からころも 万葉集歌解き譚 (小学館文庫 J し 1-1 小学館時代小説文庫 万葉集歌解き譚)
- 小学館 (2020年5月8日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094067729
作品紹介・あらすじ
万葉集の歌の数々が味わえる!新シリーズ。
日本橋の伊勢屋で奉公する助松には、父親の大五郎がいた。しかし、一年半前に伊勢屋の仕事で富山に出かけたまま、行方不明になっていた。父は、助松に日記を残していた。このことは決して他人に話さないように言われた。日記には和歌らしきものがいくつも書かれている。
伊勢屋の一人娘しづ子は助松より六歳上で、和歌が好きで賀茂真淵に学んでいた。そして、店の大切な客人である占い師の葛木多陽人も和歌に造詣が深かった。多陽人は京都生まれの京都育ちで、回りがぽかんと見惚れてしまう程の美男子だった。
助松は、二人に事情を知らせずに日記に記された歌の意味を少しずつ、教わっていた。
ある日、体調を崩した大友主税という若い侍を助けたことがきっかけで、しづ子に和歌を学びに主税が訪れるようになった。しかし、主税がしづ子に近づいたのは別の理由があったのだった。
その後、しづ子は密かに姿をくらましてしまう。
大五郎としづ子の失踪には、関連があったのだ。
日記に記された和歌の数々には、どんな意味があったのか。
一連の謎は解き明かされるのか――。
万葉集の和歌が面白さが判る、新シリーズ!
【編集担当からのおすすめ情報】
万葉集の和歌がたくさん紹介されていて、万葉集の奥深い世界に触れることができる小説です。
感想・レビュー・書評
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薬種問屋伊勢屋の手代の大五郎は、富山に出かけたきり行方不明になってしまった。残された息子の助松は、伊勢屋の小僧をしながら、父が残した日記の中にある万葉集の歌の秘密を探ろうとする。歌について教えてくれる伊勢屋の娘のしず子と占い師葛木多陽人との交流は面白いと言えば面白いのだが、万葉集の扱いの唐突さが何かねえ。いくら富山が大伴家持にゆかりの地で歌が盛んといってもなあ。事件も取ってつけた感がある。
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可愛らしい表紙と『万葉集謎解き譚』という副題からして日常系のノンビリした話かと思いきや、意外にもサスペンスタッチな話だった。
主人公は薬種問屋<伊勢屋>の小僧・助松、十歳。
彼は一年半前に富山へ仕事で出かけたきり行方不明となってしまった父・大五郎を探すため、父の日記について調べている。
大五郎が富山へ出かける前、誰にも見せてはいけないと言い残し助松に託したその日記には、万葉集の和歌が六首書かれていた。和歌について全く知らない助松は<伊勢屋>の娘・しづ子と<伊勢屋>の客で陰陽師の葛木多陽人(たびと)にそれとなく和歌の意味を聞くのだが、父の行方や失踪の理由にはなかなか辿り着かない。
そんなある日、たまたま出会った大友主税という武士とともにしづ子が行方不明になってしまう…。
助松が健気で可愛らしい。最低限の読み書き算盤は出来るものの、和歌の世界などまるで分からない彼が父親を探すために懸命に勉強しようとしている。しかも父親に誰にも見せるなと言われているため、色々取り繕いながら教えてもらっているのだが、葛木にはバレバレ。
嫌味で高飛車なところもある葛木だが、助松の深い事情を無理に突っ込むことなく和歌を教えてくれるところは好感が持てる。
ところがしづ子が拐かされてから、話がきな臭くなってくる。しづ子視点の話を読むと、単なる拐かしではなく大五郎の行方不明と繋がっていること、しづ子もまた真実を知りたいと願っていることが分かる。同時に助松が置かれている状況にも不穏なものを感じる。
しづ子もまたちょっと勝ち気なお嬢様なのだが、基本的には優しさと誠実さを持っていて、助松のこともとても気にかけている。同時についツンケンしてしまう葛木のことも。
副題通り和歌が謎解きの手掛かりになっているのが楽しい。しかし4500首もある和歌の中から手掛かりとなる和歌を提示する大五郎に感心する。生半可な知識では出来ないことだけに大五郎についてますますさらなる疑問や興味が湧く。
大五郎が行方不明になった理由、大友主税の役割など、なかなか面白かった。同時に助松が父親に再会出来るのか、その後はどうなるのかも気になりながら読んだ。
