博物館のファントム 箕作博士のミステリ標本室

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087715453

作品紹介・あらすじ

自然史博物館に預けられた「呪いのルビー」が狙われた。頻発する鉱物標本盗難事件と〈幻の宮沢賢治コレクション〉に関連が? 変人博物学者と新人分類学者の凸凹コンビが活躍する新感覚連作ミステリ登場!

感想・レビュー・書評

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  • 博物館が舞台の連作短編6篇。
    鉱物・植物・剥製・化石・昆虫・人類とどれも興味を引くものばかり。

    旧標本収蔵室に住みつき、ファントムと呼ばれる箕作(みつくり)。人のことは変な呼び名で呼び、自らは死語になりつつある「博物学者」を名乗る。
    「どんなものも絶対に捨ててはならない」を博物館の第一原則と公言し、博物館の収蔵物と私物の様々なものに囲まれて過ごしている。
    かたや、新人の博物館員・環は片づけ魔。専門はコンピュータで、ひそかに生き物よりコンピュータのほうがかわいいと思っている。博物館に務めているものの、収蔵物に関する知識も興味もほぼない。
    この正反対のコンビが博物館で起こる日常系(?)ミステリを解決していく。

    宮沢賢治が集めた鉱物標本、ねじれた花弁のナスと誰も傷つかない復讐、「送りオオカミ」の語源となったオオカミの習性、デニソワ人の少女と現生人類の少年のロマンス(想像)……。創作も含め、どのモチーフも興味深く楽しい。
    最終6話では箕作さんが行方不明になって、どきどきひやり。そして研究者として嘱望されていた彼が「ファントム」「博物学者」になった理由も垣間見れる。
    登場人物の名前が各章のテーマにうっすら係っている(た、たぶん)ところも楽しく、なにより箕作さんがすんごく好みなので、激しくシリーズ化希望!

    • takanatsuさん
      九月猫さん、こんにちは。
      この本面白そうですね!
      「鉱物・植物・剥製・化石・昆虫・人類とどれも興味を引くものばかり。」
      博物館でのミス...
      九月猫さん、こんにちは。
      この本面白そうですね!
      「鉱物・植物・剥製・化石・昆虫・人類とどれも興味を引くものばかり。」
      博物館でのミステリにどんなふうに関わってくるのか、どんな物語を持っているのかを想像するとワクワクします。
      読みたいです!
      2014/04/11
    • 九月猫さん
      takanatsuさん♪
      コメントありがとうございます!
      博物館が舞台って、わくわく・心惹かれますよね。
      あれやこれやとごちゃまぜで(...
      takanatsuさん♪
      コメントありがとうございます!
      博物館が舞台って、わくわく・心惹かれますよね。
      あれやこれやとごちゃまぜで(いや分類されてますけれど)展示されてる感じが
      なんとなくレトロな雰囲気もあって♪
      モチーフはもちろん、お話もおもしろかったので、機会があればぜひぜひ♡
      2014/04/11
  • ううう…博物館に行きたいっっっ!
    …と、博物館欲をかきたてられる1冊です。

    語り手は池之端環。
    新米の博物館員で、遺伝子情報を使って生物種を分類するためのソフトウェア開発を専門にしており、散らかっているのに堪えられない片付け魔。
    そんな彼女の前に現れたのは、博物館員たちから標本収蔵室のファントムと呼ばれる男・箕作類。
    博物学者を自称するのもうなずける博識で、雑多な標本や古書に囲まれながら、標本収蔵室で暮らしている変わり者。
    博物館で起きた6つの事件を、この正反対のペアが解決していきます。

    動植物の横文字の学名がいっぱい出てきたり、標本作製室など博物館の裏側をのぞけたり…と、だんだん楽しくなってきて、気付けば鼻息があらくなっているのでした。
    舞台になっている国立自然史博物館のモデルは上野の国立科学博物館。
    あの知識の宝庫が醸し出す空気がページからも立ち上ってくるようでした。

