- Amazon.co.jp ・本 (172ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101121185
作品紹介・あらすじ
笑う月が追いかけてくる。直径1メートル半ほどの、オレンジ色の満月が、ただふわふわと追いかけてくる。夢のなかで周期的に訪れるこの笑う月は、ぼくにとって恐怖の極限のイメージなのだ-。交錯するユーモアとイロニー、鋭い洞察。夢という"意識下でつづっている創作ノート"は、安部文学生成の秘密を明かしてくれる。表題作ほか著者が生け捕りにした夢のスナップショット全17編。
感想・レビュー・書評
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著者が見た不可思議な夢。小説の元ネタとして記録された奇怪な物語の数々。小説とエッセーが混じりあった混沌。昭和50年刊行。
「ルポ 誰が国語力を殺すのか」で紹介されてた「笑う月」を読んでみたくて手に取った。「笑う月」は国語の教科書によく掲載されているらしい。
「睡眠導入術」「笑う月」「たとえば、タブの研究」「発想の種子」「藤野君のこと」「蓄音機」「ワラゲン考」「アリスのカメラ」「シャボン玉の皮」「ある芸術家の肖像」「阿波環状線の夢」「案内人」「自己犠牲」「空飛ぶ男」「鞄」「公然の秘密」「密会」の17篇。
粗削りなアイデアの断片ばかり。膨らませば面白いミステリーやSF、ファンタジーになりそう。「第四間氷期」以外の安部公房作品も読んでみようかな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
夢とは論理では辿り得ない迷路を潜り抜ける方法。
サッカリン、祖父殺し、アリス、廃物・・・全く辻褄の合わない現象の連続ですが、説明不能の面白さでした!
訳がわからないということは限りなく自由だ。 -
再読。
「藤野君のこと」だけは思い出すと読みたくなるので、たぶん5読目くらい。
何故か(本気で分からない)藤野君が気になる。
最初に読んだのはおそらく大学受験の頃で、今もやはり気になる。
好きとか嫌いとかそういう感情ではなくて、おそらく私は藤野君に降伏してしまっているのだ。
会ったこともないのに。
文中の悲しい取り巻き達のように。
それにしても安部さん(なんか違和感)の夢は怖い。
小説もこんな空気だった。
だんだんついて行けなくなって途中でやめてしまった本が多かった。
なんというか沼なのだ。たぶん。
のみこまれたら二度と這い上がれなくなりそうな沼。
そんな気がしてきた。
でも、今年は再チャレンジするつもり。 -
ダイダイ色の月が笑いながら追いかけてくる。恐怖の極限のイメージ。
安部文学の秘密に迫る17の「夢」絵巻。
禁じ手「夢の記録」が示す異世界は、あり得ないほど遠く、心落ち着くほど親近感湧くクリエイティブ。
船上でのサバイバルを描く『自己犠牲』が大好き。 -
安部公房がいかにして物語を編むのか、創作の舞台裏をみるような一冊。
彼の紡ぐ世界は、書こうと思って書けるようなものでない。
ピカソの絵をみて、自分でも描けるのではないかと言う人がままいる。しかし、実際描こうとすると、途端に筆が止まるのではないか。描いてはみたものの、「なにか」が違う。彼の絵はデタラメに描いたのでは真似できない、「なにか」を備えている。だから人心を揺する。
例えはピカソでなくてもいいのだが、安部公房の作品の凄みは、ピカソのそれと似ている。意気込んで筆をとってみても、意図した途端に死んでしまう世界。彼はそれに命を吹き込む。それができる作家なのだ。今まで思ってもみなかったことだが、彼の編む世界に欲情した。なんてセクシーなんだろう。 -
再読。夢を「意識下で綴った創作ノート」とし、記録した随筆兼短編小説?。現実世界から夢の中へ突入し、不条理不可解な世界が綴られる。ある程度安部公房作品を読んでいると某作の元ネタだ、裏話だと分かる話も多いので他の小説を読んでからの方が楽しめると思う。
記録された夢は「あるある」な夢から、無意識の願望欲望だとかの現れだろうか…と想像するしかない荒唐無稽でよく分からない物まで。安部公房作品の不条理、自分だけが置いてきぼりで何も分からない、あのいたたまれなさは夢の中で経験する体感と近いよな…とも思ったり。 -
初めて読んだ安部公房の本
この本が最初でよかったわからないけれど短編でサクサク読めた
逆説的な表現が多くてこいつ好きな子いじめるタイプだと思った -
「赤い繭」という短い話を読んだ。
それで、ふと「鞄」を思い出して、読み直してみようと思ったのだった。
安部公房は、よく分からない。
けれど、いつもその分からなさの中に、通じるものがあって、自分にとって特別に至ってしまう。
「笑う月」
私はよく夢を見る方なので、誰かの見る夢の話にも興味を惹かれる。
花王石鹸のような月に、ただふわふわと追いかけられる夢。怖い。
今日、あんな顔を持つ月のイラストはないよね。
「夢を書くのに適したスタイルで書けない夢は、夢としての価値もない、という簡単な事実である。」
まず見なければならない。
でも、見たから書けるわけではない。
見たように書くことの中に、捨てるいさぎよさが必要だ、とある。
面白い。
「公然の秘密」
泥の中から這い上がる化石の?腐りかけた仔象。
見世物となり、食べ物としてマッチを与えられ、最後には燃えてしまう。
「当然だろう、弱者への愛には、いつだって殺意がこめられている。」
最近のニュースの中で、この仔象たりえる人を、ふと思いつく。
傷付き、飢えた仔象に、取り囲む多くの人は今、固唾を飲んで「何をやるか」迷っているのだろう。 -
短編なのでスイスイ読めるが、独特の世界観に難渋。著者は頭が良すぎて、我ら凡人には理解できない思考回路のような気がする。
氏が創作する過程が垣間見えたのは非常に楽しい。 -
自己犠牲