暗夜行路 (後篇) (岩波文庫 緑 46-5)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003104651

作品紹介・あらすじ

京都での結婚、妻の過失、子どもの死などを経て、舞台は日本海を見おろす大山に-作者が人生と仕事の上で求めてきたものすべてが投入され、描き尽くされた、近代日本文学に圧倒的な影響を及ぼした代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 謙作の京都での生活と旅。旅とお寺巡りをしたくなった。前篇とテイストが違う気がすのは、この作品が長い時間をかけて書かれたものだからだろう。作者あとがきも興味深い。「暗夜行路」は夏目漱石の「心」の後に連載予定だった作品とのこと。夏目漱石の作品も改めて読みたい。明治・大正・昭和を生きた文豪の作品は、当時の日本の様子が分かって面白い。

  • 出生の経緯や子供の死、妻の不貞などを理性では乗り越えられたが、無意識的には怒りや悲しみを感じており、それが主人公を不安定にさせる。このようなコントロールできない部分を律しようと修行へ出た主人公が、最終的には自然という人によってコントロールされていないものに感動するのは面白いと感じた。またラストから、これは恋愛に限らず、心の解放の話なのではないかと思った。心を解放するとは相手のことを自分ごとのように思えることで、真に心が開かれれば、自ずと相手も同じように思ってくれるとのだという希望を感じることができた。

  • ただただ暗く絶望的であった前篇に比べ、妻を見つけたり子供が生まれたりと変化のある後篇。一人目の子供が病気になるくだりや妻の不義理は判明するくだりは鬼気迫るが、全体的に展開はおとなしい(=純文学っぽい?)ので、武者小路実篤の「友情」や夏目漱石「こころ」に比べると、やや苦手。激烈に弱ったモラハラ夫を看病して共依存するラストシーンは何だか切なくなる(この点は流石名作)。

  • 志賀直哉唯一の長編小説。夏目漱石から朝日新聞掲載のため執筆を勧められ、以後無筆の期間を含め25年をかけて完成した作品。この時代の作家の作品はなぜこう鮮やかで湿度があるのだろう。今の時代ほど物や出来事の多様性はなかったと思われるのに、いや、だからこそ文章に命が宿るのかもしれない。

  • 志賀直哉の唯一の長編作品「暗夜行路」の後篇です。

    前身にあたる長編作品『時任謙作』のストックがあったこともあって順調に連載が進んだ前篇と違い、後篇は完結まで長い月日が必要となりました。
    『改造』への掲載も1年に1回になり、3年置いて2回のみ掲載され、やがて続きが放置された状態となります。
    長期間空いて続きを書く気持ちも萎えたのか、この頃の志賀直哉は、人から「暗夜行路の続きはいつ書かれるのか」と聞かれることにうんざりした気になるほどだったそうです。
    その後、改造社より"志賀直哉全集"が刊行されることをきっかけに、書き上げてしまおうという気持ちが出て、前回掲載から9年の時を経てようやく完結したというエピソードがあります。
    『時任謙作』執筆から数えると、30歳から書き始めて54歳で執筆が完了したという、文字通り、氏の半生を費やした作品となります。

    後半、特に後半の後ろ部分は後年一気に書き上げたということもあってか、前半のわかりにくい文体と変わって、非常にスピーディーで読みやすく感じました。
    前篇は、父に反感を持ったり、目に入った女性にちょっかいをかけたり、かと思えばお栄に求婚したり、出生の秘密を知ったり、終いにはおっぱいを揉みながら「豊年だ!豊年だ!」と叫びだす、つまるところ何が言いたいのかが読み取りにくかったですが、後篇はストーリー展開もシンプルに思います。

    京都に移り住もうと考えている謙作は、そこで直子という女性を見初め、結婚を申し込みます。
    直子と穏やかな結婚生活を送り、やがて第一子をもうけますが、生まれてすぐに病気を背負ってしまったその子は、必死の看病の甲斐虚しく亡くなってしまう。
    それをきっかけに夫婦仲はギクシャクしてしまうのですが、そんな折、天津に渡ったお栄が、無一文で朝鮮におり、窮地に陥っているという連絡を受けた謙作は、お栄を迎えにいくのだが、という展開です。

    主人公は引き続き時任謙作なのですが、後半を読むと、直子、お栄を中心とした"女性の物語"という印象を受けました。
    一子が死んで以降は暗い展開が続きますが、最後は「すべてを受け入れて、この人と一緒に生きよう」という前向きなメッセージを受け取ったような、清々しい終幕となります。
    タイトルの通り暗い夜路のような人生を歩んで来た謙作ですが、最後は暗夜行路を抜けたのだなというようなことが感じられました。

    後篇の中頃までは読みにくいですが、そこまでは読んで欲しい名作です。
    前篇の鬱々とした日々の描写が結構長いため、人によってはそこで挫折する可能性があります。
    私的には前篇は後篇のストーリーとあまり関連しないので、流し流しで読んでしまってもいいかもと思います。

  • カテゴリ:図書館企画展示
    2020年度第3回図書館企画展示
    「大学生に読んでほしい本」 第2弾!

