ごきげんな裏階段 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 60
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  • Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101237350

感想・レビュー・書評

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  • 2013 2/26

  • 『サマータイム』を読んだあと、図書館にあったのを借りてみた。佐藤多佳子の初期作品集。アパート「みつばコーポ」の裏階段に、フシギなイキモノがあらわれる話が3つ。

    こういうヘンなものと出会うのは子どもだけかというとそうでもなくて、親の目にも見える。そこが新鮮。子どもも大人も、ヘンなイキモノと過ごした時間の後で、ものの見方とか行動とか、ちょっとずつ変わっている。そんな話だった。

    第1話は「タマネギねこ」。学とくるみの306号室にはいりこんだノラ猫は、なぜか生タマネギをかじる。両親には飼えないといわれ、学は裏階段にノラを放す。ある日、裏階段にはうじゃうじゃとタマネギが鈴なりで、ノラがせっせとたまねぎをかじっていた。けれど、10分後にお父さんをひっぱっていったときには、タマネギもノラもすっかり消えていた。

    そして306号には子猫のからだにタマネギの頭がついたイキモノがあらわれた。猫のようにミューミュー鳴きもするが、このタマネギ猫は人間の言葉もしゃべる。306号にいついた猫は、くさりかけたタマネギのようなたまらぬにおいを発しては、シャンプーされ、そのたびに小さくなっていった。大福ぐらいになり、ビー玉ぐらいになり、シロアリぐらいの大きさになって… オニオンスープにぽちゃんと落ちて、それきり猫の姿は消えてしまう。

    次の日、裏階段にいた金茶の子猫は306号に連れ帰られ、ノラが戻ってきたとみんな大喜び。学の母さんは「まあ、なるようになるでしょう」「ノラをないしょで飼ってみましょうよ」と言うのだ。管理組合の理事長・有沢のおばばの目をぬすんで。

    第2話の「ラッキー・メロディー」では、笛を2本もった、しゃべる蜘蛛があらわれる。両親の旅行のあいだ、212号室のおじさん宅に居候している一樹は、下手なリコーダーの練習をよそでやれと言われて、裏階段へ。そこで練習していたら、蜘蛛から「へたっぴ」と言われてしまう。蜘蛛は、笛の吹き方を教えてやろうかと言い、実際に自分が笛を吹いてきかせる。

    一樹の音楽のアリババ先生は、なんとそのアパートの管理組合の有沢のおばばだった。「ちょっとウチへいらっしゃいよ。笛てあげます」と言われて、一樹はしぶしぶアリババ先生の部屋へ。「練習しないから下手なんじゃなくて、練習しても下手なのかね…」と一樹の練習をみてアリババ先生はつぶやく。

    笛吹き蜘蛛に手伝ってもらって、笛のテストはうまくいった。だけど、先生をだましたようで気分がわるい。両親が帰ってきて、一樹は家へ戻り、蜘蛛は裏階段に戻った。いやみな蜘蛛は「またテストに協力してやろうか?」と言うのだが、一樹はリコーダーをせっせと毎日練習している。今度のテストまでにはなんとかあの蜘蛛と同じくらいうまくなってやるのだ。

    第3話「モクーのひっこし」では、とうの昔に使われなくなって蓋をしてあったアパートのダストシュートを、ナナとパパがこじあけたら、そこから「煙男」があらわれる。「腹がへった、煙草の煙が食いたい」とさわぐ煙男に、パパは煙草に火をつけて、フカフカと煙をはいてやった。

    アパートの住人も次々と禁煙して、どこも魚なんか焼かなくなって、けむりおばけのモクーは腹がへって仕方がない。とうとうママにもみつかって、「あなた、もう、煙草は一本も吸わないでちょうだい! 煙草なんて吸うから、あんなバケモノにつけこまれるのよっ」と言われてしまう。

