機嫌のいい犬

著者 :
  • 集英社
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感想 : 46
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087753974

作品紹介・あらすじ

ある季節、ある一日、ある瞬間。十七文字のゆたかに広がる物語。言葉の不思議なコレクション220句。第一句集。

感想・レビュー・書評

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  • 小説家、川上弘美の句集。
    この句集を読み始めてすぐに好きと思った。
    句で読まれているイメージも良いけど、見た目、漢字とひらがなの塩梅(ちょっとひらがな多め)も好き。

    なんというか、半透明な感じ。

    サイダーの泡より淡き疲れかな

    という句があっていいなあと思ったけど、そう、本作はサイダーみたい。

    意味をとりながら読むと、ちょっと胸がちくりとする。またうっすらと透かし見える感情にひやりともする。
    好きな句はたくさんあるけど、ぱらぱらとページをめくって目にとまった句たち。

    ーーーーーーーーー

    海にゐる古船長のやうなもの

    はつきりしない人ね茄子投げるわよ

    名づけても走り去りたるむじなかな

    初夢に小さき人を踏んでしまふ

    口わろき鸚鵡を愛す寒さかな

    ぎやうさんの蝶にたかられ重し重し

    冷やかに天文台の屋根ひらく

    くちづけの前どんぐりを拾いましょ

    亀浮いてまた沈みゆく夏のくれ

    秋晴や山川草木皆無慈悲

    ーーーーーーーーーー

    あまりたくさん引用しても読む楽しみがなくなってしまうからもうよすけれど、こうして眺めてみると、作者のSF神話的な世界観が浮かびがってくる。

    あと、この句集を読んでいると自分も俳句を作りたくなってくる。良い俳句というのは、読んで思わず自分も作りたくなる句ではないのか。と偉そうなことを言ってみる。

  • 俳句について、どんな句が「名句」なのか、技術的に高いのか、ということはぜんぜん分からないのですが、「この句は好き!」「ピンと来る」「キュンと来る」「ずっしりする」「さわかさを感じる」などなど、心が動く句があります。
    そんな読み方で許して下さい。
    川上さんの句は、好きな句がたくさんあった。
    度肝を抜かれたのが、決然と洟をかむおじいさんの句でした。
    凄いよ、「決然と」だよ。

  • 川上弘美さんの句集(1994-2009)
    人に誘われて俳句を始めた当初からのものだとか。
    年別に収録されていて、説明はないものの春夏秋冬の順に並んでいることが分かる。
    句の数が多い年、少ない年、すっかり抜けている年、とくに決めごとはなく自由に書いている感じが、なんか良い。

    「五月雨や ゆがみてあをき ラムネ玉」
    「ポケットに 去年(こぞ)の半券 冬の雲」

    俳句ってどことなくとっつきにくい印象があったけれど、思いのほか日常に根差しているんだなぁ、と。
    暮らしの中でふと気づいたことを俳句にしてみる。そういうことから始めるのも面白いかも。
    川上さん自身も最初は「私が俳句なんて…」モードだったのが、始めてみたらすっかりはまってしまったようだし。

    勝手なイメージ、川上さんって趣のある旧い日本家屋に住んでいそうな印象で、この句集を読んでますますそれが深まった。
    (もしかしたら近代的な高層マンションに住んでるかもしれないけど。笑)
    小説「センセイの鞄」を彷彿とさせるような句も見つけた。

    私の知人でも俳句会に入っている人がいるけれど、同じ会にいるメンバーでも、俳句に対する思いはけっこう違うらしい。
    最近の、決まりに囚われない自由な句も良しとする人もいれば、きちんと決まりは守って真面目に作るべきだと言う人もいて。

    いずれにしても面白く奥深い世界。
    17文字で風景や思いを表す。そこに情緒が生まれるなんて、日本語でしか出来ない技なのかも。

  • 川上弘美の小説は何作か読んでいるけれど、俳句を読むのは初めて。
    見かけは可愛らしい小ささなのに切れ味鋭いナイフのようで、面白かった。
    しかし、私はここに収録された俳句を、俳句ではなく小説として読んでしまうなぁとも思う。
    私が俳句慣れしていないせいなのか、川上弘美がどうしようもなく小説の人であるのかは私には判断出来ないのだけど。
    「青ぬたや婚家の味は廃れさす」
    が一番好き。

  • いいとかわるいとかはわからないけど、俳句って楽しそう、と思った。
    最後の「俳句を、つくってみませんか。」でも紹介されてた「会ふときは柔らかき服鳥曇」は本当に恋の予感を感じる。わたしここしばらく毎日花柄のワンピースを着てる、予感を感じる?

  • 川上弘美の小説やエッセイに流れているシュールな世界観は、この短い17音の中にも濃密に現れている。
    ・はつきりしない人ね茄子投げるわよ
    ・春の夜人体模型歩きさう
    の2句は特に気に入っている。

  • 俳句の本。1994年から2009年までに川上さんが作った俳句の数々。
    大田垣晴子さんのような奔放さある句が意外だったし、他もいい感じに楽しい句ばかり。俳句をつくってみませんかのお誘いの文章があとがきにあったので読んでみた。そして納得、俳句作りで経験したことが、その後の作品作りの基礎になっているのでしょう。
    「読み手というものは、注意深く言葉を読んでくれる。 作者が思って みなかったところまで、読みとってくれ 無意識の奥までさぐってくれる。」
    なるほど。『神様』はそんな本でした。

    ( ・_ゝ・)< 指数えあらたに頭使う秋 

  • 中身を見ず、タイトルに惹かれ読んでみたら俳句でした。言葉の組み合わせが面白いですねぇ。俳句、久しぶりに読みました。

    ええと。事務員2年目の頃、仕事や出向の事でツラく、お世話になった先輩に仕事のグチ俳句を送っていました。何を書いたかは忘れましたが、89点と良い評価を受け、その時の俳句は先輩の机に飾ってありました。感想より自分の話が長くなってしまい、どうもすみません。

  • こういうのは基本的に好きだ。言葉遊びあり真剣な想いあり情景の切り取りありで、俳句は奥が深い。表題作もいいし、「決然として」の句や「茄子なげるわよ」もよい。すぐに読み終わる潔さも句集のいいところだ。

  • 小説を書きはじめると同時に句を書いていたのかーという川上弘美さんの一面を発見。小説は長い、仕上がらない、俳句はすぐに完成するではありませんか!の一文になるほど。創作活動にもバランスが必要なようです。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川上弘美の作品

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