決壊(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.89
  • (77)
  • (132)
  • (73)
  • (13)
  • (4)
本棚登録 : 1017
感想 : 99
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (513ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101290423

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • こうならざるを得なかったということは予想されたが・・・犯罪被害者やマスコミの扱いなど実際にあるであろう話で考えさせられた。

  • ところどころ心に残る描写があった。「人は絶対的自己などなく、対峙した相手との関係性の中で自己が決まる」とか、「赦しは、赦される人間のためではなく赦しを与える人間のためのもの」とか。でも物語全体としては、猟奇殺人というネタから期待するようなサスペンスがなかった分、ちょっと肩透かしな感じがした。

  • ストーリが大きく展開していく下巻。これを読んだときにふと東野圭吾の『悪意』を思い出した。明確な存在理由を求めてはならないような悪意が伝染していくかのような感覚を覚えた…が。あくまで兄を主体に読んでいくと、どうしても絶対的な他者による救いがなければ解決しないような気がしてならない。

  •  現代という時代。もう語り草のように語られる「失われた20年」という現代。貧しき人も富める人も、何か些細なことで『決壊』を起こしてしまう、そんな世の中。
     
     平野啓一郎の小説は芥川賞を受賞した『日蝕』以来、二冊目。本作が彼のキャリア10年の集大成と言われるのにも頷ける作品。

  • もっと文学的かなと思っていたら、そうでもなかった。
    「言葉」について慎重に考えて、「言葉」を丁寧に操った作品、というのが第一印象。リアルな世界で語られる、複数の方言を介した言葉、テレビ・雑誌などメディアを介した言葉、教師・刑事・評論家など職業を介した言葉、老若男女の幅広い年齢層の言葉、そしてネット掲示板やメールというバーチャルな世界で語られる言葉、いろんな言葉を使っていろんな目線から物語が紡がれることによって、作品世界がどんどん膨れあがっていくように感じた。そうして創られた作品世界が完全には閉じられないので、さらなる広がりを余韻として感じさせる。
    また、事件を中心にした話の流れに、「一人の人間は一人の人間じゃない」という作者の分人主義、功利主義・幸福主義にもとづく世界観、善の暴力性・共感の暴力性などの思想的な問いかけ、ところどころに組み込まれた比喩表現が加わって、ページ数以上の厚みがあるように思う。

  •  比較的面白く読めたが、物語が大きく展開するまで、少々辛抱が必要かもしれない。主人公の人物描写は当然必要なのであろうが、上巻での親友の室田との会話のくだりは食傷気味だ。
     とは言え、「重たい」小説が好きな自分としては、かなりの長編にもかかわらず、すんなりと読めた。
     重犯罪の果てに生起しうる様々な悲劇を改めて認識させられ、どっぷりと「哲学的」な思考ができた。
     作者の平野氏は頭のいい人なんだろうなと思う。文章の一つ一つ、表現の細部にわたるまで計算されている。ただ、自身の才能に酔っているのではと感じる個所も多少あった。
     「文学」なんだと思った。

  • 上巻で溜め込んだいろんな要素が、堰を切ったように動き出したー下巻はそんな印象でした。なので、上巻に比べるとストーリー的に動きが大きかったので、読みやすくはありました。

    ただ、お話自体はすごく重たくて、読み終わった後どんよりとした気分になります。

    登場人物の、特にインテリの崇と彼の友人たちが語っている話題や、離脱者とそれ以外の人のお話、“permanent fatal errors"の下りについては、正直難解でサッパリ。

    ですが、犯罪被害者の家族、加害者の家族がどのような状況に置かれ、社会からどう扱われるのかを描いている部分にはすごく共感しました。(私自身、そのような経験があるわけではありませんが、そのような境遇に陥ったらこう思うだろう、という内容がそのまま具現化されているような内容だったので「共感」という言葉を使いました。)

    その辺りの内容がとっても重苦しくて、気持ちが滅入るほどのインパクトがありました。心が健康なときに読むのがいいかも。

  • 最後は究極の赦し。

  • 圧倒的。それ故に心の状態が下向きのときに読むのはオススメ出来ない。それ位引っ張られてしまう。読み手のなかに侵食して来ます。

  • 決壊=離脱の始まりによる悲劇の連鎖。離脱とは終わりのない世界への脱出のこと。つきつめれば「死=死に続ける」ことによる終わりのない世界への逃避。
    モラルと自我、他我の崩壊。自身だけでなく、他者を大きく巻き込むその様はまさに、一度溢れるともう止めることの出来ない洪水となり世界に広がる。
    生と死の境、衝動を止める理性、精神を保つための形、報道のエスカレート、警察のプライド、被害者・加害者の生活の均衡、全てが音を立てて崩れ去り、後には何も残さない。
    加害者は離脱し、被害者の家族もその決壊に巻き込まれ離脱の道を選ぶ。
    救いようの無い結末までも、決壊の一つの結果でしかなく、悲劇の連鎖はまだ続くことを暗に示す。

全99件中 71 - 80件を表示

著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

平野啓一郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×