アースシーの風: ゲド戦記 6 (岩波少年文庫 593 ゲド戦記 6)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001145939

作品紹介・あらすじ

故郷で暮らすゲドのもとを、まじない師のハンノキが訪れ、奇妙な夢の話をする。そのころ、ふたたび竜が暴れ出し、アースシーにかつてない緊張が走る。世界を救うのは誰か。レバンネン王は、テハヌーたちとロークへ向かった-。

感想・レビュー・書評

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  • “長く、白い帆を白鳥の翼のように膨らませて、その船、天翔丸はよろい岩を抜け、静かな夏の湾を滑るように、ゴンド港目指してやってきた。”
    清水真砂子さんによる美しい翻訳にいざなわれて、冒頭から懐かしいアースシーの世界に浸ることができる。
    しかし、帰還 -ゲド戦記最後の書-」から10年経って著された「ドラゴンフライ」と「アースシーの風」では、これまでの正義や秩序、そして世界のありように疑念の目が向けられていく。
    真の魔法使いは世俗を断って学問を修め、世界の均衡を壊さないように必要なときにだけ魔法の力を用いる。では“魔法の力”とはなんなのか?
    人は死ぬと黄泉の国に赴くのに、何故、鳥は山羊はそこにはいないのか?
    この問いを巡る思考がスリリングだ。
    “死んだのに、あのヤギは向こうにいない。あれはあれのいるべきところに、土の中にいるのだ。土の中に。光の中に。風の中に。岩をかけくだる滝水の中に。太陽のオレンジ色の目の中に。ならば、なぜ?ならば、なぜ?”

    そして死生観についてと共に、自由と善悪の意味も問い直される。
    “動物は善もなさなければ悪もなさない。なさなければならないようになす。それだけのこと。私たちは動物のすることを見て、有害だとか有益だとか言うが、良い悪いは、何をするか選ぶことを選んだ我々人間の側の問題なんじゃないだろうか。”
    “動物たちには命こそ見えていても死は見えていないのだから”

    ル=グウィンの思考は、自然や自由を礼賛して、欲に縛られて自由に生きれない人間を断罪したりするのではなく、その先へと向かう。
    “竜は自由に生き、残された私たちは自らの選択を引き受けていく、それしかないのではないでしょうか。”
    「ものをつくり形にしていく喜びも、所有していく欲の深さも」抱えて人は生きていく。自由に憧れながらも「善と悪に線を引くことを選び」自らをくびきにつなぐ決意も秘めて生きていく。
    そして「死んだら、生かしてきてくれたすべてを、したかったのにしなかったこと、なりえたかもしれないのに実際にはなれなかったもの、選べるのに選ばなかったもの、なくしたり、使ってしまったり、無駄にしたものを、まだ生きている途中の生命にお返しする。それが、せめてものこの世界へのお礼なのではないか」と、まだ年端もいかない少女に語らせる。
    生と死を分つ扉を閉めることで世界の均衡を守ったゲドをして、“わたしたちは世界を全きものにしようとして、こわしてしまったんだ”と言わしめる作者の覚悟と至った境地には感嘆しかない。
    ゲド戦記(原題: Earthsea Cycle)は本巻で終わりではなく、未邦訳の“Firelight”がある。いつの日か訳されるのだろうか。読みたいなぁ。

  • 最後まで読んでようやく面白さがわかったのと、やっと解放される喜びと。

    ゲド戦記は、ファンタジーだからといって特別ワクワクするわけでもないし、魔法使いが出てくるからといって勇敢で立派なわけでもない。
    でもこれは現実社会にも通ずるところであって、人間は愚かなんだということを痛烈に伝えているように感じた。そしてそれでも生きていくんだということも。
    多くの人が哲学書のようだというのも納得です。

    最終巻はいままでの登場人物たちがロークへ集結していくまでの過程が面白かったものの、これも毎度のことだが、肝心の盛りあがるべきところでは妙にあっさりした展開に不完全燃焼。
    でもいつもこんな感じだったから、きっとこういうものなんだと諦め半分で読み終えました。

    時間はかかったけど読んでよかった...たぶん。

  • もとは一つだった、竜と人。それぞれが欲するものを得て、東と西に別れたのに、人間は、欲してはならないものを欲するようになり…それが諸悪の根源だったのでしょうか。欲望って本当に厄介ですね。そうして崩れかけた均衡を、お馴染みのテナー、レバンネン王、カルガド王女セセラク、実は竜だったテハヌー、カレシンの言葉を持って飛んで来てくれたアイリアン、ロークの長たち、石垣の向こうの夢に悩むハンノキ、みんなの力で修復できた、という理解でいいのかな。
    セセラクはレバンネンの妃になってアースシーの国々を統治し、ゲドとテナーは今度こそ安らかに暮らすのでしょう。

