ラテンアメリカの文学 族長の秋 (集英社文庫)

制作 : 鼓 直 
  • 集英社
3.98
  • (41)
  • (48)
  • (36)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 582
レビュー : 66
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087606218

作品紹介・あらすじ

大統領は死んだのか?大統領府にたかるハゲタカを見て不審に思い、勇気をふるい起こして正門から押し入った国民が見たものは、正体不明の男の死体だった。複数の人物による独白と回想が、年齢は232歳とも言われる大統領の一生の盛衰と、そのダロテスクなまでの悪行とを次々に明らかにしていく。しかし、それらの語りが浮き彫りにするのは、孤独にくずおれそうなひとりの男の姿だった。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 顔面10センチのところにクーラーの室外機があるような熱さ。極彩色でばかばかしく可笑しく哀しい。読み始めてすぐ「超弩級」という大仰な言葉が頭に浮かび、そのあとはひたすら面白くて前後関係も気にせずページをめくった。延々続くから読むというより音楽を聴いているような気持ちになる点でトーマス・ベルンハルト、「そんなわけあるかー」と脱力しつつもののあわれを感じなくもないところはスティーブ・エリクソンを連想。

    惚れた女におろおろし、政治からは逃避してばかりの大統領がいじらしくかわいい。でもこんな奴をかわいいと感じるとはどういうことか。可笑しさの中に居心地の悪さもあり、こちら側が綱渡りの思いもさせられる刺激的な時間を過ごせた。

  • 『百年の孤独』は、100年にわたる一族の話でしたが、こちらはたったひとりで100年以上生きた大統領のお話。数行おきに視点がころころ変化し、大統領本人(わし)の語りかと思えばその母の言葉になったり、名もなき「われわれ」や、さまざまな人々の声が怒涛のように流れこんでくる感覚。時間軸も一環しておらず、大統領の一代記というよりは、なにかもっと時代、歴史、あるいは国家そのもののような大きな群集意識に飲み込まれた感じです。登場人物はそれぞれ個性的で面白く、マジックリアリズム的シュールさが随所に散りばめられていて、全編極彩色のサイケデリックな夢のようでした。さすがガルシアマルケス。読書の幸福を余すところなく味わえる稀有な1冊。

  • ころころ人称を変える語りはさほど読み難く感じなかった。にもかかわらず、残念ながら私にはこの小説を読みほどく資質がないようだ。ともかく私は独裁者が嫌い。最後まで読んだけど、おまえの孤独やら寂寥感なぞ糞くらえ、と放って本を閉じた。ところどころ面白く読んでしまったのが悔しくもある。

  • まず、何もかもが過剰な小説である。イメージの氾濫、煌めき、そしてそれらが収斂することなく物語世界がモザイクのように拡散してゆく。この世界はまさしく熱帯雨林のイメージそのものだ。多様な植物が過剰に繁茂し、その下影にもシダ類が繁殖し、またどこにどんな動物が潜んでいるのかわからない。空中や地上には綾なす色彩に溢れた鳥も飛び交うし、川には魚類や爬虫類も数多生息するだろう。訳文ではあるが、おそらくはスペイン語原文も、いつ終わるともなく連綿と果てしなく物語を語り続けるのだろう。荒廃しながらも廃墟にはならない神話だ。

  • 金ぴかの大統領。なんでも自由に贅沢に思うがまま。自分の障害になる事は全て部下が力ずくで排除していく。予言のような占いに長寿を保障されながらやがて猜疑心で全て排除していく。酷い出来事だけでなく独裁者の愛についても平行して描かれていたのが魅力的だった。豪華な大統領邸の謁見バルコニーに牛、安っぽく色をつけられた鳥、ヘルニアをぶら下げみじめに徘徊する老独裁者、やがて生きながら海と同化するように腐りゆく。西洋と違い、腐敗と悪臭と華麗な権力と惨めさと傲慢と卑屈と血と性と愛…全てを等しく内包するラテンアメリカ。強烈であった。

