめていた……。そして、こんどは社会主義のガレキのうえにすわっているんですよ。戦後のように。わたしたちはとても人生経験豊かで、とても痛めつけられている人間なんです。(p.42)
    <<

    >>
    列車がベラルーシ駅に近づくとマーチがなりひびき、アナウンスをきくと心臓がばくばくしたものです。「乗客のみなさま、列車はわが祖国の首都、英雄都市モスクワに到着いたしました」。「活気ある、強大な、無敵をほこる/わがモスクワ、我が祖国、わが最愛の……」この歌に送られて列車を降りるのです。(p.110)
    <<


    >>
    ひと月前はみんながソヴィエト人だったのに、いまではグルジア人とアブハジア人……アブハジア人とグルジア人……ロシア人に、わかれちゃった……(中略)
    見た目はふつうの若者。長身で、ハンサム。彼は、自分の老いたグルジア人の教師を殺した。学校で自分にグルジア語を教えたという理由で殺したのです。落第点をつけられたといって。こんなことができるものなの?(中略)
    神さま、お救いください。信じやすく見さかいのない人びとを!(p.308,309)
    <<

  • この本を読んでいる時にチェーホフの「ワーニャ伯父さん」の舞台を見た。我々の人生は苦しい、苦しみながら働いて死んでいく。せめて死んだら天国で祝福されたい。100年後の子孫はずっとましな生活をしているだろう…ロシア人はそう思いながら、100年後にも暮らしていたのだ!なんという民族の歩み!チェーホフを「ロシア民族」という文脈で再確認した。
    「ロシアでは5年ですべてが変わりうるが、200年では何も変わらないのだ」
    ロシアがどれだけ多くの血を流し、収容所や密告や拷問の過酷な経験をし、飢え、社会の変化に絶望してきたか、改めて知って愕然とした。このような経験がごく身近であるロシアという国を、とても理解しているとはいえなかった。外から見ると民主化だが、この本が語るのは大国の瓦解による経済の混乱や弱体化、庶民が陥った貧困、民族の対立など、ほとんどがマイナス面だ。
    1990年代のゴルバチョフにエリツィンは、私からすると「同世代」だ。アレクシェーヴィチのルポタージュで第二次大戦は過去の歴史、チェルノブイリは特定の地域として自分と切り離して読んでいたように思うが、ソ連崩壊時学生だったということは言い訳にもならない、自分の無知と視野の狭さに驚く。
    夥しい血と戦争(内戦)と恐怖…これらがおおっぴらに語られる事がないのも事実ではある。ナチスは書物や映像が量産されて有名だが、ロシアが「ナチスより大勢殺した」ことは表面化しない。おそらく中国も、かもしれない。
    アレクシェーヴィチが丁寧に描くマクロな観点では、戦争に行き収容されPTSDに苦しむ男たち、その男と結婚して苦しむ女たちの肉声がある。

  • ソビエト崩壊から現代ロシアにいたるまでのやく20年余りを生きた・生きている人たちからの聞き書き。第二次大戦を戦った人から、ソ連時代の記憶がない人まで、膨大な人たちの語りの記録。盗聴されたくない話をするときはラジオの音を最大にするとか、党員証を返却されたり夜中に投げ込まれたと思いきや、解散して発行できなくなる前に早く出してくれと頼まれた党幹部(というより地域の役員的なポジションぽいですが)の話だったり、細かな息遣いがつまった持ち運ぶのに困るぐらいの大著。やっぱりこれは文学なんだろう。

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