予定日はジミー・ペイジ (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101058276

感想・レビュー・書評

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  • 面白かったー。
    赤ちゃんができてから生まれるまでの妊婦さんの話。エッセイのような。そうだよね、計画妊娠じゃなかったら、急にお腹に別の生き物が入ってるのはびっくりだしどうしてよいのか分からないかも。だから十月十日かけてお腹で赤ちゃん育てて、自分もお母さんになる準備をして、やっと出てくるころには会いたくてたまらなくなるんだね。とてもリアルな心情で描かれてると思う。たまにクスっと、そして最後はホロリと。出産後の育児奮闘も続編で見てみたい。

    ちょうどこないだ妊娠が分かった友達に教えてあげたい本。うん、旦那にも読ませたいかも。

  • 社会が望む、「理想の母親像」
    その1.無条件に子どもを愛している。
    その2.母性本能たっぷり。
    その3.時には厳しく叱りながらも、大抵は褒めて、上手に子どもを育てられる。
    その4.甘い歌声で子守唄を歌い、献身的に…

    …はーもう、ちゃんちゃらおかしいっす(笑)ってね。
    改めてそう思いました。
    いや、思えました、かな。

    **

    大抵の女性は、「その時」まで、「一人で」生きています。
    家族や旦那、恋人、友達はいるけど、でも
    何を食べて、いつ寝て、どんなものを買って生きていくかは
    その本人の選択の連続。
    その殆どが、「自分だけのため」のもの。

    でも「その瞬間」からは、世界が一変する。
    食べるものも睡眠時間も、着るものも買うものも
    お腹の中の「小さくて不安定なもの」を、何よりも一番に考えなければいけない…。

    ぽんっとスイッチが切り替わるみたいに
    母性本能が湧き出てくるものじゃないんですよね。
    機械じゃないんですから。
    母親である・ない以前に、その人は
    一人の人間で、一人の生き物なんですから。
    それこそ、何十年か前にはその「小さくて不安定なもの」、だったんですから。

    でも、本作の主人公「マキちゃん」はそこに甘んじない。

    「はい、今日から母親ですよ」と言われても、首を傾げる。
    あれ?なんだか嬉しくないかもしれない。
    母親らしく、ばんざい、ようこそ!って喜んであげられない。
    なんだかごめんね、お腹のひと。

    そう思いながらも、彼女はだんだんと「母」になっていく。
    悩んで、落ち込んで、怒って泣いて、考えて。
    あがったり、さがったりしながら、だんだんと「母親」になっていく。

    煙草を吸いたい、お酒だって飲みたい。
    可愛い服だって着たい。
    旦那と身軽に、好きなところに行きたい。

    その気持ちは変わらなくても、
    母親としての自覚が少しずつ、すこうしずつ育っていく。
    赤ちゃんと一緒に、大きくなっていく姿が
    くすぐったいような嬉しさを感じさせてくれた。

    でも、この作品の何よりの魅力は
    やっぱり旦那さんのさんちゃんにあると思う。
    彼の穏やかな人柄と、大きな器は本当に素敵。

    彼も別に、「完璧な父親像」ではないんです。
    泣き虫で、気弱で、のんびり楽天家。
    頼りがいがあるか、って言ったら全然ないし
    マタニティハイみたいに、ベビー用品を買い漁っちゃうような人。

    でも、本当は誰よりも強い。
    柳のようにしなやかで、
    不安定なマキちゃんが怒りや不安をぶつけても
    受け止めて、時には流して、マキちゃんのそばにそっといる。

    激しい喧嘩のシーンはないんだけど、
    きっとそれはさんちゃんが「喧嘩にしないでいてくれた」から。
    あぁ、いいなぁ。こんな旦那さん。
    素直にそう思いました。


    いつか、ほんの少しだけでいいから
    三人になったこの家族のお話が読んでみたいな。

  • 日記風で読みやすく、作中の時間の経過とともに私も妊婦の気持ちになれる気がした。ただし見た夢の話が多いため、リアルな実体験・あるあるエピソードというよりかは心情面が大半を占める。
    不安や理不尽さ、怒りの反面、世界が新鮮に見えてくる感覚や誕生日・名前の意味、過去の恋人への感情の変化。これで作者が出産していないというのだからすごい。その上でラストは「これはあくまで小説」と言いたいメッセージ性を感じた。

