ヘルプ 下 心がつなぐストーリー (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087606423

作品紹介・あらすじ

「ヘルプを取材して本を出したいなんて、このお嬢さんはどうかしてる。白人トイレを使っただけでリンチされるのに」しかし息子に先立たれた50代のヘルプ、エイビリーンは、親友が酷いやり方で解雇された事を契機に、その白人女性を自宅に招き、内情を語る決心をする。最初は吐くほど緊張したが、言葉は予想外に豊かに溢れ出し…。世界を変えた、勇気ある女達の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 先に映画を見た、その原作本。

    映画の方は話がコンパクトにまとまっていて、かつ、重たい話(黒人の差別について)なのに、結構笑えた映画だったが、原作の方は(映画を先に観た人間にとっては)少々重めに感じるかも知れないと思った。

    が、映画の方は白人VS黒人(+ヘルプの原作者であるスキーター)という単純な図式で描かれていたものが、原作では実は白人の女主人と黒人のメイドの間には決して「言葉で語られることのない」感謝や愛情、といったものが芽ばえていたのだ、ということが分かる。おそらく現実は原作の方に近かったのだろう(だから、このような本が書かれたと言えるが)。

    しかしそれは決して「黒人」と「白人」の枠の中では語ることのできない、悲しい現実のうちにあったのだと思うとやりきれない思いがする。

    一方、(差別の感情はあったのかなかったのかは分からないが)あからさまに黒人を差別していた白人がいるのも真実だし、それが今からたった40数年前まで法律が法律としてちゃんと機能していたことは、日本に住むわたしにはちょっと信じられないことなのだが、真実だ。そしてたった40数年で黒人が差別されることはなくなったとはおそらく言えないだろうと想像する(わたしはアメリカには一度も行ったことないので想像するだけだが)。

    一体肌の色だけで、、と思うのだけれど、肌の色さえ異なっていない人同士で差別したりされたり、という現実がこの日本にはあるじゃないかと思ったりする。そういう意味では、この話は外国の話だけれども、日本だって形を変えてあるじゃないかと思う。わたしはそのことも考えねばならないだろう。

    違った見方をすれば、この話は「(人種を越えた)心温まる女同士のストーリー」という見方もできて、その部分を読むと(一番最後の方だけれど)グッとくる。それは映画を観るよりずっと強く感じた。この本の3人の主人公は共に「ヘルプ」という本を作り上げ、そしてそれによって各々「自分の道」を探し出し、歩いて行く。一人一人がお互いを励まし合いながら。で、そこには「男」はいないか捨て去ったかどちらかなんだよね(笑)

    原作を読んだ後で映画を観たら、かなり違和感があったかも知れないけど、わたしは逆だったので原作は原作、映画は映画でいいんじゃないかな~って思った。ただ、映画に出てくる女優さんのイメージが強くて、原作読んでもその人が目にちらつくのがちょっと難点だったかも。でも映画を先に観ていたので、小説に出てくる人物(すごく多い)一人一人思い出しながら読めたってのはあるね。わたし、特に外国ものの登場人物の名前を覚えるのが大変だから(笑)原作を先にしてたら覚える名前が多すぎて多分、読むのを中断してたんじゃないだろうか(笑)

    小説はこういう機会でもない限り、滅多に読まないのだが、たまに小説を読んでみるのもまぁいいかな。

  • みんな人間でそれぞれ色んなことがあるんだから、嫌いな相手でもお互い邪魔にはならないでおこうや、て感じだった。
    あとがきにあったように、当然のように行われてた差別や家の中だからと見逃されてた酷い行為と同じくらい、家族愛や子どもの大事な思い出も沢山あったのに、どちらも殆ど語られないのは、どの立場で触れるかにもよってどう捉えられるかわからないからなんだろうな。

  • 非現実的なほどなにもかもがうまく行ったラストだけど、このお話にぴったりだった。

  • 痛快!映画も是非観たい。

  • あらすじ(hontoさんより)1962年、大学を終えて故郷に戻ったスキーターは、改めて南部の差別的風土に衝撃を受ける。同級生はほとんど主婦になったが、家事・育児を酷い待遇で雇ったヘルプ=黒人メイドに任せきり。作家志望のスキーターの頭に探していたテーマが閃いた。ヘルプを取材し差別問題を浮彫りにするのだ。しかし、白人と個人的に話すのさえ命がけだった時代ヘルプ達は頑なで…。全米1130万部のミリオンセラー。(https://honto.jp/netstore/pd-book_03516207.html

