僕は、そして僕たちはどう生きるか (岩波現代文庫)

著者 :
  • 岩波書店
4.06
  • (58)
  • (55)
  • (36)
  • (5)
  • (1)
本棚登録 : 967
感想 : 79
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006022587

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • やあ。よかったら、ここにおいでよ。気に入ったら、ここが君の席だよ―『君たちはどう生きるか』の主人公にちなんで「コペル」と呼ばれる十四歳の僕。ある朝、染織家の叔父ノボちゃんがやって来て、学校に行くのをやめた親友ユージンに会いに行くことに…。そこから始まる、かけがえのない一日の物語。

  • まさしくコペルくんの考えそうなことを著者は見事に再現したと思う。しかも、ユージンとニワトリの話には胸を締め付けられ、そしてコペルくんが自分の内面に気付くくだりはぞわぞわする。恐ろしい、そしてそういうことなんだ。

  • 尋常じゃなく大人びた中学生たちが
    タイトルの通り現代で自分たちが「どう生きるか」について
    それぞれに背負った苦痛や経験を元に考え、
    分かち合い、許し合う物語。

    凄く小難しいテーマを
    (非現実的ではあるけれども)
    非常に理解しやすく身近な問題に置き換えて描いている。
    読んでいて、つっかかるところは殆どない。

    手に取った瞬間の表紙の厚みから
    その変のありふれた文庫本とは違う
    これは特別な本なんだ、という感触があった。

    著者をはじめ、出版に関わった人々の熱意が感じられる良本。

  • 「君たちはどう生きるか」を読み終え、この本を思い出した。再読。
    あちらのスピンオフかと思ったら全然別物。
    この本の凄さを改めて認識し、それに付け加え内容の濃さと自然との共存というテ-マのひとつを再認識。若い女の子にもぜひ読んでいただきたい。
    世の中にはこんなにも若い人向けの本が充実しているのになかなか手元に届かない。どうしたら、届けられるのだろうというジレンマにまた当分悩まされそう。
    機会があれば紹介したい本の一冊に!

  • テーマとか問題意識とかいうものに、ここまで真っ正面から真剣に向き合った小説も珍しいのではないだろうか。

    説教臭い「物語」は好きではないが、そんなえり好みや斜に構えた感覚がしぼんでしまうほど、あまりにもまっすぐに「どう生きるか?」提示されて、読み手も真剣に向き合わざるを得ない。

    コペルとユージンとショウコみたいな中学生が同じ所にごろごろいたりするもんか、と思わないでもなかったけど、そういう些細なツッコミもどうでもよくなってしまった。

    ユージンの事件のときのコペルの対応、意識できないだけできっと数限りなくそのように振る舞ってきたであろう、読み手である自分。
    大抵の人は大抵の場面で善良であり、自らもその善良さを信じている。平凡に暮らしていれば、いうほど芯から嫌な奴、悪い奴なんて世の中でそうそうお目にかかることはない(ちょっと気に障るとか気が合わないとかはべつとして)。
    問題は目立った極悪人ではなく「集団」である。一人一人は善良な「コペル」であっても、「集団」から距離を置いて自分の頭で深く考えることは(突然判断を迫られたらなおのこと)とても難しい。
    (ちなみに大きな集団に対抗している小さな集団もまた集団であることを忘れてはならない、と私は思う)

    どんな人にすすめるべきか。中学生? でも中学生のころの自分が読んで、しっかり浸透しただろうか? 30過ぎた今だからこんなに身に染みるのではないか?
    読み手の体験と心持ちによると言ってしまえばそれまでだけど。薦め方もなんだか難しいような内容だ。

  •  解くことの困難な「集団と個」の関係を誠実に見つめ尽くした作品。少し教訓主義的な匂いが漂うところもあるが、これは『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎)に応答する構図にしているから。いまの社会を射貫く鋭い視点。

  • 主人公の男の子二人のぐるぐるぶりが、ああうん、あるよねという感じ。
    ユージンの苦悩はわかるし、コペルに対する怒りや落胆もわかる。
    コペルが己を恥じる気持ち、おかしいと思っているのに多数の意見に飲み込まれ、それに反対を唱えることで受ける攻撃を本能的に避けて、気付かないふりをしていた自分に気づく恥ずかしさは誰でも一度は経験したことがあると思う。
    リーダー格に飲み込まれて友達を無視したり、差別を区別と嘯いたり、いろいろ。
    確かにこれは卑怯なことで、ユージンがコペルを貶めるのも正論なんだけれどもやもやする。
    本気で自分を心配している友人に対して「コペルは幸せなやつすぎるからいえなかった」って、平たく言えば「おめでたい頭のてめーに言うだけ俺のエネルギーが無駄」って意味とほとんど同意で、じゃあ、ユージンは彼を下に見ていいって根拠はなにかと言う気がする。
    あのこっこちゃん事件、確かにわかっているくせにわからない方向へ進んだコペルは卑怯だが、ユージンも意見と空気に飲み込まれやめてくれとは言えなかった。
    もし、そういったなら少なくともコペルか、コペルから話を聞くことになったであろう彼の母親なら一緒に担任と戦ってくれたことは間違いない。
    ユージンと同じような目にあったことがある。
    「皆のための教育」に私の大事なもの、そのときは自尊心をいけにえにしろと言った教師がいた。
    最後に負けたこともユージンと似ている。
    その事件を冷静に振り返られるようになっても、やはりあの教師のやったことは間違いだと思うし、傷口はとっくにふさがった。今なら、あなたのやったことは教師としてまちがっていましたと泣きも怒りもせずにはっきり言える。
    ショーコが「集団の中にいて言いたいことを言う」という生き方、これは本当に難しい。
    梨木果歩は彼女をサバサバ系という安直な書き方をしていない。
    彼女がいたらしんどい、というコペルの表現。
    彼女のようなタイプをKYとして片づける生き方を今の日本人の多くは選択している。
    強い人間と一緒にいると弱い人間はしんどい、だから排除する。彼女をデリカシーがないと落とすことで、自分の弱さを庇護するのだ。
    インジャの話も本当の対象年齢層から考えるとぎょっとするエピソードだが、某芸能ニュースで裁判沙汰になった劇の話を思い出す。
    これも多数の人間の意見に少数の声なき抗議が飲み込まれていく様に似ている、
    梨木果歩の描く『境界線』の物語。
    単なる平和の話でも、引きこもりや不良化の話でもない。
    どこで線を引くか、自分の線をどうやって守っていくのか、特にいろいろな線を自分でこれから引いていく若いひとたちが読むべき本だと思う。

  • 10代の子達にぜひ読んで欲しいと思いましたが、50代の私にとっても大切な作品になりました。
    繊細さ、鈍さについては私もずっと考えており、強さとは鈍さなのかと悩んだ時期もありました。
    日頃、1人で生きることと群れることについても考えていたので、「いい加減」の群れで言語化してもらえた気がしました。
    北海道に住む人間には身近ではない動植物の連続で検索して写真で確かめながらの読書となりましたが、素晴らしい読書体験となりました。

  • 足を踏まれたら、痛いって言えばいい

    という言葉がとても印象深かった。
    とても簡単なことのように見えて、そうしたくてもできない人が沢山いるのだと思う。

  • 社会のなかで生きている限り、大衆のなかのひとりからは抜け出せない。その中で何を大事にしてどんな価値観で生きていくか、誰しもが考える(?)ことだからこそ、響く言葉が多かった。

全79件中 21 - 30件を表示

著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

梨木香歩の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×