岬のマヨイガ (文学の扉)

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感想 : 45
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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062832359

作品紹介・あらすじ

『霧のむこうのふしぎな町』の柏葉幸子、デビュー40周年記念作品。
岩手県出身、盛岡市在住の柏葉幸子氏が、ついに東日本大震災をモチーフに筆を執った! 児童文学の大家が描く、日常ファンタジーの意欲作

あの、おそろしい地震のあった日、萌花ちゃんは、会ったこともない親戚にひきとられるために狐崎の駅を降りました。そして、たまたま同じ電車に乗ったゆりえさんは、自分の境遇と似た萌花ちゃんから目が離せず、いっしょに駅を降りてしまいました。ゆりえさんは、暴力をふるう夫から逃れるために、あてもないまま東京から見ず知らずの北の地へと向かっていたのでした。

そんなふたりの運命を変えたのは、狐崎のまちを呑み込んだ巨大な津波でした。

中学校の体育館に避難したふたりは、身元を問われて困惑します。だって、帰れる家、帰りたい家はないのです。手をにぎり合うふたりに救いの手をさしのべたのは、山名キワさんという、小さなおばあさんでした。

その日から、ゆりえさんは結(ゆい)さんとして、萌花ちゃんはひよりちゃんとして、キワさんと、世代の違う女性三人の、不思議な共同生活が始まったのです――。

遠野物語を彷彿とさせる東北の民話が随所に挟み込まれるほか、河童や狛犬といった異世界の住人たちが数多く登場する日常ファンタジー。

感想・レビュー・書評

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  • 東日本大震災を題材にしたであろうファンタジー。
    残った人たちへの、力強く生きてほしい、負けないでほしいというメッセージを感じました。
    現実にあったことや作者のメッセージが強く感じられますが、東北の妖怪や伝説が出てきたりとファンタジー要素も多めなので、重くなりすぎず読みやすかったです。

  • 訳ありの他人同士が家族のフリをして狐崎の古民家で暮らすことになる。震災で魔物を封印していた四の窯の封印が解け赤目との戦いが始まる。遠野物語の世界観。座敷童や狛犬を身近に感じる。

  • この本の対象読者層は小学校中高学年?夫のDVから逃れてきたゆりえさんが夫の影に怯えながら生きていることをどう理解するのだろう。キツイ。

    行く宛もないゆりえさん、両親を一度に亡くし言葉を失い、岩手県の親戚に預けられるために来たひより、そして不思議な力を持つおばあちゃんの三人は、東日本大震災のその日、避難所で出会う。
    それから三人は家族として暮らし始めるが、穏やかな暮らしが、あの地震で封印されていた海ヘビが解き放たれ村は脅かされる。
    遠野物語にも描かれた伝承の不思議なものたちや土地に棲む神々を巻き込んだ戦いになる。柏葉洋子さんのファンタジーの世界だ。
    地震により封印が解かれることが物語として重要だったのだと思うが、震災の余りに悲惨な現実とファンタジー世界がぶつかり合って消化できない感じがする。
    その土地に棲むものたちと人が繋がりを持つ物語は好きだし、新たな家族の繋がりの物語として心に沁みた。

  • 大好きな児童文学作家さん、柏葉幸子さんの作品。とても温かく良いお話だった。アニメ化されたようで、人気なのも納得。

    夫からの暴力から逃げてきたゆりえと、両親を亡くした萌花は偶然にも同じ場所で3.11のあの震災にあってしまう。震災自体はとてつもなく辛く大変な出来事だけれど、このふたりにとって、このことがこの後の人生を大きく良い方向に変えていくきっかけとなる。ふたりは、避難所で偶然居合わせたおばあちゃんに、嫁の結、孫のひよりとして守られることになる。そして、このおばあちゃんが不思議なおばあちゃん。カッパと知り合いだったり、お地蔵さんにお願いを聞いてもらえたりするのです。