  • これも面白い。
    伊与原さんはとっても博学な方だなー。
    「科学」がとても幅広く奥が深いことに感心した。
    特に植物学が面白かった。

    動植物や化石、鉱物等を展示する自然史博物館を舞台にした連作短編。
    几帳面で片付け魔の新人研究員・環と、片付けが苦手な標本収蔵室のファントム、ことベテラン博物学者・箕作(みつくり)のやり取りが面白い。

    「名前のないものがあれば、名前をつけたい。名前しかないものがあれば、それがどんなものか知りたい。名前も中身も分かっているものがあれば、どうしてそうなのかを知りたい」
    「どんな種にも、その種にしか語れない物語がある」
    探求心をとことん煽る「科学」の奥深さ。
    知れば知る程、興味の幅も広がる。
    古来より現代に受け継がれた「科学」に果てしないロマンを感じた。
    私も自然史博物館に行きたい。

  • 「国立自然史博物館」職員の池之端環が、職場で起こる「ミステリー」に遭遇、先輩職員の箕作(みつくり)と謎解きしていくという物語。短編6篇で構成されているが、回を追うごとに二人の関係が変化していく様子がみてとれる。

    ミステリーというよりは、関係者が深くかかわる事件を発端とした、限りなく専門的な事柄の解説、といった方がよいかもしれない。科学に関してはど素人だが、物事に夢中になってしまう大人を見おろすのは面白い。ただ、後輩女子を「お前」呼ばわりする先輩箕作は好きじゃない。後半、かなりのイケメンであるとの描写があるが、人を物みたいに扱う態度がよろしくない。

    ひと頃のお仕事小説に、きつい上司と天然系女子が惹かれあっていく物語があったが、今となっては賞味期限なのかも。でもモデルとなっている「国立科学博物館」には行ってみたい。科学への興味を起こさせる作用のある小説であることは確かだ。

  • 博物館舞台という設定だけに謎解きの味わいも特殊。短編ごとに扱うテーマが違っていて色んな世界を覗けるのが楽しい♪

    鉱物、ナス科植物、剥製、化石、甲虫、異人類
    『どんな種にも、その種にしか語れない物語がある』
    井与原さんの著書は本編を楽しむ他、そんな未知の物語に導いてくれるワクワクがある。
    ただ、虫が苦手な人には読みづらい部分があるかもしれません。

  • 変人と言われる人はこだわりが強いのかも。
    こだわりの強い人なんだから、と思っておけばもめないで済みそうではある。

  • 専門用語というか正式名称がつらつらと。頭に入ってこないので飛ばし読み。キャラは面白そうなんだけど・・・。

  • 博物館の変わり者研究員・自称博物学者の箕作類と新人研究者の池之端のコンビが、博物館で起こる事件を解決していく連作短編集。変わりものというわりに結構人懐っこい感じがする箕作でしたが、読んでいて面白かったです。博物館で扱う専門分野が広く、読んでいて難しいものも多いですが、雰囲気が良くて面白く、会話がテンポよくて気にならずに楽しく読めました。シリーズ化してほしい。

  • 博物館を舞台にしたミステリー、連作短編6編。
    各章ごとの扉の絵がいかにも博物誌的で素敵だ。物語も身近なようで深遠なバックボーンがあって、知識も深まる。主人公たちも個性豊かで、嫌みがなくていい感じ。

  • どんなものも捨てないで貯めこむ箕作と、まったく生物に興味がない片付け魔のバーコードレディ。このまったく正反対のコンビが醸し出す雰囲気がとても楽しい。
    博物館という、学識の宝庫だけど縁遠い場所が、ちょっと身近に感じられる。
    あんまりなんでも貯めこむのも問題だけど、どんどん捨てればいいってもんでもないよなあ、と思った。
    第6話で、おお?という展開になったので、ぜひシリーズ化してほしい。
    読んでるだけでも勉強になって、それもまた楽しい。

