- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003725054
感想・レビュー・書評
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表題の意は「人生の愉悦」―1人称の語り口に誘われる、記憶の旅。作家の描く作家。英国の階級社会。皮肉とロマン。タイトルの意味をしみじみと感じながら読みました。お菓子のような甘さにうっとりし、ビールのようなほろ苦さに酔う、とってもとっても楽しい旅。モーム、すごい。訳もよく、引き込まれました。ロウジーのような女性、素敵すぎます…
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主人公の語り口に導かれるまま、すらすらと読み終えてしまった一品。
読んでいる間、「ずいぶんと皮肉屋だなぁ。『回想のブライズヘッド』(イーヴリン・ウォー)の主人公を思いだすなぁ」と思っていたら、作中にウォーその人の名前が出てきて驚いた。
行方さんの解説にて「喜劇」という言葉が出てきてようやく、ああ、なるほどこの話はそういう風に読めばよかったのか、としっくり来た。
話に大きなストーリーはなく、主人公の人間観察ぶりや物の見方が滔々と語られる。それは時に辛辣で、ときにしっとりと感傷的である。
美は退屈だ、とこの語り手は言う。「美は恍惚であり、空腹のように単純だ」と。いかにも「私は通俗作家だ」とうそぶいていたというモームらしい言葉だと思う。
モームがロマンチストであるのは間違いない。しかし、彼に真正面からそう言っても、彼は素直には頷かないであろうと思った。
また、だからこそ、この話は一人称で語られるのがふさわしいと思った。 -
男が女をどんなふうに評価したらいいかを、いろんな方向から教えてくれる小説です。(谷沢永一)
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読書好きなら一度くらい作家に憧れたことはあるんじゃないか。
このお話の登場人物たちには作家が多い。そして作家や作家の人生の評価がいかに適当か、本人からいかに遠ざかっているかよくわかる。
非の打ち所のないスマートで立派な作家のロイとちょっとひねくれている主人公。
ある日主人公がロイに呼び出される。用件は、ロイが亡くなった有名な作家「エドワード・ドリッフィールド」の伝記を書くことになったため、その作家と古くからの友人であった主人公に協力して欲しいということだった。
しかし、ロイの”しっかりとした階級意識”で、実はその作家は元は水夫であり、ロイが想像する崇高な教養人とは全く異なる人間であること、彼の元奥さんロイジーも性的に奔放な人であること、はばっさりカットして、”彼の尊厳”のためになかったことにする。そして主人公には作家との文学的なエピソードを求めるのだ。
夫妻は階級など意識しない、自由でおおらかなひとたちだった。問題がなかった訳ではない、特に奥さんのロイジーは他の男と駆け落ちしてしまう”妻失格”な女である。けれど、主人公はそういった問題も含め、魅力のうちだと感じていた。
主人公は若いころ、そのロイジーに惚れていたのだが、主人公が語るロイジーの魅力がおもしろい。
もともと私はモームの書く女の人がとても好きだ。不実な人は嫌いだけれど、モームが書く女性はどんなに不実でも憎めない。それどころか魅力的に思える。
他の小説の女と違って流されて不実なことをするのではなく、自分の選択で生きているのだ。そして自分の選択したことだから、不実だろうと世間から白い目で見られろうと気にしない。そんなしたかかさに人間的魅力を感じる。
ちなみに題名の「お菓子とビール」はシェイクスピアの「十二夜」にある句で「人生を楽しくするもの」「人生の愉悦」という意味である。 -
新着図書コーナー展示は、2週間です。
通常の配架場所は、開架図書(1階) 請求記号:933//Ma95 -
最初の20ページがなんとも楽しい。学生時代は受験に必ず出る英語として勉強させられた。それも思い出だ。こういう洒脱な文章をいつかは書いてみたいと思ってきたが、それだけは叶わぬ夢だな。
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素敵なタイトルと落ち着いた雰囲気の表紙に惹かれて購入。
ティータイム、スコーン、辻馬車、ホイストといったものから
19世紀のイギリスの雰囲気が感じられるのがとても良い。
全体的に散りばめられた社交界への風刺や、
作家・批評家の世界についての記述が面白くて
最後まで退屈せずに読めるが、全体として何を言いたいのかはさっぱり。
結局モームが愛した女性をモデルにして、
奔放ながらも純真で魅力的な女性・ロウジーを書きたかったのかなと思った。