- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784001140415
感想・レビュー・書評
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イギリス児童文学の名作。ジブリ映画「思い出のマーニー」の原案。「時」をテーマとしたファンタジー。自然や心理描写が緻密で美しい文章です。自分は故人・心理学者、河合隼雄氏の著書を愛読するのですが 著作にピアスのことがよく出てきます。心理学的にも、興味深い内容、と河合隼雄氏が語ってました。
作品では、主人公トムが真夜中の庭で、過去と現在を行き来するなかで「ある人」に出会い…!物語が動き始め…。はじまりはゆっくりとしてますが、後半からは物語に引き込まれていくと思いますので、途中でやめないで最後まで読むことをおすすめします。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
フィリパ・ピアスの作品というと、だいぶ前に読んだ「「まぼろしの小さい犬」を先ず思い出す。
満足度の非常に高い一冊で、まさかこちらの代表作が未読だったとは、気づきもしなかった。これではとてもひとにピアスの作品を紹介などできない。
夏休みでもあるので、さっそく読んでみることに。そして心の底から満足した。
まるで深く心地よい眠りから覚めた気分で、本の持つ力に久々に陶酔した。
お話のテーマは「時間」。
ある老女の失われた幼年時代に、主人公のトム少年が入り込むという幻想小説。
緻密な構成と高い描写力で、ファンタジーとひと口で呼ぶにはもったいないほど。
タイトルにある「真夜中の庭」の表現が実に詩情豊かで美しく、著者の自然に対する感受性の高さがよくあらわれている。
真夏の太陽、稲妻や雷鳴、冬のキーンと引き締まった空気、冴え冴えとした月の光、特に真夜中の庭で真っ先に目に入るイチイの木やクラシカルな衣装を着た少女との出会いなど、まるで目の前に存在するかのような臨場感でストーリーが進んでいく。
トムの心理描写も細かに描かれ、しかも語りすぎることがない。
過去、そして現在とはなんなのだろう?
夜の庭で知り合った少女・ハティとの時間のズレはあまりに切ない。
トムはどうやって「時」を自由に出来るのか。
ハティの生きる時間との差を、縮めて永遠にすることは可能なのか。
そんなことを願いながら読んでいくと、終盤で小さな事柄のすべてが回収されていく。
年をとるということは物語を育てることで、幼年時代もすべてひとりの人間の中に生きているということ。ハティの成長後の老女が、それを教えてくれる。
ふたりの奇跡のような出会いもまた、幻想小説ならではのこと。
トムとハティがしっかりと抱き合うラストは、しみじみと素敵だ。
もうトムは「時」を手に入れようと泣かないだろう。成長を恐れないだろう。
老女は、年老いてもなお夢見ることを楽しむだろう。
時の旅人となり、私も真夜中の庭で会いたいひとがいる。
イエス・キリストとブッダそのひとだ。
でもまるで違う話になりそうなのでここでおしまい。
夏休みが舞台の話を、この夏に読めて大満足だった。-
nejidonさん
読みました〜!
評判通り良いお話でした!
nejidonさんの書かれているように庭の描写が情感豊かですよね。
しかし...nejidonさん
読みました〜!
評判通り良いお話でした!