4500首もあるという万葉集の和歌を記憶したり書類をあっという間に覚えたり、陰陽師として様々な術を知っていたりという、葛木の頭脳の部分ばかりが描かれてあった中盤から一転、終盤の山場では武闘派の一面も見られる。なんだかスーパーマンのよう。
全てが片付いた後、どうなるのかと心配していた助松の生活だが一応落ち着きを取り戻している。
一応というのは、まだ父・大五郎には秘密がありそうなのだ。しづ子も一抹の不安を抱えている。そして<伊勢屋>の商売も今後どうなるのだろうという心配もある。
調べたら続編があるようなので、そちらも読んでみることにしよう。 -
日本橋薬種問屋・伊勢屋の手代、大五郎は、店の手代二人と、薬の産地として有名な富山へ、仕入れ先の薬種問屋・丹波屋を訪ねて、旅立った。
ところが、大五郎は、行方不明となってしまった。
一人残された息子・助松は、伊勢屋の小僧となって、1年半の年月が過ぎた。
父・大五郎から、富山に立つ時に「誰にも見せてはいけない」と言われ預かった日記に、万葉集の和歌が綴られていた。
助松は、父親の行方を調べる為に、和歌の意味を、伊勢屋の娘・しづ子に教えてもらった。
ところが、今度は、しづ子が家を出て行ってしまった。
占い師であり、陰陽師であり、不思議な技や術も使う・葛木多陽人の助けを借りて、十年前の富山での出来事を、解決する。
幸にも、二人は無事に、戻って来たが、大五郎には、まだ、何か、秘密があるらしい。
次作品に続く。
隠形の術
「常に日、前を行き、日、彼を見ず。人のよく見る無く、人のよくとらえる無し。
オン、アニチャ、マリシエイソワカ」
これ試してみたい。 -
伊勢の海の磯もとどろに寄する波 恐【かしこ】き人に恋ひわたるかも
笠女郎
万葉集の歌数は約4500。その万葉歌のおもむきや背景を、時代小説の謎解きの伏線にしたシリーズが始まった。書き手は、「更紗屋おりん雛形帖」などで知られる篠綾子であり、知的好奇心をくすぐられる。
ときは、国学者賀茂真淵が活躍する江戸時代。日本橋の薬種問屋「伊勢屋」は、富山の反魂丹【はんごんたん】という薬を扱い繁盛していた。小僧の助松は、忙しく働きながらも時々涙をこらえている。なぜなら、父で伊勢屋の手代の大五郎が、1年半も行方不明だからだ。
手がかりとなるのは、大五郎が旅立つ前に助松に預けた1冊の帳面。「誰にも言っちゃならない」と釘をさされたその帳面には、万葉集の6首が書かれていた。
歌の意味がわからない助松に、伊勢屋の娘しづ子が丁寧に教える。そんな利発なしづ子は、客で陰陽師の葛木多陽人【たびと】を妙に意識していた。狂歌を作る多陽人は、誰もが立ち止まる美貌の京男なのだ。
歌の解釈は簡単ではないが、しづ子は模範的に、多陽人はかみくだいて説明してくれるので、読者もすんなりと入っていける。
さて、ある日、しづ子が行方不明になり、大五郎の失踪と重ね合わされる。掲出歌は、大五郎の失踪に「伊勢」屋の主人が関係あることを匂わせており、助松は青ざめる―。
健気な助松の成長も描かれ、早くも続きが気になるシリーズの登場である。(2020年6月14日掲載) -
薬種問屋・伊勢屋の小僧・助松が、残された日記を元に、失踪した父の謎を追う。
…と言ってもまだ12歳だから、大人の手助けが必要。
手がかりは、父の日記の中に記されている、万葉集の歌。
伊勢屋のお嬢さんのしづ子や、謎の美形陰陽師・葛木多陽人(かつらぎたびと)に、歌の意味を教えてもらいながら、助松は次第に万葉集に興味を持っていく。
しかし、父は意外な事件に絡んでいて…
もはや万葉集オタクみたいなしづ子お嬢様。
万葉集を語ると急に早口になるとか、ある古書店主を思い出す。
そして、真面目な歌はつまらない、と言い放ってはしづ子の不興を買い、政治批判の狂歌を作ってふざけてみせる、葛木多陽人。
だが、意外に頼りになる人物であり、助松も慕っている。
万葉集の歌が暗号に使われているのが面白い。
私の好きな、有間皇子の歌も出てきて、しみじみ思いを馳せた。
そして事件は終わっているようで終わっていない?
父にはまだ秘密があるのか?
助松の成長も楽しみで、シリーズとして長く続いてほしい。 -
子供の頃、小学〇年生の付録についてた百人一首でよく遊んだ。遊びながら自然に頭に入ったのか、百人一首で授業の時は知ってる!感いっぱいだった。
さてこちらは万葉集(四千五百首ほど !! 「令和」はここからでしたっけ?)今は使わない言葉-言の葉と言うべきか-が、しづ子さんの解説で目の前で動き出す。
そして事件は……助松君頑張ったね。万能に見える葛木さんの弱点はなんだろう -
手がかりが和歌である必要性が感じられずに無理やり感漂いますが、内容は読みやすく助松も可愛く楽しく読めました。