真夜中の子供たち(下) (岩波文庫 赤 N 206-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003725153

作品紹介・あらすじ

「貴君は年老いた、しかし永遠に若くあり続けるインドという国を担ういちばん新しい顔なのです」──ついに露顕した出生の秘密。禁断の愛を抱えつつ、〈清浄〉の国との境をさまよう〈真夜中の子供〉サリームは…。稀代のストーリーテラーが絢爛たる語りで紡ぎだす、あまりに魅惑的な物語。(解説=小沢自然)

感想・レビュー・書評

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  • ようやく読了。ラシュディが昨年襲撃され大怪我を負った(片目と片腕の機能を失ったとか、ひどい事件だ)のをきっかけに積んでいた本を読み始めた。
    マジックリアリズムとローカル文化に根ざした物語(この場合は当然インド)は、今でこそ珍しくない。先日読み終わった「スモモの木の啓示」もまさにその系譜、直径の血筋といっていい。本書が現代の作家たちに影響がいかに大きいか思い知る。下巻には作者自序(必読)がついているが、「西洋ではファンタジーとして受け取られることが多かったが、インドではこの本はもっぱら現実を描いたものとして、ほとんど歴史の本のように読まれた。」とは重要なポイントかもしれない。
    長いが圧倒的な面白さでリーダブル。名著として満点評価意外つけようがない。しかし、もっと大勢の人に新鮮に読んでもらうためには、岩波はもっと早く文庫化してくれても良かったのではないか。

  • 1947年、イギリスから独立したインドで誕生した作家であるサルマン・ラシュディが作家として注目を集めた長編小説。ラシュディといえば、イスラム教から名指しで命を狙われることになった『悪魔の詩』(特に日本においては邦訳を担った筑波大学助教授がキャンパス内で暗殺された点で有名でもある)が有名であるが、本作『真夜中の子供たち』は著者の出世作として圧倒的な物語世界が描かれている。

    著者の作品を読むのはこれが初めてであったが、ガルシア・マルケスなどに代表されるマジック・リアリズムのインド版とでも言おうか、濃厚な物語である。1947年8月15日の深夜0時、独立を果たす瞬間のインドで生まれた500人もの”真夜中の子供たち”は、それぞれが特異な能力を持ってこの世に生を受ける。主人公のサリームもその代表格であり、彼がその特異な能力と共に苦労しながら成長する様が描かれる。

    驚かされるのは、同じく0歳で誕生したインドという国家と、サリームという一人の人間を半ばDNAの二重螺旋のように相互の関係性を描き、双方にとっての希望ある未来を描くというこの途方もないコンセプト(誰が国家と人間を相似形にあるものとして描くだろうか?)と、それを取り巻く圧倒的な物語の面白さである。

  • インドの独立後の話。

    小説でサリームとシヴァの取り替え事件から始まるけど、ほとんどサリームの1人がたり。
    おじいさんの代からのはなしではぎまるからなかなか登場しないなとおもいながら4ぶんの一 (千ページくらいある)すぎる。

    インドの歴史と、照らし合わせたりは難しいからそのへんはスルーしてよむ。
    首相から真夜中にうまれたことを記念して手紙がとどく。
    血の繋がってない妹を愛している。肉体的にグロテスクに描かれる。大きくて歪な鼻。
    糞尿や痰壺などが主役。
    英語で書かれたらしいけど、チャツネやいろいろ。
    ピクルス工場のオーナーが乳母だったとはね。

    運命ってあるのかなと思わせる。

  • とにもかくにも、ワタシはサルマン・ラシュディの「真夜中の子供たち」を読みました、と自慢しようと思います。最後まで混沌としたストーリーがいつ果てるともわからないまま続き、大団円には程遠い終わり方をしているような印象でした。が、戦争の描写とか主人公が徹底的に痛めつけられて行くさま、インドという国が周辺国とどのように関わり合っていくのかなどがてんこ盛りになっていました。とにかく読み終えられたので、安心しました。

  • 語り手たる主人公にまつわる秘密が周囲にも明らかになり、特に両親との関係が変化し、一時離れた生活を送ることになる。そうした変化の中、〈真夜中の子供たち会議〉も統制が取れなくなり、緩やかに崩壊していく。

    親族にも死亡や家出などの変化があったが、父を残し、出世した親族のいるパキスタンに移住する。そして国境を画するパキスタンでは、主人公の真夜中の子供たちへの想波は届かなくなってしまう。

