大臣 増補版 (岩波新書 新赤版 1220)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004312208

感想・レビュー・書評

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  • 橋本内閣で厚生大臣としては、多くの実績を残した菅直人が出版した大臣に、民主党政権交代時に増補版として出版した本。

    小さな政党から政治家人生が始まり、さきがけ、民主党と移りゆくなっていくなかで、日本国が政党政治ではなく官僚政治であることを、実体験を元にして書籍にしたのは興味深い。確かに大臣として就任しても、短い任期、多忙な大臣の職務の中では、官僚にいいようにコントロールされるのは仕方ないし、官僚も大企業病と同じで、組織維持になってしまっていると思う。

    しかし、書籍を離れて総理大臣となって、東日本大震災の対応を見てみると、平時の脱官僚・反官僚ではよいが、非常時に国家を適切に導けなかったことの原因は、官僚という対立軸しかもてなかったことだとも本書から感じられた。増補版に入れられたイギリスの政治も、仕組みだけ持ってきても導入はやはりできないと思う。その意味では理想論になっている。

    個人的には、あの菅直人がと個人の責任に帰するよりも、なぜこのような理念が失敗になってしまったのか、どこに問題があったのかを確認する意味でも、一読しておいて良い本だと思う。

  • 「民主主義とは、交代可能な独裁だ。」という名言に菅直人の政治観が顕れている。彼が橋本内閣で厚生大臣を務めた経験から、官僚の実態が良く見て取れるようになっている。
    官僚は行政権を司っているという自負から、あまり仕事について口を挟まれたくないらしい。ただ、菅曰く「国会は国権の最高機関であるがゆえに、行政にも関与できる機能を持っているはずだ。」とする。ただ日本は明治維新以来、内閣ができて、それから議会ができた歴史を持つ。ここに官僚組織の自負があるのだろう、と彼は云う。「行政権は、国家の仕事のうち司法府と立法府を覗いたものすべて。」というのが官僚の認識だ、とする。しかしこれは、行政法学において主流の考え方であることを付記しておく。
    また、菅直人は官僚組織の特徴について「アメリカでは役所の上級スタッフがごっそり入れ替わるが、日本ではそれがない。」とする。実際、大臣が就任すると、待ち構えていたかのように局長級の官僚との会議があり、自分たちがどうしたいのか説明しまくるのだという。それでは大臣がだれでも同じだ。
    彼は厚生大臣のときに、血液製剤によるエイズ問題で揉めていた。菅は調査チームを組織しようとするも、前例がないとして断られた。しかしなんとか組織し、郡司ファイルの公開に踏み切ったのだという。
    官僚組織はボトムアップであり、大臣はそれを追認することしかできなく、スピーディな対応ができない。大臣は人事権を掌握しているわけだから、本来は指導する立場にある。それを独裁だという人もいるのかもしれないが、そこで菅直人は「民主主義とは、交代可能な独裁だ。」ということになる。

    大臣が一人で乗り込むので官僚に丸め込まれるので、2001年に政務官と副大臣の制度を作った。小泉内閣で導入されたが、政権交代までは派閥にまるなげしていたそうだ。ただし鳩山内閣からはそうならなくなったそうだ。
    菅直人は「政府・党一体で政策を作る。」と息巻いているが、今では政調会長が復活したり、あまり代わり映えがしなくなりつつあるように思える。

  • 『大臣(増補版)』/菅直人/岩波新書/★★★★☆/前首相が90年代に厚生大臣を務めた時のエピソードと、民主党政権の運営について、官僚批判をしながら、法律論を使って立論していく構成。統治機構や行政学の勉強の基礎にも向いていると思う。

  •  新総理大臣が1998年に著した本の増補版。行政の問題点や橋本政権での厚生大臣としての経験に基づく記述は旧版にもあったが、昨年10月に出た改訂版(本書)には民主党による政権交代で実現した国家戦略局の設置の目的などが書かれている。

     国家戦略局とは、首相官邸の機能を強化するために官民の人材を集結して、新たなヴィジョンを創り、政治主導で政策を策定するのが目的の内閣直属の組織である。

     興味深い記述は多い。例えば、私は政権交代前には閣僚による最高意思決定会議である「閣議」のニュースはほとんど目にも耳にしなかった。読んだばかりの『日本の統治構造』でも同じような記述があったが、閣議の実態はその前日の事務次官会議で決定された案件に署名するだけの「サイン会(お習字教室)」だった。