    「遠野」という地名を聞いてなんか納得してしまうという、遠野という地名の持つ力の大さにも感心しつつ・・・
    私はやたらと長い文章で読点がたくさんつき、やっと句点がきた~と思うような文章が苦手なので、子どもでも読みやすい短い文章が好きなのですが、その短い文章でテンポよく物語を進めながらも、伝えるべきことがしっかり伝わってくる柏葉幸子さんの文章力は、あらためて素晴らしいと思った。(←長い(笑))児童書ならでは(?)なのか、主語がいちいちしっかりしているような気がする(?)のですが、それを煩わしく思わないリズミカルな文章。
    もちろん物語自体も素晴らしかったです。思わず涙ぐむ場面もあり、本当に心が温かくなった。人ならぬものの気配を感じ、それに思いをはせ、祈り、共に生きていくおばあちゃんの姿にも学ぶものがあると感じた。また、「家族」というものについても改めて考えさせられた。「血」のつながりより、「地」のつながりといった言葉を見たことを思い出した。狐崎という地で家族になった3人に胸がいっぱいになった。

  • あの日、介護施設春光園に入所する予定だった山名キワさんと、東京の暴力をふるう夫から逃げてきたゆりえさん、伯父さんの家にもらわれるはずだった萌花ちゃんは、狐崎という海の街で出会います。
    東日本大震災の混乱の中、三人は家族を装い、岬に建つ古い家を借りて暮らし始めますが、おばあちゃんには不思議な力があって――。


    柏葉幸子さんですし、タイトルにも「マヨイガ」とありますし、ほっこりする不思議な話なんだろうなぁと思い読み始めると、舞台が東日本大震災でびっくり。超現実的。
    あの頃のことを色々と思い出しながら読み進めると(ニュース動画などですが)、あっと驚くような展開に、悲しみの中にも胸が高鳴り、否応なく、物語への期待値が高まりました。

    結果として、個人的には最初の展開が一番胸アツだったかもしれないのですが、不思議なおばあちゃん・キワさんと岬のマヨイガ、そしてそこで自分を取り戻していくユイママ(ゆりえさん)と、生きる力を取り戻していく言葉をなくした少女・ひより(萌花)の姿に、不思議な物語の中にも、きちんと人間の再生が描かれているのだなぁと思います。

    遠野の物語って、きちんと読んだことがないので、読んでみたいなと思いました。
    カッパや狛犬、お地蔵さんが普通に出てきて、動いて会話をする世界。
    その窓口であるおばあちゃんの存在。
    また、建物や間取りフェチの自分としては、時折描かれるマヨイガ(岬の方)の様子も心踊らせる要素の一つでした。
    年齢のせいか、特にDV夫から逃げてきたゆりえさんの姿に共感と、応援をしたくなりました。

    アガメと海ヘビの伝説は…、なんだか悲しい気持ちになりました。
    アガメと海ヘビは、ただ肩を寄せ合って二人で暮らしていきたかっただけなのに、どうしてこんなふうに悪者にならないといけなかったのかな?
    海ヘビのアガメへの深い愛情を思うだに、そう思わずにはいられません。
    アガメが人間を食べるからいけないんでしょうか。
    …まぁそうですよね。私も食べられたくはないので、人間サイドではあるのですが、野生のクマが里に降りてきて、人を襲い駆除されてしまうのにも似た悲しみと、人間のエゴを感じます。弱肉強食といえばそれまでなのかもしれないですが。
    もしアガメが、人間を食べる存在にならなければ、アガメと海ヘビも、他のカッパや座敷わらしのような異形と同じように、今も人間と共存していたのかもしれないですよね。そう考えると、アガメと海ヘビを、ただ怖いもの、悪と考えるのもなんだか違うような気がしたのでした。
    ま、人間を食べるやつはそりゃあ怖いし、人間からしたら十分悪なのですが。
    もしかしたら、もっとちゃんと遠野あたりの伝説を探れば、このへんの記述も色々あるのかもしれませんね。

    あとは、戸籍がなくても小学校に入れるの?なんてことがちょっと疑問でした。
    震災の混乱のさなかだから?物語だから?被災して、データも全部吹っ飛んでるのかもしれないですね。本当に、東日本大震災とはどんなに大変なものだったのかと、(今も引き続きですが)改めて思ったのでした。

  • 東日本大震災の日、DVの夫から逃げてきたゆりえは、知らない伯父の家に預けられに行く萌花と出会い、一緒に避難します。避難所で身元確認をされたとき、とっさに介護施設入居予定者のキワに、彼女の嫁結(ユイママ)と孫ひよりにしてもらいます。

