作品紹介・あらすじ
時は一八八八年、大英帝国の首都ロンドン。「切り裂きジャック」と呼ばれる謎の殺人者による連続殺人事件が、街中を恐怖に陥れていた。医学留学生としてロンドンに滞在していた日本人・柏木は、友人でロンドン警視庁に所属する美青年・鷹原とともに、この事件と深く関わりを持つことになる-。二人の日本人青年の目を通じてヴィクトリア朝時代のロンドンを緻密に描き出し、絢爛豪華な物語が展開される。小説世界に浸る喜びを存分に堪能できる、重厚かつ品格に溢れた傑作ミステリー。
感想・レビュー・書評
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切り裂きジャック×エレファント・マン×源氏と柏木×ホームズ・ワトソン×BL×文豪といった、なんとも豪華絢爛なミステリー。私こと柏木薫がスコットランドヤード視察中の光こと鷹原とともにロンドンで過ごす青春譚。この世界にはまる。
厚いけど引き込まれるように世界に入って行くことができ、最後までとても楽しい時間だった。
私は読む前にあらすじも読まないくらいまっさらな状態で小説の世界に入るほうが好きだから、4分の1を読んだところでもどういう話なのかわからなかった。
もちろん、何をしているか分からないというわけではなくて、着地がどこなのかなと。これは結果的にミステリのカテゴリだと思うけど、冒頭、事件は起きません。柏木薫の留学生活の悩みの日々が綴られてる。
あらすじも知らないから、『これ、ファンタジーなのかな(まさか)、ミステリ(?)なのか、(意外と)恋愛小説だったりして』、という感じで読んでた。
だからか、特にミステリとは思っていなかったので薫の留学生活、青年の生きる悩みをイギリスの空気とともに読むだけで楽しかった。
描写が美しく、繊細で引き込まれる。
小中学生の頃と違い、最近は本を「読もう」と思って読み進めている感覚がどこかあったけど、久しぶりに自発的に「目が文字を追う」というか、これ読んでる間わくわくした。はあ、楽しかった。。
スティーヴン、正直下卑た気味の悪さを感じて嫌だった。
しかし、読み終えると快楽主義で周りを脅かすことは良いとは思えないけど人間らしい、素直な人だったのかもと思わせて切ない。
薫とスティーヴンとの関わり方の結果が気の毒で辛いからかな。
薫には恋した幻想(彼女)含め、自己愛とか利己的な面を強く感じて、周囲への愛はあんまり感じられない。青年というものかもしれないけど、鷹原への苛立ちとか、薫ってなんか勝手なやつだなあと思わせる。読んでいるほうは楽しいけど鷹原はよく付き合うなと。
その周囲を気にしているようで自分に酔っているだけのようなところもある薫を鷹原のような人が気にかけるのも面白い。
鷹原は愛情ゆえの、理解した上で弁えた理性的な態度。薫は自分が気持ちがよい感情の赴くままの同情と取り乱す心。
でも、薫は周囲に等しく、鷹原自身にも引け目もあるのかそんなに執着してない感じがする。
そこが鷹原は気持ちがいいんだろうなあ。
鷹原の好意もかしこまることなくフラットに受け止めてそう。酔狂くらいに思ってそう。(そしてそう思わせるように鷹原がしていると思う。)
最後の数ページはまた、驚きもしたけど、ほのぼのとして本当に良かった。
糸瓜に心が緩んだ。
鷹原、子爵だってのに良い人過ぎて、その年になっても薫に振り回されている感がときめかざるえない。
薫はほっとけない愛されキャラか。羨ましい。アリスも薫好きだったんだろうな。。。アリス!!