nejidonさんの書かれているように庭の描写が情感豊かですよね。
しかしnejidonさんが会いたい人がキリストとブッダ!すごい!!2020/03/15
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ファンタジーの世界では、現実の世界から異界へ通じる秘密の抜け道と仕掛けが必要です。ナルニア国に通じる不思議なクローゼット、千と千尋の湯屋に通じる不思議なトンネル、ファンタージェンに導くあかがね色の古本。
本書の登場人物トムもまた、古いお屋敷の裏庭に通じる扉と13時?を告げる古時計に導かれ、不思議な世界に入りこんでいきます。
楽しみにしていた夏休み、弟ピーターの病気で家族と離れ、親戚の古いアパートで過ごすことになったトム。トムの迷い込んだ裏庭は夢か現か、世界が静かに眠っているいるはずの時間に広がる世界は、春の柔らかな陽射しに、木々が緑に芽吹き花咲く季節でもあり、真綿のようなまっしろな雪で覆われた冬の冷たい世界でもありました。
あるはずのない不思議な裏庭で出会った少女ハティ。この世界でトムに気づくのは動物たちとハティだけ。小さな冒険を繰り広げながら、夢の世界を旅するトムですが会うたびごとに大人になっていくハティと、いつまでも子供のままの自分に、やがて夢の世界と自分の世界をつなぐ秘密に気づいていきます。
夢は自在に時と空間、自分と他人を飛び越えていく。夢の世界を通じて自分の心の奥底を覗き込んでいるのなら、トムが真夜中に旅する世界はトムの夢なのか、だれかの夢なのか。
河合隼雄、小川洋子の著作の中でも取り上げられた本書、こどもの頃に出会えたらよかったなあ、残念。 -
ブクログでも他のみなさまが高評価でいつか読もうと思っていたものです。
ただいまコロナ休校のため、10歳次男に色々借りてきて私も読んでいます。
実に素敵な作品でした。
皆様ありがとうございました。
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弟の麻疹から隔離するために、トムはおじさん夫婦の家に預けられることになった。
夏休みに弟のピーターとは小さな庭で木登りをしたり木の間に家を建てることを楽しみにしていたのに。
おじさん夫婦のアパートは昔広い邸宅だったが、それを区切ってアパートにしたのだった。小さな庭すらない。
オーナーは三階に住むバーソロミュー老夫人だ。老夫人は一階の大時計を大事にしている。だがその大時計は時間通りに鳴ったことがない。
つまらない気分のままおじさん夫婦のアパートに滞在したトムは、真夜中に時計が13回鳴るのと聞く。…13回?時間は12時までなのに?
トムは一階に降りてアパート裏の扉を開ける。
そこには広い庭園があった。
トムは毎晩真夜中に鳴ると庭園に出ることに夢中になった。庭園にいる人たちにはトムが見えていないようだ。彼らはどうやらヴィクトリア時代の人たちらしい。
しかしその中の一人、トムと同じくらいの年齢である少女ハティ(ハリエットの愛称)にはトムが見えるようだ。
毎晩毎晩トムとハティは庭園で会い、木に登ったり木の上に家を作ったりする。これこそトムのやりたいことだった!トムは日中は弟のピーターに手紙を書き詳細に知らせる。彼がいればいいのに、彼と一緒に庭園で遊べればいいのに。
どうやら庭園の時間は行ったり来たりしているようだ。トムは大人にハティ、とても小さなハティに会う。
しかしおじさんの家から帰る日が近づく。トムは時間について、過去について考える。トム庭園のハティと現代の自分とを結びつける方法を考える。そしてそしてこのまま庭園にいるためにトムは庭園の「時」を「永遠」に変えようとする。
そうのうちハティはどんどんレディになってゆく。
家に残っていた弟のピーターは、トムからの手紙で庭園に夢中だった。そして彼らはある晩夢で一緒になるのだった。
そんなときに庭園が消えてしまう。
泣きじゃくるトムだったが、物語は最後に素敵な再会を読者に示すのだった…。
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トムが夢中になる庭園の描写はじつに生き生きと読者の目の前に現れます。
そして過去と現代を結ぶ時間の移り変わりのルールとそれを踏まえた上で飛び越えようとする構成もしっかりしています。
そして最後の素敵な終わり方。ある意味時を超えました。そして彼らは、友達がほしい、居場所がほしいという望みを叶えて自分で強く生きる道を見つけたのですね。
次男の反応。「ハティは幽霊じゃなくて、きっとトムがタイムスリップしたんだよ!」→「大変だ!ハティにトムが見えなくなっちゃった!」→「まさか夢(に入った)だったとは!」「なんとなくおばあちゃんがハティかなという気もしたけど、女王様の時代と違うから〜」などなど。-
淳水堂さん、こんにちは(^^♪
私のレビューにコメントをいただいてありがとうございます。
こちらにお返事させてくださいね。
この名作を...淳水堂さん、こんにちは(^^♪
私のレビューにコメントをいただいてありがとうございます。
こちらにお返事させてくださいね。
この名作をお子たちも読まれたのですね。
最初から最後まで読み手を惹きつける、本当に素敵な作品だと思います。
ピアスは「まぼろしの小さい犬」という名作もあります。
ぜひトライしてみてくださいませ。
ええ?キリストとブッダにくいつかれるとは・笑
あのふたりには、訊いてみたいことが山ほどあるんですよね。
皆さんそうだと思っていたのですが、違ったかな?