  • 妊娠したので、作家が書いた妊娠エッセイが読みたくなり。戸惑いや父親に対する感情など共感できるところが多かった。毎日の食事や海の描写が好きでした。最後までエッセイだと思っていたので笑ったり泣いたりしながら読んでいたが、あとがきで小説だったことを知り驚く。小説家ってほんとうにすごい。読めて良かった。

  • 非常によかった。
    わたしは妊娠・出産を経験していないのですが、これを読んだら経験してみたくなりました。
    と、書くと、妊娠や出産を推奨している本のように思うのですが、そうじゃない。(こともないんだけれど)

    「妊娠ってすばらしいよね」「子どもを産むのって幸せだよね」
    それって、確かにそうなんだけど、それが全てではない。
    だけど、世の中には不妊で悩む人もいるし、「せっかく授かったのに」「悩んでいる人もいるのに贅沢」なんて言われてしまうと、「産みたくない」とか、「子どもができて嬉しくない」とか、言いづらい雰囲気がある。
    もちろん命は大切だし、堕胎も気軽に行っていい行為だとは思わない。
    だけど、それも一つの選択肢なんだと、自分の善悪の価値基準を他の人に押し付けてはいけないんだと、そう改めて思います。

    妊娠や出産に対する考えがマイノリティで、それに引け目を感じている人を肯定してくれるような本でした。

  • 出産した時の追体験をした感じ。

  • 落ちこぼれと思っていた
    妊娠の実感が湧かない妊婦が
    自然に出産や赤ちゃんを受け入れ、
    出産に臨む。

    こう思わなくちゃいけないということはなく、
    自分がどうしたいか、
    どういうふうに日々を感じて
    どんなふうに未来を感じるか、
    感情の赴くままに
    流されるように、
    それでも前に進んでいる。

    変化がない毎日のようで
    じつはドラマチックな変化を経ている。
    ゆううつなようで
    じつはとてつもないハッピーが隠れている。
    未来が分からなくて不安になるけど
    分からなくたってきっと大丈夫。

    わたしは明日で妊娠6ヶ月を迎える。
    わたしの夫も
    こんなふうにワクワクしてくれるだろうか。
    楽しみなような心配なような(笑)

    それにしても、
    マキちゃんが最後までコーヒーやカフェオレを口にしているのには、ちょっとビックリしたけど…。


    「子どもを産むということは、時間を手に入れることかもしれない」
    「子どもを産んだとたん、それが目に見えるようになる」(p.201)
    「最後の次は、はじめてなんだ」(p.250)

    子どもが生まれると
    生活が一変する。
    不自由なところばかりに気をとられるけど、
    きっとそればかりではなくて、
    きっと幸せに彩られた毎日がそこにあるはず。
    大変なことも
    幸せなことも
    きっと今までとは尺度が一変するに違いない。
    今はまだ分からないから、
    心配になっちゃうけど、
    楽しみにしていたいと思う。

    171026

  • 父親との確執をかかえた妊婦のはなし。
    妊娠中に読みました。

    わたしもマネして、自分の出産予定日を検索してみた。
    だいすきなミュージシャンと同じ誕生日でした。
    テンションがあがった。
    (結局、予定日通りではなかったけど)

    妊娠中って、こうやって、些細なことにも意味を持たせたり、
    特別な設定をしてみたり・・・ということが日常だった気がする。

    この小説を発表したあと、角田さん出産おめでとうと方々から言われたそうです(あとがきより。実際、著者は出産していません。)。
    そう思ってしまうくらい、この本は、妊婦さんのじんわり暖かい気持ちが書かれているのです。

  • 妊娠してないのにこんな小説が書けるのかぁ。それがプロかぁ。すごいなぁ。ちゃんと寄り添ってもらったもんな。
    いまここにいるだけでふたり。わたしはひとりじゃないんだ!という言い知れぬ幸福と、この未知なる状況への不安。ひとりじゃないのに誰ともこのいまを共有できないという紛うことなき「ふたりぼっち」感が、ひたすら妊婦文学なりエッセイなりを読むように仕向けているんだろうと、この小説読みながら強く思った。だって、何でもないとこで泣く。あーわたしこういうのに共感してほしかったんだーって気づく。言葉を見るまで気づけない。それくらい、静かに錯乱してるんだと思う。真剣なんだ。ほぁーすごい。これを、妊娠せずに書く角田光代すごいー!

  • 本で泣いたのは久しぶり。

    主人公のマキに共感と愛しさを感じる。

    旦那さんのさんちゃんの人間性やリアクションがいちいちツボ。

    あー読んで良かった。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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