君はこの国を好きか (新潮文庫 さ 27-5)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101325156

感想・レビュー・書評

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  • 「君はこの国を好きか」

    学生時代、激しく共感して泣きながら読んでいた本。
    “あたしはハングルに感電したのだ・・・。どんな状況に陥っても―たとえこれよりも何キロ痩せようが―、あたしにはハングルがある、「韓国語がある。」”

    鷺沢さんがひりひりと感じていたであろう感覚が、生々しく伝わり、心を突き刺す。

  • 「この国」とは日本のことだと思って読み始めたら、韓国のことだった。2つの話が入っていたが、「君はこの国を好きか」を読んだとき、著者が自殺してしまった理由がなんとなく一部分だけ分かったような気がした。こんなに自己分裂的な感情を持ちながら2つの国の文化に真摯に相対するのは著者にとっては苦痛だったのではないか、考えるだけでぞっとする。国とは、文化とは、風土とは何かを改めて考えようと思った一冊。

  • 数年ぶりに再読しました。彼女の作品は古くならないのがすごい。描かれる感情が現代も全く褪せていない!感電したのは私のほうでした。

  • (メモ:高等部2年のときに読了。)

  • 2010年2月12日購入。

  • 内容は恐らく、自身韓国の血を引く鷺沢氏の経験を活かしたもの。それだけに様々な想いが込められていると思う。いろいろと考えさせられる作品。

  • おれはこの国を好きだ。

  • 鷺沢 萠の【君はこの国を好きか】を読んだ。

    突然こう問われたらあなたは即答できるだろうか?僕は即答できる自信がある。

    おそらく多くの若者は欧米の生活や文化に憧れを抱いているであろうから「嫌い」と即答するかもしれな

    い。そういった類の憧れは僕にだってある。しかし、この国、つまり「日本」が好きか嫌いかという話と

    なると別問題で僕は間違いなく「好き」だと即答するだろう。と、この本を読むまでは思っていた。

    鷺沢 萠の【君はこの国を好きか】に登場する人物は、主人公の雅美も含めて韓国人である。日本で生ま

    れ育った韓国人の3世の世代だ。

    日本で生まれ育ち、日本語を第一言語としている雅美は大学を卒業したあと「もう少し学生でいたい」と

    いう甘えからアメリカに留学する。そこで出会ったのが韓国からの留学生ジニー。成真伊(ソン・ジニ)

    という二十歳の女の子はアメリカでジニーと呼ばれていた。

    韓国籍でありながらハングルが一切話せない雅美とジニーの会話はお互いの祖国語ではなく英語である。

    ジニーは初対面の雅美にいきなり韓国語で話しかけてきた。

    国籍は韓国であっても自分の家は親の代からすでに日本で生まれ育っていて、教育もすべて日本で受けて

    きているから韓国語は話せないのだと雅美は英語で説明する。

    「Are you quite sure you are a Korean?」(あなたは、自分が韓国人であると確信しますか?)

    ジニーは韓国人でありながら韓国語が話せない雅美を責めているのではない。単に疑問なのだ。その後も

    「日本で暮らす2世、3世はみんな韓国語が話せないのか」や「どのくらいの数の韓国人が日本にいるの

    か」などの疑問を雅美にぶつける。雅美は言葉に詰まった。

    雅美は歴史的に考えて、在日という差別的な用語をもって見られていた世代ではない。だから苦渋を舐め

    るような差別も受けたことがないし、それについて深く考えたこともなかったのだ。

    この出会いをきっかけに雅美の中に流れる韓国の血が目覚める。日本にいた時には、自分の周りの人間の

    ことを韓国籍であることや韓国語が話せない問題など含めて「あなたたちは何も知らない」という思いを

    募らせていたがアメリカに来てジニーに出会い「何も知らない」のは自分だったのだと気付く。

    ジニーに韓国語を教わり、次第にハングルに夢中になる。それは自分の血だとか国籍だとかとは関係なく

    単純に言葉として「面白かった」からだ。

    あたしはハングルに感電したのだ ―。

    雅美の心は強く韓国に魅かれる。そして、韓国に行って韓国語を学ぼうと決意するのだった。

    初めて自分の祖国・韓国に足を踏み入れた雅美に待ち受けていた現実は過酷だった。

    韓国人でありながら満足に韓国語が話せないということで受ける差別、韓国という国のガサツさ、いい加

    減さ、すべてがショックだった。極度のストレスで拒食症にまでなり、祖国でドン底にまで落ちていく雅

    美。「自分は一体なんなのか?」目まぐるしく交差する自己の葛藤。そんな雅美を支えてくれたのが、同

    じ日本から韓国に留学にきた3世の仲間たちであった。

    韓国人でありながら祖国の壁にぶち当たる若者たちの葛藤は凄まじい。そしてつい口走ってしまうこんな

    セリフ。

    「だから結局韓国ってさ・・・。」

    韓国を否定することは自分の存在さえも否定することである。

    「でも、あたしたちの国なんだよね・・・」

    雅美はそう言ったとたんに冷たい涙が噴出すように流れた。

    幾多の苦難を乗り越え、韓国の大学院を卒業し日本に「帰る」日。

    見送りに来てくれたジョンヒ(在日3世で雅美よりも先に韓国に留学に来ていた男性。物語の中では雅美

    のよき理解者でありよき兄役であり親密な関係を築いていく重要人物)が言った一言が雅美の心に突き刺

    さる。

    「あんた、この国を好きやった?」

    自分がこの立場だったらどうだろう。祖国を「好き」だと言えるだろうか。胸を張って「好き」だと言え

    るようになるには、まだまだこの国について、日本という国について知らないことが多すぎる。

    安易に好きだとか嫌いだとか言ってはいけない気がする。政治の腐敗も、企業の腐敗も、凶悪な犯罪も、

    自分たちの国で起こっていることだ。関係ないことではない。こんな日本に憤りを感じるのもやはりそれ

    が自分たちの祖国であるからではないだろうか。

    もっともっと自分の祖国を知らなければ。そんな気持ちにさせられる作品だった。

    ご存知の通り、鷺沢 萠は韓国人とのクォーターである。そんな彼女だからこそ書けた世界だろう。

    他に、同じ在日3世を主人公にしてその問題を取り上げた【ほんとうの夏】も併録されたこの1冊は、ぜ

    ひとも機会があれば読んでもらいたいが、すでに絶版となっているため古本屋で見かけたら迷わず買うこ

    とをお薦めしたい。

  • 2008年11月

  • むずむずする良い読後感。

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著者プロフィール

鷺沢萠(1968.6.20-2004.4.11)
作家。上智大学外国語学部ロシア語科中退。1987年、「川べりの道」で文學界新人賞を当時最年少で受賞。92年「駆ける少年」で泉鏡花賞を受賞。他の著書に『少年たちの終わらない夜』『葉桜の日』『大統領のクリスマス・ツリー』『君はこの国を好きか』『過ぐる川、烟る橋』『さいはての二人』『ウェルカム・ホーム!』など。

「2018年 『帰れぬ人びと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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