燕は戻ってこない

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717617

感想・レビュー・書評

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  • 何の特技も才能もない、地方出身の女性(短大卒)。
    仕事を求めて上京する → 正社員にはなれず、派遣労働者になる
    手取り14,5万の生活 → 貯金などムリでむしろそれまでの貯金を取り崩す
    次第に年老いる → 将来の展望なし、さぁどうする??

    東京で、家賃を払いながら派遣労働者として生きる人のリアル?に驚愕です。
    もう10円1円単位の節約。服なんて古着で当たり前。メルカリ、流行るはずよ。
    コンビニでの買い食いさえ贅沢で、自作の弁当が当たり前。外食なんてありえない。
    給料日に買う発泡酒が楽しみ。それも1本だけ。
    だったら、地元に帰って実家で生活しろよって思うかもだけど。
    地方にはロクな仕事がないのよ。介護とか福祉とか。キツいだけの低賃金。

    この閉塞状況をどう打破するのか、ヒロインが選んだのは「代理母」。
    本来、違法なんですけど、そこは魚心あればなんとやらで。代理母で得られる報酬(いうて一千万くらい)を元手に、捲土重来を図るヒロインなんですが。

    タイトルの「燕はもどってこない」ですが、「燕」ってなんだろうって。
    なんとなく「幸せ」とか良いことの象徴のように思えるんですが。
    ヒロインのリキちゃんは、幸せを掴むことができるんでしょうか。
    ニコ的には、親子ともども貧困に逆戻りしていく未来しか見えないんですけど。
    女ならなんとかなるんでしょうか。

  • ワタシ個人は、特に母性溢れる女性でもなかったし、子供も特にそこまで好きな方でもなく。ただ結婚、出産する機会があったから、普通に子育てして…子育て中もそんなに自分の母性というものに自信もなかったけど、そんな感じでもフツーのお母さんの顔して生活しています(笑)

    という自分語りな部分はさて置き。
    いわゆる貧困(ただし春を鬻ぐとかそこまでは行かない、プレ貧困層)と閉塞感にあえぐ主人公リキが、多額の謝礼金がきっかけで、サロゲートマザー(代理母)になる、というストーリー。

    母性って結局なんなのかなぁ…などと考えつつ読んでいたんだけど、結局のところ、「種族を繋いでいく動物的な本能」なのかなぁと感じました。
    なので、この小説の登場人物の中で、一番母性(というか、種の保存欲本能)に溢れている人物は、実は依頼者夫婦の夫の基(もとい)なのではないだろうか、と思った次第です。

    バレエダンサーだった基は、はじめのうちは生まれてくる子供の将来像を夢想します。自分の遺伝子から来る才能を受け継いでバレエの英才教育や留学などさせてやりたいと。(まぁ男性のステロタイプな感じですよね)
    ただ、ストーリーの終盤あたりで自分の遺伝子を継いでいるかどうかが揺らぎ始めたとき、あっ、これは子供を受け入れずに突っぱねるのかな、と思っていたんですが、彼は受け入れてしまいます。
    彼の年齢的な問題(43歳で、子供が成人する、もしくは才能が開花するかを見届けたいので、ギリギリの年齢だと彼個人が思っている)なのかなぁ、と思ったのですが、そうではなかったようです。
    この辺りに、なんだか母性うんぬんを通り越した、動物的な種の保存欲、世代をつなぎたいという想いが強く感じさせられました。

    子供には無限の可能性が…ってよく言われていますが、あれって、もしかしたら、自分の人生の残りが自覚されつつある中で、自分では出来なかった経験をしてもらいたい、みたいな。なんだろう、人生って、世代って、リレー小説みたいだな、と感じました。

    基のこの性格というか変容っぷりは、妻の親友のりりこが全く母性的なものを持っていない女性だったので、一際浮き彫りにされたように見えました。
    この、りりこという人物、浮世絵師として性を描くことにはものすごい才能を持ちながら、己の性愛に関しては全く興味がない、というキャラクターを配置させたのはさすがだな、と思いました。

    ラストは多分賛否両論あるかとは思うのですが、ワタシ個人的にはスカッとしました。
    出産後のリキの謎のイライラですが、たぶん
    「こんなに大変な出産(双子で帝王切開)だったのに、自分は繋ぐことが出来ない」
    的なことだったのかなぁと。
    男女の双子の女の子のほうを選んだのも感慨深いです。

    読み終えて思ったのは、人間ってなんやかんやで動物的な本能に後押しされたり支配されたりしてるのかな、ということです。母性と言うには範囲が狭く、エゴと言うにはどこか違う、種の繁栄というよりは、繋ぎたい、自分の人生では見れなかったもの足りなかったものを次の世代であわよくば覗き見たい、という、なんだかうまく言えませんが、無邪気な好奇心みたいなものが。

    キャッチコピーの「この身体こそ、文明の最後の利器。」というのは実は反語的な言葉を持ってきたのかな、と個人的には思いました。
    人間って難しいです、もっとシンプルに動物みたいに生きれば個体数も増えるのかもしれませんが、ゆるゆると人口が減りつつある今、これも自然の流れなのかもしれませんね。

