- Amazon.co.jp ・本 (569ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101210520
作品紹介・あらすじ
父は戦争孤児だった。満州で家族と生き別れ、中国人として育てられた。文化大革命の嵐が吹き荒れるさなか、自力で祖国日本への帰国を果たすが、それは自分を守り、育ててくれた、優しい養母との長い別れも意味していた。父の半生を知りたい。21歳の秋、私は中国へ旅立った──。家族の歴史と運命を描き出し、戦争と人間の真実に迫る。圧倒的評価でノンフィクション賞 3 冠に輝いた不朽の傑作。
感想・レビュー・書評
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筆者は、本書の最終章の最後の部分で、この本の物語を総括して、下記のように書いている。
【引用】
昔、日本が負けた大きな戦争があり、牡丹江を渡ってやってきた一人の日本人が、中国人の夫婦にもらわれて、成長し、本当の両親のもとへ帰っていった物語は、いまでも、あの小さな村で、伝説のように語り継がれている。
そんな父の娘に生まれたことを、いま、私は心から誇らしく思う。
【引用終わり】
筆者の祖父は太平洋戦争時、満州での軍人であった。祖父の子供、すなわち、筆者の父がまだ幼い頃に戦争は終わり、日本は負けた。満州にはソ連軍が攻め込んできて、かの地の日本人はとても苦労をした。筆者の祖父もシベリア抑留を余儀なくされた。日本人であるだけで危険な状況の中、筆者の父親は親と離れて中国人にあずけられる。幸いに、養母にひきとられ貧しいながらも教育を受けながら育つ。この頃、筆者の祖父母は、それぞれ、日本に帰国することが出来、愛媛県の八幡浜で新しい暮らしを始める。
本書は、筆者の父親が中国で養母のもと、どのように育ったのか、そして、残留孤児の先駆けとして、日本にどのように戻り、日本でどのように暮らしたのかを記録したノンフィクションである。筆者自身も中国の、昔の満州地方の大学に留学し、中国語を習うとともに、父親を育ててくれた親族との交流を深める。
戦後間もない時期の満州での日本人は大変な思いをしたし、また、筆者の父親は、中国の戦後の、例えば、大躍進運動や文化大革命といった混乱の中を生き抜いた。そのように、一人の日本人の子供が中国で育ち、日本に帰国し、日本人と結婚し、筆者のような子供をもち、その子が、一家の物語をノンフィクションにまとめる、というのは、それ自体が一つの奇跡であると感じた。
こういった奇跡の物語に対しての、日本という国の対応に、筆者は、また、多くの関係者は深い不満を抱えている。
【引用】
軍人として「お国」のために戦い、シベリア抑留までされながら、帰国後は長い間日本の軍人としては扱われなかった祖父と、中国に残された日本人としてその半生を中国で生き、帰国後は次第に国への不信感を募らせていった父。戦争が生んだ悲劇、という言葉で片付けるにはあまりに重い現実だった。そして、その二人の人生があったからこと、私は、いま此処にいる。
【引用終わり】
そういう意味では、本書の題名は「あの戦争から遠く離れて」であるが、実際には「遠く離れて」はいない。本来、「あの戦争」の落とし前をつけるべきであった国に代わって、生き抜いてきた人たちの物語である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日経新聞に先日寄稿されていた文章が、人柄の素晴らしさを感じる内容であったので、どんな本を書いていらっしゃるのか調べてたどり着いた本。
残留孤児である父親が、戦中戦後における中国のあゆみと共に、その激流のなか、どのように命を繋げていったのか丁寧に書かれていた。
今の日中関係について、お父様からはどのように見えているのだろうか。 -
心が大きく揺さぶられる深く、重く、悲しく、でも温かく、優しい素晴らしい作品でした。
満州で家族と生き別れ戦争孤児となった著者の父親の半生を著書が中国留学の経験を通して、知り、感じ、中国の義理の家族との絆も深めていきます。
著書の父・城戸幹さんは日本の国としての残留孤児の帰国が始まる前、日中国交正常化前に、ものすごい苦労と困難を乗り越えて自力で両親を探し、帰国されました。
戦争によって筆舌に尽くし難い苦難があり、同時に城戸幹さんを心から大切に育ててくださった中国のお義母さん、親戚、支えてくれた友人たちがいて、その全てに心打たれます。
著書が留学中に父親がかつていた町を訪れ友人たちに会い、「文革のとき、日本人と一緒にいて、怖くなかったんですか?」と尋ねた時、「怖くなんかあるもんか。友達は友達じゃ。民族が違おうと、心は通じているんだ」と答えた父親の友人の言葉。
日本に帰国が決まり育ての義母と別れる時、別れ難くお互い泣き続けながらも「行きなさい」と言った育ての義母の言葉。
忘れられません。
そして、著書の温かく柔らかい文章が心に染み込みました。 -
23.11.4(土)ジュンク堂「書店員がいま一番売りたい本2023」で見かけ、図書館で予約、23.11.9借りた。残留孤児として中国人養父母に育てられたけど、「日本鬼子(リーベングイズ)と蔑まれた。こんな話は山ほどあっただろう。中国人養父母の愛情の深さに感動。養母は、日本人が満州から逃げる途中、橋の上から川へ子供を投げ捨てる姿に愕然としたそうだ。そんなこともあったんだ、、、どんな気持ちで投げ捨てたのか、計り知れない。
養母との別れのシーンは泣けた、、、
23.11.13読了。569ページだけど、一気に読めた。残留孤児のニュースは何となく覚えてるけど、今まであまり詳しく知ることはなかった。そういう意味でもこの本に出会えて本当に良かった。 -
プロローグ ロング・アンド・ワインディングロード
第1部 家族への道“父の時代”(遠い記憶;失意の底から;心、震わせて;幾つもの絆)
インターミッション
第2部 戦後の果て“私の時代”(父の生きた証;傷だらけの世界;歴史を生きる者たち;満州国軍と祖父;運命の牡丹江)
エピローグ 精神のリレー
第39回大宅壮一ノンフィクション賞、第30回講談社ノンフィクション賞、黒田清JCJ新人賞
著者:城戸久枝(1976-、愛媛県、ノンフィクション作家)
解説:野村進(1956-、東京都、ノンフィクション作家)