新訳 夏の夜の夢 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041010495

作品紹介・あらすじ

貴族の娘・ハーミアと恋人ライサンダー。そしてハーミアが好きなディミートリアスと彼に恋するヘレナ。妖精に惚れ薬を誤用された4人の若者の運命は?幻想的な月夜の晩に妖精と人間が織りなす傑作喜劇。

感想・レビュー・書評

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  • シェイクスピア喜劇の代表作、1594-96頃の作とされる。原題は『A Midsummer Night's Dream』で、Midsummer は「真夏・盛夏」ではなく「夏至」ないし「ヴァルプルギスの夜」と解釈され、いづれも妖精が活動的になる祝祭的な夜だという。

    「左右の目に違ったものが映っているみたい。何もかも二重に見えるわ」

    "夢から覚めた"ハーミアの科白。ここには、近代という時代精神がこれから陥ることになる自己意識の無限の二重化という機制が、垣間見える。

    「どこもかしこも、ぴったり収まる台詞はなく、どの役者もずれている」(フィロストレート)

    「最高級の芝居だって、影にすぎぬ」(テーセウス)

    「影にすぎない我らの舞台、お気に召さずば、こう思って頂きたい。皆様、ここで眠ってたのだと。おかしな夢を見たのだと。取るに足らない、つまらぬ話、夢のように、たわいもなし」(パック)

    シェイクスピア作品には、<内面/仮面>・<内実/虚影>・<実人生/芝居>の対比が、一貫して底流を為しているように思われる。そしてこの対比自体が実は無効だとするアイロニーが、遊戯的な調子を帯びながら、作品の後景にはっきりと見て取れる。400年前の恐るべき現代性。私が生きているのは、夢か芝居か人生か。それを問いかける芝居、その芝居の中の一場すらも芝居なのか一夜の夢なのか誰かの人生なのか、月の魔力に朧となる。



    河合祥一郎の訳は、古典の翻訳書とは思えないくらいの破格の訳文であると云いたい。現代人の言葉の遣り取りになっている。見事と云うしかない。

  • なるほどこういう話だったのか。日本語でも韻を踏んでというのはすごい努力だな。

  • 17.05.2021 読了

  • 読了

  • アブラゼミが姿を消し、ツクツクホウシとヒグラシが夏の終わりを告げる声を聞いて、滑り込むようにこの本を読んだ。日が落ちても暑さが抜けず、生暖かい夜風が肌を撫でる今日のような夜は、この作品の舞台にぴったりだ。

    若い男女たちが好きだの嫌いだのとやりあうところに、妖精たちが茶々を入れて一晩中の大騒ぎが始まるというドタバタ物語に、いつしか私も紛れ込み、彼らとともに賑やかな夏の夜の遊びを楽しむと、心なしか私の肌も汗ばんでくる。

    この本は、河合祥一郎氏の訳だが、この訳のすごいところは、わかりやすさとユーモアもさることながら、原文の押韻(ライム)をことごとく、日本語に訳しきってしまったところである。さらに、適当に音合わせで訳されているものではなく、実によく考えられた訳になっていて、感嘆の念を抱かずにはおれない。韻を踏むことによって、言葉のコミカルさに加えて、サウンドとしてもテンポが良くなり、読者も観客もグッと劇に吸い込まれてゆく。加えて、これは原文もそうなのだろうが、ファンタジーで話が展開する所は押韻調(英雄詩体)で進み、現実的な展開の所は散文調で進むなど巧妙な工夫がなされているのも面白い。この脚本で上演された『夏の夜の夢』を実際に観てみたくなった。

    ところで、この作品の舞台は、注釈によれば5月1日の前夜、つまり4月30日の夜なのだそうだが(だから厳密には「夏の夜」ではなさそうだ)、聞くところによるとイギリスなどでは、夏至の夜には妖精や精霊たちが力を増して現れてくるので、その機にお祭りを催す所もあるらしい。夏の夜の草いきれの中から、様々な妖精がダンスをしながら現れてしばしの夜遊に興じることは、案外、あることなのだろうと思う。

    おっと、夜が白々と明けてきたようだ。妖精たちもいつしか帰っていったようだ。そろそろ本を閉じることにしよう。
    (2020.8)

  • シェイクスピアの喜劇。
    恋の甘汁により人間関係がはちゃめちゃになるが、最後はいい塩梅に落ち着き皆が幸せになる。
    妖精たちの劇はたしかに訳がわからずアマチュア感が強く感じられたが、楽しそうなギルドの集まりなのかな〜と想像が膨らむ。
    グローブ座で劇を見た後に読んだので、登場人物のイメージがしやすかった。
    当時は一人二役もよくある話で、そのおかげで劇だけではこんがらがっていた部分が本を読んで解けた。
    韻文が80%を占め、神秘的な表現が多く使われるこの作品は文学的だと感じた次第。
    わたしはハーミアの恋の捉え方、デミートリアスへの求愛の仕方がとっても正直でかっこいいと思った!

  • 韻を踏んでいるのが面白い。日本語に訳すと仕方ないのか、踏み切れてないところも面白かった。ディミートリアス(ヘレナを無下に扱う)とヘレナ(片思いでストーカーチック)の掛け合いが面白かった。
    惚れ薬で別の女性に気が移った途端、辛辣ー!好きじゃないからってそんなdisる!?好きor嫌いの2択しかない極端さ。身分の高い観客に、舞台でこの辛辣な態度がウケてたのかなと思うと微妙な気持ちになる。
    豆の花 、蜘蛛の巣 、蛾 、芥子の種という四人の妖精が出てくるくだりが好き。なぜこのラインナップなのかと。
    全体的に夏の暑さでゆだってお祭り騒ぎ、的な印象を受けた。

  • シェイクスピアの喜劇。ここまで立て続けに悲劇ばかり10作近く読んでいたので、なんだか和みました。あらすじも何も知らずに読み始めたので、もちろん悲劇だと思いこんで読んでいました。4人の男女が愛憎のもつれで殺し合うんではないかと、ハラハラしながらページをめくっていましたが、なんか惚れ薬とか、プロレタリアートたちの愚かなシーンがさしはさまれだして、色が変わり、気づいたらニヤニヤしながら最後のページをめくっていました。言葉の掛け合いが、翻訳でありながらも面白い。訳者の腕もあるんでしょうが、シェイクスピア読み継がれる意味も納得します。段々惹かれ始めましたよ(笑)

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著者プロフィール

1564-1616。イギリスの劇作家・詩人。悲劇喜劇史劇をふくむ36編の脚本と154編からなる14行詩(ソネット)を書いた。その作品の言語的豊かさ、演劇的世界観・人間像は現代においてもなお、魅力を放ち続けている。

「2019年 『ヘンリー五世 シェイクスピア全集30巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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