氷点(下) (角川文庫)

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  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041003398

感想・レビュー・書評

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  • 自分の父親が、育ての親啓造と夏枝の娘ルリ子を殺した犯人であることを知らされた陽子は、ルリ子が殺された川辺で睡眠薬を飲み、自殺を図る。
    母親の意地悪にも耐え、明るく生きていこうと頑張っていた陽子が。
    彼女自身は何の罪も犯していない。
    でも彼女の遺書には、育ててくれたことへの感謝とともに、自分の中に罪を犯すかもしれない可能性があること、そのことを知ってしまった今、もう生きていくことはできないと書かれていた。そして、それが自分の中の氷点であると。

    この小説は「原罪」がテーマとなっている。
    原罪とは何か。
    神から禁じられている知識の木の実を、蛇にそそのかされて食べたイブと、そのイブに勧められて食べたアダム。神は、命令に背いた二人に何が起こったのかを尋ねた。アダムは、神が造った女イブが自分に勧めたからだと言い、イブは、蛇から勧められたからだと言う。神は二人に質問をしたのではなく、自分が犯した罪を認め、悔い改める機会を与えたのだが、両人とも自分の非を認めずに終始責任転嫁を続けた。こうやって人間は、楽園から永久に追放される。
    すべての人間は、生まれながらにしてこの罪を背負っている。イエス・キリストが十字架に磔になったことにより、その罪を贖ったとも言われている。
    ・・・原罪について調べたら、ざっとこのようなことが書かれていた。キリスト教にはいろんな宗派があるし、どれが正しい(そもそも正解不正解が存在するのか?)かは分からないが、陽子にとっては、人殺しの親から生まれたということが既に自分が背負っている罪なのだ。

    色々な人間が犯した罪が描かれた小説だ。
    誰かが犯した罪は、また他の誰かの罪を生む。人を憎むことによって、人を愛することによって、どちらにしてもそこから醜い感情は生まれ、罪は生まれ育っていくのだ。
    一時は絶望的だとみられていた陽子の容態は、数日後に回復の兆しを見せる。
    実は父親は殺人犯ではなく、陽子は不倫の上に生まれた子供だったことが分かる。それでも彼女はそのことについて、再び苦しむだろう。ましてや一度、自分の中にある氷点に気づいてしまったのだから。
    この世に生まれて罪を犯していない人間などいない。わたしだってそうだ。でもそれは仕方がないことだと思ってきた。
    それ以前に、罪を背負って人は皆この世に生まれてくるのか。
    今はよく分からない。

  • さすがの名作。胸が痛む。

  • ラストで涙してしまいました。
    子は親を選べない。子に罪はない。
    苦しんだ陽子を思うと本当にいたたまれない。

    学歴、職業、見た目、、
    そんなことで人を判断することがいかに愚かなことかを思い知ります。

    自分のエゴがどれほどまでに相手を傷付けるのか。
    夏枝が今の時代に生きていたら、SNSで悪口書いて追い詰めるようなことをするんだろうな、ふと、そう思います。

    という感想も最早決めつけのようなもので。。

    陽子のような芯のある女性に憧れる。

    日本がもっと多様性が受け入れられる社会になることを願います。

    あと、個人的に
    女から母親になれない女性は軽蔑する傾向にあります。

  • 良かった。
    徹の友人の北原も登場し、いよいよ人々の思いは複雑に絡み合う。
    夏枝の身勝手さには磨きがかかり、まさにモンスターのようだった。常に自分を正当化し、被害者でいられるように都合よく解釈する。上巻の序盤は夏枝に同情していたものの、これが正体だったかと驚いた。
    啓造は最初に許されない罪を犯したものの、その後は比較的冷静で、内省的な部分もあり、まあまあ共感できた。陽子への淫らな思いは駄目だが、なぜか一時的だった。
    陽子が犯人の娘だったということは、信頼関係によって作られた善意の嘘であり、実は犯人の娘ではなかったというオチも、なんだそうだったのかと安心する材料にはならず、さらなる原罪というテーマへと入り込んでいくという、とても深みのある展開。

  • カウンセリング用語でいうなら、この夫婦はゲームしてるわ。人の裏をかこうとしたせいで一人の命が危険にさらされるとは…陽子をゲームに巻き込まないで。
    人の愛には環境が付きまとうのかね。自分がその子を愛している、それだけでいいのにと思った。誰が邪魔してきても愛を継続することは…難しいのか。

  • 死のうとしても死ねない時があるということが、ぼくには意味深いものに思われてなりません。

    結局は、その人もかけがえのない存在になりたかったのだわ。もし、その人をだれかが真剣に愛していてくれたなら、その人は死んだろうか

  • 人とはこういう者なのか…

  • 生まれた時点で罪をもつ者などいるのだろうか。

  • 村井の高木に対する一言から、もしかしたら犯人の娘ではないかもしれないと思いながら…読んだ。
    もしこの考えがあってるなら、陽子が知る前に夏枝に知らせて欲しいと思いながら読み進めた。

  • 純文学は私には難しすぎました・・・

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著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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