    この辺りから、主人公の人生は、はインド、パキスタンの現代史に重なっていく。パキスタンにおける軍事クーデターとの接点等を経て、4年後にはボンベイに戻る。そこで持病のような鼻詰まりの手術を受けたことで、テレパシー能力を失ってしまう。1962年の中印戦争の敗北を経て、1963年2月、今度は家族皆でカラチに移住することになり、またパキスタンに戻る。
    そして、カシミールを巡る紛争は、1965年の印パ戦争となり、インド軍の空襲により、祖母、両親、伯母、叔母が死んでしまい、主人公もバイクの走行中、爆発を受けてしまう。(ここまでが第二巻)

    記憶を失った主人公は、超人的な嗅覚が活用できる軍隊に入っていた。1971年3月、バングラデシュ独立に絡む第三次印パ戦争の勃発に伴い、主人公の部隊はバングラデシュに侵攻する(脇筋だが、主人公の部隊脱走に巻き込まれた3人の兵士は、悲惨な最期を迎えることになり、とても可哀想)。
    その地で、真夜中の子供たちの一人である「魔女」に出会い、彼女の助けを借りてインドに戻る。

    〈未亡人〉インディラ・ガンディーによる〈真夜中の子供たち〉の処置があり、その後、主人公は「息子」を抱え、故郷に戻り、そしてラストを迎える。(第三巻)


    語り手の前半生は、その出生時の特権性から、母国インドの歴史とともにあるべきものと主人公には自己認識されており、側から見たら誇大妄想狂とも取られかねないものであるが、波乱に富んだエピソードが次から次へと続き、最後まで飽きさせない。また、戦争やガンジー政権のような同時代史との関わりが効果的に活かされて物語構造に厚みを出している。

    登場人物に感情移入したいとか、技巧を凝らした作り物的な小説は苦手といった人を別にして、小説の醍醐味をたっぷり味わえる作品だと思う。





  • 下巻ではついに、サリームの出生にまつわるメアリー・ペレイラの過去の犯罪が明らかにされる。両親はけしてサリームとシヴァを取り換えようとはしないが、この後サリームはパキスタンとインドを行ったり来たりするはめになる。

    「印パ戦争」について調べながら読んだ。歴史が直接主人公の進退に影響を与えるので、ある程度事情がわかっていないと読み進めにくい。そしてついに1965年の第二次印パ戦争で、サリームはほとんどのものを失ってしまった。

    ここで6年の歳月が一気に流れ、1971年第三次印パ戦争でパキスタン軍で記憶喪失の「犬男」「ブッダ」として従軍しているサリームは仲間とともにスンダルバン(シュンドルボン)のジャングルに迷い恐ろしい体験をする。記憶を取り戻しインドに戻ったサリームにさらに恐ろしい運命が待ち受けていた…。

    終盤の流れを理解するために、これから読む方には未亡人=インディラ・ガンディー(物語当時のインド首相)のことについて予備知識を入れておくことをおすすめします。1975年に彼女が出した緊急事態宣言により、反対勢力が多数逮捕された事実と、人口削減のため強制断種をおこなったことが、サリームら真夜中の子供たちの悲劇として投影されている。

    インド独立の日に生まれたサリームの人生はインドという国そのものの運命と共鳴・影響しあっている(と少なくともサリームは思っている)が、どうもサリームの自意識過剰、あるいは彼自身の不能を説明するために作られた壮大な虚構のような印象も否めず(巻末作者の自序や解説を読むと確信犯のようだけれど)サリームにあまり共感したり感情移入したりはできなかった。

    インド近代史の勉強にはなったけれど、あまりにもそこに密接しすぎていて、個人的には物語を読む楽しさを十分味わえなかったような気も少しする。事前に『百年の孤独』以来の衝撃だの、マジックリアリズムという言葉を交えた宣伝文句に煽られすぎてしまったのか、期待値が高すぎて、思ってたのとちょっと違った、みたいな。読後感はどちらかというと『ブリキの太鼓』に近いかも。

    ときどき出てくるインドの食べ物描写には興味津々だった。ナルギシコフタとパサンダが美味しそう。あとライム水、以前見たインド映画『あなたの名前を呼べたなら』https://booklog.jp/item/1/B07ZWBP1F1で、いつも主人公が台所で作ってたのが印象的だったんですが、日本における麦茶みたいな感じでインドの上流家庭には常備されてるものなんですかね。



    以下備忘録あらすじメモ(ネタバレあり)

    指の切断事故により両親と血液型が一致しないことがわかったサリームは、退院後一時的にハーニフ叔父夫婦に引き取られる。売れないながらも映画の仕事を続けていたハーニフ叔父に給料を払っていたのはメスワルド屋敷の映画王ホミ・キャトラックだったが、彼はハーニフの妻で女優のピアを愛人にしている。やがて彼はピアを捨て同じメスワルド屋敷のサバルマティ海軍中佐の妻リラに乗り換えるが、サリームはこれらの乱倫をかつて母アミナが元夫ナディルと密会していたことと重ねあわせ復讐を企てる。

