1997年――世界を変えた金融危機 (朝日新書 74)

著者 :
  • 朝日新聞社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022731746

作品紹介・あらすじ

アジア通貨危機が世界を襲い、日本の大手金融機関がバタバタと倒れた1997年。金融危機が深化したこの年を境に、世界のマネーの流れが大きく変わった。「不確実性」に支配された市場を、どうコントロールするか-。1997年の動きを検証し、次なる「危機」への処方箋を探る。

感想・レビュー・書評

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  • 今(2014年)になって改めて1997年のアジア通貨危機の勉強をしようと思って本書を手に取りました。竹森さんの著作は数冊読んだことがあり、毎回感銘を受けていたので、竹森さんなら大丈夫だろうとは思っていましたが、予想以上にためになる本でした。まず本書が書かれたタイミングが2007年で、翌年にリーマンショックを控えている中、本書の中でも、サブプライムローン危機については示唆されていますし、グリーンスパン前連銀総裁がとった積極的な金融政策が株式バブルを住宅バブルに置き換えて、はたしてこれが吉とでるか凶と出るか?というまさにそれ以後起こることを予言しているような本でした。

    内容的にも新書とは思えないほど充実しています。私はアジア通貨危機だけが記述されているかと思いましたが、加えて日本の景気後退(山一証券、北海道拓殖銀行などの倒産をきっかけとした)についても要因分析がなされていて、日本の景気後退の原因は外国資本ではなく、日本の組織的な闇(隠蔽体質、ルールなき対応)だと指摘されており、極めて納得できます。また本書を通じて紹介されるシカゴ大学教授フランク・ナイトの「不確実性」の定義も説得力があります。

    本書を読んで思ったこと、それは21世紀の世界経済は自由な資本流通が当然だった19世紀後半から20世紀前半に似通うことが多く、いま我々が必要なのはその時期に生きていた経済学者の思想を学ぶことではないか。巷ではケインズがまたもてはやされていますが、ケインズだけでなく、ナイト、そしてハイエクなどもう古典だと思われている人たちの主張を真摯に勉強すべきではないかと思いました。本書おすすめです。

  • 2021/05/16

  • <a href="http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/009f1e5df4a59157f0cee6bea0c4c6ef">池田信夫 blog 今年のベスト10</a>より

  • 1997年といえば、タイで勃発した通貨危機がインドネシア、マレーシア、フィリピン、韓国に拡大して国際経済に大きな打撃を与え、一方日本においては拓銀・山一證券の倒産が発生、翌年の長銀・日債銀破綻へと繋がる金融不況が巻き起こりました。
    1997年の夏から秋にかけて、アジアで、日本でいったい何が起こったのか、その危機に対してIMFや、アメリカや日本の当局はどのように対処しようとしたのか、そのプロセスが詳細に検証されます。
    さらにその危機がどのように乗り越えられ、そこから学ばれた教訓は(2001年の米同時テロ時など)その後発生した危機の対処にどう生かされたのか、そして昨年勃発したサブプライムローン・ショックにどのように生かされようとしているのか、考察が加えられます。

    その考察に使われている概念が「ナイトの不確実性」です。
    20世紀初頭の経済学者フランク・ナイトが提唱したこの概念を説明した部分を引用。

    <span style="color:#3300ff;"><i>不確実性には二つのタイプがあり、二つのタイプのうち第一のタイプは、それが起こる可能性についての「確率分布」を思い描けるものだ。ナイトはこれを「リスク」と呼ぶ。他方で第二のタイプは、それが起こる「確率分布」を思い描けないものである。ナイトはこれを「真の不確実性」もしくは「不確実性」という。

    「サイコロの目」、「自動車事故」は、確率分布を想定できる事象である。そのようなタイプの不確実性が「リスク」である。不確実性が「リスク」であるためには、「確率分布」について理論的な推測が可能か、類似した現象が過去に数多く発生しており、データからの統計的推測が可能でなければならない。</i></span>

    このような「不確実性」に直面したとき人は「合理的な判断」を行うことができず、過剰な「強気」または「弱気」に基づく予想しえない事態が発生します。
    1997年の危機はまさにこの「不確実性」に襲われたものであった、と。
    過剰な「弱気」がさらに「弱気」を呼び、流動性を確保しようとする「質への逃避」が嵐のように巻き起こった。
    今現在世界に暗雲をもたらしているサブプライム問題もまったく同じ構造に陥ろうとしているわけです。

