テロリズムの罠 右巻 忍び寄るファシズムの魅力 (角川oneテーマ21 A 96)

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  • 角川学芸出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047101784

感想・レビュー・書評

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  • 従来、戦争とは国家対国家でおこなわえるゲームだった。想定される第三次世界大戦においては、イスラエル、アメリカとイラン、シリアという国家間戦争とともにイスラム過激派による非対称の戦争も展開される。

    マルクスやレーニンの国家観は実のところアナーキストと本誌手うn相違がない。国家は本質的に暴力装置であり、究極的には消滅すべき対象であると考える。

  •  第1部では、ロシア・中国に内在するロジックを解説し、第2部では、資本主義の欠陥を他者の論考を通じて明らかにし、新自由主義に対する反動から生じるかもしれない、ファシズムへの兆候を示している。さすがにロシアについては専門領域なので様々に分析されているが、第2部は基本的に引用が多く、ワクワク感は控えめのように思う。

     後半では、絶対的貧困の現状と、過去にファシズムが台頭した時代の状況を比較することで、今後に起きるかもしれない変化を推測している。特に、雇い止めなどの問題について経団連などが取り組むことを提案しているのだが、それだけでは問題は解決しないのではないかと思う。なぜなら、企業に国籍は必要ないので、市場を日本に限定する理由がないからだ。
     日本での製造経費が高くなれば他国に拠点を移すだけで済むし、日本市場が縮小する以上に外国市場が拡大すれば、企業が得る利益はむしろ増える。だから、派遣をやめて正規雇用を義務付けるというような対策は、かえって逆効果になるかも知れない。

     派遣の問題は、大企業との雇用関係よりも、派遣会社との雇用関係に根本的な原因がある気がする。結局、派遣会社という中間業者による搾取と、派遣社員に対する教育の機会が与えられないということが、貧困の負の連鎖を生み出すことになるのだろう。
     だから例えば、派遣会社の業界団体を設立して事業規模に比例して出資させ研修センターをいくつか作るのはどうだろう。派遣会社に就職した人は必ずそこで一定期間研修を受けることを義務づけることにより、社会人としての基礎的なスキルも身につけられるから、仮に派遣切りにあっても、どこかで再雇用される確率は高まると思うし、正社員として雇用されるチャンスも高まるだろう。
     補助金や社会保障を積み増せば、一時的には救われるかもしれないが、その子供たちに貧困が継承されてしまうかもしれない。ならば、そのお金をスキルアップの仕組み作りとそれを指導する人の確保に使ったほうが、後々よいかもしれない。

  • 基本的な感覚や意見は好きです。
    いろいろな本を読んでいて、いろいろなことを考えている、頭のいい人なんだなー……というのが一番印象に残るだけで、全体的に(自分の読解力を棚に上げつつ)スッキリとする感じが少なかったです。
    やはりこれも、新書だから?

  • 不安の時代にテロやファシズムの魅力に吸い寄せられないためにどのような政治、思想の教養が必要なのか。マルクス、新自由主義からリーマンショック後の国家機能の強化をめざす保護主義、ロシア、中国にみられるような新帝国主義を通して考える。

  • 佐藤優 雑誌等の論文をまとめた 右巻

    ファシズムが形を変えて(名前を変えて)やってくる危険を警告している。

  •  新自由主義と国家、テロリズムとの関連性を論じた本。右巻は新自由主義が蔓延した国におけるファシズム志向の可能性について論じる。

     新自由主義によってアトム化した社会では、国家が戦争や恐慌の不安で国民を操ることが容易になっている。不安に耐えきれなくなった者の中でも特に尖鋭化した者はテロリズムに走る。

     そしてテロリズムという非合法的暴力は、それを鎮圧する最大の暴力機関である国家による合法的な暴力を正当化する。ファシズムはこのような過程を経て生まれ、強化される。

     社会学者のエーリッヒ・フロムは『自由からの逃走』の中でナチスドイツにおけるファシズムの隆盛について被虐と嗜虐という社会心理面から分析した。それはヒトラーの権威に従う悦びと、自分より劣る者(ユダヤ人などマイノリティ)を攻撃するによる欲求不満の解消や優越感を得られるというものでしたが、この構図はナチスの頃から変わらないのだろう。