  •  独裁政権の大統領が年老い、落ちぶれていく過程を描いたラテンアメリカの小説。主観なのか客観なのか分かりにくい混沌とした文章が、章分け部分を除いて一つの段落として続くという実験的手法がとられている。
     意外にサラッと読めた。なるほど、確かにこの文章だとこの手法以外とれないだろう。「彼は……」と客観視点で語っていたら突如「閣下、」と誰かが大統領に話しかけてきたり、誰を指しているのかよく分からない「わたし」や「われわれ」という主語が飛び込んできたり(おそらく大統領を取り巻く国民のことなのだろうが)、章が変わって時間軸が現在に戻ったと思ったら気づくと過去の話になっていたり。ただ、それがうまく作品にはまっている。当人である大統領を含め、母親、正妻、軍人、国民、それぞれがカメラの前で思い思いのことを語る、そういうドキュメンタリー見ている印象。
     その過程で大統領の人物像が多角的に浮かび上がってくる。自分勝手で自業自得な彼なのだが、読んでいると無性に悲しくなってくる。独裁政治を支持するわけではないが、独裁者の人間らしさ(正の面も負の面も)まで黒く塗り潰してしまうと何か大きな本質を見失う気がする。その結果出来上がるのが、独裁者のバカらしい武勇伝や超自然的能力を信じ込んでしまう国民なのではないだろうか。

  • 魔術的リアリズムって要は噂に背びれ尾びれのついた世間話をいかに小説として読ませるかだよな、というのが読了直後の感想。滅多に姿を見せない年齢不詳の独裁者とくれば、そりゃ民衆の噂話の格好の的だろう。影武者が亡くなった後の大統領のエピソードは全て民衆の妄想話だったとしても何もおかしくはない。それにしても睾丸のヘルニアといいやたらと出てくる糞や小便の話といい、ラテンアメリカの気候と合間って、一切の改行を廃した文章からむせ返るような強烈な匂いが立ち込めている。最後の1頁を読み終えた時、ようやく夏が終わるのを感じた。

  • 作者は現実とは隔絶された完全なファンタジー(例としてディズニーが挙げられていた)は書かないスタンスらしく、そうであるなら風変わりな登場人物達も理解できそう。

    大統領も、その部下も、母親も、特定の個人というより抽象化されたもので、ラテンアメリカの現実と作品とを見比べることでその意味がより深く感じられると思う。

    知識が足りず消化不良なので改めて読みたい。

  • 本の帯から推測して、自分はこの本を、独裁者自身の傲慢さによってもたらされた孤独、哀れさとかを予想して読み始めましたが、予想を上回る孤独で哀れさがあって恐怖しました。
    大統領は元々、民の一人ひとりを知っていたりと「大統領」というより、よき「族長」という感じだったようです。それが、仕方ない理由、運命に流されて、民に憎まれるようになり、信用できない部下たちと権力に守られるしかなかった、というより、囚われています。
    唯一信用できる母も死に、惨めな様を晒す大統領の姿は見ていられません。


    ただ、マジックリアリズム?の表現と大統領の妄想の区別がつかないのが残念です。
    例を出すと、大統領は民の一人ひとりを記憶していたり、最期のシーンで
    病人を治したりとありえない事が起きました。が、自分が気になるのは大統領の友、ロドリゴ将軍が裏切っていたと分かったシーンです。
    疑心暗鬼、妄想にとらわれた大統領が無実の人間、友を殺したシーンとも思えますが、終盤の方に、
    大統領に媚びていた(違う表現だったと思います)ロドリゴ将軍 という文が出てきます。読了した後も、本当に裏切っていたのか、裏切っていないのか今でも分かりません。
    しかし、孤独に沈んでいく大統領の姿、見事に表現されたラテンアメリカ、もっと読まれるべき面白い小説と言うほかありません。

  • 生きているか死んでいるか、ひとりなのか世襲なのかわからない、独裁者大統領の物語。読み始めた途端、われわれ読者は迷宮の森に迷い込む。おふくろよ、ベンディシオン・アルバフトよ、誰もわしのことをわかっていないのだ。そうよ、あのじじいったら、制服姿のあたしを見たら興奮しちゃって大変だったのよ。このような、改行のない文体の途中に主語がコロコロ変わる物語を読んでいる方もだんだん混乱してきて、それでも最後まで夢中にさせるところは、さすがにガルシア・マルケスだと、僕は単純に思うのであった。

全66件中 1 - 10件を表示

ガブリエルガルシア=マルケスの作品

ラテンアメリカの文学 族長の秋 (集英社文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする