出世と恋愛 近代文学で読む男と女 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065293577

作品紹介・あらすじ

「青春とは何か」とは男女ともに簡単には定義できない命題だが、前提として必要なのは「精神的親離れ」である。しかし青春期は、自分の将来への不安に迷い、徐々に自分の世界を見つけるが、同時に好きな人ができる時期でもある。
日本の近代文学の主人公である青年たちは、恋を告白できず片思いで終わるケースが多い。たまに恋が成就しても、ヒロインは難病や事故などで、なぜか死ぬのだ。日本の男性作家には恋愛、あるいは大人の女性を書く力がないのではと著者は喝破する。
たかが文学の話ではないかと思うなかれ、近代文学が我が国ニッポンの精神風土に落としている影は思いのほか深い。
明治期の立身出世物語が青年たちの思想に与えた時代背景は見逃せない。同時に戦争が文学に与えた強い影響も。
しかし夏目漱石『三四郎』から20年、女性作家の宮本百合子『伸子』で、「新しい女性」が恋愛や結婚に縛られない「生きる価値」を見つける時代が近代にも到来する。男女ともに時代の変遷とともに成長するのだ。
近代文学で描かれた男女の生き方は、現代日本の「人生の成功と恋愛」にかける人々の思いを読み解く大いなる鍵となる。

感想・レビュー・書評

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  • 最高!
    本の読み方がガラリと変わる。

  • 本書で取り上げられた作品は全冊未読という、教養の浅い自分でも堪能できた文学分析本。なぜなら日本近代文学に限らず、近年までの映画や他のエンタメ作品にも展開できる内容だから。マチズモ中心の評論を読んでもピンと来なかった人に、うってつけの本だ。

    特に、歴代ヒロインたちの心情を代弁するかのような著者の表現が秀逸↓

    「私だって、べつに死にたくて死んだわけじゃないのよ。持続可能な恋愛が描けない無能な作家と、消えてくれたほうがありがたい自己チューな男と、悲恋好きの読者のおかげで殺されたのよ。私らが死んであげたおかげで、作品はベストセラーになったりロングセラーになったりしたんだからね。ありがたく思いなさいよ!」

    若く美しいヒロインたちが、おばさんになることを許さなかった、彼女たちの容姿が衰えることを想定しなかった、共に老け込むことを想像したくなかった、弱腰かつ安易にロマンチズムに逃げ込む文豪たちの首根っこを引っ捕まえて問い詰めるかのような著者の姿勢が、好きだ。

  • 近代文学は難しい印象があって、ほとんど読んだことがないけれど、こんな形でまとめられると親しみがわいてきて、読んでみようかなと思えるから不思議だ。「向き合わない男たち」の都合で書かれていると思って読めばおかしさも増す。「悪いのはそっちだっての!」その通り。主人公の上京の描写で訛りの表現がある山口出身の鴎外と、無い東京育ちの漱石という分析も面白い。

  • 斉藤美奈子に外れなし!
    ほとんど読んだことがない遠い遠い近代文学なのに(恥ずかしながら取り上げられた本で読んでいたのは2冊だけ…)斉藤美奈子さんの手にかかれば、ものすごく身近に感じられる。
    すぐにも読みたい、読み直したい!
    斉藤美奈子の男性作家への一刀両断ぶりが面白くて何度も笑った。「浮雲」も「近代文学の祖といあわりに、意外とチンケな物語である」このセリフがいきなり序章にある(笑)

    一番読んでみたいと思ったのは、菊池寛「真珠夫人」
    こんなに痛快な小説だったとは知らなかった。特に前半の瑠璃子の活躍ぶりはものすごいね。「真珠夫人」を語る斉藤さんの筆も冴えてます。切れ味抜群でノリに乗ってる。こんな紹介のされ方をしたら、読みたくなるよね。

    宮本百合子「伸子」の台詞に対しても
    「〈関さん、あんた方の運動が人間から貧乏をなくするように、こう云う苦しみ(恋愛の苦しみ)をもなくするのでなかったら、結局何になるんでしょう〉〈それごマルキシズムの理性なんですか。あんた方が口癖にしていらっしゃる正しい認識と云うのはそれなんですか〉
    世界中の「主義者」に聞かせてやりたい台詞である」

    斉藤美奈子さんのユーモア精神は、知性を使った遊び方の見本のようだ。斉藤さんの本で未読のものを読もうと思う。読まないのは勿体無い!

