- Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041050767
感想・レビュー・書評
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ナチス政権下のドイツ、ハンブルクを舞台にしたスウィング・ユーゲント(スウィング・ボーイ)の物語。
違う時代の違う国の空気を感じる小説を書くなんて、小説家って本当にすごい。歴史やジャズに詳しくない私でも惹きこまれた(いくつかの曲をYoutubeで調べた)。音楽好き、歴史好きにはおすすめの本。
・エーデルヴァイス海賊団詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
戦時下ドイツの不条理、残酷、冷徹な日常を生きる若者たちのようすが、当時若者たちに浸透しつつあったジャズとともに描かれている。
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とにかくカッコいい!
ナチスドイツ下でのブルジョワの若者。自由を死守するために最大限に頭を回転させる。自分の心情(自由)に合わないモノに対しては絶対に従わず、圧倒的な暴力でボロボロにされても小馬鹿にしたような顔で笑って時代と国に対する強烈な抵抗を貫き通す。
佐藤亜紀氏は、悪ガキの生き生きした自由奔放さを書かせたら天下一品だ。 -
ナチス政権下のハンブルクで頽廃音楽とされたジャズに熱狂するボンボン達。エディと仲間はガチムキのナチ・ユーゲントをダサいと斬り捨て「お馬鹿の帝国」に対し真剣な不真面目さをもって抵抗する…。アーリア人の血の比率を重視する人種政策の馬鹿らしさや、国家をかさに着て徒党を組む連中の下劣さをエディは嘲笑う。しかし読んでいて、今これと似たものをよく見るよね?と思わずにいられない。だからエディの言う「狂った牢獄を祖国とか呼んで身を捧げる奴なんかいるか?」「この国が、ぼくには邪魔だ」という言葉が最高にしびれる。
「ものっそい」とか「誰得だよ」とかの今どきな会話も魅力で、イキるユーゲントたちが、メラ―教授にコテンパンに論破されてさー、とワイワイいってる話とか、エディが目障りな曹長を「道徳的に」足腰立たなくさせた際にマックスが「山の老人は……」とナレーションを入れるシーンなんかもうケッサク。(2017) -
佐藤亜紀さんらしからぬタイトルだなぁと思いはしたものの、やっぱりタイトルからは想像もしなかったお話だった。
大戦下のドイツ、ハンブルク。ブルジョワな若者たちの放蕩な行動とその行く末を、敵性音楽であるジャズに託して、また冠して、物語は進んでいく。序盤はまるでアメリカングラフィティのような世界観なのに、その背景には常に戦争とナチが横たわり、とうとうやってくる中盤のハンブルク爆撃以降は目を覆わんばかりの凄惨な描写が続く。時代に翻弄される若者を、佐藤さんは描き続ける。いや、たまたま読んだものがそうだっただけかもしれないけれど。
それにしても著者の膨大な知識と主人公への憑依力はとにかく凄まじい。物事のディテールは微に入り細に渡り、登場人物は誰からも創作されておらず、各々が各々で各々の人生を生きている。小説のタイプはいろいろあるけれど、その中のひとつの頂点にいるのは間違いないと思わずにいられない稀有な作家であると思う。 -
第二次世界大戦下のドイツ、ハンブルク。
父親がベアリング工場を経営し裕福な家庭に育ったエディはナチやユーゲントを「ださくてくだらない」とみなし、ジャズに傾倒する。
時勢が不穏になっていく中、まるですべてを打ち捨てるかのように未成年のうちに酒を飲み、踊り狂い、ナチスに抵抗する若者たちの物語だ。
戦時中にこうした行動をとる「スウィングボーイ」は実在したらしく、史料も多数残っているらしい。そのことに驚く。
政府批判、体制批判をするのは若者の通過儀礼としても、同じ時代の日本ではありえなかったろうと思う。
欧米という文化がより近く身近にある中で育った土壌が生み出した抵抗勢力。ヒステリックなまでに陽気で洒落た若者たちが醸成する空気が魅力的だった。
前半はただの考えのない放蕩息子にしか思えなかったエディが、時局が悪化していくに従い、「徹底した放蕩息子」としてふるまっていく様に、うわべは迎合しても常に政局を斜に見る視線の鋭さに、軽妙な語り口ではごまかしきれない時代の重みに、強く引き込まれる。
安価な労働力として使役するはずの収容者を衰弱させて殺すことを馬鹿だと罵り、何分の一ユダヤ人、という破たんした「アーリア人とユダヤ人」の区分けを意味が分からないと憤る。
裕福なアーリア人であるからには守られ優遇されているのだけれど、だからといって戦時中の彼らが安穏としているわけでも、心が安らいでいるわけでもない。
ペルヴィチン(=ヒロポン)の錠剤を貪りながら生き延びようとするエディの姿は印象的で、読み終えた後、まったく知らなかった歴史の側面を見た気がした。
ペンは剣よりも強し、という言葉があるけれど、音楽もまた剣よりも強いのだ、と思う。音楽の力。言葉の力。
絶望的な環境の中であっても、その力があるのだ、ということは希望だと感じる。 -
あらゆる誌面で絶賛されてただけある、大傑作!!!!!!
しかし政治思想よりジャズにかけた青春…みたいな書評を読んでたせいか、「そんなの当時のドイツで可能だったの?」と軽い疑問を抱きながら読み始めたら、確かに最初はブルジョワお坊ちゃんの不良ライフではあるけれど、結局収容所で徹底した辛酸を舐めてるし、亡き父親に代わって工場を切り盛りしたり(一人称なので淡々と進んでいくけれど、すごい才覚だわ…)並大抵じゃない苦労を経験している。
戦争はやっぱり誰に非常につらい…一部の有力者以外…と、改めて思わされた小説でもあった。 -
ドイツ人がジャズ好きなのはなんとなく知っていた。山下洋輔トリオがドイツや東欧でツアーを行ったりしているからだ。でも、なぜドイツで?ドイツといえばクラシックの本場。しかも、この本の舞台であるハンブルクはブラームスの生誕の地。ビートルズもまずここからスタートしたというから、新し物好きの気風も強いのかな?なにしろ、ドイツ第二の都市で、エルベ川から北海に繋がる港湾都市でもある。中世からハンザ同盟の中心地として栄華を極めてきたドイツ最大の商都。そんな豊かな街で暮らす、セレブのお坊ちゃんたち。第二次世界大戦のさなか、ギムナジウムに通う少年たちは〈頽廃音楽〉ジャズにドはまり。夜な夜なクラブに通っては、スウィングに酔い痴れ、タバコをふかし、酒を飲み女の子といちゃつく。
ナチの制服を「糞ダサい」と心底バカにして、ユーゲントを仲間に引き入れゲシュタポを出し抜く。やがてジャズは〈敵性音楽〉と呼ばれ、レコードは入手不可能になる。それでも少年たちはとんでもないビジネスを思いつき、それを実行する。
なんと享楽的で頽廃的な青春。しかし、戦争は容赦なく彼らの日常をぶち壊していく。ハンブルクがドイツで最大の空襲を受けた都市、というのは恥ずかしながらこの本で知った次第。戦争、ダメ、絶対。
各章は古き良きジャズのヒットナンバーに由来する。今ならもれなくYouTubeで聴けるものばかり。いやあ、いい時代になりましたね。音楽好き、ジャズ好きには掛け値なしでお勧めしたい。佐藤亜紀の文章が読みやすいのにもびっくり。 -
2017-3-4