    「モクーは引っ越しさせよう」と、パパは知り合いがやっている煙もくもくのスナックへモクーを連れて行く。そこの強力なエア・クリーナーとして、モクーはばくばくと煙を食い、さらには煙でいろんなもののかたちになってみせる"煙のファンタジー"芸も披露することに。

    モクーの芸をみたママはすっかり意見がちがってきて「ケムくさえなかったら、いいお店だわ。あの煙の芸当はおもしろいわ。もう一度見たいわ」とまで言うようになった。けれど、もくもくしなくなったスナックは、どうも気分が出ないと、モクーはお払い箱になって、また310号のナナの家へ戻ってくる。

    そのモクーが食べられる煙をさがしてナナのママはくるみのママとしゃべっていて、そして子どもどうしは「すごい話」をお互い聞かせようとして、310号へ向かうところで、物語は終わる。

    もしかしたら、その310号室に、有沢のおばば=アリババ先生もあらわれたりするだろうか、モクーを見たら管理組合の理事長としてはどう行動するだろうかと、終わった話のあとをちょっと想像する。

    学やくるみの母、そしてナナの母の言動がなんだかおかしい。アリババ先生も正論だけでないところがイイ。『団地ともお』で、建前ふっとばして私はゴキブリ嫌いなのと叫ぶ先生を思わせる。

    (2/3了)

  • 摩訶不思議な生き物たち、こんな妖怪なら出会ってもきっと楽しい。
    http://matsuri7.blog123.fc2.com/blog-entry-132.html

  • すごくかわいいメルヘン(?)ファンタジー
    でも、これって児童ファンタジーですよね?
    文庫化して採算あうのかしら…
    と、大人は考えてしまいます(笑)

    • noriturnさん
      本も安いですしね。
      でも、ファンは買ってしまうんですよー。
      この方の他の作品も面白いですよ。
      本も安いですしね。
      でも、ファンは買ってしまうんですよー。
      この方の他の作品も面白いですよ。
      2012/08/20
  • なんとびっくりファンタジー。そんでもって児童文学。
    …勝手に普通の小説をイメージしてたもので。

    大人が読んで面白いと思うかどうかは、微妙なところかもしれません。

    • vivinyanさん
      いや~、まごうことなき児童ファンタジーでした(笑)
      「面白い」というよりは「懐かしい」という気もちの方が強いです
      いや~、まごうことなき児童ファンタジーでした(笑)
      「面白い」というよりは「懐かしい」という気もちの方が強いです
      2012/08/20
  • 一風変わったファンタジー。
    大人の事情には関係なく、子供は楽しみを見つけるのね。

  • 短く繊細で不思議な日常の話です。

  • 童話のようで、軽く読めて面白かったです。

  • 児童文学。でも、大人でも楽しめる。なんだか「ほっ」とできる作品集。

  • 佐藤 多佳子さんの初期の作品のためか、まだ、成熟していない感じ。ずばり言うと、子どもにおもねっている、または、自分に酔っている。だからといって、ひどい作品だとは思わないが、文庫で大人向きに出版する本ではないと思う。最後尾の解説も稚拙。

    しかし、このような作品から、現在の『一瞬の風になれ』などの作品を書き上げるまで、彼女が作家として変貌を遂げたとすれば、それは小説家としての今後の可能性の大きさを図らずも示してくれていると思う。

    人間は創作を通して、成長するいきものなのかな。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。1989年、「サマータイムで」月刊MOE童話大賞を受賞しデビュー。『イグアナくんのおじゃまな毎日』で98年、産経児童出版文化賞、日本児童文学者協会賞、99年に路傍の石文学賞を受賞。ほかの著書に『しゃべれども しゃべれども』『神様がくれた指』『黄色い目の魚』日本代表リレーチームを描くノンフィクション『夏から夏へ』などがある。http://www009.upp.sonet.ne.jp/umigarasuto/

「2009年 『一瞬の風になれ 第三部 -ドン-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

佐藤多佳子の作品

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