- Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003261927
作品紹介・あらすじ
ここに収められた「イワンのばかとそのふたりの兄弟」はじめ9篇の民話には、愛すべきロシアの大地のにおいがする。そして民話の素朴な美しさの中に厳しい試練に耐えぬいたトルストイ(1828‐1910)の思想の深みがのぞいている。ロマン・ロランが「芸術以上の芸術」「永遠なるもの」と絶讃し、作者自身全著作中もっとも重きをおいた作品。
感想・レビュー・書評
-
インパクトのあるタイトルなのに、子供時代を含めた何故か読んだ記憶がなかったので読んでみた。
表題作は、愚直さも極めれば偉大である、ということか。全ての民族はそれぞれの流儀で偉大である、と思うが、ロシアは特に独特と思えてくる。
19世紀のロシア文学は、ひたすら、ウォッカと(これは今もか)、決闘と、不倫と、ロシアンルーレットのイメージだが、本作は民話だけあって、お酒が少々出てくるくらいで、キリストと悪魔の登場が多い。
「三人の隠者」は、「人は何で生きるのか」の中の「二老人」と同じテイストで面白かった。宗教的権威が意図せず堕ちる様が心地よい。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
強欲な人、ズルい人を戒めるのではなく、自分の中の強欲さやズルさを戒める本だと思った。
登場する悪魔は、ファンタジー的なものではなくて、「魔がさす」の意味で、一匹追い出しても次々と執拗に入り込んできては理不尽なまでに攻撃してくる、自分の中の悪魔に負けないように、と解釈した。 -
子供のころに読んだイワンのバカ。
今読むと、また違った感じを受け
人と人がどう関わって生きていくのかについて
トルストイが考えていることが少しわかる気がしました。
欲張らず、妬まず、人のために・・・
そんなイワンが一番の幸せ者。
でも、実際、人は欲もあり、妬みもする。
だから頑張れる時もあると思うこともある。
一方で、イワンのような働き者こそが
幸せにならないと。
働かざる者食うべからず・・っと思うこともある。 -
中高生の頃から何度となく読んできた本。ロシアによるウクライナ侵攻の報道を見聞きするたびに、この本を思い出して、久しぶり読み返した。トルストイがロシアに伝わる民話を元に1886年に発表した「イワンのばかとそのふたりの兄弟」や個人的に大好きな「人にはどれほどの土地がいるか」など9つの短編が収められている。「イワンのばか…」は、今あるもので手にマメができるほどしっかり労働することの価値を描いていたし、「人…土地…」では、足るを知ることの大切さを教えていた。はたしてプーチンは読んだことが無いのだろうか。ロシアには人の道を教えてくれるこんなに素晴らしい物語があるのに。
-
「トルストイの民話」。ざっくりそう捉えて読み始めたが、よくよく考えれば、そては矛盾をはらんでいる。トルストイが民話を聞き書き拾集したのなら、それは編者としての仕事。トルストイが創作したなら、それは元々ある民話でない。
読み進めるうち、各物語が寓話として洗練されていると気付く(カフカの短編にも似た趣きを感じた)。それもそのはず。解説によれば、一部の作品は民話に材を採ったものもあるが、多くの作品はトルストイが民話風に仕上げた創作だという。
表題の「 イワンのばか 」という語は昔からよく耳にしたことがあった。けれども読んだのは今回が初めて。もっと素朴なお話かと思いきや、文明論にも通じるような壮大な寓話の趣きなのであった。
出世欲が無く謹直に農耕労働を続ける三男のイワン。一方で長兄セミョーンは軍人となり、戦によって権勢を拡大し続け一国を手にする。次兄タラースは商人として財を成しこれも一国を築き支配する。
だが、この三兄弟を破滅させようと悪魔達が画策していた。そのためふたりの兄の国はいつしか行き詰まり破綻・崩壊。兄達は三男のイワンの国へ助けを求める。イワンも自身の国を運営していたのだが、イワンの国は人民の望むままにさせる政治を運営。人々にとって幸福な国となっていたのだ。
富や権力の拡大を求める者は久しからず。いずれ破滅してしまう。一方で欲得を追求せず、手にたこを作って地道に働き続ける者がやがて幸福になる。そういう道徳観、価値観が作中の多くの物語の底を流れている。
本書が書かれたのは19世紀後半(1885年の刊)。前述の、いわば禁欲的な道徳律は、近代の新しい思考、起業のインセンティブや資本の拡大再生産といったものを妨げるものとも感じた。 -
どれも味わい深い。
・イワンのばかとそのふたりの兄弟
軍事、経済の愚かさを説き、頭脳労働ではなく、肉体労働の価値を説く。
「ああよしよし!」の繰り返されるセリフが味わい深い。
・小さな悪魔がパンきれのつぐないをした話
余剰物と飲酒への皮肉。
・人にはどれほどの土地がいるか
欲望が人を滅ぼす。
・鶏の卵ほどの穀物
自分のことを自分でやる社会。誰かのため、ではなく。いかに今の世が、当たり前から外れているか。
・洗礼の子
どうすれば根本的に悪を滅することができるのか。含蓄深い。
・三人の隠者
祈り形にとらわれる、愚かさと本当の祈りの崇高さ。
・悔い改むる罪人
あれ、最後はなぜ開くの?こんなご都合主義の人間に。信仰とはそんなもの、という皮肉?
・作男エメリヤンとから太鼓
権力に打ち勝つとんち。
・三人の息子
わかりやすい昔話。人のために善をなす。 -
ロシア文学を読みたくなって。
宗教色の強い民話。
最初はあんまり意味わからないなと思ってたが、トルストイの思想がふんだんに入ってることに気づいたら、この話たちを通して言わんとしてることがなんとなく分かってきた。
真の芸術は宗教的感情を土台として一般の民衆にも広く理解される普遍的なものでなければいけない、というトルストイの主張から「民話」という形としてうまれた。
たしかに少々説教くさい部分はあるものの、努力するものが報われ、労働することや罪を償うことの大切さを平易な文章から感じることができる。
大人になってからもなるほどと人生を悔い改めるものになるには違いないが、確かにこれは子供にも読ませたい。
書かれたのはかなり昔だが現代でも通ずると思う。
ちなみに解説が丁寧でわかりやすいのでおすすめ。 -
"人はなんで生きるか"より悪魔の登場頻度が高い。
悪魔とは自己の内に潜む欲や我を指す。
夏目漱石の則天去私、仏教の解脱、老子の無知無欲など、
古今東西の求道者達が人間の欲(悪魔)を否定しているのは決して偶然ではなく、真理がそこに存するからであろう。
そしてそれを平易かつ味わい深い筆致で描いてみせるトルストイには脱帽せざるを得ない。 -
イワンのばか/鶏の卵ほどの穀物が好きです。
他も面白かった。
イワンのばかとその二人の兄弟
小さな悪魔がパンきれの償いをした話
人にはどれほどの土地がいるか
鶏の卵ほどの穀物
洗礼の子
三人の隠者
悔い改むる罪人
作男エメリヤンとから太鼓
三人の息子 -
面白いです。