  • 博物館という、知的な場所だけどなんとなく怪しげでミステリアスな場所を舞台に謎を解き明かしていく、サイエンスミステリ。
    自称「博物学者」、あだ名「ファントム」…博覧強記の箕作と女性新人学者の環が、博物館の内外で起こる謎を解き明かす。
    キャラがしっかり立った各ジャンルのスペシャリスト達、巧みなストーリティングで一気に読ませる。 張り巡らされた伏線も見事に効いている。
    連作短編6編、それぞれイイ。
    これは面白い。シリーズ化して欲しい。

  • 地学研究出身者ということで、地球や気候などから題材をとることの多い著者だが、本作では主に生物系をモチーフにしたものが多い。
    動物のはく製
    植物の学名
    昆虫標本
    デボン紀の化石
    人類祖先の頭蓋骨と中国との戦争
    など。あ、鉱物も1編あります。

    作者自身があとがきで書いています。
    「蘊蓄(うんちく)だらけの6編」

    上野の国立博物館をモチーフにした
    博物館が舞台。そこの倉庫で働く古参の博物学者ファントムと、数値データ解析専門のバーコードレディが
    いろいろな事件に巻き込まれる話。
    謎解きというより、蘊蓄がメインです。
    知的好奇心にあふれた方に、おすすめです。

  • 博物館の標本、その存在がもうミステリーだな。でも博士ちゃんに出た子みたいに、必ず夢中になる子がいてくれるから、残っていくのね。でも親の好みを好きになれなかった子は辛いね。

  • 今すぐ博物館の裏舞台に行きたくなってしまうような風景描写が好き。私は主人公のようにきっちり片付いてないと嫌、とは真逆の物を捨てるのが苦手人間なので、「どんなものも捨ててはならない」その場所に住んでいるファントムがうらやましい。

  • 僕は、博物学者だ

    【感想】
    ・問題なく楽しめるサイエンス風味ミステリ。続編ないらしいのがふしぎ。題材的に次々に話を思いつきにくいかもしれないし、人生の機微を描く感じになってきているので方向性が変わってきたのかもしれないけど。
    ・キャラクタの関係性とか雰囲気が、最近まで読んでた『絶対城先輩の妖怪学講座』シリーズに似ている。
    ・ここ二ヶ月ほどで宮澤賢治がらみの作品をいくつも読んだ。まあ、ぼくも好きやから傾向的にそういう本を読むことが多いかもとは思った。ああでも、そのうちの二つは伊予原さんの作品か。

    【一行目】
     玄関ホールで「Futabasaurus suzukii」の出迎えを受ける。吹き抜けの天井から吊り下げられた全長七メートルの骨格レプリカだ。

    【内容】
    ・国立自然史博物館のファントムこと箕作が収蔵品がらみの謎を解明する。
    ・持ち込まれた「呪いのルビー」と、紛失した鉱物標本。
    ・隠されていた植物標本と、麗しのベラドンナ。
    ・オオカミと剥製師と標本製作者。
    ・「ニセモノ」と書かれた標本と、化石業者。
    ・虫に食われた虫の標本と、死神の出る別荘。
    ・行方不明になった箕作と、おっ、久々に読む幻の北京原人?

