未盗掘古墳と天皇陵古墳

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784096263228

作品紹介・あらすじ

発掘すべきか否か? 古代のタイムカプセル

古墳は、その大部分がのちに掘り返され、埋葬品の多くが持ち出されています。それを「盗掘」といいます。しかし、数年に一度、盗掘されていない古墳が見つかることがあります。それが「未盗掘古墳」です。
未盗掘古墳は、つくられた時の状況がそのまま保たれています。そのため、そこに葬られた人物や葬った人びと、一緒に葬られた品々、葬る方法や技術、そしてそれを生み出した社会などについての豊かな手がかり(情報)を、万全の形で入手することができます。
この本は、そのような未盗掘古墳の説明に始まり、著者が発掘に関わった滋賀県の雪野山古墳と岡山県の勝負砂古墳という二つの未盗掘古墳について、発掘の経緯や発掘によって分かったことを紹介します。そこから得られる情報量は、盗掘されている古墳と比べてはるかに膨大なのです。
このように古墳の発掘は、古代社会を知るのに可欠な営みですが、近年では「より技術が発達しているであろう未来の考古学に託すため」という名目から、古墳を発掘しない傾向が強まっています。それに対して著者は、「掘れない古墳」の代名詞である天皇陵古墳の問題も挙げて、古墳を発掘することの学問的・社会的意義を論じます。

【編集担当からのおすすめ情報】
著者の松木先生は、数年に一度しか発見されない未盗掘古墳をこれまでに二度も発掘しています。未盗掘古墳のことを誰よりも知る考古学者だからこそ書ける、「未盗掘古墳の魅力」が満載です。

感想・レビュー・書評

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  • 古墳発掘の歴史。未盗掘古墳の価値=どの遺構のどの場所にどういった位置関係で異物が置かれているのか、考古学的情報。
    トレンチを設けるルール、築造時の墳丘面、流土と盛土の区別、発掘は掃除。
    二種類の埋葬施設、当初は竪穴式(墓壙と棺)、朝鮮半島由来の横穴式(羨道、玄室、石棺)が5cに九州に出現し6cに各地に広まる。
    新羅王墓の積石木槨墳は石の山なので未盗掘が多い。百済の武寧王は奇跡的に未盗掘で発見。中国の買地券の風習による墓碑。日本では個人の墓というより共同体の祀りの場として長の墳墓を築く。
    武寧王の棺がコウヤマキ(日本列島でしかとれない)で作られていた。副葬品の鏡は獣帯鏡形式、長江流域で好まれた様式(南朝)。
    日本での学問意識を持った発掘は、1692、下野の下侍塚古墳と上侍塚古墳、記録を取り再び埋葬。
    1871(明治4)の太政官布告、古器旧物保存方。1873、江田船山古墳の発掘。
    1881、佐味田宝塚、1885、新山。大量の銅鏡。家屋文鏡、直弧文鏡など、舶載品から列島固有の製品へ。
    椿井大塚山、備前車塚での三角神獣鏡の発見。
    威信財は3c中頃から4cは鏡が中心、5cは武具、甲や冑、倭王武の頃?
    1989、雪野山古墳(3c後半から4c初頭と推定)。棺に配置された副葬品、最高ランクが鏡(内行花文鏡 国産)、玉杖頭、腕輪。それより外側に三角神獣鏡。青銅製の飾り矢。
    弥生時代の古い伝統を受け継いだ列島産の鏡のほうが中国産の鏡よりも上の扱い。
    復刻品の威信財を配る、大和政権。

  • <目次>
    第1章  未盗掘古墳とは何か
    第2章  二つの未盗掘古墳
    第3章  もし天皇陵古墳を発掘すれば
    第4章  なぜ古墳を発掘するか

    <内容>
    古墳研究の第一人者の一人である著者が、古墳の発掘について、自分の体験を色濃く綴りながら(第2章はほとんどが発掘した2つの古墳の体験談)、発掘することの意義と発掘しないことの意義も記しながら、歴史研究の大事さを問う本(ちなみに著者は「おわりに」で、「歴史」と「歴史学」の違いも説明している)。自分は、古墳に限らず、きちんとした技術を持っている(使える)ならば、発掘すべきだと考える、「歴史学」的な発想の立場だ。したがって天皇陵も掘るべきだと考えている。個人の主義・思想よりも、未来の歴史展望を期待したいからだ。
    単なる古墳の発掘談や古墳時代の事実表記ではない本で、なかなか考えさせるものである。

  • 古墳の発掘ということの理念と科学的な実際が丁寧に解説されている。 感情論や政治的思惑に流されずに「破壊」ではない「発掘」することの意義がよくわかる。

  • p.3 日本に現存する古墳の数はおよそ16万基。神社の数が約8万、コンビニエンスストアは約5万。
    p.46 百済の武寧王と日本列島と結びつきは強かったらしい。継体大王の武寧王が送ったの銘文のある鏡もある。日本書紀には、武寧王が九州(筑紫の各羅島)で生まれたとの記述がある。
     武寧王陵から王の木棺が日本列島でしかとれないコウヤマキであることが判明した。これは倭人が弥生時代から棺の木材として愛用。
    p.124 「勝負砂古墳」と改称したが、最初に誤って「勝負坂」と仮称した近隣の研究家がそれを不服とし、市会議員を使ってまでクレームをつけてきたのは閉口した。

  • とても読みやすい。考古学に対して一般人が持ってる誤ったイメージを誠実に正している。
    考古学の道に進みたい高校生なんかが読んでもいいかも。

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著者プロフィール

松木 武彦(まつき・たけひこ)
1961年愛媛県生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士課程修了。岡山大学文学部教授を経て、現在、国立歴史民俗博物館教授。専攻は日本考古学。モノの分析をとおしてヒトの心の現象と進化を解明、科学としての歴史の再構築を目指している。2008年、『全集日本の歴史1 列島創世記』(小学館)でサントリー学芸賞受賞。他の著書に『進化考古学の大冒険』『美の考古学』(新潮選書)、『古墳とはなにか』(角川選書)、『未盗掘古墳と天皇陵古墳』(小学館)『縄文とケルト』(ちくま新書)などがある。

「2021年 『はじめての考古学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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