     事務次官会議というのは明治時代に内閣制度が成立して以来の法的根拠のない慣習にもかかわらず、100年以上続けられた制度。この制度には任免権者が存在せず、各省次官が横並びで全員拒否権を持つために省益優先の傾向に陥りやすくなっていた。

     そこで鳩山政権はこうして官僚による干渉を弱めるためにこの制度を廃止した。政権交代後に「閣議」という言葉が以前より頻繁に聞かれるようになったのは、そのためだったのか、と思った。

     菅氏はイギリスの官僚制についても言及している。イギリスでは「公務員の政治的中立性」が強く求められる。そのため原則的に政治家と官僚が接触することがなく、省益のために政治運動をすることは固く禁じられている。

     福田内閣の時に道路特定財源制度が問題になったとき、国交省が自分たちに頭の上がらない市町村を利用して制度を維持させる運動をさせた日本とは大違いである。

     他にも、興味深い記述は多い。
    ・自民党では6回当選すれば誰でも大臣になれたが、与えられるのは大臣のポストだけで、裏では官僚の言いなりである省内で孤立する傾向が強かった。そのため、大臣の任期が短くなりやすかった。
    ・政務次官(2001年廃止され、副大臣と大臣政務官を代わりに設置)の権限は事務次官より強いのに、単なる職務代行の傾向が強く、特定議員と結びつきやすかったため、族議員の養成機関になっていた。

     民主党政権が目指す「政治主導」というものが、当初の記述の内容通り、行き過ぎた官僚支配を改めて(=脱官僚)国民主権で政治を決定するものだとしたら私はその方針に賛成する。

     ただ、政治主導というのは、国民が今まで以上に政治に対して真摯に向き合うことを求められる、という責任の重さに対する記述が欲しかった。国民や政治家の官僚に対する敵愾心やルサンチマンだけではだめですよ、と。それから、旧版の記述の古さも気になった。

     『日本の統治構造』と通じる内容が多い当書だが、一方の著者は学者で、こちらの著者は政治家。同じ行政システムに関する記述でも、立場が違えばそれだけ内容が異なり、勉強になった。巻末の「国民主権の予算編成」の資料も参考になる。

  • 読んで良かった。

  • 菅総理大臣が誕生後に読んだ。大臣のしごとから内閣の役割政府の役割、法律に照らした内容でとても興味深く読んだ。今原理原則を考える時期なのではないかと感じている。それはなぜ何のために存在しているのか。今必要なのかということを検証し、必要の無いものは廃止する。その作業をしなければならないと感じます。民主党政権への不信感が増大するなか、こういった著書をよむと、マスコミ報道ではわからないなにか本質といったようなものを少しだけ知ることができるような気がしています。

  • (2010.06.18読了)(2010.06.09借入)
    菅直人氏が総理大臣に選ばれたので、前から気になっていたこの本を読んでみることにしました。
    菅さんは、1996年の第一次橋本内閣で、厚生大臣を勤めました。「この時の10カ月にわたる厚生大臣の経験で、私はこの国が国民主権国家ではなく、官僚主権国家であることを、深く認識した。」(ⅱ頁)
    「政治家はすべての情報を官僚に握られ、政策の是非を判断する機会も事実上、放棄していた。それが自民党の政治システムだった。」(ⅲ頁)
    「本書旧版では、内閣と大臣のシステムが国民主権になっていないことを実際に政権の中にいた者として記すとともに、そのあるべき姿を示し、どうすれば本来の国民主権による内閣と大臣が可能かを提示した。」(ⅳ頁)
    国の仕事は、すべて法律に基づいて行われるので、記述の中に結構法律の定めが出てきて、分かりにくい面があるのですが、我慢して付き合うしかありません。