    映画を先に観て、良かったので原作も…とは思ってたのだけど、だいぶ遅くなってしまった!
    ので、どこまでが映画であってどこからがなかったか詳細には覚えてない…
    でも映画は時間制限的に仕方がないのだけど、省略されてる細やかな設定がものすごく大事だったり、すごく根深い問題に光を当てていたりするので、やっぱり本も読むのが正解だなと思った。

    映画ではわかりやすくするために、黒人女性(善)vs 白人女性(悪)、黒人女性を助ける白人女性ヒロインのエマストーン!という構図になってた感じがあるけど、本ではもっとその対立構造(対立と呼んでいいのかもわからん)が曖昧というか複雑というか…そして主人公が決してスキーターだけではない。内省的で賢いエイビリーンと、勇敢なミニー。この3人が同等に描かれている感じがした。特にエイビリーンに関しては、スキーターよりも存在感があった気がする。物語の終わりも彼女の視点で締め括られるし。映画ではどうやったかな…

    映画では伝えきれんかったヘルプと白人のレディたちの複雑な関係性が描かれててとても面白かった。南部出身の白人作家が「黒人の声」を書くって相当なプレッシャーというか批判もあったかもしれんけど、その時代を知れる本としてとても読みやすいし素敵だと思った。これはフィクションだけど、実在したヘルプの声って残ってるんやろか。その辺りも勉強したい。

    以下は心に残った言葉


    「あたしも前はそう信じてた。でももう信じない。それ(境界線)はあたしたちの頭の中にしかないんだよ。ミス・ヒリーみたいな人は、いつもあたしたちにそれがそこにあると信じこませようとしてる。でも本当にはないんだ」

    「そんな境界線なんか本当はないからね。あるのはリロイの頭の中にだけ。白人と黒人のあいだの線だって、本当はないんだ。誰かがずっと昔にこしらえたんだよ。貧乏白人と上流のご婦人方のあいだの線も同じことさ」(p.131)

    「あたしが言いたいのは、優しさに境界線はないってことだけさ」(p.132)

    お互いただの人間どうし。わたしたちを分け隔てるほどの違いなどない。あると思いこんでいた、大きな違いなどは。(p.308)

    エイビリーンがミニーに言った言葉(p.131-132)と、スキーターの気づき(p.308)。本当に全ての差別問題の本質がこの言葉に表されてると思う。頭の中にしかないこと。私が好きな映画『ジョジョラビット』でもそんなシーンがありましたな。

    南部出身の作家にとって、分離政策下の不平等な社会における黒人と白人間の愛情ほど扱いにくいテーマはないだろう。社会がそこに基礎をおく不誠実さゆえに、あらゆる感情が疑わしく思われ、二人の人間のあいだに流れるのが真摯な感情なのか、憐れみなのか、実利主義なのかの区別がつけられない。ーハウエル・レインズ『グレイディの贈り物』より(p.360)

    あとがきのとこに引用されてた。これほんとにそうなんだろうな。
    そもそもの大枠?が不平等なシステムで、ヘルプと白人雇い主(子供も含め)はその上での関係性だから、個人間でどれだけ愛のある関係を築けたとしても、それがいわゆる「本物」の愛なのかお互い信じたくても信じられなさそう。それがまたとても辛いな…

    以下は内容に触れます(ネタバレ)



    ・命懸けの語り
    白人であるスキーターに黒人女性たちが真実を語ることはもちろん、そもそも会って話すということ自体がこんなにも危険で命懸けやったんやなと。映画ではここまでシリアスに感じられてなかったかも(見送りのところか明るい外で会ってなかったっけ?)。本人はもちろん、愛する家族にまでその影響が出てしまうかもしれない、職に就けなくなるどころか、投獄・死刑の可能性も十分に理解した上で、スキーターを信じて、起こるかもしれないし、起こらないかもしれない変化を求めて、口を開いた彼女たちの勇気に感動する。
    特にエイビリーンは息子を酷い形で失って静かに怒りを抱えてたし、もう失うものはないからこそ、第一歩目を踏み出せたのかもな…
    スキーターもタブーに触れまくることで、関わっていることをひた隠しにしないといけない黒人女性たちを除けば完全に孤立無援状態だったし、友達と恋人と、自分の居場所を失うことになっても、最後までやり遂げた勇気がすごい。

    ・コンスタンティンとワンドロップルール
    コンスタンティンが白人の父を持ってて、娘が白かったという設定、映画ではなかった気がする。ジャクソンで黒人が白い娘を育てることの難しさ。見た目では判断がつかなくても、黒人の血が入っているならば黒人としての待遇を受けるという理不尽さ。コンスタンティンの娘の存在によって「境界線は本当はない」っていうエイビリーンの言葉がここでまた生きてくる。

