建てて、いい?

著者 :
  • 講談社
3.38
  • (14)
  • (39)
  • (85)
  • (9)
  • (1)
本棚登録 : 267
感想 : 62
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062139380

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『漢方小説』、『そろそろくる』に続く中島たい子さんの新作は、独身女性が家を建ててしまうというお話。

    三十半ばの独身OL長田真里は、神奈川のアパートで一人暮らし。狭いベランダに思うように洗濯物が干せなかったり、ゴミを出しに行く途中雪解け水に足を滑らせて階段で転んだり、アパートではみじめな思いばかり。四十までには結婚してここを出よう、と決意し、従妹の友紀子に紹介してもらったりして男探しを始めるものの、<この歳になってしまうと、相手を見るなり、綿だな、絹だな、レーヨンか、と種類分けして、それで終わってしまう。理想が高いのではなく、想像がつくから面倒くさい>ため、いまいち積極的になれない。

    そんなとき、アパートの部屋でぼんやりと「家、欲しいな」と口にし、はっとする。思いがけない爽快感。隣の部屋と接していない壁に囲まれた空間、独立した個の場所を専有して暮らす自分をイメージしてみる。そんなお金どこに、と一度は否定してみても、それ以来家のことが頭から離れない。そういえば高校生の頃に両親が買った飯能の土地があるはず、と思い出した。

    真里が家を欲しいと思ってから、迷いや憧れを抱きながら家を実際に建てるまでの過程が生き生きと描かれている。とくに心理描写がうまい。モデルハウスを見に行くとアンケート用紙に記入させられるのだが、「入居予定者」の選択肢には「ご主人・奥様・お子様(男 人 女 人)・ご両親(父・母)・他同居者」とあり、真里が○をつけられるものがない。営業マンには「奥様」と呼ばれる始末。あらゆる点で「家族仕様」の家を見て、真里は気がつく。<家とは家族で住むもの>と。

    ここでわたしも少し考え込んでしまった。そういわれてみれば一人暮らしするための一戸建てってあんまりないか。でも独身女性が家を建てるのは別におかしくないよね。そんな贅沢な買い物はないじゃない。自分だけの家って、正直、うらやましい。真里が、友紀子にはめられて行ったお見合いで出会った38歳の建築家福島さんと、どんな家にするか話し合うところでは、自分も想像して楽しくなった。やっぱり自分が自分でいられるための場所、って必要だよね。

    この小説では、真里の人間関係がフルに活用されていて、その関係性がとにかく楽しい。福島さんや従妹の友紀子はもちろん、友紀子の母教子おばさんや、七十過ぎて独身の美しい朋子おばさん、両親に飯能の家を買うよう勧めたという持田さん一家。ラストがまたその後を想像させるに十分な、とても希望に満ちあふれた温かい終わり方で、ほっこりとしあわせな気分になれる。ネタばらしになるといけないので詳しくは書けないのがもどかしいけれど、ふわぁ〜、なるほど、そうなのね、うふふ、そういうもんなのよ、人生って♪ と、読後感が本当に良かった。

    本書にはもう一つ、「彼の宅急便」という短編が収録されている。こちらもアパート暮らしの<私>が主人公。宅急便の営業所から住所確認の電話があり、これから荷物を届けるという。差出人は、別れて一ヶ月以上になる元彼だった。荷物を待つ間、いろいろな思いが駆け巡る。

    こちらも心理描写が巧み。すごく共感できる。意外な人からの荷物が届くと思うと、一体何だろうと楽しみな反面ちょっと不安もよぎったりして、荷物が届くまで落ち着かないのよね。この短編も良いし、この本は中島たい子さんの今までの三冊の中で一番好きです。

    ちなみにひとつ気になるのは「宅急便」という言葉。これってクロネコヤマトの商標登録か何かで使えないんじゃなかったっけ。許可もらったのかな? 「宅配便」にしなくてよかったんでしょうか。探してみたけどそういうことはどこにも書いていなかったので気になりました。

    読了日:2007年4月29日(日)

  • 2話入っている本で、2個目が「彼の宅急便」というタイトル。
    ちょうど魔女の宅急便を読んだところだったのでびっくりしたのとうれしいのとで笑ってしまった。
    タイトルと同名と1つ目の話は独身の三十台半ばの女性が家を建ててしまう話。
    彼女の周りの個性豊かで素敵な女性たちや、居場所が欲しいと感じる気持ち、恋なんかがゆったり書いてあって良かった。
    著者が脚本家なだけあって、このお話はドラマにしても面白いんじゃないかなって思った。
    2つ目のお話は、前に付き合っていた彼を思い出しながら、元彼が彼女に送った荷物を待つ話。
    最後にちゃんとおちもあって、短編集だけど物足りないなんて感じさせなくて面白かった。