    サリームの密告により、サバルマティ海軍中佐は妻とホミの密会現場を急襲、妻を撃ち愛人ホミを射殺。しかしホミの死によってハーニフ叔父の収入は断たれ彼は自殺。メスワルド屋敷内のスキャンダルは彼らの没落をもたらし、サリームの一家以外はみなメスワルド屋敷を次々去っていく。サリーム11歳は家族の元へ戻ることになるが、子守のメアリー・ペレイラがついに秘密の重さに耐えきれなくなり、ハーニフの葬儀のために集まった親戚一同の前でサリームの誕生した日に彼女が犯した大罪を告白し、メアリーはそのまま去る。

    サリームの父アフマドはますますアル中になり妻アミナを罵倒。母アミナとサリーム、妹ブラス・モンキー、ハーニフの未亡人ピアは、パキスタンに住んでいる末妹エメラルドと夫ズルフィカル将軍を頼ってパキスタンに一時避難する。その後4年間、一家はパキスタンで暮らすが、パキスタンではサリームのテレパシー能力は使えず、真夜中の子供たち会議も中断。メアリー・ペレイラの告白により出生の秘密を知ったサリームにとっては、シヴァにその秘密を知られたくなく好都合。やがてインドに残った父危篤の知らせを受け一家はインドへ帰国。

    1962年インドと中国が険悪になる中、回復した父と母の間には愛情が復活、しかしサリームは耳鼻科へ連れていかれ副鼻腔炎の手術を受けたことで、テレパシー能力を失くしてしまう。中国との戦争は休戦するがアフマド・シナイはインドに見切りをつけ一家はパキスタンに移住、アミナの姉アリアを頼ることに。このパキスタンで、成長したブラス・モンキーはその綽名を返上して本名のジャミラとなり、歌手としての才能を開花させ、国民的歌手ジャミラ・シンガーとなる。思春期をむかえたサリームは、血の繋がらないこの妹に恋をする。

    一方でラブラブだった両親にかつて妹アミナにアフマドを奪われ今も独身の姉アリアの呪いが炸裂、アミナは42歳にして妊娠するが鬱になり、アフマドは卒中で麻痺をおこし痴呆化してしまう。ジャミラはサリームを避けるようになり、一家はバラバラ、ボロボロに。そんな中1965年、第二次インド・パキスタン戦争が勃発。パキスタンに移住していたサリームとジャミラ以外の家族、親戚は全員この戦争の犠牲となる。

    6年後1971年、第三次インド・パキスタン戦争のさなか、パキスタン軍に「犬男」と呼ばれている記憶喪失の男がいる。彼こそサリームだが、彼は失われたテレパシー能力の代わりに手に入れた嗅覚で、小隊の先導役を務め、仲間うちでは「ブッダ(老人)」と綽名されている。彼の仲間はいずれも十代半ばの兵士アユーバ、ファルーク、シャヒードの3人。だが彼らはスンダルバン(シュンドルボン)のジャングルに迷い込んで恐ろしい目にあい、数か月さまよったあげくようやく戻ってきたあとは戦争の犠牲になる。

    サリームはその中で記憶を取り戻すがパキスタン軍は敗北。戦勝を祝うインド軍のパレードの中で、サリームは真夜中の子供たちの仲間・魔女パールヴァティーと再会。奇術師の娘パールヴァティーにより名前を思い出し救われたサリームはインドへ帰還する。親戚の中で唯一インドに残って官僚となっていた叔父ムスタファの元へ身を寄せるが歓迎されない。結局サリームは、パールヴァティーと父親代わりの蛇つかいピクチャー・シンのいる奇術師たちのゲットーへ戻ることに。

    パールヴァティーはサリームを愛しているが、サリームはジャミラ・シンガーの面影に脅かされている。パールヴァティーは今はインド軍の少佐となっているシヴァを探しだし、シヴァの子を身籠る。当時シヴァはさまざまな女性と関係を持ち私生児を作りまくっていたが妊娠した女性には興味を持てなくなり捨ててしまう癖があった。サリームは、シヴァの子を身籠ったパールヴァティーと結婚し、やがて息子が生まれ、祖父の名をとりアジームと名付ける(皮肉にも彼は祖父アジームの正当な曾孫だ)

    しかしついに<未亡人>が、真夜中の子供たちを狩り始め、581人のうち420人が<未亡人>に拉致されてしまう。サリームを含む420人は全員、生殖器官を切除されてしまい、特殊能力を失い放逐される。サリームはピクチャー・シンの元に身を寄せていたが、蛇つかい対決のため彼とアジームと共にボンベイへ戻り、そこでピクルス工場を営んでいたある人物と思いがけない再会を果たし…。

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