- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087456950
作品紹介・あらすじ
南朝の姫君・透子は、北朝に寝返った武士・楠木正儀を取り返すため京の都に向かう。宿敵・足利義満や、能楽師の観阿弥・世阿弥親子との出会いを経て、彼女が知った広い世界とは──。(解説/末國善己)
感想・レビュー・書評
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魂魄は室町の世に咲く
賑やかなる京の町へ。
風吹かば道端の柳から
枝垂れがそよぎ、
築地からのぞく純白の
橘が香を散らす─
さかしくはねっ返りの
姫君が、
市井の人情に触れ己の
世間知らずを恥じ入る
その姿に
柳が枝垂れの繊細が故
の美しさが。
そして、再び顔を上げ
歩き出すその姿に
甘やかなるも清々しい
橘の香しさが。
それらが重なり合って
醸しだすこの読後感は、
世知辛い現世に投じる
一服の清涼剤です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
室町時代、南北朝の争乱をテーマにドラマチックに
書いた時代小説。
時は、室町幕府、三代将軍、足利義満の時代。
南朝の皇女・透子は、ただ一人乳母、唐乃を連れ、密かに吉野の行宮を抜け出し、南朝を裏切り、北朝へ寝返った、楠木正儀に翻意を迫るため、京へ向かった。
京に着いた早々、人買いに拉致されてしまった二人。
その二人を救出したのは、仇敵、足利義満と、猿楽師の鬼夜叉(後の世阿弥を名乗る美少年)だった。
後醍醐帝の遺志。志半ばで死んでいった同士達の思い。それらを背負い、40年間募らせた憎悪を捨てられない宗良親王。
不毛な戦いであるからこそ一刻も早く終わらせて、これから先、100年を見据えた政をするべきとする義満の主張。
噛み合わない主張に、巻き込まれる、透子。
肩肘張らない内容で、でも、感動的で、ページを捲る手が止まらなかった。
歴史的には、遭遇していないと言うが
義満と言えば一休さん。
一休さんのお話に出てくる義満とは、全然違った。 -
初めて足利義満が出てくる小説読んだかもしれない。南朝の姫宮が北朝に行って、成長する物語でした。南北朝時代はたしかに波乱だったかもしれませんが、登場人物の観阿弥、世阿弥などなど、文化的に華やかな時代ですよね。
破天荒な姫宮が言いたいことぽんぽん言ってくれて面白かったです -
自他ともに認める歴史好きだが、今まで室町時代にはほとんど興味がなかった。
が!それもこれも、室町時代というのは、ほかの時代に比べて特に「女子」の存在が希薄だからではないか?ということに、この本を読んで気付いた次第。(教科書に出てくる唯一の女性は、日野富子・笑)
姫さま一人の登場で、むさくるしい(?)男たちのイメージだった室町時代が、一気に華やぐ。
まっすぐな姫さまに、イケメンぞろいの武士たち。
ストーリーはラノベの王道。文章もスピード感があって上手い。
久々に、面白い歴史ものを読んだ! -
中学生の娘のためにジャケ買いしたのに、本人よりも私がハマり、後半は泣きながら一気読みしてしまいました。
自分の受験生の頃の微かな記憶をたどりながら、南北朝時代がこんなに面白いとは…。また主人公をはじめ、吉満、鬼夜叉、正儀などキャラ立てが秀逸。
どなたかが書いていましたが、コバルト文庫、氷室冴子の名作を思い出させる文章で、非常に読みやすいです。そして泣ける(笑)
続編があるなら読みたい、室町時代をもう少し深掘りして学び直したい、久々にそう思えました。この作者の他の本も読んでみよう…!
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『なんて素敵にジャパネスク』を愛読した者としては似たテイストの作品で、ある種の懐かしさを感じながら読み進めた。
背後の歴史的背景を踏まえつつ北朝・南朝方の登場人物がそれぞれ丁寧に描かれており、彼らの信念や想いもきちんと伝わってくるため、皇女が吉野を抜け出して敵地の都に単身乗り込むというラノベ展開ではあるけれど、大人でもエンタテイメントとしてそれなりに楽しく読み進められると思う。
どちらかが絶対的な悪というわけではなく、北朝・南朝共にそれぞれの立場・信念・事情があり、その中でそれぞれが精一杯己の信じるものに従って行く。その過程で多くの人が争い、そしてそれが生み出す悲劇を主人公の皇女は目の当たりにして心を痛めるのだけれど、それってこの世界が正に今もって直面し続ける問題なわけで、そういう意味でこの綺麗事なラストも簡単に批判してはいけない時代になってきているのではないかとなんとなく感じてみた。 -
面白かった。個人的には、殆どの登場人物の矜恃が描かれていたこともあるし、主人公の兄についてももっと描写が欲しかったかも。
鬼夜叉(世阿弥)のことばは至言。
「生きることが苦しくて、かなしくて、それでも愛しくて、大切で、そんな心をどうにか伝えたいと思うから詞にして、謡って、どうしても言葉にならない心を舞うんだ」(p226) -
後村上帝崩御後、細川頼之を介して、楠木正儀が北朝方へ出奔…までは史実通り。そこへ(妾腹とはいえ)後村上帝の皇女が、吉野から北朝の支配する京都まで乗り込んで来る…にはアングリしたけど。
まあでも、「ザ・王者」の足利義満はこんなモンとして、「しなやかで動じない美形枠」の観阿弥と「クソ真面目な忠義者」正儀は対照的な従兄弟同士で、まだまだ幼い鬼夜叉時代の世阿弥は健気。
更に(個人的に)中々馴染めない細川頼之と斯波義将が、それぞれ義満の「パパ枠」と「幼馴染枠」…みたいな分かりやすいキャラクタを貰ってて、随分と助かった。
確かに、戦国の世の足音が近づいてきていたこの時代に、その到来を百年遅らせたのは足利義満その人かも。尤も後に続いた孫息子たちがアレじゃあねえ。
宗良親王のような、少年期から老年期まで全国で足利と戦い続けた皇子の存在を知ることができて良かった。 -
室町時代初期、南北朝の争いを描いた作品。
今まで、読んでいない時代の作品なので、時代背景含めて非常に楽しめました。
足利義満がこれほど魅力的に描かれる作品はないんじゃないでしょうか。