右岸

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087712346

感想・レビュー・書評

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  • 主人公 "祖父江 九(そふえ きゅう" の
    波乱万丈な人生を送る彼の一生を綴った物語。

    様々な事情により普通の人とは違う人生を送る事になる彼だが、
    "幸せ"は、そのような特殊さとは関係ないという事を教えてくれる。

    本自体522ページに及ぶ長編だが、
    内容はまだまだ広がりをみせる事が出来るくらいの濃さがある。

    ヒロイン"寺内 茉莉(てらうち まり)"の物語は共作の"左岸"に綴られているが、
    その他にも出てくる共演者達も個性的で、とても本に収まり切らない気になる物語が隠れている。
    そう!幾重にも重なる物語があるのだ。

    肝心のヒロイン茉莉の九に対するアプローチはこの本だけでは?はてなマークがつく。これは左岸を読まないと分からないだろうな。
    何故ここで茉莉が出てきて、このような行動をとったのか?
    ホント分からない。

    しかし、読んでて、(読者として)主人公 九に寄り添い、その一生を共に歩み見つめる感覚でずっと読む事ができたため、かなり感情移入することができた。

    おそらくまたこの先、読み直したくなる作品だ。

  • あらゆる人間は死に向かって歩いている。もうじき、遅かれ早かれ、愛する祖父母はこの世から旅立つことになる。九は泣きたくなるのを我慢した。
    「じっちゃん、なんで人間はみんな死ぬとやろ。死んでどこに、行くとかいな」
    「行くとじゃなか」
    九は祖父を見つめ返した。
    「戻ると。神様の許へ戻ると」
    「じゃあ、ぼくも戻ると?」
    「ああ、いつか。でも、すぐやなか。人にはそれぞれ、戻らないかん時期が決まっとうたい。九、お前にはまだ神様は許可ばだしてはおられん。お前はまだ世の中でたくさんやらないかんことがあると」


    こうやって、人生を半ば潜り抜けた場所から日々を振り返ると、まさに人生とは回転木馬のようなものだなあ、と思います。回っても回っても景色は一緒、なのに回っている時が、つまり、回らされている時が一番楽しいという、あのたわいなさ、まさに人生そのものと言っても過言ではございません。


    「定めというものは、無情なものだね。でも、生命はその無情の中でしか育たない。生まれたり、死んだり、この世界はそれの繰り返しだね。悲しんだり、喜んだり、それの繰り返しさ―」
    「でも、そげんことは、辛すぎるとです」
    「辛いのが基本さ。幸せが基本なんて者は実はどこにもおらんのだ。何せ、人間はみんな最後は死んでいくんじゃからね。悲しみはもれなく全人類、王様だろうが何だろうが、すべての人間に与えられている。永遠に生きる者など存在しない。だから、生きている価値も生まれる。人間は、苦しいのが当たり前なんだ。悲しいということが基本だ。寂しさから逃れられる者はいない。辛さから離れることは不可能だ。大なり小なり、みんな辛いんだ。それが、生き物の基本さ」
    「だけん、ぼくは今、苦しかとですね」
    オババは頷いた。
    「なんとかなる、とは教えない。希望だけを見よ、とわたしは教えたことはないさ―。わたしは苦しいことが人生だとしか言わなかった。そのついでに幸福があるんじゃ。だから、幸せにも意味が生じる。たまにしか、手に入らないものだからこそ、人は幸福を求めたがるのさ―」


    「死など恐れるものではない。死はため息だ。死は休息であり、万人の哲学でもある。死は、居眠りのようでもあり、死は連続でもある。死はお前の中にあり、死は入り口でもある。慌てないために、死をしっかりと見つめて、仲良くなることだね。そうすれば、お前はもっと、高い世界を目指すことができる」


    私が言いたいことはつまり、あなたが今立っている場所、まさに世界ということもできるでしょう、その場所のことを強く念じてほしいということでもあります。その時、あなたはあなたの背後に広がる世界とつながっていることを改めて認識できるのであろうと思うのであります。

  •  江國さんと対をなす作品と言うことで、「冷静と情熱の・・・」を想像しましたが、全く違いました。

    ですが、コレはこれで面白かった。
    日本人的な宗教感で書かれていて、小さい頃に祖父母に言われたことを思い出すような感覚です。

    多くのレビューで言われる通り、前半は性的な描写が印象的です。後半は、主人公の特殊能力に対する「老い」を描いています。

     途中で「ノンフィクション」と錯覚してしまったほど、引き込まれました。

    江國さんの「左岸」レビューは以下より
    http://booklog.jp/users/kickarm/archives/1/4087712354

  • 祖父江九と寺内茉莉。
    福岡を同郷とする二人の幼馴染はお互いに魅かれあいながらも
    それぞれ別々の人生を歩んでいた。

    辻仁成さんが男性の立場で九の人生を書いた『右岸』と
    江國香織さんが女性の立場で茉莉の人生を書いた『左岸』。
    2冊の本によって2人の人生は書かれていた。