    ▼簡単なメモ

    【赤煉瓦】「旧標本収蔵庫」。煉瓦造り二階建て、博物館で最も古い建物。玄関には巨大な南京錠がかかっておりその鍵の在りかは誰も知らないので地下から出入りするしかない。収められている標本はほぼ無価値なもので、新人研修的に使われている。ここに「ファントム」が出るという話。
    【あだ名】箕作によると大英自然史博物館では研究者を専門とするものの名前で呼ぶそうだ。箕作にとってはそれはその人物をそういうものだと認識しているということであり、より深く知り認めることになったら変わるのかもしれない。
    【五十嵐/いがらし】地学研究部職員。箕作は「レアメタルマン」と呼ぶ。
    【池之端環/いけのはた・たまき】→環
    【井沢】人類研究部長。
    【猪瀬/いのせ】動物研究部主任研究員。モグラの専門家。当然、箕作は「モグラマン」と読んでいる。
    【老川信太郎/おいかわ・しんたろう】著名なアマチュア昆虫研究者。四年前に亡くなっている。
    【老川照雄/おいかわ・てるお】老川信太郎の息子。六十前後の痩せぎすな男。
    【老川頼子】老川照雄の妻。老川信太郎の別荘でもあった「老川昆虫館」をリフォームして使いたい。
    【化石】古生物研究グループの管轄だが、このグループは地学研究部に属する。素人考えで個人的に昔から疑問に思っていることは、動植物の化石(古生物)は動物とか生物に入れた方がいいような気がするのだけど? 地学は無縁ではいられないとしても。ぼくが編集に携わってた雑誌では試しに生物のほうに入れてみたけど特にお叱りはなかった。
    【キノコマン】植物研究部長を箕作はそう呼ぶ。
    【久世清/くぜ・きよし】伝説の剥製師。剥製をアートの領域に踏み込ませた。浩一によると迫力をだすためには多少事実を歪めることもあったらしい。箕作とは気があっていたようだ。《俺の仕事は詰め物をした毛皮の中にそいつの息づかいを閉じ込めておくことだ。》p.124
    【久世浩一/くぜ・こういち】標本士。国立自然史博物館の職員ではなくドイツの自然史博物館に籍を置いているプロ。この職種は日本にはない。久世清の息子。剥製づくりのスタンスは父と異なり、あくまでも標本として適切であるということのようだ。なにやら箱を探している。
    【甲虫】正式に命名されている動植物百八十万のうち五分の一は甲虫。まだまだ未発見のものも多そう。
    【国立自然史博物館】動物、植物、地学、人間の四部門からなり、八十名を超える研究員と最先端の設備を誇る国内有数の自然科学研究機関。六十年間にわたり増改築が施されほぼ迷宮となっている。お客さんが入れるのは展示スペースである新館と旧館のふたつのみ。
    【サイード・ダフビ】モロッコはマラケシュのベルベル人。箕作の古い友人。再会に珍しく箕作が喜びをあらわにした。模造化石業者。
    【スパイダーマン】動物研究部長。あだ名からするとクモの研究者なんだろう。
    【環/たまき】池之端環。主人公。ワトソン役。なんとなくで研究員として「国立自然史博物館」に勤務することになった、(本人はそう感じてないけど)幸運な女性。ものが散らかっているのが嫌いで、趣味も部屋の片付け。植物研究部多様性解析グループ所属。研究テーマは「DNAバーコーディング」。要するに自然科学の専門家ではなく情報の専門家ってことね。DNAによる生物分類プログラムをつくるってことかな。箕作からは「バーコードレデイ」と呼ばれている。不器用で実験器具等すぐ壊してしまう。高校時代は「フラスコクラッシャー」と呼ばれ教師から警戒されていた。
    【能條/のうじょう】七十歳前後の紳士。東都大学名誉教授。形態人類学の権威。
    【博物学者】箕作は自分で「僕は、博物学者だ」p.42と言った。先端がものすごく尖ってしまい深く狭くなっている現在の科学はとても感情移入しにくい。もう少しおおらかな科学、そう博物学が見直されてもいいんでは? と科学好きのぼくなんかは思う。その点で箕作に共感を覚えます。
    【初村/はつむら】初老の教育ボランティア。元はプラネタリウムの技術者。
    【ヒョウホンムシ】乾燥動物標本を好んで食べる博物館の大敵。体長二・三ミリの甲虫。所持者が大事にしている標本から食べると言われている。
    【ファントム】→箕作類
    【古沢玲司/ふるさわ・れいじ】以前、職員だった。そして宮前葉子と婚約していたが破談。今は都内の大学薬学部で准教授
    【北京原人】骨格の現物がなくなり、いろんな小説でも扱われた幻の存在。
    【ベラドンナ】宮前葉子(みやまえ・ようこ)のこと。箕作がつけたあだ名ではない。ナス科に魅入られている美女。喫煙者。箕作とは大学の同期。ベラドンナといえば、ぼくのイメージ的には毒草やなあ。あと「悲しみのベラドンナ」かな。
    【松森】甲虫の専門家。動物研究部昆虫研究グループに属する。五十歳近いが昆虫少年の部分を強く残している。箕作には「ビートルマン」と呼ばれている。
    【万年筆】箕作はしょっちゅう愛用の万年筆を磨いてる。行方不明になるとかなり焦る。なにかいわれがあるのだろうか。
    【箕作類/みつくり・るい】動物研究部の主任研究員。探偵役。三十代から四十くらいの男。研究員の間では「ファントム」と呼ばれている。東都大学理学部自然人類学研究室で能條に師事していた。あえてオフィスを持たず赤煉瓦に住みついている。コンピュータは使わない。テノールボイス。「どんなものも絶対に捨ててはならない」p.19。部屋は環にとっては散らかり放題。父は著名な鳥類学者で山幡鳥類研究所所長だった。祖父は人類学者の箕作修一。
    【楊/やん】箕作が大英自然史博物館にいたころからの友人。中国科学院古人類及脊椎動物研究所の研究員。
    【理解】宮前葉子いわく《理解は区別することから、区別は名前をつけることから始まる》p.56。博物学も含めその通りですね。まずは同定できないと始まらない。
    【陸くん】年間パスポートを持っていて週に二・三回は来る常連さん。祖父は鉱物マニアで彼が保管していた「呪いのルビー」を持ち込んできた。