    ワンドロップルール(リベラルアーツガイドさんより)
    https://liberal-arts-guide.com/one-drop-rule/

    ・ミニーと家庭内暴力
    勇敢で白人のレディたちにも果敢に立ち向かうミニーも夫のリロイの暴力に囚われている設定が辛い。酒癖が悪くて、暴力をふるう夫でも、彼がいなくなれば一人で子供を養えるはずもなく、逃げることもできない状況。黒人であること、女性であることが社会的にどれほど弱い立場であったかを再確認させられた。『カラーパープル』思い出した。

  • 舞台はアメリカ南部ミシシッピ州、時はケネディ大統領暗殺をはさんだ1962年から1964年。白人家庭の黒人メイド「ヘルプ」を題材にした長編小説は、著者自身もヘルプのいた家庭で育ったこともあって、ノンフィクションの雰囲気を醸し出している。
    大学卒業後故郷に戻った作家志望の白人女性スキーターは、差別が強く残る風土に疑問を覚え、タブーを犯してヘルプの実態について本を書き始める。そのアクションが徐々にヘルプ達との距離を縮めるだけでなく、疑問に思いながらも言いだせなかった白人達の心も少しずつつかんでゆく。勇気をもらえる一冊であるのは間違いないが、この小説のポイントのひとつはエンディングにある。ハッピーエンドと思う人もいるだろうが、そう思わない人もいるはず。エンディングを読者に委ねたことによって、この本の余韻は大きく重くなっている。

  • 60年代アメリカにあった黒人メイド(ヘルプ)と雇用主の白人女性との心の交流の物語。
    根深い人種差別がテーマとなっているが、それ以外にも、女性の自立、育児、過程、友人関係、親子関係、などなど。。。
    女性の生き方についてあらゆる面で考えさせられる一作だった。
    なかでも印象に残っているのは、
    黒人ヘルプをこき使い、炊事洗濯掃除すべてをやらせて子供の世話やしつけまで任せているくせに、食事もトイレも別、挙句の果てにはヘルプを泥棒扱いまでする。。。そんなひどい扱い方をする一方で、アフリカ難民の支援には積極的にかかわる。この矛盾がまかり通る世界。。。
    そして白人家庭の主婦達の了見の狭さ。リーダー格の女性(ヒリー)には刃向えない。みんなが右を向けば左を見たくても右を向く。本音で付き合えない友人関係。考えの外れた人がいれば出る杭は打たれる。
    しかし、その杭を打たれて精神状態もどん底まで落ちそうになっても負けずに原稿を書き続けたスキーターには誰もが大きな勇気をもらえたのではないでしょうか。
    人種差別的なことは別として、女性同士の人間関係に関しては身に覚えがあることも多かった。
    某国の新しい指導者が人種差別的な発言や行動を悪気もなくやるようになった昨今に誰もが読むべき作品だと思う。

  • 読書会のために再読。昨年アメリカの人種差別の歴史について勉強したところなので、このタイミングで再読し、より深く理解できてよかった。でも、普通に読んでも小説としてめちゃくちゃ面白い。黒人と白人が同じ人間としてふっと心が通じ合う魔法のような瞬間の描き方とか、緩急の付け方、何もかもうまい。著者はこれを書いたきり次の作品を発表してないようだけど、ぜひまた書いてほしい。翻訳も絶妙。「ベビー」は「ベビー」じゃなきゃだめなんだよなあ!!

  • ここもと人種差別を冗長するかのような世間の動きが喧しいが、ヘルプが描く1960年代初頭のアメリカ南部地区の人種差別は全くの別世界だ。これがほんの40~50年前に存在していたという事実が凄まじい。
    凄まじい世界観が本作を含めた著作やその他の活動で、ここまで「ようやく」払拭されてきたのだろうか。いや知らないだけで、人種差別そのものはまだまだ残っているような気もする。あるいは改めて注目、深まっているような気もする。

    主だった職が家政婦しかないような黒人女性達と、生活環境全般が黒白に分割されている世界、また分離が当然として疑問を抱かず、人間としての尊厳を損なう価値観がはびこる環境、一方で、環境の変化から裕福ではない白人が南部にも増加したり、「よい関係性」も含めて執筆すべきと考え、それが受け入れ始められた時代性、あるいは女性が著作を書いていくことが受け入れられる世界を丁寧にじっくり書き上げている。

    最後の部分が、結局どうなったのかかなり気になる。そこは著作としてのテクニックだろうか?

  • よかったのかどうなのか、なんとなく切ない終わり方。でも、それがとてもリアル。
    とってもいい話でした。
    エイビリン、ミニー、スキーター、素敵です(●´∀`●)ノ

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