  •  揺れる揺れる。とにかく揺れる。貧困に疲れた非正規雇用 の三十路直前の女性、自分の高貴なる遺伝子を残したい元バレエダンサーの夫、子供を望みつつも年齢や体質により叶わないことを告げられた40代の妻。代理出産のステージが進むにつれて登場人物達の心情や考えがフワフワと二転三転する。一方で母体となったリキ以外の人物は当事者であっても徹底的に他人事として接する姿が描かれている。自分の身体に直接的な変化が起きないだけで悪気なく人をモノのように扱えるのか。自分の身体を痛める、痛めないことの違いが自分事感に直結している。腹が大きくなるにつれて赤子の引力が増して行き、周囲の人々が衛生になる。
     代理出産の話が進み、蚊帳の外と感じるようになった40代妻の他人事感が、『妻が妊娠しても父の自覚が芽生えない』いまだ蔓延る一般論の性反転に感じたけれど、身体を痛めず自分の遺伝子が関わらなかったらそんなもんなんだろうか。いや、でも『普通』の父親は自分の精子がちゃんと関わってる訳で、鏡ではないか。
     子供の人生は子供のものと考えるのはアセクシュアルの女性のみで(この人も最初に出てきた時はヤバい童貞おばちゃんでしかなかったけど、話が進むにつれてこの人が一番しっかりしてるんじゃないかという気になるから不思議)、子供を欲しいと思う気持ちは本当に親のエゴでしかないなぁ。貧困の再生産が目に見えていても、そこに愛情があればやっていけると思うのは親だけであって、子供は環境を選べない。愛知の友人と違い主人公とその娘に少し光があるとすれば、当面の生活費は心配しないでも良いくらいか?
     桐野夏生は昔(OUTや柔らかな頬など)の方がもっと人を追い詰めるようなヒリヒリした作品だった気がする。今も人間の汚い心情は上手く捉えているけど、少し遠くから見ているというかアッサリしているというか。

  • 読みやすくてサクサク読んだし、
    面白かったんだけど、

    出てくる女がバカすぎて呆れる

    テーマも目新しさはなく、
    わりと使い古されたものだな~

    と思った

  • 世相を掴み、斬新で興味深いストーリーに目が離せなかった。厄介でデリケートなテーマを重苦しくなく描く手腕は秀逸。草桶夫婦やりりこ、リキらの会話が真剣である程、人間のおかしみ与えていた。

  • 代理母出産を大テーマにした生殖医療の話。
    テーマの重さのわりにテンポよく話が進みすぎて、登場人物のすべてが嘘くさい感じにうつってしまった。
    29歳、非正規雇用、奨学金の返済、と現代の問題を全て詰め込んだ結果、すこし歪みすぎた主人公が誕生したのかも。結末は想定の範囲内だったけれど、ぐらとかいう可笑しな名前をつけられて仕事もないシングルマザーに連れ去られた女児が不憫でならない。

  • 男バレエダンサーとイラストレーター夫妻
    40歳。不妊治療。子供ができない
    代理母に派遣女子28歳がなる
    双子を産む。男の子は渡し、女の子を抱いて一緒に暮らすことにした。

    ダンサーの母は遺産が息子の死後、妻が相続すると血縁のない妻の親戚にいくのを避けたいので代理母を薦めた

    代理母の報酬、1000万円を請求

    日本では認められてないので偽装離婚、偽装結婚。実家に結婚の連絡した時、元カレと寝てしまう。女性用風俗で買った男とも寝てしまう。酒を飲むのも禁止されていた。
    ダンサーの妻にはそれを知らせた。

    妻の友人、女春画家、処女に気に入られ
    大きな屋敷で産後は暮らす。毎日、ダンサー夫婦か会いにきた。

    ダンサーの前妻はダンサー。イラストレーターの妻は元ファン。略奪結婚。
    前妻はデンマーク人ダンサーと結婚
    Instagramに子供達の写真をアップ

    卵子提供50万円を派遣仲間から紹介された
    最終面接で代理母を依頼。300万円。
    派遣の月給14万円。ボロアパートの引越し費用を出してくれる。

  • この結末にはびっくり。
    まさか、ぐら(愛磨えま)だけ連れて出ていくとは。
    代理母出産、闇が深そう。
    学歴も才能もない地方出身のリキは北海道から上京してきて地味な病院の事務をしてカツカツの生活をしている。
    お昼がコンビニのおにぎり1個とカップスープのみ。
    あー手っ取り早くお金が欲しいと思ってもそれは当然のこと。
    元バレエダンサーの草桶モトとイラストレーターの悠子の代理母になってお金を稼ぐことに決める。
    私からみれば、この夫婦ものすごく良心的でリキにとってはいいクライアント?に思うけど、それを裏切る裏切る。
    契約を結んどいて、違う男性ふたりと関係を持って、妊娠したわいいけど、モトの子がどうかわからないって
    そんなひどい話しはなないと思うわ。
    いくら代理母だって感情はあるし、行動を規制されたらたまらないってあなた、お金もらってしてる仕事でしょ。
    しかも破格の。
    プロじゃないわ。
    そこを誰の子でも責任もって育てるって言ってくれた夫婦に
    後ろ足で砂をかけるようなことを…。
    自分が産んだ子を手放したくないってのはわかるけどさ。
    双子でよかったね。
    でもあの夫婦と姑があきらめるとは思えない。
    小説はそこで突然終わっちゃうんだけど、続きが読みたい!

  • ワーキングプアの主人公が、高額の謝礼金で代理母として有名バレエダンサー夫妻の子を出産する話。
    主人公が何を考えているのかちょっとわかりにくい。
    でも自分でも自分が何を考えているのかわからないタイプの人間なのかも。
    幼いようで冷静、無垢なようで計算高い。
    バレエダンサーの妻もよくわからない。
    こちらは知性的なようでいて多分実は衝動的で浅薄な人間。
    夫のどこが好きなのか、そもそも本当に好きなのかどうかも不明。
    桐野夏生の小説で共感出来たり好感もてたりする登場人物をみたことないなあ。

  • 最後の数ページで、そうきたか!と

    リキの中にずっとあったモヤモヤしたものがクリアになったんだなぁと思った

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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

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