  • 『赤煉瓦の標本収蔵室に住まうファントムの事件簿』

    自然史博物館を舞台にした、伊予原さんお得意の理系解説付きミステリー。博物学的事実と作者の想像を織りまぜているようだが、全6話の謎解きは、どれも面白かった!

  • ちゃんと終わってるので安心した。
    人死のない科学ミステリ。
    単行本なのにあとがきある。
    参考文献もある。

  • 博物館に行きたくなりますねぇ。
    ワトソン役が少し苦手でしたが^^;、例によって、かなりマニアックな内容なんだろうけど絶妙に読みやすくしてくれております。

    テーマが幅広くて何かしら興味を持てそう。もしこれが映像化されてたら、家族でも楽しめそうだし、
    興味的にはガリレオよりも上いったかも。

  •  国立自然史博物館の旧館に棲みついている、偏屈で変わり者の博物学者と、新人の分類学者。
     凸凹コンビの男女が、博物館の収蔵品に絡む事件の数々を解決すべく奔走する、連作ミステリ短編集。
     呪いの鉱物の秘密、植物の種(しゅ)の名称への拘泥、幻のオオカミと剥製師の業(ごう)、化石ビジネスの混迷、死を招く甲虫、人類の祖を巡る謎とロマンetc.。
     推理ものとしての謎解きと、定番であるバディ要素を押さえつつ、題材となる自然史との組み合わせは、学術面と空想(フィクション)を巧く絡めてあり、知的好奇心を擽ってくれる。
     蘊蓄は難解過ぎず、タッチも軽めなので、初学者にもとっつきやすいのではないだろうか。
     単行本の装丁も美しくて、目を引く。
     遊び紙や中表紙はテーマに相応しい味わいで、目次や各話の扉頁の挿画とフォントも凝っている。
     生き物――人間を含めた――の計り知れぬ生命力と、度し難さに想いを馳せつつ、《博物学ミステリ》という新たなジャンルの開拓を楽しめる一冊。

  • 六編の謎解き。
    舞台は国立科学博物館......によく似た「国立自然史博物館」。
    ホームズ役はファントムこと箕作類。
    ワトソン役は池之端環(名前がシャレてる!)。

    登場するものは、呪いのルビーにベラドンナ、ニホンオオカミに三葉虫、死番虫に北京原人。
    ありとあらゆるものがミステリーの題材になる。
    呪いのルビーは宮沢賢治が絡み、地学と文学のマリアージュが美味。
    二つは遠いようでいて似ていて、耽美なる世界に酔いしれる。

    ベラドンナはミステリファンならお馴染みの毒。
    ここにも『ロミオとジュリエット』の要素が絡み、美しく妖しげな世界が広がる。
    「名前がなんだっていうの?」
    「わたしたちがバラと呼んでいるものは、他の名前で呼んだって同じ甘い香りがするわ」(60頁)
    この言葉が鍵となる。
    静かなる復讐、それは甘い香りがしない、なんて!

