86―エイティシックス―Ep.13 ─ディア・ハンター─ (電撃文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784049150711

作品紹介・あらすじ

☆2023年10月1日 初の朗読劇開催☆ 一部隊の離反――小石の一投に過ぎなかった事件は、連邦という国家そのものに波紋を広げていく。極めつけは、共和国が生み出した"最悪の発明"。憶測と疑心が絡みあうなかで、誰かがぽつりとこう言った。連邦政府は〈レギオン〉を絶滅させる兵器を秘匿している。誰かが言った。共和国の連中は〈レギオン〉どもと内通している。誰かが言った。俺たちが助けてやった、〈エイティシックス〉どもは……誰かが、ダレかが。ああ、『俺たち』以外の誰かのせいで――! 噴き出した悪意と不信は、歯止めが利かず、いともたやすく人々に伝播していく。 〈レギオン〉の猛攻に各戦線の兵士たちが磨耗するなか、一部の共和国避難民を扇動する〈新生・洗濯洗剤〉は、混乱に乗じて連邦からの「独立」を宣言し、武装蜂起を誘発させる。西部戦線に帰還し、前線の撤退支援に従事していたシンたち機動打撃群も、共和国避難民への対処に当たることになる。しかし、共和国の愚行がゆえに、彼らの女王陛下はいまだ後方に留め置かれたままで―― 時を同じくして、ユートはチトリたち〈仔鹿〉をともない、共和国領にある彼女たちの故郷を目指す旅を続けていた。旅のなかで育まれる友情、そして愛情。境遇を同じくして、しかしともに歩めなかった彼女たちとの、最初で最後の旅路……一方、ユートからの『伝言』を受け取ったダスティンは、過去と現在の狭間で苦悩する。  青銀の髪を持つ彼女は、白銀の瞳を持つ彼に言った。 ――ずるくいてね。 淡紫の瞳を持つ彼女は、淡金の髪を持つ彼に言った。 ――きっとあなたは私を忘れないね。 "おそらく人々は知らない。相反するはずの愛と呪いが、じつはよく似た形をしていることを"

感想・レビュー・書評

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  • いやあ、久々にヒリヒリと心がひりつく展開は、まるで一巻の頃のようだった。

    連邦が内部から人の悪意や恐怖で崩壊していく様は、これはもう人類の滅亡が避けられないのではという焦燥を覚えさせる。
    その中でユートとチトリの道行は哀しいけれど一つの救いに胸が熱くなった。

    そしてあっと驚くラストの展開。
    そうか、ここでもう一度86が再現されるのか!
    これは胸が震える。

    次巻から最終篇が始まるということで前線のシンと後方のレーナ再びで、今度は彼らの反撃を期待したい。
    けどまだ色々あるんだろうなあ(怖い)

  • 参照できる地図付き。

    〈仔鹿〉爆発事件から端を発し、連邦内でも前線の兵の間でも疑心暗鬼。
    ユートとチトリ達は共和国への旅へ。
    ユート・ダスティン・アンジュを筆頭に、この巻はすれ違いが多い印象。
    西部戦線が切り離されて第二のエイティシックスに。
    結局は共和国と同じ轍を踏んでしまうのかな。
    次巻から最終篇の「八六区篇」。

  • そろそろ本格的に登場人物が多くなり過ぎてきて、誰が誰だか判らない瞬間が増えてしまったよ……
    冒頭にそれなりの人数が掲載された登場人物紹介があるというのに、それでカバーされていない人物がまだまだ居るって色々な意味で凄い事だと思いますよ


    この巻ではこれまでの全てを引っ繰り返すような様々が立て続けに起こるのだけど、それが過度に悲観した調子ではなくあくまでも淡々と描かれる様はどこか戦時ドキュメンタリーめいているね
    だからか、極限なまでに悲惨な状況でありつつもそれに下手な絶望すること無く読み進められると云うか…。それでも悲惨である点は変わらないから何度も頭を抱えたくなるんだけどね……