  • もう序章でココロ鷲掴みされました
    あの鋭い鉤爪でぐわしゃしあと

    はい、ということで文芸評論家斎藤美奈子女史の『出世と恋愛』です

    いろんなところで彼女の書評は目にしておりまして大好きな方だったんですが、ちゃんと一冊に纏められたものは読んだことなかったなぁとあらためて手にとったのは最新刊の本作です

    いやもうこれがめちゃくちゃ面白かった!
    直径1メートル深さ7メートルくらあの穴を掘って「面白かった!」と叫びたいくらい面白かった!(どんな基準やねん)
    いやでも直径1メートルだと人力では逆に掘るの大変か?でもあまり直径広げちゃうとだだ漏れになるから穴掘った意味なくなるしな
    迷うところです(どうでもいいわ)

    日本の近代文学を「出世と恋愛」という側面から読み解いていこうという本書
    「出世と恋愛」とはいわゆる青春小説と恋愛小説のことで、それぞれに黄金パターンが存在するという

    まずは青春小説
    ①主人公は地方から上京してきた青年である。
    ②彼は都会的な女性に魅了される。
    ③しかし彼は何もできずに、結局ふられる。
    筆者はこれを「告白できない男たち」の物語と呼ぶ

    そして一方の恋愛小説
    ①主人公には相思相愛の人がいる。
    ②しかし二人の仲は何らかの理由でこじれる。
    ③そして、彼女は若くして死ぬ。
    こちらは「死に急ぐ女たち」の物語だそう

    なるほど!言われてみれば納得

    そして青春小説として
    明治期
    夏目漱石『三四郎』
    森鷗外『青年』
    田山花袋『田舎教師』
    大正期
    武者小路実篤『友情』
    島崎藤村『桜の実の熟する時』
    細井和喜蔵『奴隷』

    恋愛小説は
    明治期
    徳富蘆花『不如帰』
    尾崎紅葉『金色夜叉』
    伊藤左千夫『野菊の墓』
    大正期
    有島武郎『或る女』
    菊池寛『真珠夫人』
    宮本百合子『伸子』

    を取り上げ、これら近代文学の名作たちを爽快でユーモアあふれる語り口で切って捨てます

    いやもうほんと面白かった!
    ほんとおすすめ!
    特に以下のような人たちにおすすめです
    ・近代文学が大好きな人
    ・近代文学はひと通り読んでるけどほぼ忘れちゃってる人
    ・近代文学に興味があってこれから読みたいと思ってる人
    ・近代文学は難しいと思ってなかなか踏み出せない人
    ・近代文学になんの興味もない人
    ・「マグロの養殖で有名なとこでしょ?」って人
    ・夏目漱石や武者小路実篤ら御本人

    ま、要するに全人類におすすめします!!

    • おびのりさん
      真珠夫人は、傑作。
      菊池寛の文学忌にレビューあげるわ。
      真珠夫人は、傑作。
      菊池寛の文学忌にレビューあげるわ。
      2024/01/07
    • ひまわりめろんさん
      小沢真珠!(違う)
      小沢真珠!(違う)
      2024/01/08
    • おびのりさん
      猪野郎じゃないんだけど、違う癖に近くてくやしーです。
      猪野郎じゃないんだけど、違う癖に近くてくやしーです。
      2024/01/08
  • NDC910

    近代文学批評。
    「日本の近代文学の主人公である青年たちは、恋を告白できず片思いで終わるケースが多い。たまに恋が成就しても、ヒロインは難病や事故などで、なぜか死ぬのだ。日本の男性作家には恋愛、あるいは大人の女性を書く力がないのではと著者は喝破する。
    たかが文学の話ではないかと思うなかれ、近代文学が我が国ニッポンの精神風土に落としている影は思いのほか深い。明治期の立身出世物語が青年たちの思想に与えた時代背景は見逃せない。同時に戦争が文学に与えた強い影響も。
     
    近代文学で描かれた男女の生き方は、現代日本の「人生の成功と恋愛」にかける人々の思いを読み解く大いなる鍵となる。」

    第1章 明治青年が見た夢
    ●小川三四郎の純情
    ─夏目漱石『三四郎』1908年 明治41年
    ●小泉純一の傲慢
    ─森鴎外『青年』1910年 明治43年
    ●林清三の悲運
    ─田山花袋『田舎教師』1909年 明治42年

    第2章 大正ボーイの迷走
    ●野島某の迷走
    ─武者小路実篤『友情』1920年 大正9年
    ●岸本捨吉の屈託
    ─島崎藤村『桜の実の熟する時』1914年 大正3年
    ●三好江治の挫折
    ─細井和喜蔵『奴隷』1926年 大正15年

    第3章 悲恋の時代
    ●川島浪子の無念
    ─徳冨蘆花『不如帰』1900年 明治33年
    ●鴫沢宮の思惑
    ─尾崎紅葉『金色夜叉』1902年 明治35年
    ●戸村民子の焦燥
    ─伊藤左千夫『野菊の墓』1906年 明治39年