それより、今タグを登録しようとしてこの本に「萌えミステリ」っていうタグがあることに衝撃を受けました。
途中放棄ってタグもあるな。これを最後まで読まない人がいるのかあ、もったいない。ま、そりゃいるよね。
人物リスト欲しいなあ…と読んでる最中ずっと思っていました。この人誰だったっけなあ…まあいっか…と←
切り裂きジャックといえば、DNA鑑定で犯人わかった!→間違いでした!な件がありましたよね〜(・ω・)一昨年だったかな
ミステリスキーとしては滾らざるを得ないテーマかとも思うのですが、それほど詳しく調べたことはありません←
題を取った作品は何冊か読んでたと思うんだけどな…。
いつになく短い本編感想いきます\(^o^)/
冒頭から、異国で勉学に励む青年の懊悩がつらつらと連なったり、見目麗しい光の君の小気味好い言動が続いたり、どうも私好みの展開ではなくってよ…と危惧しながらページをめくり続けること数章。
犯人当てではなく、霧に包まれた灰色の街やどこか歪な人々を堪能する作品なのね。と確信を持ってからは早かった。
なので、蛇足のように足された解決提示や、突然のBL展開にも動じませんでしたよ、ええ←
その展開は要るのか?必要なのか?この厚みはどうなんだ?と首をかしげつつも、なんだかんだエンタメ小説として楽しんだのでした。…でもな、推理小説ではなかったのよね…←
娼婦達を狙った連続猟奇殺人が、人々を恐怖に陥れていた、1888年、大英帝国。ドイツ留学に膿んでいた日本人留学生・柏木薫は、「エレファントマン」に会うため単身ロンドンへ渡るが、スコットランドヤードに捜査協力していた美貌の友人・鷹原惟光がきっかけで、「切り裂きジャック」の事件に関わっていくことになる。今なお人々の好奇心を掻き立てる「ジャック・ザ・リッパー」の正体とは。
前々世紀末の大英帝国ときたらもう飛びつくしかないし。Jack the Ripper、Elephant Man・・霧がたちこめる妖しき魔都あぁロンドン。この街の併せ持つ光と影のコントラストが見事だ。主人公の青き苦悩振りにも共感。800ページ近い分量もやや冗長な前半こえれば一気に加速。ラストの落ちにほっこり和む。
あらかじめ断わっておくと、切り裂きジャックがメインの小説かと思って読み進めていくと、一向に切り裂きジャックが出てこないので退屈する。冒頭部分でジャックの被害者となる女性が登場するので名前を知っている人にはピンとくるが、知らない人にとってはどこが切り裂きジャック?となるだろう。ようやく出てくる頃には下手な文庫の2冊分くらいは読み進んでいる。
最後まで読んでも、これが切り裂きジャックの正体だ!的な新事実とかが待っているわけでもないので、リッパロロジストもどきの読者を喜ばせるような本でもない。
でも、「世紀末ロンドンとエレファントマン」ということに視点を変えて読んでいると、結構おもしろい。主人公の日本人国費留学生の目を通して、その時代のロンドンの貴族社会と最貧困層の社会が隣り合わせで形成されている一種独特な街の雰囲気を、それぞれの階級の人々の目線で丁寧に描かれている。その両極端な社会をつなぐ装置としてエレファントマンという奇形の人間が登場している。好奇の目で見られる彼の処遇を観察しているうちに、当時のロンドンの日常が知らず知らずにわかってくるようになっている。
微に入り細に入り、ロンドンの街や風俗が描写されているので、余分な描写も多いが、それはそれで、もう「地球の歩き方・世紀末ロンドン」ということで楽しんだ方がいいかもしれない。
後半からは切り裂きジャックがエレファントマンの代わりとなってこの役になる。犯人探しより、この事件を当時の人々がどう見て、どう感じ、どう騒いだか、という点に目を向けて読むといいと思う。
ジャックの正体は一応明かされるが、どうでもいいような気がした。
完全に作り話だし、これはそういう本でないので。
読み終わって溜息が出ました。
これはすごい。
著者さんの「この光と闇」が個人的にとても面白くて、いつか他の作品も読んでみたいと思っていたのですが、今作品を読んでみようという気になったのは気まぐれでした。
本自体ももう販売されていないのか、中古で取り寄せる形でしかも開けてみると予想に反してとても厚い!これは読むのは大変そうだなぁ、と思って読み始めてみるとまるで訳書を読んでいる様で中々物語に入り込む事が出来ませんでした。
が。
鷹原のイメージがまんまSHERLOCKのシャーロックで、イメージされてしまってそう思いながら読むと不思議と面白くなってきました。
切り裂きジャック自体は未解決の事件なのでどういうオチに持っていくのかとすごく楽しみにしながら読んだのですが、すごく良かった。
まるでこんな物語が実際にあったかの様でした。
雰囲気も登場人物もすごく生きています。
登場人物が多いのでそこがなかなか大変ですが、本当に良い作品でした。
他の著者の切り裂きジャックも読み比べてみたい。
読み終わって思わず、おおおおぉぉぉ・・・息をついちゃう、そんな小説。
事件の真相はこういうことだったのかもしれない、と思わせられるだけの緻密さと巧妙さ。
そしてやっぱり、ヴィクトリア朝ロンドンの世界に深く引き込まれていて浮上するのがなかなか困難ですよ。
大英帝国の混沌ぷりが浪漫すぎる。
柏木くんの鈍くささに若干イライラしたり、人生に迷いでも世界との関わりの中で光明に気付くあたりに共感したり、スティーブンとドルイットとの妖しい関係にドキドキしたり、鷹原との絶妙な仲良しっぷりにニヤニヤしたり。(この二人、年とっても独身ぽいうえ、なんやかんやじゃれあっちゃってるよ)
とにかく読んでて楽しかった―!
切り裂きジャックといえば、映画の「フロムヘル」も見たけど、比較するのも楽しいかも。
この作品好きです。
タイトルから受ける印象とはまた違って、すごくロマンあふれるというか。
この方の作品はほんとにきれい。おすすめです。
著者プロフィール
1948年生まれ。版画家。日仏現代美術展でビブリオティック・デ・ザール賞受賞。『時のアラベスク』で横溝正史賞を受賞しデビュー。著書に『この闇と光』、『一八八八 切り裂きジャック』(角川文庫)など。
「2019年 『最後の楽園 服部まゆみ全短編集』 で使われていた紹介文から引用しています。」
服部まゆみの作品