戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫) [Kindle]

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  • 著者は、2015年にノーベル文学賞を受賞した、ベラルーシ出身(母の故郷ウクライナ生れ、父の故郷ベラルーシ育ち)のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ。

    「ソ連では第二次世界大戦で百万人を超える女性が従軍し、パルチザン部隊や非合法の抵抗運動に参加していた女性たちもそれに劣らぬ働きをした」(訳者あとがき)。実際のところ、「十八歳以上なら男女の別なく軍務につけた」し、「十八歳以前、十五歳や十六歳で軍隊へもぐりこんだ少女もいる」(解説)という。

    戦後生まれの著者(ただし、「戦死した祖父、パルチザン活動にくわわりチフスで亡くなった祖母、三人兄弟のうち戦後に帰ってきたただ一人の息子が彼女の父であるという戦争の「傷」をひく家庭の出身」(解説))が、膨大な数に上る従軍女性達にインタビューし(「数百本のテープ、数千メートル分の録音、五百人を越える人々への取材」)、悲惨で思い出したくもないエピソードの数々を引き出し、記録し、出版したのが本書。「この本には勝利のために国民が払った犠牲が、従軍少女たち、娘や姉妹、母親たちが流した血や涙が書かれている」(訳者あとがき)。元従軍女性達から非難され、訴訟沙汰にもなっているという。

    「女性の戦争についての記憶というのは、その気持ちの強さ、痛みの強さにおいてもっとも「強度」が高い。「女が語る戦争」は「男の」それよりずっと恐ろしいと言える。男たちは歴史の陰に、事実の陰に、身を隠す。戦争で彼らの関心を惹くのは、行為であり、思想や様々な利害の対立だが、女たちは気持ちに支えられて立ち上がる。女たちは男には見えないものを見出す力がある」。そして、「何か理解できるのではと覗き込んでしまったら、それは底なしの淵だった」(by 著者)。

    旧ソ連のうら若き女性達は、祖国のため、自ら志願して(断られても断られても執拗に直訴して)過酷な戦場へ(しかも最前線へ)と赴いた。何故? 祖国愛の強さ? ロシア人気質? ロシア革命精神のなせる技? この異常な感覚、読んでいてなかなか理解できなかった。「わが国では私たち自身が関わらないですむことは何もない、国を愛するように、国を誇りに思うようにと、そう教え込まれていたんです。戦争が始まったからには、私たちも何か役立つべきだった。看護婦が不足なら看護婦になる、高射砲の砲手が足りなければ砲手になるだけのこと」とは言うけれど…。

    そして、自ら望んで飛び込んだ地獄絵のような戦場でのおぞましい体験の数々。ただむしろ、彼女達は戦後報われず、その方が戦場での体験よりもっと惨めなものだったのかも知れない。「負傷したことは誰にも言えなかった。そんなことを言ったら、誰が仕事に採用してくれる? 結婚してくれる? 私たちは固く口をつぐんでいた。誰にも自分たちが前線にいたことを言わなかった。そうやって、お互い連絡だけは取り合っていたの。手紙で。」、「男たちは戦争に勝ち、英雄になり、理想の花婿になった。でも女たちに向けられる眼は全く違っていた。私たちの勝利は取り上げられてしまったの。〈普通の女性の幸せ〉とかいうものにこっそりすり替えられてしまった。男たちは勝利を分かち合ってくれなかった」、「戦地にいたことのある娘たちは大変だったよ。戦後はまた別の戦いがあった。それも恐ろしい戦いだった。男たちは私たちを置き去りにした。かばってくれなかった。戦地では違ってた」。この報われなさ、理不尽さ、耐えられないほどに辛かっただろうなあ!

    旧ソ連の命知らずの女性達の逞しさにただただ瞠目させられた一冊だった。

    それにしても、ナチス・ドイツの兵士達(ファシスト)の人倫にもとる残忍な振る舞いの数々、とても信じられない(謹厳実直げなはずのドイツ人のイメージからもかけはなれている)。集団的狂気のなせる技なのかな。(幸いなことに、本書ではスターリンの残虐さはあまり描かれていない)。ドイツとロシアの間には、根深い敵愾心が消えずに残っているだろうなあ。

  • 辛い行軍の中でも
    楽しかったこと 美しかったことも
    沢山心に残してあるんですね
    どんな生活をしていても
    友の笑顔や ほのかな恋
    美しいものを優しいものを見つけ出す力