     本学教員から本学学生の皆さんに「ぜひ学生時代に読んでほしい!」という図書の推薦に係る展示です。
     川津誠教授(日本語日本文学科)からのおすすめ図書を展示しています。
     展示中の図書は借りることができますので、どうぞお早めにご来館ください。

  • “よく見ていると色々なものが総て面白かった。彼は阿弥陀堂の森で葉の真中に黒い小豆粒のような実を一つずつ載せている小さな灌木を見た。掌に大切そうにそれを一つ載せている様子が、彼には如何にも信心深く思われた。
    人と人との下らぬ交渉で日々を浪費して来たような自身の過去を顧み、彼は更に広い世界が展けたように感じた。”(p.270)


    “数年来自分にこぴりついていた、想い上った考が、こういう事で気持よく溶け始めた感がある。尾道に一人いた頃そういう考で独り無闇に苛々したが、今は丁度その反対だ。この気分本統に自分のものになれば、自分ももう他人に対し、自分に対し危険人物ではないという自信が持てる。”(p.284)


    “杉の葉の大きな塊が水気を含んで、重く、下を向いていくつも下がっている。彼はその下を行った。間からもれて来る陽が、濡れた下草の所々に色々な形を作って、それが眼に眩しかった。山の臭いが、いい気持だった。”(p.286)

  • 志賀直哉は良さがわからない。高等遊民感が鼻につく。

  • 時任謙作は、結婚を機に幸せになるのかと思ったが、赤子の死、妻の過失などが起こる。妻との関係がうまくいかなくなる。
    そのような生活で、またも、精神がやられる。
    そうなり、また、旅をする。寺で過ごす。
    最後の直子の言葉には、このように思ってくれる人がいていいなと思った。

  • この主題には嫌悪感。謙作の心情にも寄り添うことは出来なかった。文章の厳しさはさすが志賀直哉。大山でのご来光など見事としか言いようがない。それにしてもやっぱり女は嫌だ。"過去は過去として葬らしめよ"…そうしたいがなかなか難しい。ま、男も似たようなものだろうけど。

  • 前篇は、女遊びばっかりしてる主人公はロクな奴じゃないし、なにをかっこつけて悩んでんねんと思ったけど、
    出生の秘密を知ってからはこれまでの事にも納得がいってどんどん引き込まれていった。

    後篇からはただストーリーが進んでいくのではなくて、読んでる自分の中にも変化が起こった様な感じがした。

  • 意外だった。
    と言うのが一番明確な答えだろう。



    今年2つめの課題図書、志賀直哉の『暗夜行路』。
    超がつくほどに有名な本だが、読んだことがある人間は今では少ないだろうと思う。
    正直、私も経験的に読んでおかねばなるまいと思っての一冊だった。
    予測としてはまぁ進まなくて2ヶ月ぐらい潰すかもしれやんと気構えていたが、意外とあっさりと読めてしまった。むしろ早いぐらいだ。
    まずそれが意外。いやむしろ驚きの域に達する。


    志賀直哉の作品は何冊か読んだことがある。
    ひとの言うところの”小説の神様”。横光利一のことをそう表現する人もいるがこちらの場合は代表作である『小僧の神様』に引っかけてそういわれている。とはいえ、推敲の鬼ともいえるほどに簡素な文を書く美文家で、好きな人は本当に神ともあがめる賞賛を送る。
    確かにおこがましいながらも、私には絶対かけないような端的な文章を書く人だなとは思う。しかし、この人の文章は私情はあるが、どこか人情がないのであまり私の好みではない。
    その素っ気なさがこの人の文章の特色で、フィクションらしいドラマチックを排除した現実感が、近代文学に一石を投じた志賀直哉たる証拠なのだ。
    だが、そんな風に起伏を持たないものは正直読んでいて退屈だ。他人の日記はその人のことを知っていてようやく多少のおもしろさを感じられるのだ。
    こういってしまうと私小説しか描けぬ作家と決めつけてしまっているように見えるが、志賀直哉はそうではない。フィクションだってちゃんと書く人だ。ただ現実の枠組みから出るようなことをしないし、心理に大げさな脚色をしないのだ。
    結局のところミシマニアといえる私のような派手好きは、物足りなさを感じるのだろう。
    志賀直哉は逆にミシマの小説を、
    「平岡(三島の本名)の小説は夢だ。現実がない。あれは駄目だ」と一蹴している。
    なるほどね。