    ●事務次官会議(5頁)
    事務次官会議は、内閣制度が発足した翌年の1886年から123年間にわたり開かれてきた。原則として閣議の前日に全府省の官僚トップが出席して開かれ、閣議に提出される案件のほぼすべてをここで決めていた。
    事務次官会議は重要な意思決定機関だが、内閣法にも国家行政組織法にも、どこにも定められていない会議である。慣例として開かれていたにもかかわらず、実質的に国の基本政策のすべてがこの会議で決められていた。
    ●閣議(44頁)
    「内閣の事務」は、内閣法四条①に「内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。」とあるように、すべて閣議という会議で決定していくことになっている。つまり、内閣の一員である国務大臣の最大の任務は、閣議に出席することなのである。言うまでもなく、閣議は国の行政の最高意思決定機関である。
    ●大臣就任記者会見(97頁)
    どの大臣も、就任したばかりでまだ何も分からない状況でいきなり記者会見に臨むので、官僚が用意した文書を読むしかない。そこには当然ながら官僚が推し進めたい政策や方針が書いてある。
    ●資料隠し(104頁)
    薬害エイズ事件の裁判が長い時間を必要とした最大の原因は、厚生省による資料隠しであった。この事件に限らず、国や地方自治体が被告となっている裁判では、原告側に立証責任があるのをいいことに、行政側は裁判に必要な資料をなかなか提出しようとしない。
    ●薬害エイズ事件関連ファイル発見(111頁)
    薬務曲のロッカーの中からファイルが見つかったのは、プロジェクトチーム発足から3日後のことだったらしいが、私のもとに報告が来たのは、10日以上たった2月9日だった。この日は金曜日だった。この件に限らず、官僚は重要な案件については金曜日に持ってくるという習性がある。
    (その日のうちに発表することを反対されたが、「ファイル発見」ということを公表)
    ●国会議員の質問
    国会の会期中であれば、国会議員は国政に関することならば、自分が所属している委員会の範囲にとどまらず、政府に対して文書の形で質問ができる。その質問は衆議院議長の名前で内閣に対して送られ、受け取った内閣はやはり文書で7日以内に回答しなければならない。この回答は閣議を通さなければならず、政府の公式見解として残るものだ。
    ●縦割り行政(128頁)
    当初、O157は食中毒とされていた。すると、それを担当するのは生活衛生局の食品保健課となる。だが、O157は食中毒が入口だが、その後は感染症となる。すると、感染症は保健医療局のエイズ結核感染症課というところが担当となる。さらに、医療機関の指導に当たるのは、健康政策局指導課となる。
    ●過ちを認めないのは国のため(138頁)
    官僚の理屈では、過ちを認めないのが国のためなのだという。行政が過ちを認めて和解に応じれば、税金から補償金を出さなければならなくなり、国家にとって損失となる。
    ●国民主権(224頁)
    官僚主権を国民主権にするためには、選挙で国民から選ばれた国会議員が政府を運営しなければならない。それが実現できて初めて、真の国民主権の国となる。
    ●政策達成目標明示制度の導入(242頁)
    その予算を使うことで、どのような政策が実現し、具体的な社会的効果がどのように達成されたのかが、これまで曖昧だった。

    内閣および行政の仕組みがどのようなものか知らなかったので、結構刺激的な内容でした。

    著者 菅 直人
    1946年、山口県生まれ
    1970年、東京工業大学理学部卒業
    1980年、衆議院選挙に初当選
    1996年1月から11月まで、第一次橋本内閣の厚生大臣を務める
    1996年、民主党を結党し、共同代表に
    1998年新たに結成された民主党の代表、政調会長、幹事長などを歴任
    2010年6月、総理大臣就任
    (2010年6月22日・記)

  • 現・菅財務大臣が大臣としての職務を実体験をもとにつづった備忘録。
    一般にはなかなか知ることのできない、大臣の職務や大臣と国家公務員との仕事、そこに関する菅議員の問題意識が記されている。もちろん、菅議員の個人的な見解ではあるが、政府の要職であることから今後世の中に対して問題提起される可能性がある。

  • 民主党の政治主導の考え方が良く分かる。国家戦略室の位置づけも、これを読んで理解しました。国民主権に対する民主党の考え方がよくわかるし、「無血革命」という主張もりかいできる。

著者プロフィール

菅 直人(かん・なおと):1946年山口県生まれ。東京工業大学理学部卒業。民主党代表、政調会長、幹事長を歴任。2009年鳩山内閣の副総理、2010年に内閣総理大臣となる。現在衆議院議員、弁理士。著書『東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと』(幻冬舎新書)、『大臣』(岩波新書)、『原発事故 10年目の真実』(幻冬舎)、『民主党政権 未完の日本改革』(ちくま新書)など。

「2024年 『市民政治50年 菅直人回顧録』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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