     どんなに迂遠でも、どんなに面倒でも、自分たち一人ひとりが政治の主体であるという意識を持ち、「政治なんて面倒だから誰かにお任せ(押し付け)」という倦怠感を克服することが望まれる。

  • [ 内容 ]
    ロシア・グルジア戦争、リーマン・ブラザーズの破綻…。
    新自由主義イデオロギーが駆動するグローバル資本主義のもとで帝国主義化するアメリカ、ロシア、中国など、大国各国の政権と国体の変動を詳細に検証。
    資本主義の恐慌と過剰な搾取が生み出す社会不安と閉塞感が排外主義・ファシズムへと吸収される、現下の世界情勢の危機を警告する。

    [ 目次 ]
    「思想戦」の時代へ
    第1部 血と帝国の思想戦―「過去」へと超克される国民国家の未来(ロシア情勢の変化 王朝化する帝国主義と「生成するロシア」 中国共産党の科学的発展観 ロシア・グルジア戦争と国民国家の超克)
    第2部 甦るファシズム―新自由主義が「アトム化した個」の行方(恐慌と不安とファシズム 雨宮処凛、あるいは「希望」の変奏 新帝国主義と「暴力」の弁証法)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • まとまった情報に接すると、ロシア事情がよくわかる。

  •  ファシズムは歴史的に見て、必ず民主主義的手続きを経て形成されている。また、マルクスが指摘した、資本主義社会では不可避である「恐慌」は革命が起こるのではなく、ファシズムを生み出している。
     この指摘は目新しいものではないが、新たな読者層への啓蒙であり、再認識されるべきであろう。

  • 現在の資本主義の危機を、ファシズムへ向かっている危険性を中心に解説した書。
    まず、著者は大惨事世界大戦の可能性についてかく。今、米国がもっとも恐れているのが中東から端を発する世界的戦争だ。イランやシリアが核兵器を持てば、イスラエルが黙っていない。イランやシリアはイスラエルを抹殺すると公言しているからだ。イスラエルが戦争を開始すると、世界的な大規模テロが実施される。日本に対してもだ。イスラエルとの関係を絶てと。そうしたことを米国は恐れている。そこに目をつけたのが北朝鮮だ。シリアとの技術協力をちらつかせることにより、米国との対話を開きたいのだろう。
    ロシアについても書いている。ロシアはグルジア情勢について、武力を公然と使用し、問題を解決しようとしている。それは、グルジアに非公式的に協力する米国の勢力を緩和するためにグルジアから南オセチアとアブハジアを独立させることを目指している。それは民族主義というよりも、国家主義的な傾向を示しているという。
    中国についても述べている。中国の思想は基本的に共産主義で良い思想は輸出するというのだ。そして、さらに自民族は優秀だという視点である社会ダーウィニズム的考え方もあるのだという。日本もこれに備える思想が必要としている。
    最後に著者は、こうした現在の新自由主義への流れ、そしてそこから発生している各社問題について、ファシズムへの流れととらえ、警告する。
    全段のマルクス経済学的考察は、正直理解できなかった。文章がやや難しく、考え方もマルクス主義的だ。ちょっと読み飛ばしてしまった。しかし、現在の新自由主義社会が絶望的貧困層を生む、それが社会不安を発生させている。国家弱体化につながっているのだ。そうしたなかから、ファシズムが発生してしまう可能性があるという。国家における諸問題を社会で解決するのではなく、国家が、国民との間の諸障壁を取り払い、国家を第一として行動するというものだ。確かに、第二次大戦前のファシズムの発生も同様だ。当時の状況と現在の状況は確かにしている。
    自衛隊のくーデーターの可能性についても、今から真剣に対策を考える必要があると説く。共産革命の可能性については、現実的に低いとの見方を著者は示しているが、どうなのだろう。実際に革命は難しいかもしれないが、またマルクス経済学が流行するかもしれない。
    全体的にマルクス経済学的素養を身につけていないと、理解が難しい箇所もあるが、全体的なエッセンスは理解できた。現代社会への憂いが強まった。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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