    「異人類たちの子守唄」はNHKスペシャル「人類誕生」で見た異人類の姿を思い出して読んだ。
    合わせて見ることをオススメする。
    ロマンチックで、ドキドキする。

    知らない世界を見に、科博、行っちゃおうかな!

  • タイトル良し、装丁良し、トピック良しなのに読了できなかった。
    博物館にあるコージーミステリなんだが、文体のせいか、読む私の気持ちのせいか、、、
    また違うときに読めば読めるかな。

  • 内容的には星4つ。しかし、科博をモデルにしたサイエンスフィクション、サイエンスミステリーはとても魅力的だった。博物館の研究員の熱も感じられて、個人的には満足の一冊だった。

  • 片づけ魔の主人公と、決して捨てないファントム。
    真逆のふたりのやり取りが、テンポよくコミカルだった。
    博物学的知識がくりひろげられ、雑学としてもおもしろい。
    楽しい連作短編集。

  • 変わり者の名探偵は数多くいる。

    そして、その傍らには、常にボケ役、あるいはサポート役の相棒がいる。

    自然史博物館に勤め始めた新人研究者、池之端環は、博物館に住みこむ変人「博物学者」、箕作類に出会う。

    鉱物の盗難、展示物への落書きなど、風変わりな6つの事件を通して、環はその変人の推理力を認めるようになっていく。

    これまで、あまり触れることのなかった世界の扉を開く。一つの事件が解決するたび、その世界に魅かれていく自分に気づく。

  • 理系女子が主人公のライトミステリ。
    よくある設定だが、舞台が博物館ということで独特の雰囲気がある。
    生物好きな自分としては、なかなか楽しめた。

  • 博物館が好きな人はぜひ読んでいただきたい一冊。 舞台のモデルが国立科学博物館なだけあって、科博に行ったことのある人は最初の数行で出てきた化石の名前に胸が高鳴るのではないだろうか。 学芸員、博物館所属の研究者の姿に触れられるのも実に面白い。そういうものに進む人は小さい時からの英才教育があったのだなとしみじみ思った。 読み進めるほどに自分もこの赤煉瓦に住み着きたい、今すぐ博物館の浪漫溢れる空間に浸りたいという衝動を抑えることが難しくなっていった。 今すぐにでもあの空気、匂いに浸りたい。

  • (収録作品)呪いのルビーと鉱物少年/ベラドンナの沈黙/送りオオカミと剥製師/マラケシュから来た化石売り/死神に愛された甲虫/異人類たちの子守唄

  • 箕作さん、いいキャラしてる。続編でたらいいな。

  • 博物館で起こる、荒らされた鉱石、倉庫で忘れられていたイルカの模型から出てきた植物標本、イタズラされた剥製などといった博物館ならではのミステリー。専門分野だけでなく、あらゆる分野に広く博識な「ファントム」こと箕作による適度なウンチクがとても興味深くて楽しかった。 「資料」と言っては無造作に物をため込んで散らかす箕作と、片付け魔の「バーコード・レディ」こと環との攻防や、恋への発展の期待で、博物館が舞台ではあるものの柔らかい雰囲気のミステリーでした。謎に隠されたドラマも良く、続編が出るのを期待してしまいます。

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著者プロフィール

1972年、大阪府生まれ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。2010年、『お台場アイランドベイビー』で第30回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー。19年、『月まで三キロ』で第38回新田次郎文学賞を受賞。20年刊の『八月の銀の雪』が第164回直木三十五賞候補、第34回山本周五郎賞候補となり、2021年本屋大賞で6位に入賞する。近著に『オオルリ流星群』がある。

「2023年 『東大に名探偵はいない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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