    茉莉の幼馴染、祖父江九は無骨で身体は大きいが、
    無垢で純粋な子供の心を持っている男性である。
    スプーン曲げのような能力を持っていたが、
    そのために流転の人生を歩む事になる。
    茉莉同様に、彼も結婚し子供をができ肉親との死別も体験する。
    九の人生は波乱万丈で、とてもユニークだった。
    超能力や予知能力を仕事にし、予知夢や霊まで見えていた。
    そんな彼も最後の方ではやはり一人になる。
    やっぱり、心の支えは幼馴染の茉莉だった。

    小説全体を通して、
    『左岸』が茉莉の人生をさらさらと流れる清らかな清流の岸辺とするなら、
    『右岸』は九の人生を轟々と音をたてる大河の岸辺にたとえているようだ。
    それでも両岸は、しっかりと向かい合ってなりたっている。

    2冊を読み終えた今、書き方は違うけれど(作家が違うから当たり前)
    まるで映画のように両者の事情がわかるようなストーリー仕立てになっていたのがよくわかる。
    片方だけ読んでもりっぱな小説で、それはそれで面白いだろうが、
    対面の岸の方からみた人生も読みたくなる。
    せっかく対面の本があるのだから、ぜひ読んでみるべきだろう。
    もちろん、どちらから読んでもかまわない。

    茉莉の人生を詳しく知りたければ、『左岸』をどうぞ。

  • 左岸より、右岸のほうが好きでした。
    なんでだろう、最近辻仁成結構読み慣れてきたからかな。
    というより右岸のほうが圧倒的に深い気がする。
    左岸で茉莉も色々な苦労をしたけど、結局恋多き女のおしゃれすぎる話に終始していたような気がしていて(女性女性しすぎているのは残念ながらあまり好きじゃない)。右岸は人生そのものを中心にしていて、恋愛もかなり色々あるけど中心は九の特殊能力を持ちながらの生きざまっていうか。
    読み応えは圧倒的にあった。ていうか左岸がぐだぐだな気がしていたので、右岸のほうが全くぐだぐだじゃないわけでもないけど面白いと思いました。

  • 超能力をもった主人公の人生を描いた話。

    恋愛小説を期待して読んだら、相当残念だった。

    超能力とか宗教観とか、悲劇に悲劇をあまりに重ねすぎて、安っぽく感じてしまった。

    ただ、主人公の弱さや恋愛観の部分については共感出来る部分があった。

    恋愛小説(冷静と情熱の間みたいな作品)を期待して読むと後悔するので、左岸のみを読むことをすすめます。

  • 左岸で意味のわからなかった最後の意味、ようやくわかりました。
    左岸より読みやすかったです。
    ただ、超能力とかは、理解できなかった。

  • 左岸の片割れ。
    冷静と情熱のあいだを期待して読みはじめたら、だいぶストーリー違いました。もう少し恋愛よりでもよいのかなと個人的には思うのだけど。でも右岸左岸で読み応えありました。一息。

  • 寝る間も惜しんで読み進めてしまうくらい、熱中してしまった一冊。

    個人的には、自分と重なる点が多く、まただからこそ、少し救われた部分もあった。超常現象や、スピリチュアルが苦手な人には、受け入れられないかもしれないけれど、たとえばよしもとばななが好きなひとには、当たり前のようにすんなり受け入れられると思う。

    まだ左岸は読んでいないけれど、女性より、男性に読んでほしいと思った。
    それは単に主人公・目線が男性だから、というわけではなく、その目線から描かれていてもなお(いるからこそ?)生々しい、女性の姿があるから。

    九の人生をみつめようとすればするほど、人間として強く存在する女性の存在が、より際立った。
     

  • 『冷静と情熱の間』の著者二人による男女異なった視点の小説。でも今回は「恋愛」小説よりももっと長い目で見た男女の人生の物語で、より深い内容です。男性側の「右岸」女性側の「左岸」を交互に読んで楽しみました。読んでいる一週間はとても楽しかったです。何となくみえてしまう最後がちょっと駆け足な気がしたけど、それ以外は良かった。はじめて「右岸」「左岸」という言葉が出てくる場面は美しかったです。

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著者プロフィール

東京生まれ。1989年「ピアニシモ」で第13回すばる文学賞を受賞。以後、作家、ミュージシャン、映画監督など幅広いジャンルで活躍している。97年「海峡の光」で第116回芥川賞、99年『白仏』の仏語版「Le Bouddha blanc」でフランスの代表的な文学賞であるフェミナ賞の外国小説賞を日本人として初めて受賞。『十年後の恋』『真夜中の子供』『なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない』『父 Mon Pere』他、著書多数。近刊に『父ちゃんの料理教室』『ちょっと方向を変えてみる 七転び八起きのぼくから154のエール』『パリの"食べる"スープ 一皿で幸せになれる!』がある。パリ在住。


「2022年 『パリの空の下で、息子とぼくの3000日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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