    まさに 戦争は女の顔をしていない 
    女性と戦争とは全く反対
    強く戦った ソ連の女性たちから
    生きるとは何なのかを考えさせられます

  • 戦争ものの映画も小説も男性が主役だったりする作品が多い中、第二次世界大戦で当時のソ連で従軍した女性にインタビューした本。
    戦地へ赴いたのは男性だけだと自分の中で勝手に思っていたけど、実際には女性も兵士であったり看護兵であったり通信兵をしていたり
    その種は多岐に渡るのだけど、目を覆いたくなるようなかなり過激な事があったのだとショックを受けた。
    自ら志願して戦地へ行けば邪魔者扱い、弱い者扱いされ
    戦いが終わり祖国へ、自宅へ帰れば戦争に参加していない女性から白い目で見られ
    国からは捕虜としてまたは生き残って帰ってきたのは恥だと罵られ
    本当にどこにも救いがないというか、救いは自分の中しかない。
    誰もが口を閉ざしてなかなか言わない、伝える事ができないという現実がとても心痛い。戦争の代償が大きすぎる。

  • 第二次世界大戦で、主に独ソ戦に従事した女性への戦争体験記をまとめた一作。
    1978年から聞き取りをはじめ、1985年に出版されたらしい。2015年にノーベル賞を取った作品だが、日本語版は2008年まで出ていなかったらしい。

    狙撃兵が初めて敵兵を狙撃した瞬間、死に向き合った看護兵、祈りを覚えた歩兵。
    そして、戦地で色を失った人生が戦争の終了とともにカラフルで音に溢れた世界を取り戻す姿。戦後になっても人の死を当たり前とし動じなくなる姿。
    勝利を強いプライドとして生きる女性、忘れたい思い出として封印する女性、人を殺めた自らの罪に苦しむ姿、戦争の過去への向き合い方も人それぞれ。

    戦争にかかわる仕事が実に多岐にわたり、その多くに女性が関わった事実がわかる。過酷で残酷な戦争に従事しながらも、英雄と扱われたのは”狙撃の女王”リュドミラ・パヴリチェンコなど、ごく限られた人。
    戦争で国のために己を犠牲にした多くの女性は、戦後口を噤んだからこそ、本作の意義が大きい。

    個々人の語りはとめどなく、まとまりはないが、その”理解しがたさ”が真実だと思うし、アレクシェーヴィッチ氏のまとめが秀逸で読みにくさは感じません。
    ”戦争は女の顔をしていない”というタイトルも見事であると思います。ノン・フィクションなので、もはやこれは「読んでほしい」としかならない。
    漫画版もあるということで、それはそれで読んでみたいと思います。

  • 十人十色、五百人五百色、百万人百万色の記憶。

  • ソ連では女性も前線や兵站、その他各方面で男性と同様に活躍していた。
    そこでの体験もさることながら、戦後の彼女たちへの扱いが、彼女たちの口を重くさせたのだろう。それを開くまでずっと我慢強く取材を重ねた著者の功績は大きい。
    そして、なぜ「女の顔をしていない」のか、じっくり考えたときに実に非情な社会のことを考えざるを得ない。それは社会主義、独裁国家関係なく我々一人一人がどう考え動くかということにかかっているのだろうと思う。

  •  第二次大戦に出征したソ連の女性兵士たちの記録。男たちの武勇伝とは一線を画した、女性の目から見た辛く苦しい戦場の生々しい描写が続く。同じようなトーンで延々と悲痛なエピソードが続くため、読んでいると気が重くなる。安直な感想を述べることがはばかられる。

     多くの元女性兵士が登場する。日本では聞いたことがないが、ソ連でもかなり異色の存在だったようだ。若い娘が前線に出ることに周囲の人々が驚く様子が何度も出てくる。しかも、徴兵されたわけではなく本人の強い希望があってのことだ。しばしばコムソモール(共産党青年組織)の名が出てくることから、その背景にはいわば洗脳にも近い愛国教育があったのだと思われる。同時に、ドイツに対する激しい憎しみが語られる。

     ソ連は戦勝国だ。戦争は偉大な行為であり、戦った人々は多大な名誉を得た。だからこそ、戦争の負の面、自国兵士の醜い姿や辛い出来事を語るのは、祖国の勝利に泥を塗る行為として封じ込められてきた。ある意味、戦争を美化することが許されなかった敗戦国の日本とは逆のパターンだ。

     本書は著者が500人以上の生存者にインタビューした努力の結晶だが、出版にこぎつけるまでに相当の苦労があったようだ。著者が取材を始めたのは1978年だが、ロシアにおける本書の発行は1985年。ただしソ連時代にはまだ語れないこともあり、最終稿は2004年。ノーベル賞受賞は2015年のことである。