  • 大円団!
    テハヌーとの別れはうるっときた。
    テナーが愛おしすぎて、、。

    ゲドは山で待っている。
    テナーはテハヌーのためにロークへむかう。
    テハヌーは自分自身のために。
    王は国のために。
    ハンノキは愛する人のために。
    世界の中心はロークの山だった。

    壊していたのは誰か。
    壊されたものをなおすのは誰か。

    竜がかっこよかったなあ、最後まで。


    最後まで通してよんだけど
    やっぱり小学生にはすすめにくい話だよなあ、
    これは児童書じゃないよなあ、とおもいます。

  • ゲド戦記は他のファンタジーとは違い、テンポが軽くなく読むのは少し大変だが、その分「性別」や「正義」、「生と死」という深く、実際の生活や社会の通じる内容もありとても面白かった。
    最終的に全員がいい形で終わったことによんでいる自分まで満足したような気持ちになった。

  • テハヌーがハンノキの猫のことを話す様子が、女の子の役割語でないのが良い。少年のような話し方と思ってしまうがかわいいのだ。

  • ゲド戦記、いよいよ最終巻。
     
    この作品を通して思ったのは
    『大人のファンタジー』。
     
    『ハリーポッター』や
    『ロード・オブ・ザ・リング』、
    『ナルニア国ものがたり』といった
    数々の名作ファンタジー作品は
    児童文学にカテゴライズされることが多いのですが、
    この『ゲド戦記』だけは
    大人向けの骨太な作品、という印象を持ちました。
     
    それも巻ごとに
    『死とは何か?』
    『勇気を持つこと』
    『正義とは何か?』
    といった大きなテーマを持っており
    読み進めるごとに読者を
    成長させてくれる作品でした。
     
    これで終わり、というのが名残惜しい作品です。

  • 難しい

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「難しい 」
      チョッとね。
      多分zuikaku50さんがテナーと同じ年頃になったら判るようになるかも。。。
      「難しい 」
      チョッとね。
      多分zuikaku50さんがテナーと同じ年頃になったら判るようになるかも。。。
      2012/08/28
  • 読む力が落ちてきていて、物語の情景をありありと描けなくなっているのを感じる。
    ちょっと無理をしながら、時にこの人誰だっけと諦めながら読み進めた。
    失うことは得ること。
    裏と表の存在。世界は均衡。
    愛おしい日常。そばにいる大切な人。
    そんなメッセージを受け取った。読めてよかった。

  • 読み終えて、テナーとゲドがこれから歩いていく森のことを思った。テハヌー、レバンネン、セセラク、アイリアン、ハンノキ、皆のことを思い、ほっと溜め息と涙がこぼれた。『ゲド戦記』この物語には、この世で最悪の悪(レイプなど)との闘い、この世でこの自分で成せる最善を成そうとする人々、強く"fierce" に生きる人々、その交流が描かれる。この6巻の物語に人生で出会えて良かった。生に限りはあれど、物語は逃げていかない。ゆっくり読みたい物語だ。巻末、訳者清水真砂子さんとアーシュラ・ル・グヴィンの交流も、この物語の一部だった。作者と訳者に感謝。

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著者プロフィール

アーシュラ・クローバー・ル=グウィン(Ursula K. Le Guin)
1929年10月21日-2018年1月22日
ル・グィン、ル=グインとも表記される。1929年、アメリカのカリフォルニア州バークレー生まれ。1958年頃から著作活動を始め、1962年短編「四月は巴里」で作家としてデビュー。1969年の長編『闇の左手』でヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞。1974年『所有せざる人々』でもヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞。通算で、ヒューゴー賞は5度、ネビュラ賞は6度受賞している。またローカス賞も19回受賞。ほか、ボストン・グローブ=ホーン・ブック賞、ニューベリー・オナー・ブック賞、全米図書賞児童文学部門、Lewis Carroll Shelf Awardフェニックス賞・オナー賞、世界幻想文学大賞なども受賞。
代表作『ゲド戦記』シリーズは、スタジオジブリによって日本で映画化された。
(2018年5月10日最終更新)

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