    その後彼女たちは避難所を出て、古民家で家族として暮らし始めます。
    ある日、お客があるからとご馳走を準備していたところ、やってきたのは河童で、おばあちゃん(キワ)の依頼で、怖いものを閉じ込めていた封印が津波で解けたことを確認しに行ってくれていたのでした。おばあちゃんは、ふしぎなものたちとのコミュニケーション能力を持った人でした。

    その怖いもの退治のために、3人の戦いが始まります。

    東日本大震災後の狐崎を舞台に、モノノケ(?)たちの戦いを、人々の震災への想いを巻き込みながら描くファンタジー。


    う~ん。正直これは辛いです。
    まず、高学年向きとはいえ、児童書に、DVのために家のお金を持って逃げてきた女性が描かれます。これを子どもにわかれというのは難しいでしょう。
    次に、東日本大震災。ここへの想いを綴りたかった気持ちはわかりますが、直接描くのではなくファンタジーの舞台にしています。そうするとこの震災への気持ちは単なる下敷き、脇役になってしまう。
    それと、登場する不思議なもの達。地域の河童に地元のお地蔵さま、狛犬……。たくさん出てきて、それぞれの紹介が、まるで地元案内。せっかくの戦いの緊張感が削がれます。

    あまりにたくさんの要素を詰め込み過ぎたので、ごちゃごちゃになっているのです。

    傷ついた女性と少女が古民家でちょっと不思議なおばあちゃんと暮らすうち、心が溶けてきた……これならわかります。
    大波で封印が説かれた化け物を、ご縁があって家族になった3世代女性がやっつける……こんなのもいいと思います。
    でも、何よりもあの震災は、ファンタジーの下敷きにするには、まだ生々しすぎると思うのです。

    挿絵も、最初は漫画チックで興醒めだと思っていましたが、後半はその方が深刻に読まなくてよいとも感じました。

  • 年間100冊以上読む長女が小学3年生の時に「面白いから読んでみて」とはじめて薦めてくれた本です。

    妖怪が出てきたりと、少し現実離れした不思議な話ですが、震災や登場人物が抱える苦しい背景と、子供の本でありながらワクワクと苦しさが同居しています。

  • いきなりの辛い話に涙が出た(T-T)遠野からきたキワおばあちゃんと、辛い事情をかかえた萌花ちゃんとゆりえさんが名前を変えて岬のマヨイガで暮らし始める。このまま徐々に幸せに…と思っていたら、封印されていた悪いものが大震災で封印が解かれて…(゜゜;)そして岩手県中の不思議なものオールスターズが登場!キワおばあちゃんって何者?(・・;)と思いつつも、身近な川のカッパさんが登場したりして嬉しかった(*^^*)最後には大変だけれども3人がいつまでも岬のマヨイガで幸せに暮らして行けそうで、嬉し涙が…(´_`。)゙

  • 夫から逃れて偶然地震に遭ったゆりえ(結)、両親が亡くなって親戚に引き取られるときに地震に遭った萌花(ひより)、施設に入所しようとした日に地震に遭ったキワおばあちゃん。
    訳ありな二人がキワおばあちゃんの助けにより、地震後3人家族として暮らすことに。

    3.11に関する話だと思ってなかったので、びっくり。
    地震後だからなのか?本名隠してても学校とか通えるのかな。

    カッパや、狛犬、座敷童子、お地蔵様、マヨイガ、ふったち(経立)と仲のいいおばあちゃんの正体は不明なまま。
    本当に仲がいいだけの人間なのか、少しはそっち寄りなのか…。

    海ヘビだって、やっていることは人間には悪かもしれないけど、結局は住処を奪われただけのような。

  • 装丁がいい。ゆいままみたいに生きられたらどんなにかいいだろう。おとぎ話は時々必要になる。

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著者プロフィール

児童文学作家。岩手県生まれ。東北薬科大学卒業。大学在学中に講談社児童文学新人賞を受賞し、『霧のむこうのふしぎな町』でデビュー。ファンタジー作品を多く書き続けている。『牡丹さんの不思議な毎日』で産経児童出版文化賞大賞、『つづきの図書館』で小学館児童出版文化賞、『岬のマヨイガ』で野間児童文芸賞受賞、『帰命寺横町の夏』英語版でバチェルダー賞受賞など受賞歴多数。


「2023年 『トットちゃんの 15つぶの だいず』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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