     地獄の思いをして生き残った後にはひどい差別を受け、戦場体験を隠さざるを得なかった人も多い。栄光の背後にある辛さを語れないまま抱えて生きてきた彼女たちは、何もかも失って作り直すしかなかった日本人より不遇だったと言えるかもしれない。

  • 2015にこの本の執筆などでノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ女史の第一作。
    彼女の父親はベラルーシ(親ロシア国)、母はウクライナ出身ということなので、ウクライナ侵攻を続ける今のロシアの事をどう思われているのでしょうね。。。

    約500頁に渡り第二次世界大戦の独ソ戦に従軍した女性たちの証言集です。本当に沢山の女性が出てくるのですが頁数からしても400人近い女性の証言が1冊になっているのではと思います。途中女史の言葉も挿入されているのですが、その殆どはその証言をどのように集めたかとか当時の状況などを説明するだけなのです。
    色々衝撃なのですが、訳者の三浦みどりさん(鬼籍)の解説によるとソ連の従軍女性たちは15歳(!!)から30歳で出征していった人たちで、確かに本の中で証言している女性たちで年齢の話になるとそのほとんどが10代でした。また本の中では自分から志願した女性がほとんどなのです。しかも、軍事工場、衛生、通信といった援護的な仕事ではなく、あえて自分から前線を希望した女性が非常に多いのです。一体どうしてそんなことになったのだろうと思うのですが、当時スターリンの独裁下にあったソビエトで祖国を愛し祖国を守りたいという一心だったのでしょうか・・・。独裁者が政をする国家は恐ろしいとつくづく思います。淡々と証言している(ように思えますがそんなことはないハズ)全ての女性たちが、これを読むと国とか文化とか関係なくどこにでもいる普通の女性だと思えます。それなのに戦争っていうのは・・・。他所の国に武力をもって侵攻するなんてなんという愚かさよ。

    独ソ戦でwikiるとその犠牲者数が凄まじい。兵士だけでロシアドイツ各1470万人、390万人。民間人を含めると2000〜3000万、600〜1000万が犠牲になったそうです。ロシアの犠牲者数は人類史上全ての戦争・紛争の中で最大の死者数を計上したと。戦争前のソビエト人口は1.1億人だったので当時10人に2,3人が犠牲になったということになります。

    図書館にリクエスト、100人待ちで5ヶ月待ちました。

  • ロシアとウクライナで戦争が始まった。
    ロシアは戦争についてどう思っているのだろう、そう考えて読み始めた。
    この本は、第二次世界大戦に従軍した女性達の話である。
    やはり、お国のため命をかけて戦おう、というムードになっていたのはロシアも日本と同じだったのか。
    そして、その男女問わず使命に燃えた若者が志願した。
    けれど、女性はやはり前線で戦うべきではない、なるべく死なないところで、と大切にされてきたんだな、と。ロシア人の温かさを知る。
    そして、傷を負い戦争から帰った女性達に待っていたのは、英雄とたたえられることではなく、戦場に男を漁りにいったという侮蔑だった、前線にいたなどと言ったら結婚できないから隠すものだった、と……それを知り悲しくなった。
    日本でも、侵攻してきたロシア兵から村を守るために身体を差し出した女性に侮蔑する言葉を浴びせたというから、どこも一緒だな、と……。
    けれど、もちろん日本とロシアの感覚の違いもある。
    ロシアは、戦争は悲劇であったが、戦争で戦った者(男性)は、称えられるべき英雄である。先の戦争は聖戦であり誇りであった。
    日本で教育を受けてきた自分にとっての戦争は、悲惨、悲しい、残酷だ、という感覚であったので、そこはなるほど、敗戦国と戦勝国の差だな、と思う。

    かつて、「自分の国に侵略してきたファシスト」と戦ったソビエトの方々の姿を本書で見た。
    今回ウクライナに侵略したロシア兵を「侵略者」「ファシスト」と非難する女性の動画がネット上で拡散した。その言葉はこの本の女性と重なる。
    命をかけてドイツと戦い取り戻した領土であるウクライナを簡単にロシアは手放せないだろう。だってそこで仲間の命が散った。
    けれど、自分たちがファシストだと侵略者だと言われている現状を、今、ロシア兵達はどう思っているのだろうか。
    本当は戦いたくない人もいるのだろうか。それとも、先祖が守った土地を一緒の国にする今回の戦争を誇らしいと思っているのだろうか。

  • オーラルヒストリーの最高峰であり、反戦文学の最高峰。ベラルーシでこれは、現在、命の危険を伴う内容だけれど、著者は今をどう思うのか。
    そして、「戦場で女が何をしたか」ではなく「されたか」にまでは踏み込み切れない部分の悲惨を思う。

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