最悪の将軍

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087710069

感想・レビュー・書評

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  • 学生時代に、「生類憐みの令」=犬公方=駄目な将軍=徳川綱吉。

    そんな思いがインプットされていたのを、180度回転させるような小説であった。

    徳川家の代々父から子への将軍受け継ぎを、兄から弟ヘという異例の中継ぎの将軍職へ。

    廻りの反感もあっただろうし、今まで、反目していた輩達には、目の上のこぶであっただろう

    泰平の世を目標に、頑張っているのに、自分の意志が、下へ通じず、中間の者が、自分にお咎めが無いように、捻じ曲げた考えを、世間ヘ、伝えてしまうもどかしさ。

    不運にも、江戸の大火、富士山・浅間山の噴火、松の廊下事件に、赤穂浪士の討ち入り。

    養子縁組等、、、そして、上に立つ者の定めで、波風の立たないように、江戸に戦争が起こらないように、苦慮しないといけないのである。


    老後、綱吉と信子に子は無かったし、伝の子供たちは早逝してしまっていたし、麻疹で亡くなる前に、身近な臣下が、居れば、このような悪名高い将軍のように言われなかったのでは、、、、ないだろうか?

    真理、推定を、逆さから眺めてみるのも一理ありと、思った作品でした。

  •  教科書などで「犬公方」として、どちらかというと悪政のイメージが強い徳川五代将軍綱吉の半生と心情を丁寧に描いた作品。

     中継ぎ役として、兄である四代将軍家綱の遺志を継ぎ、至極まっとうな文治政治をつらぬこうとした綱吉だが、意のままにならない世間や天災に振り回される。将軍といえども信念だけでは世の中をうまく回すことはできないのだが、生真面目な綱吉は天災や幕府の不祥事すら自らの徳が低いせいだと考えるようになる。

     読んでいてあらためて知ったのだが、家綱から綱吉の時代は、大火事や洪水、富士山や浅間山の噴火と、立て続けに天災が起こり、また忠臣蔵の討ち入りなど幕府内でも大きな事件が起こった時代だったことがわかる。徳川光圀も健在であり、さらに先日読んだ『江戸を造った男』の河村瑞賢も同時代の人間で、ある刃傷事件の発端として名前だけ登場する。

     優秀な人間にありがちな綱吉の真面目さと、どうにもならないつらさが伝わってくる小説であり、また正室信子の優しさ・思いやりに救われた作品でもあった。

  • 一般的な綱吉のイメージとは異なる、人として、為政者としての綱吉像を描いた一作。誰にとっても予想外の展開で将軍になり、旧弊と戦い、様々な天変地異や近い人たちとの死別に見舞われ、苦しみながらも、信念を持って誠実に情深く生きた綱吉の姿が切ない。

  • 綱吉のイメージ激変です。
    「生類憐みの令」が、そんな思いで作られた政策だと思って考えると納得できる部分もあります。
    たとえ乱世であっても、同じ価値観を持ち、皆が同じ方向を向いている方が分かり易い。
    武力で抑えて来た時代から脱脚しようとする時、価値観も、向く方向も違う中で進んで行くのは難しいのでしょうね。

  • 命を大事に というのは
    本来はとても 尊いこと
    今は当たり前だけど
    昔はそうじゃなかった

    綱吉は 
    権力者の側から民に
    命の大事さを理解してもらおうとした
    慈悲の心ある 名君だと読めます

  • この一行のためにこの本ありというほどの言葉して言葉なしの名言。 「徳川右大臣綱吉は断じて最悪の将軍にあらず。天よ、あなたがそれを知らぬとは言わせぬ」 将軍綱吉、妻信子の生き方を通じ人を愛し慈しみ敬うという人生における大切なものを、まかてさんの筆に乗っていると痛感させられる。 文章の中にさりげなく置かれている言葉にも心を打ち胸をおどらせ目頭を熱くするするものが随所に散りばめられている。史実としての将軍綱吉から生類哀れみの令そして悪印象の発想を打ち消し、人間味溢れた素晴らしい将軍という像を描い筆力に改めて脱帽

  • 徳川綱吉といえば“生類憐みの令”、人の命よりお犬様の命が大事という悪政のイメージがあったのですが、この本を読むとそんなイメージが払拭されます。思いがけず舞い込んだ将軍の椅子。その座にふさわしいように、民のためを思い政務を行ってきた真面目な人という気がします。正室信子との夫婦愛を書いた本でもあると思います。こんな風に伴侶に信頼してもらえたら、きちんとしなきゃと思うでしょうね。

  • まかてさんの綱吉像に興味がありました。でも、やはり生類憐みの令は博愛主義の押しつけです。庶民の反発に理解ができていません。討入りも田舎侍の感情がわからないのですね。義士と祭り上げる世評は更に理解できないでしょう。これ程、世間とずれた施政を行なったのも小藩故の人材不足があるでしょうね。富士山噴火の臨時徴税に多額の流用がありました。出だしは面白かったのに、新たな綱吉像を描き出すには至っていないようです。

  • 五代将軍徳川綱吉の生涯を描いた物語。

    以前は悪いイメージで評価された綱吉だが、近年の再評価に基づいた賢君としてのアプローチから描かれている。

    愚君か賢君かは置いておいて、綱吉が権力に溺れたような人間ではなく、兄の想いを受け継いでいかにすれば世が良くなるかを悩みに悩んで政に向かっていたことはまぎれもない事実なのではないかと作者の想いに同意である。

    文化的発展と、人も動物も含め容易く殺生しないようにとの意味を込めた法令というコンセプトで、天下泰平を具現化するという政は、確かに理想的ではあるがいかに難しいことかが、愚君として評価されてしまった理由だったのだろう。

    また、赤穂事件の浅野家、吉良家に対する評価も非常に真っ当で、忠臣蔵というただの物語が一人歩きしていたことががよくわかるし、残念なことにこれも評価を落とす一因になっていたのだろうということも推測できる。

    政治的なアプローチはもちろん、綱吉を支える周りの人々の素晴らしさもこの作品の面白さの一つ。

    最後まで寄り添う妻、綱吉を立てる老中、綱吉にひっそりと堅実に付き従う側用人達、等々、政は思い半ばだったかもしれないが、自分を立ててくれる周りの人間に恵まれたのは15代中随一だったのではないだろうか。

    そういったもっと人間らしさという部分を知るためだけでも価値ある作品ではないかと思う。

  • 読めて良かった
    本当にそう思う。


    「現実そのものは
    物語ではない。」


    徳川綱吉将軍がこの小説通りの
    人であり人生だったとは思いませんが、

    だからこそこれは
    本当の物語なのだと思う。

    真実であってほしいし、
    確かにあった事実なのかも、

    そんな思いでこの世界に
    浸った一時が幸福でした。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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