    ギアーデ連邦の勢力圏は第二次大攻勢によって見るも無惨な程に減ってしまった。それによって不穏な足音は聞こえたものの、これまでを生き抜いてきた連邦なら耐えられる、生存圏を奪還できると前巻までは思っていたのだけどね…
    まさか避難民の増加に拠る生活環境の悪化や<仔鹿>の出現に伴う人間不信がこうまでも悪い方悪い方に動くなんて……

    本作では絶死の戦場を生き抜く為に人間が極限の業に手を染めてしまう様が度々描かれた。でも、それは基本的に為政者の判断によるものであり民間人は為政者が作った制度が形作った流れに沿って恩恵を受け生きるだけだったように思う
    特に精神性が酷い集団として描かれてきたのは共和国で、それは舞台装置的にエイティシックスを生み出した集団なのだから、もはやそういうものなのだと思っていた
    けれど、この巻で連邦に起こったのは国家規模の疑心暗鬼。極限状態が続き過ぎたが為に悪者を安易に求めた結果の相互不信
    レギオンという絶対的な敵が眼の前に存在するというのに、一般市民にとって戦場なんて遠くて見えない場所だから、近くて見える場所に敵を求める。近くの敵を排斥する事で戦っているつもりになる。そうして自分は正しい側にいるのだと思い込む

    この巻で連邦市民に起こった事は国という存在が終わりゆく顛末に等しいね
    第二次大攻勢によって勢力圏を減らした流れからして、てっきりレギオンへの防衛力を減らす中で滅亡に近づいていくのかと予想していたけど、それよりも前に精神性が死ぬというのか…
    高潔な精神が地に堕ちた共和国の成り立ちを見ているかのようだったよ……

    でも、逆に言えばそれこそ共和国という先例が有るんだよね
    自分達の安全を優先するあまり自分達でない者をエイティシックスとして戦場に押し込めた共和国という存在を知っている。そして共和国の生き残りやエイティシックスは堕ちそうな連邦の一部として戦っている
    ヘンリのように連邦が間違い始めていると気付ける者は間違ったままに進んだ先に何が有るかを知っている。なら連邦も悪意に陥らず踏み留まれるかもしれない
    この時はそう思っていたんだけどね……


    悪意のような蔑視が広がれば、その渦中に居る者とて影響を受けずに居られない。その最たる者がシンとなりましたか…
    只でさえ、レーナから理不尽に引き離された状況且つ戦況も思わしくない。彼のストレスはマッハ。
    多少のガス抜きが有ったとしても、悪意に晒され続ける彼を癒やしてくれるものなんて何もない

    特にシンはエイティシックスとして、絶死の戦場を無理にでも生き抜いてしまったから。そして楽に生きられる道が用意されようとしていたのに再び生きる為に戦場に戻った人間だから
    戦わざるを得ない局面でいつまでも戦わない者を理解出来ない。それは前巻や前々巻にて示された要素。そんな理解できない者達が必死に戦おうとする『自分達』の邪魔をするというのなら
    シンにとってそれらは害悪でしか無い

    そうして連邦のようにシンが堕ちかけてしまった瞬間に投げかけられたのは、いつかの連邦と共和国の境目で掬い上げてくれた彼女の言葉
    もう簡単に会えないと諦めそうになっていたレーナからの言葉にシンが己を取り戻す様子は本当に良いね。この二人はやはり互いに相手を想い合う事で何のために戦うのか、何のために戦場から帰ってくるのかという点を明確にしているように思えるよ


    レギオンの攻勢とは別方面で展開されるのがユート率いる<仔鹿>達の逃避行だね。いや、厳密には逃避行とは少し違って残り少ない寿命の中で何を成し遂げるかという話なのだけど

