- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041014554
作品紹介・あらすじ
休暇からの帰途、クイーン親子はデービス山地で山火事に遭う。身動きが取れない二人は、不気味な山荘を見つけ避難することに。そんな中、手にスペードの6のカードを握り締めた山荘の主人の死体を見つける。
感想・レビュー・書評
-
国名シリーズのひとつにしてクローズド・サークルもの。
…と聞いただけで、クイーンにあらずクローズド・サークルのマニアとしては「どーせ父子は死なないんでしょ。37564じゃないクローズド・サークルなんて」とぶーたれたくなったが、どうしてどうして。これまで本書を避けてきた不明を恥じた。
あらすじで見た「山火事」は、ただの閉鎖空間作りのための小道具かと思いきや、さにあらず。なんと、これがガチの危機をもたらすのである。読者と同じく最初は火事をなめていた登場人物たちが、次第に追い込まれていくさまは妙にリアル(なにしろ現実とシンクロしている)。後半では「もう殺人事件どころじゃない」とか言い出したりして、すっかりカタストロフものの趣である。
ここのところで、そう言いつつも推理を巡らせてしまうエラリーを「ありえない」と笑う評をいくつか見かけたが、私はむしろ、この姿にこそリアリティを感じた。着実に迫り来る、避けえない死。それでも、それに呑み込まれる瞬間までは、誰しも否応なく生きなければならないのだ——昨日と同じ、ごくありふれた今日を。
ここのエラリーくんや、本書のラスト1行を「ご都合」と笑うような人とは、お友達にはなれそうにない。たぶん、彼らは「螢」(麻耶雄嵩)のラストに激怒して、本を壁へと投げつけるのだろう。
閑話休題。国名シリーズは「エジプト十字架」に続き2作めという不勉強な私は知らなかったのだが、本書は「シリーズ中の異色作」らしい。生粋のシリーズファンや、論理の鬼としてのクイーン・ファンの中には、推理の「弱さ」(そうかなあ…さすが、本格マニアは厳しいなあ…)や「読者への挑戦状」の欠如をもって良しとしない向きもあるようだが、「そんなの関係ねえ!」なクローズド・サークル好きには、むしろ大いにお勧めしたい。「どーせ父子は死なないんでしょ?」と敬遠・軽視するにはあまりに惜しい、「怪しげな館」「怪しげな人々」「全滅の恐怖」の三拍子が揃った、古き良きクローズド・サークルものである。
また、タイトルロールの「シャム双子」がすばらしい。国名繋がりのこじつけや奇を衒った小道具ではなく、幾重にも張り巡らされた論理的必然性がある。本書に登場するのは断固として、結合双生児でなければならなかった。キャラクターとしても一服の清涼剤。
実際、「どーせ父子は死なないんでしょ?」とは現代ならではの視点であって、リアルタイムの読者にとっては「えっ、これってもしや『クイーン最後の事件』…?」というドキドキもあったはずだ。なれば、上記のような「異色」部分も、作者のミスなどではありえない。間違いなく、狙って「外し」たものだろう。
叶うことならばリアルタイムの読者として、かの「そして誰もいなくなった」にすら先んじていた本書の真価を、十二分に味わってみたかった。
2015/12/12読了詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2018年1月21日、読み始め。
2018年1月28日、読了。
以前より気になっていた作品だが、「シャム双子」というタイトルの一部にひっかかるものがあり、手にすることがなかった。
実際に読んでみると、なかなか凝った謎解きになっており、読後はウ~ンとうならされた。 -
山火事は怖い。
-
山火事によるクローズド・サークルもの。
火の手が迫っている上に、二転三転する謎解きも絡み、今回は”読者への挑戦状”がなし。
結合双生児の一人が犯罪を犯し、もう一人は関わっていない。その場合、裁判所はどのような判決を下すのか?という深い内容にも踏み込んでいる。 -
国名シリーズで唯一「読者への挑戦状」がない作品。
ストーリー展開も他の作品とは異なっていて、異常事態でのグランドホテル形式。思い返してみれば、国名シリーズはみんな構造が違う。ミステリーのいろんな可能性を提示しているわけだ。やっぱりすごいや。 -
国名シリーズ初のダイイング・メッセージもの。意外といえば意外。犯人とエラリーのせめぎ合いが面白かった。
-
国名シリーズ#7。迫る山火事、隠遁した医師、シャム双子、ダイイングメッセージ。
シャム双生児という言葉があることをはじめて知った。
怪しいと思っていた人がまったくもって犯人ではなかった。解説文中の「エラリーは事件捜査以外は役立たずなので、山火事の対応は、警視がリーダーシップを発揮する」に笑った。そのとおり。