とどめの一撃 (岩波文庫 赤 598-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (199ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003259818

作品紹介・あらすじ

「エリック、なんて変ったんでしょう」ともに少年期を過ごした館に帰り着いたエリック、コンラートのふたりを迎えたのはコンラートの姉ソフィーだった。第一次世界大戦とロシア革命の動乱期、バルト海沿岸地方の混乱を背景に3人の男女と愛と死のドラマが展開する。フランスの女流作家ユルスナール(1903‐87)の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • ドイツ人士官エリックが負傷し、帰国する途次、仲間に語った身の上話。
    十五年前=第一次世界大戦中の1914年、
    幼なじみの貴族コンラートと共に彼の館へ帰り着いた際のエピソードで、
    コンラート及び、その姉ソフィーとのこと。
    コンパクトに纏まった悲劇。
    元々性格に問題があるのか、
    それとも軍人として同伴者に対してクールに振る舞っているからか、
    人生における重大な事件を異様に淡々と述懐するエリックがちょっと恐い。
    いや、あるいは心に深く刺さった棘の痛みを紛らそうとして、
    敢えて他人事めいた口調で語ったのかも……などと思った。
    ともかくも、作者が明確な意思を持って
    決然と書き上げた(……らしい。序文と解説からの印象)ってところがカッコイイ。
    情景が映画のように脳裏に浮かんでは消えた。

  •  1939年作。
     マルグリット・ユルスナールというと、ずっと以前に『黒の過程』という長編を読んだことがあるきりで、それは確かどうも読みにくく時間がかかったが、中身はずっしりと重厚で高度な文学芸術だと感じた。
     本作はもっと短いものだが、やはり、読みにくい。どうもこの作家の繰り出すロジックの展開の仕方が、私には馴染みにくいようだ。しかし苦労して読み進めてみれば、風変わりで複雑な恋愛関係とその心理が濃密に描かれており、味わいは豊かである。こういった心理にリアリティがあるかどうかは判断できなかったが、こういう人もいるのかもしれないし、戦時下という特殊な状況がこんなシチュエーションを色づけているのかもしれない。
     最後は非常に悲劇的な結末で、印象が強い。
     複雑な心理を複雑なロジックで綴ったこの作品を、読み終わってみるとまた最初から読み直してみたくなる。それだけの魅力はあるのだと思った。

  • 序が長く、わかりやすくもない。戦争という状況での事件が淡々と書かれる。暑い夏の日の夕方近くの独特の感じに似た刺激がある。かすかな郷愁が良かった。作者は日本に来たらしい。三島由紀夫などへの熱い思いがあったのだろう。

  • 訳:岩崎力、原書名:LE COUP DE GRACE(Yourcenar,Marguerite)

  • 2010-11-27

  • たしかにちょっと読みにくくて、意味もわかりにくい箇所もある。でも悲惨で荒々しい描写も激しく心を揺れ動かさないように書かれていて、これが文章の力か、と思った。また、そんな表現方法が語り手の性格を浮き彫りにしているようにも思える。
    この時代、この身分、この情勢、この土地に生きること、それ以上に女性であること、男性であることを深く考えざるを得ない書。

  • コメントしづらい。なんというか、不快になるほどにうまく描けている。

  • 「3人の男女の愛と死のドラマ」なんて安い紹介文が扉にあるせいで、購入をためらった読者は多いのでは?かくいう私もそう。決してそんなお安い作品ではない。評価の定まった名作を読むことは、安心感があるけれど、物足りなさも付いてくることが多い気がするが、本作はいい意味で裏切られた。

  • 高慢な男の語り口。遠まわしな表現ととっつきにくい美文で読みやすくは無いと思う。でも、とても美しい語り文。
    とどめの一撃は、彼女が出て行くきっかけになった、思わず口をついた一言だろうと思う。ラストではなく。
    情景が浮かぶ、良き本でした。

  • ひとりの若い女が、自分ではどうしようもない身の回りの状況に抗しながら気丈に生きるが、その支えになることを求められながらそれに応じなかった男の独白。悲劇のひとつのパターンではある。舞台は、第一次大戦後、ロシア革命の影響で、ボルシェビキ派と反ボルシェビキ派の戦場となった、今はバルト3国のある地域。渋い映画を1本観たような読後感。

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