    1997年といえば、自分は会社に入って3年目で、システム開発の現場で目先の仕事を片づけるのに手一杯の状況でした。
    アジア通貨危機も国内金融機関の大型破綻も他人事のように眺めながらいったい何が起きているのか深く理解もしていなかったので、今回それら危機の実態がどのようなものであったのか、構造的に理解することができただけでもたいへん興味深かったです。

    それにしても気になるのは、本書でも指摘されているように、そういった国際経済における危機の構造と根本的に異なり、日本における危機、「不確実性」は常に政治の問題であるということです。
    経済をまったく理解していない政治家と官僚が、自分たちの組織の安泰のために自己の論理を押し通すことのみを行動規範にしているがゆえにもたらされる危機。
    あまりに愚かしく思えますが、そうした政治と行政も結局は我々国民一人ひとりを写し出す鏡のようなものなんだろうか…とも思えてきます。

  • ナイトの不確実性。
    平常時は楽観的。危機発生時には悲観的。
    流動性の危機→担保見合いに、相応のプライスを付して、惜しみなく流動性を供給する。

  • あのアジア金融危機は何だったのか?
    それを知ることができる有用な1冊。
    ま、私は当時は高校生で何をそんなに騒いでるの?って思ってましたが・・・。

  • 2007年秋頃(サブプライム問題発覚、安部首相辞任後)に書かれた本ですが、今日の金融危機へ至るメカニズムを見事に洞察しています。名著に推す人が多いのも頷けます。,後半の97年以降の世界経済安定化の内容が難解で読み返しましたが、非常に示唆に富みます。,,■ポイントとなるワード,・ナイトの不確実性,・エルスバーク・パラドックス,・中央銀行はゴールキーパー, バブル後こそ活躍の場ある。強気の企業家のように振舞わなければならない。,・97年の危機の本当の意味→中国の地位強化,・ペイルアウト、ペイルイン,・量的緩和=非不胎化介入, →円安にさせず、ドルの価値を上げる(少々わからない),・日本の不確実性は常に組織 → 住専問題、年金問題,・ブッシュは、経済面でも最低の大統領となってしまった。,・グリーンスパンの功罪(「罪」はやはり生じてしまいました…)

  • よくわからず

  • 読み終わった(2016年4月19日)
    全部読んだけど、金融の事は難しくてよく分からない!きっともっと勉強したり経験したら、この本の内容が分かるようになるだろう、その時にまた読もう。その時によく理解できたら、それも含めて全部読書体験。

  • [内に外にと翻弄の年]日本国内では大型金融機関の相次ぐ破綻、海外に目を転じれば東アジアでの通貨危機と、金融関係で大きな変動を経験した1997年。なぜこの年に危機が集中したのか、そしてこの年を境にしてどのように金融の世界は変貌したのかを記しつつ、キーワードとなる考え方である「ナイトの不確実性」について掘り下げた作品です。著者は、読売・吉野作造賞を受賞した『経済論戦は甦る』などを執筆されている竹森俊平。


    現実に何が起きたかという世界と、その背後にある理論の世界を行ったり来たりしながら1997年という年を眺めていく手法はお見事。「ナイトの不確実性」という言葉は本書で初めて目にしたのですが、その考え方が近年の金融危機とどのように関わり合っているか、そしてどれほど大切かが丁寧に記述されており、数字関係に弱い自分にも「なるほど」と思わせてくれる作品でした。


    そして内容に加えて素晴らしいのは竹森氏が使用する記述が非常にわかりやすく、常に読者の視点に立っての説明を心がけてくれている点。「あ、ちょっとそこわかりづらいなぁ......」というところで具体例や噛み砕いた説明がサッと差し挟まれているということが本書を読む間に何度もありました。

    〜「バブルか、バブルでないか」は、所詮、「ナイトの不確実性」だ。それを判断する客観的な根拠などありえない。〜

    いわゆるリーマン・ショックの少し前に発刊された作品ですが内容の素晴らしさは変わらないかと☆5つ

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著者プロフィール

慶應義塾大学経済学部教授
1956年東京生まれ。81年慶応義塾大学経済学部卒業。86年同大学院経済学研究科修了。同年同大学経済学部助手。86年7月米国ロチェスター大学に留学、89年同大学経済学博士号取得。2019年より、経済財政諮問会議民間議員

「2020年 『WEAK LINK』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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