    はてさて、くさしまくっての話ばかりしたが、こういう前提があったからこそ私は読むのは大変だろうなと覚悟していた。
    ところがどっこい読んでみたらこれが読みやすい。
    物語は謙作という出自の複雑な青年の因果ともとれる精神的な苦悩を淡々と描いている。
    簡単に書いてしまうと、他人が翻弄された結果を被り不幸を背負わされた男の精神の解放だ。うむ、これでは全く簡単に書かれていないが、少しこういうわかりづらい表現を用いず、話だけ要約すると、母の不義により生まれた青年が妻にまで裏切られ悩んじゃう話。つまり上下400ページあまりの本としてはあまり読みたくない感じになってしまう。
    あくまでこの小説は精神的な苦悩というか葛藤がメインなのだ。それは文学らしい定型を守っているが、先ほども言ったようにこの人の文章には情緒がない。感情を”怒りを感じた”なんて、表現してくる。描写や言葉、もしくは動作に組み込むことはしない。
    味気ないんだよな。もちろん趣向の問題だろうけれども。
    それに加えて感じたのがこの人の文章って、なんというかこちらとの距離を感じると言うことだ。現実に忠実であることは、読み取りやすく結果としてはネームバリューと厚さを裏切って早く片付いてくれたが、結局それではただ眺めている節が強く、感情もないので私には共感性が生まれずづらい。
    あっという間に過ぎた感じの小説だった。
    なんだかな。
    そういえばもう一つ不思議だったのが、時々やけに細かいところだ。それが後に何か意味を持つ伏線なのかとも考えたが、この人は現実に起こる日常を切り取るので、それはそのままなのだ。
    いや、むしろ志賀直哉はこの小説を仕上げるのに15年ほどの時間を費やしている。
    うまくいかず、何度も立ち止まり、書いてはまた止まり、悩みの難産を続けての作品だ。
    これを聞いて、眺めてみてば伏線は成立させるのは難しいだろうし、むしろよくまとまったと見える。
    でもこれを日本の文学史上でかなり重要な位置を占める、と言われると思わず首が傾く。
    しかし誰かが言ったように最高の恋愛小説なんて表現するのはもっと変な話だと思う。では教養小説か、否。
    精神の変遷と言えばかっこつくか。はてさて。



    いろいろ考えたのだが内容については細かく書くことはやめておく。引用もだ。
    正直、書くことがそんなにないのだ。
    しかし微妙に切り取られた場面の印象が残る。そうなのよ、ラストは非常によかったと思う。私は結構好きだな。

  • 子供の死、妻の不貞を赦そうと思っても心の底では引っ掛かりが取れない主人公があがく。けれどいまいち主人公に肉薄できない。自己中すぎる気がして…。

    洗練された文章は業物。大山に向かう道のり、大山での夜明けのシーンが映像で見えた。流石志賀直哉。
    最後謙作が熱にうなされて、足だけが暗闇を歩き回る想像の所が個人的に一番「暗夜行路」している。終わり方があっさりしているけれど、クライマックスまでの鬼気迫る描写は、まるで本が生きているような錯覚を受ける。
    寝る前の夜読書に是非。

  • 性の問題、友情の問題、夫婦の問題、自分自身との折り合い、悲劇か喜劇か、すぐそばにある不幸とどう対峙し、どう捉えるか

  • 名前だけ知っていた作品の全貌を知ることが出来たときのこの充足感…なるほど暗夜行路。
    風景と心情の描写がていねいで、特別面白い話がある訳ではなくても色々な景色を見られたのでよかった。

  • 大山、尾道などを舞台とした作品です。

  • これが私小説ってやつか。なんかすごい設定とか展開とか求めちゃダメなんですね。檸檬みたいなもんなんですね。理解していませんでした。ごめんなさい。後書きと解説で色々理解しました。ゆとり乙。女性の一度の罪が他者を傷つけ続ける‥‥変なテーマですが、書きたいことは分かります。なんといっても心理描写は素晴らしいです。
    でも教科書で紹介される本なのかは結局よくわかりませんでした。

  • 読みやすかった。

    府に堕ちないのが直子との結婚。あっさりし過ぎてるような気がする。昔の結婚自体がそんなもんだったのかな。

    後編もやはり謙作の心の動きが書かれていた。妻に責任はないとわかっていても、妻の不貞行為が心の底では許せない。そして一人こころを落ち着けるため、出家するつもりで家を出る。

    最後もあっさり病気になって、終わる。

    知りたいとこがあっさりのような。

  • 虚飾を排し人間の存在をそのまま鏤刻した作品。。。

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著者プロフィール

志賀直哉

一八八三(明治一六)- 一九七一(昭和四六)年。学習院高等科卒業、東京帝国大学国文科中退。白樺派を代表する作家。「小説の神様」と称され多くの作家に影響を与えた。四九(昭和二四)年、文化勲章受章。主な作品に『暗夜行路』『城の崎にて』『和解』ほか。

「2021年 『日曜日/蜻蛉 生きものと子どもの小品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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