  • 30代の独身女性が家を建てる話。 怪我をきっかけに、今後のことを考える主人公。 お見合いは早々に諦め、まず自分の居場所を作るために家を建てることを思いつく。 容赦のない周りの反応や、独身女性を顧客として想定していない住宅展示場にもめげずに、真摯に自分のやりたいことに向かって歩みだす女性の姿には好感が持てました。 併録の短編「彼の宅急便」も面白かったです。

  • ベランダに満足に洗濯物も干せず、ゴミ出しに階段を下りれば滑って転んでしまう。
    あぁ、こんな生活いやだ!と思った真里は活路を結婚に見出そうとするが、それもまた何かが違うと感じる。
    で、結局ふと心に浮かんだのは、自分の居場所を作るってこと。
    それが、家を建てることにつながる。

    家を建てるのは本当にしんどい事だと思う。
    それもお仕着せのハウスメーカーや建売住宅ではなく、設計士に頼んで一から建てるだなんて。
    自分の生活を見直さなきゃいけないし、自分の性格もあらわになるし。
    自分を全てさらけ出して、それをふまえた上で自分の城を作り出す。

    真里に急激な変化は見られないけど、家を建てると決めてから、実際に着工に至るまで、真里の気持ちが徐々に変化していくのがよかった。
    真里の両親、従姉妹で真里が勤務する会社の社長の友紀子、真里と友紀子のおばにあたる朋子さん、
    お見合い相手で家の設計を頼むことになる福島さん。
    真里が淡白な分、周りは個性的な面々ばかり。
    その周囲と真里との会話も楽しめた。

    私ももし家を建てることがあるなら、是非福島さんにお願いしてみたい。
    いいですか、福島さん?


  • 40歳前にして自分の家を建てる独身女性の話。独身にはなりたくないが、自分だけのための家は建ててみたい。そういうことを考えるだけで楽しいので、この本も読んでて楽しい。

  • 家を建てたり(マンションを買ったり)、ペットを飼ったりすることは1人で生きていく意思表示だと聞いたことがある。

    モデルハウスは家族用だから、両親の持ち物であった飯能の土地に家を建てようと思った私。お見合い相手の建築士に相談しながら1人暮らし仕様の設計をしてもらう。


    周辺の家族や親類がそれぞれが勝手に関わっている感じがいい。建築士を興味津々で見に来るところがおもしろかった。

    それにしても独特の家らしいのに、読んでももう一つ具体的なイメージが湧かなかったのが残念。

    作成日時 2007年08月10日 08:04

  • <span style="color:rgb(255,102,51);">【30代半ばの独身女性はある日、重大な決意をする。それは、家を建てること&#8722;。仕事よりも、恋よりも、結婚よりも、家…。それは正しい女の生き方ですか? 】</span><BR><BR>
    30代独身女が家を建てる。実際それにあたる私、家を建てたいと思ったことは正直ないけど「こんな家がいいな。こんな部屋に住みたいな。」と妄想することはある。<BR>
    家を建てるってそうそうある事じゃない、おそらく一生に1度の事だからこそ難しい。<BR>
    信頼できる建築デザイナーと出会った事であれよあれよと話は進んでいく感じは物語だもの。と思うものの羨ましさも感じたりして。<BR>

  • 独身30代女性が、一軒家を建てる話。面白い発想なのにもったいないなーというのが率直な感想 淡々としてて。あまり記憶に残らなかった。「居場所」より「自信」を探していたのでは?でもこの自分の中の「本心」を「モノ」に投影して満たす感じ、わかってしまうんだなあ。

  • 地味な作品だと最初は思って読んでいましたが、書き方に小さな工夫が所々にあって、職人っぽい書き方をするなぁと思いながら読みました。

  •  独身30代女性が自分の家を建てる話……ストーリーもまさにそのまま。空間や間取りを考えるときのワクワク感や、高額な買い物ゆえの建築家に対する信頼感不信感諸々。自分が建築を生業としているため、施主側から見た話を読むのは面白かった。小説としては、細かく描写される部分とすっとばされる部分がゴチャマゼなかんじで、ちょっと落ち着かない。同書に掲載されている「彼の宅急便」も雰囲気があって面白かった。(2007.12)

全62件中 31 - 40件を表示

中島たい子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×