    人間爆弾という絶句せざるを得ない禁忌の研究。実験に携わった者への嫌悪はどうしても湧いてしまうが、それはそれとして時限爆弾になってしまった彼女らはどのように残りの時間を生きるべきか
    キキが嘆いたように先に自殺していれば全ては済んだ話となったのかもしれない。でも、地獄でも救いがなくても生き抜くと決めたのがエイティシックスだから、<仔鹿>であろうと自分の命を進んで諦めるのが正しいなんて言えるわけがなくて
    彼女らの悲嘆を理解した上で帰郷の旅に同行したユートは本当に立派な人間ですよ

    ただ、ユートの立派さが目立つ程に、チトリと関わりが有りながら会いに行けないダスティンの不甲斐なさも強調されてしまうというのが苦しいね…
    そもそもユート達に追いつける見込みのない彼が今の状況で軍を脱走するなんて馬鹿げた話。自分の立ち場やアンジュの想いを守ろうとすればダスティンは思い切った行動を選べない

    それが間違いのない選択なのだとダスティンが信じられれば何も迷いなんて後悔なんて生まれなかった。でも、助けたいと思った相手を見捨てたという自覚がダスティンにそれを信じさせてくれず、そうしてダスティンが己の選択を信じられないなら、誘導したアンジュも自分を信じられるわけがなくて
    揃って袋小路へ陥っていく二人の様子は見ていられなかったよ……


    時を追う毎に悪化していく何もかも。それでも、渦中で足掻くのを辞めず失ってはならないものを確かにする者達も居るわけで
    悪意の只中で堕ちかけていたがレーナの言葉で己を取り戻したように、何人もの少女を連れて脱走した筈なのに故郷へ届かなくても歩み続けたように、先導してくれた憲兵が死んでしまっても小さな子供の手を引いてまだ歩いたように、愛した人が叶えたかった民主主義が潰えても子の言葉を裏切れないと気付いたように、救えない誰かが居たとしてもアンジュだけは悲しませないように

    どん底で希望なんて見えない状況だろうと生きる為に戦い続けるなら得られる何かが有る。人が人に向けてしまう感情に悪意ではなく愛を含められれば好転する何かがある
    そうすれば帰ってくる筈の無かったダスティンだけでなくヘンリやカナンがひょっこり生還するなんて奇跡に出会えるかもしれない

    …と思えた終盤だっただけに、リトの死から始まる急転直下は何もかも理解できなかったよ……
    いつかの共和国でのようにエイティシックスが憎しみの対象となるのはまだ判る。理不尽な悪意を向けられるくらいに彼らは自分の力で戦えて、そして生きる事が出来るから
    だとしても、あの連邦でエイティシックスを始めとした軍人の殆どを戦場に押し込める非道がまかり通るなんて本当に想像すらしなかったよ……

    本シリーズ序盤にて共和国がエイティシックスにした悪行はその前提に関する描写が不足していた事も有り、こんな遣り方は不可能で無茶が過ぎると思っていた
    だからこそ、エイティシックスが逃れ着いた民主主義的な連邦が共和国の対比として成立していると感じられた。というのに、その連邦が少しずつ少しずつ共和国の悪行をなぞらえていたなんて誰が想像しただろうか

    共和国でエイティシックスが86区に押し込められた時とは異なる要素を持つのは確か。でもそれが何の意味があろうかと思える程に状況はあの時と瓜二つ
    ここからレギオンと対峙しつつ、人の悪意にも抗う方法なんて果たして存在するのだろうか……

  • 1月16日読了。購入。

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著者プロフィール

第23回電撃小説大賞《大賞》を受賞し、受賞作『86‐エイティシックス‐』でデビュー。陸戦専用・高機動型・できれば多脚のメカを偏愛。スペックが化物なワンオフ機よりも量産機や旧世代機、ステータス一点張りの欠陥機を愛する。

「2023年 『86―エイティシックス―Ep.12 ねんどろいどヴラディレーナ・ミリーゼ ブラッディレジーナVer.付き特装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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