雪は天からの手紙: 中谷宇吉郎エッセイ集 (岩波少年文庫 555)
- 岩波書店 (2002年6月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
- / ISBN・EAN: 9784001145557
感想・レビュー・書評
-
身の回りの事象について、書かずにはいられない人だと思う。師の寺田寅彦同様、文才が素晴らしいので、それは中谷さんのなかで幸福な出合いだと思う。
科学を盲信するなと、所々で言われている気がする。なぜ科学エッセイを書くのかは、千里眼"事件"に触れて、誤った知識を認識しないためには、中学生程度の科学知識を一般の人も持っていた方が良いと感じているから。
秀逸なのは、飄々としたユーモアもさしはさまれてるところ。「イグアノドンの唄」の子供たちとのやり取りは、団らんの穏やかさと中谷さんの子供たちへの愛情が感じられるが、物語をなかなか真実と信じない長女を、さまざまな知識を駆使して「陥落」させて、悦に入っているところなど、こちらも思わずニヤリとしてしまう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000055627
-
茶碗の湯気から物理全体へ話を広げる。「ろうそくの科学」を思わせる。そのほか軽妙洒脱なエッセイ。今の中学生には難しいかな。
-
▼福島大学附属図書館の貸出状況
https://www.lib.fukushima-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/TB90301890
本書は、北大で教鞭をとられ世界で初めて人工雪の製造に成功したことでも知られる物理学者中谷宇吉郎先生の科学エッセイ集です。表題作では東北地方に居住する我々にはとても身近で、とかく厄介な存在になりがちな雪を通して科学の奥深さに触れることができます。その他にも身近な科学が、平易な文章でつづられており、初学者にも理解しやすい内容ですが、それゆえに私たちが日々見過ごしていることがいかに多いかに、否が応でも気づかされます。また本書では、著者の師寺田寅彦や湯川秀樹をはじめとする錚々たる研究仲間とのエピソードも魅力の一つですが、著者自身が一流の科学者であるにもかかわらず、著者の師や仲間への尊敬の念と謙虚な姿勢が随所から伝わってきます。実は私も自身の恩師から本書を紹介いただきました。良い先達との出会いは人生に大きな影響を及ぼします。学生の皆さんが、本学で人生の師、良い友に出会われることを願っています。
(推薦者:食農学類 石川 大太郎 先生) -
冬の岩波少年文庫シリーズ。
雪の結晶の研究で有名な物理学者・中谷宇吉郎のエッセイ集。
科学の話といってもひとつも難しいところはなく、誰にでもわかるような言葉で研究のおもしろさを語っている。
線香花火を「松葉」や「散り菊」と描写するなど、観察ですら文学的な文章。
地球の形が、凹凸があったり、楕円形であっても、鉛筆の線の幅に収まってしまう円になることを数式をまったく使わず説明してみせるあたりも見事。
雪の結晶、落雷、線香花火、霜柱、日常生活にある不思議を研究を通して解明できることをわかりやすく説明していてすばらしい。
以下、引用。
これは少したくさん刷りすぎたので、なかなか売り切れなようである。驚いたことは、五千部刷ったそうである。聞いてみたら、昔でたベントレイの雪の本は、現在一冊も残っていない、この本も、二十年間には売り切るつもりだというのである。
一つの落雷電光が、数本の電光から成っていることは、今世紀の初め頃からすでにわかっていた。しかし初めに火の玉が雲から落ちて来ることは、この研究で初めてわかったので、世界中のこの方面の学者たちをいたく驚かしたのであった。
初めてこの論文を読みながら、すぐ連想されたものは、子供の頃から聞かされていた雷獣の話であった。雷獣の話も民俗学的に調べてみたら、ずいぶん種類と変化とが多いことであろう。しかしそのうちで、火の玉のようなものが雲から落ちて来て、それが地面に達すると、落雷が天に駆け上るという形式の話がかなりの部分を占めているように思われる。
ションランドの得た結果を、少し稚拙な文学的表現で言いあらわすとしたら、この雷獣の伝説と非常に似たものになることはいちおう考えてみてもよいだろう。
アルタミラの洞窟に描かれた野牛たちの姿が、その疾走(ギャロップ)の脚の形をよくとらえていることはあまりにも有名である。獣たちの疾走の時の脚の運び方は、現代人には高速度活動写真の援けを借らずには知られないが、原始人類の眼には見えたのである。
しかし皆が心得ておくべきことは、湯川さんはノーベル賞をもらったから偉い学者なのではなく、偉い学者だったからノーベル賞をもらったのだということである。
水産講習所の兼任講師に寺田先生を推薦されたことがあった。その時長岡先生が「絹ハンカチで鼻をかむようなものだが」といわれたという伝説が残っている。
まず線香花火を一本取り出して火をつけてその燃え方を観察してみる。初め硝石と硫黄との燃焼する特有の香がして、さかんに小さい焔を出しながら燃えあがり、しばらくして火薬の部分が赤熱された溶融状態の小さい火球となる。その火球はジリジリ小さい音を立ててさかんに沸騰しながら、間歇的に松葉を放射し始める。そして華麗で幻惑的な火花の顕示(ディスプレイ)の短い期間を経ると、松葉はだんだん短くなり、その代りに数が増してきて、やがて散り菊の章に移って静かに消失するのである。
この日本紙のこよりというのも重要な意味があるのであって、沸騰している火球を宙づりにして保つには紙がなかなか大切なのである。薄い西洋紙で線香花火を作ってみたが、火球が出来ると同時に紙が焼け切れてどうしてもだめであった。このことなどもこの花火が西洋にない理由の一つかも知れない。
そうしたら先生が「そうか、それはよい経験をしたものだ。落第をしたことのない人間には、落第の価値は分らない」とほめられてちょっと驚いた。それから先生は「僕も落第したことがある。中学校の入学試験に落第をしたんだが、あれはいい経験だった。夏目(漱石)先生も、たしか小学校で一度落第されたはずだ。人生というものは非常に深いもので、何が本当の勉強になるかなかなか簡単には分らないものだ」という話をされた。
「不思議を解決するばかりが科学ではなく、平凡な世界の中に不思議を感ずることも重要な要素であろう。」(「簪を挿した蛇」より)
-
28年度(6-1) 紹介のみ
-
2016.9.4「本の合コン」で紹介。
-
どこまでもおだやかな物理おじさんのエッセイ。すとんと腹に落ち、さり気なく興味をもたされます。立春に卵が立つ話なんか、読んだらやらずにはいられない。
似非科学が簡単に蔓延してしまうことへの苦言なんかも、本心はどうあれ、文章に書くならこの穏やかさを持ちたいものです。 -
世界で始めて人工雪を作るのに成功したのは
北海道大学で、雪の結晶の研究を続けていた
中谷宇吉郎博士でした~
このエッセイから過酷な気象条件のなかで行われた
研究の様子を知ることができます。
表題にもなっている“雪は天からの手紙”は
雪の研究に一生を捧げた博士が残した
結晶のように美しい言葉です