2020/03/15 -
nejidonさん
いつもありがとうございます!
「小さい犬」は今私が読んでいて、息子はまだ未着手なので、まずは私の感想を数日後に載...nejidonさん
いつもありがとうございます!
「小さい犬」は今私が読んでいて、息子はまだ未着手なので、まずは私の感想を数日後に載せる予定です。
キリストとブッダだなんて出会ってしまったら隠れ見るのが精一杯で、話すなんて無理だなあって^^;;
聖書ではキリストと市井の人の会話もあるので、ご本人たちは「隠れてないでおいでおいで〜」って言ってくれるんでしょうけれどね。。2020/03/15
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物語は時間を支配している。現実と過去と、かるがる思い出さえも飛びこえてしまう軽やかさに、もうただただ最後は泣くことしかできない…やさしい…SF
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これは大人になってから読んだ。
時間や空間を超えて過去と現在が繋がっていく不思議な展開がすごく面白い。
夜中の13時にだけ、入る事のできる美しい庭園という設定はものすごく魅力的!
そこでハティと出会い、一緒に過ごして行くうちに段々謎が解き明かされて行くのがドキドキ。
大人になったハティと凍りついた河をスケートで滑って行くエピソードは印象的!実際に体験したみたいな空気感が大好き。
全ての謎が解き明かされて、ハティと再会するラストには本当に感激でした!
ハッティとしてみても、自分の人生の中に現れる不思議な幽霊の少年とこんな風に繋がっていた事は素敵な宝物だよね。羨ましい! -
きょうだいのピーターのはしかがうつらないよう、おじおばの住むアパートで休暇を過ごすことになってしまったトム、そこは一軒の邸宅を区切ってアパートにしたものだったが、一階には、時間は正確だが鳴らす音の数がでたらめという大時計があった。
特にすることもなく退屈しきりだったトムが、夜眠れずに時計の鳴る音を1時、2時……11時、12時と数えていたら、時計は13時を打った。おかしいと思ったトムは、一階のホールに降りて時計を確認しようとするが暗くて見えない、そこで月明かりを入れようと裏口のドアを開けると、そこには広い芝生、花壇、温室、1本のモミの木や何本かのイチイの木があった。そこを見たいと昼間にそのドアを開けてみると、そこは狭い空地で、ゴミ箱や自動車があるだけだった。これは一体どういうことかと不思議に思ったトムだったが、夜になってドアを開けると、そこにはやはり庭園があった。
毎晩のようにこっそりと庭園に行くトムは、そこで園丁や三人の兄弟らしい少年たち、そして一人の女の子の姿を見かけるが、あるとき少女と知り合いになる。ほかの人間にはトムの姿は見えないが、ハティというその少女にはトムが見えるらしい。こうして友達になったトムとハティは、いろいろな遊びをし、いろいろな話をする。
庭園に行くと、朝だったり昼だったり、季節も変わったりと、時間が順序良く進んでいるのではないことに気づいたトムは、「時」とは何だろうと考えるが、答えはなかなか分からない。そうしているうちにハティとの関係も少しずつ変わってくる。そしてトムが家に帰らなければならないときも近付いてきた、果たしてどうなるのか、というお話。
「時間」というそれこそ哲学的な問題を取り扱っているが、ストーリーの中で自然に考えさせられるようになっており、読み進める上で変に煩わされるものではない。そして何といっても、庭園を始め自然や風景の描写が美しく、あたかもその場に居て二人と同じものを見ているような気にさせてくれる作者の筆は素晴らしい。(祖父の代から住んでいた実際の家と庭園がモデルとのこと)
児童小説のジャンルに入るのでしょうが、大人が読んでも読み応えがありますし、ラストではジーンとしてしまいました。誰もが持っていた子どものときの心に、改めて思いを馳せました。 -
ラストの展開が読めていたのに、実際そのページに来ると号泣でした。
その通りの結末になって安堵し、心が酷く満たされました。
そして、とても温かい気持ちのままページを終えることが出来、充足感に満たされた読書に感謝をしました。読んでよかった。
ただ、小学生に薦めるとなると躊躇してしまう。
小学5・6年から、と書いてあるけれど、読めるだろうか?