    第4章 モダンガールの恋
    ●早月葉子の激情
    ─有島武郎『或る女』1919年 大正8年
    ●荘田瑠璃子の戦略
    ─菊池寛『真珠夫人』1921年 大正10年
    ●佐々伸子の出発
    ─宮本百合子『伸子』1928年 昭和3年

    ・明治初期の青年はみな状況したい/ 恋する女に想いを伝えぬままフラレる / 恋が実っても女は病で死ぬ 
    ・日露戦争後は「悶絶少年」ブーム。ぐだぐだ悩み悶え苦しむ青年が主人公
    ・大正はカミングアウト系私小説がヒット、自分の恥辱をあえてさらしちゃう~

    ・・・その時代によって、ベストセラー本には流行りがあり、パターンがある。時代背景とかも知って読むと、ちょっとおもしろいよ。ってのを斎藤さんが教えてくれる。
    バブル期は「3高」高学歴、高収入、高身長がの男のモテの条件だったが、
    2012年頃は「4低」低姿勢、低依存、低リスク、低燃費男がモテた みたいに、
    時代が変わると真逆のタイプがモテたり、話題になったりもする。100年前も同じ。というのに、なるほどなー!!となった。
    「この主人公に共感できない」=「この作品苦手」「昔の文学わけわからん」となってしまうのはもったいないな。どうしてこの主人公はこういう発想なのか。なんでこのような行動に出るのか。その答えが、意外とその時代背景やその時代の生き方みたいなのにあるのかもしれないんだな。国語の授業でいろんな作品に触れた時に、この見方を知りたかったな。

    「近代文学の祖という割に以外とチンケな物語である。」「宮に変わって(貫一に)叫びたい、このウスラトンカチが!」と、斎藤さん口悪くて辛口で笑いながら読んだ。おもしろかったです。

  • しっかり読んだことないけど、あれね、っていう題名は知ってる小説。男性の目線で描かれる恋愛や悩みすぎだろっていう主人公の青年や、意外にも奔放な女性像もあったり。これらをあまり読んでなかった分、面白く読めた。100年以上経った現代を見て、文豪達も驚くのか、変わってないと思うのか。

  • 青春小説の王道は「告白できない男たち」で恋愛小説の王道は「死に急ぐ女たち」
    もうほんとにコレに尽きる!
    青空文庫で色々読めるのもありがたい。

  •  齋藤さんは、『妊娠小説』以来変わらぬ日本で最も優れたクリティカル・リーダーだな。
     特質と問題点を、分かりやすく個性的な語り口で示してくれる。
     研究的な読みではなく、非常に批評的な読みの実践書。

  • ---日本の恋愛小説の多くは、こじれた恋愛を終わらせるために「死」を選んだ。 そのほうが男性には都合がいいからだ。 彼女が死ねば過去は清算されて「美しい青春の思い出」に変わる---

    明治大正の軟弱男たちを、蹴っ飛ばせ!
    勝手に「美しい思い出」にしてんじゃねーよ。人生に間違いは付きものなんだから、まずは向き合わんかい! 女性が自ら身を引いてくれることを望むなんて、酒落臭いこと言ってんじゃねーぞ。

    しかし、この感覚、実にわかるのです。
    なぜかしらいつの間にやら刷り込まれているのです。

    映画? テレビドラマ? 漫画? アニメ?
    いやー、たぶん昭和歌謡の影響だろう。
    演歌、アイドル、フォーク、ポップス曲にも、この世界は色濃~く反映されているのである。「8時だよ!全員集合」から流れてくる歌を、ただただ無邪気に口ずさんでいた子供時代に…

    「着てはもらえぬセーターを寒さ堪えて編んでます」
    「あなたに女の子の一番大切なものをあげるわ」
    「ただ貴方のやさしさが怖かった」
    「涙拭く木綿のハンカチーフ下さい」

    昭和の作詞家はほとんどが男性である。

    「好きな男の腕の中でも違う男の夢を見る」
    「馬鹿にしないでよ、そっちのせいよ」

    阿木燿子の登場はセンセーショナルだった!
    まさしく軟弱男たちに啖呵をきったのである。

    時代の移り変わりで「価値観」は大きく変わっていく。いろんな愛があっていいし、愛がなくったっていい。ただ「一人よがりな美しい思い出」をしがみ続けるのは、うんこ召し上がれなのである!

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著者プロフィール

1956年新潟市生まれ。文芸評論家。1994年『妊娠小説』(筑摩書房)でデビュー。2002年『文章読本さん江』(筑摩書房)で小林秀雄賞。他の著書に『紅一点論』『趣味は読書。』『モダンガール論』『本の本』『学校が教えないほんとうの政治の話』『日本の同時代小説』『中古典のすすめ』等多数。

「2020年 『忖度しません』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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