大人の自分が読んでいても、度々読みにくいと思う記述があった。
言葉のチョイスが古いというか、書いてある単語が何を指示しているのかわからない、またはわかりにくい、という箇所がしばしばあった。大人でこうなのだから、子どもはさらに読みにくいのではないか。
特に、アパートの様子や庭園の様子を想像することが深い意味を持つこの本の読書にあたって、思い描くことが出来るかどうかというのは、物語を楽しむことが出来るかどうかということに直結してくる。そのための記述に、意味の分からない単語がしばしば紛れ込んでいたら、想像することを諦めてしまうのではないか?という懸念がある。私も、実際このホールの様子や庭の様子を、思うように空想できたかと言えばなかなか難しいものがあった。自分の理解力や想像力の欠如ということもあろうが、それが出来なければこの物語の魅力は半減する。美しい庭を思い描くことは、必須だ。だが、難しい。それでも、数々の挿絵を頼りに、私はそれを思い浮かべながら、物語の先を急いだ。本当に物語が魅力的であれば、それらの問題は解決してしまうだろうか?
本当に面白い物語は、読み終えた後にずっしりと重い充足感に満たされ、幸せな気持ちになるのだ、ということが分かった。そんな物語だった。
ただ、一つの思い付きから、私の頭の中には今、BGMとして「前前前世」が流れてしまっている。「やっと目を~♪覚ましたかい~♪」ということである。「君の、名前は?」である。その思い付きは私にとっては変に合致していて楽しい思い付きではあった。トムがもし小学生ではなく、中学生以上の年齢だったとしたら、ラブロマンスになることもありえただろうか?などと思いついては、いやいや…とかぶりを振ったりしている。まぁ、年齢差が…と思わなくはないが、ラブロマンスでなくたって、物語の最後のくだりは、ロマンスにあふれていると思う。
また、トムが小学生であるからこそ、そして現代のようにスマホで何でも調べられる時代ではないからこそ、この物語の謎は最後まで引き延ばされることになったのだろう。
「君の名は」でなければ、「思い出のマーニー」を連想した。あれも、寂しい魂が結びついた話ではなかったか。
幼いハティの境遇が不憫で、とても切ない気持ちになった。
ただ、彼女ののちの人生が幸せだったということがわかり、本当に良かったと心から思った。また、園丁のアベルのその後にも言及され、物語は美しいエンドラインを描いていった。欲を言えば、邂逅のその後ももっと見たいだとか、弟のピーターとの邂逅だって見たいとかいろいろあるが、それはエンドライン後に、読者が好き勝手に思い描いてよいことなのだろう。
時代というのは移り変わっていく。美しい庭も、いつかはなくなってしまうのかもしれない。今あるものも、いずれかは過去になる。もしかしたら、今すら、誰かにとっては過去なのかもしれない。過ぎ行くものの切なさだとか、思い出の美しさだとか、そういったものが際立った作品だった。
不思議な魅力にあふれている。 -
岩波”少年”文庫だけど、やはり岩波少年文庫。
大人が読んでもしっかり楽しめる。
緻密に編まれたストーリー。
時空を超えて育つ友情。
ラストシーンはずっと胸に残る。