窓の魚 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.15
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本棚登録 : 4659
感想 : 419
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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101349565

感想・レビュー・書評

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  • 読み終わった後の余韻が凄い。
    終始暗い。側から見たら仲の良いグループでの温泉旅行なのだけれどそれぞれ感じていること、発していること、考えていることが異なっていて、最後まですっきり終わることはなくそれがまた 余韻に繋がる。

    他人の考察は見ずに繰り返し読んで、自分なりに読み解きたい作品

  • 宿での同じ時間を、登場人物それぞれの視点から語っていく形式。同じ出来事なのに人間ごとに全く異なる感じ方をするものだな、と思い知らされました。
    登場人物はどこか少しずつ狂っていて、お互いに奇妙な感情によってつながっており、孤独でもある。あらすじには「恋」と書いてありますが違和感を覚えます。ただ「恋は下心」なんていうけど、本当の意味で「下心」なのかもしれません。
    登場人物の言動は理解できないものがほとんどなのに、何故か心にこびりついてしまう。
    人間がもつ「負」の感情が、「宿」「露天風呂」などといった設定と上手く絡み合って美しく描かれていました。
    結局、「窓の魚」とはどんな役割だったのだろうか…。透明な仕切りに映し出された自分を見つめることで狭められた世界を認識する、登場人物自身の象徴なのだろうか。

  • 登場人物みんな不安定で、文章も抽象的なんだけど、その不安定さが絶妙なバランスで胸に残る。
    相対的にはハルナ・トウヤマのほうがナツ・アキオよりもまとも
    猫は死の象徴で、4人とも声は聞くが姿を見たのはあの女性だけ。
    窓の魚は、内風呂の鯉、内に捉われた存在で外の人を視認はできても触れてまじあうことはできない。
    それぞれのパートで厚く書かれているところ、省略されているところを見比べると、それぞれが大事に思っているもの、伝えたいつもりが伝わっていないものなどがわかって楽しい。

    ナツはアキオからの薬の影響もあって、生きていくことが難しいのではないかと思うぐらい不安定なんだけど、だからこその儚さ・美しさがある
    正直ナツのストーリーについては、薬の影響もあるだろうから、どう解釈していいのか悩む

    トウヤマは幼き日の祖母への思いとそこからの影響も皆無ではないのであろう年上のある女性への思い。
    ハルナのことは好きではないし、ハルナも自分を好きではないと思っている。
    最後にアキオに全て話したいと思ったのはどういう心理なのだろう。アキオであることに意味はなくて、ただ他人に心を開いたということか?

    ハルナは母親へのコンプレックスと外見へのこだわり
    美しいものへの羨望と殺したいほどの嫉妬
    外見は変えられるがそれに内面が伴わないことによる劣等感
    ナツに嫉妬を抱きつつ、最後にはナツと女同士の話をしたいとなるけど、これはまぁ人間の心理としてありふれたものといえばそんな気もする。
    母親と電話をし本当の自分を見つめ直す

    アキオは病弱ゆえにより弱いものに対する病的な愛情と死への羨望
    勃起し、生を感じることで、ネコの鳴き声を聞く=死の実感を得る

  • やべぇこえぇやべぇこえぇやべぇこえぇでもおもしれぇ! ハンパねぇェ!!

    西加奈子2冊目だけど、初が「きりこについて」だったから、あらすじ読んだだけで前とちょっと違うと思って積んでた。だけど読み出したら止まらない止まらない。怒涛のイッキ飲み、いや読み。という感想だけだと、読んでない人にはなんのことやらですね。ネタバレを書くのは主義に反するので極力控えます。

    とにかくドキドキハラハライライラ最終章は読み進むにつれドキバクガクブル?しながら、怖い怖いこわいでも止まらないー!と、3時間ほどで一気に読んでしまった。なんという裏切りというか。文章は静かで穏やかで、でも楽しそうなのにそう読めなくて、正直最初はよくわからない。

    4人の登場人物たちはみんなそれぞれいろんな悩みや嘘や裏切りなど、深いものを抱えていて、かなり暗い。ドロドロしてたり、好意を上手く相手に伝えられなかったり。三角関係? とも取れたけどもっと複雑。決して恋愛話ではない。ミステリーかホラーか、それとも?としばらく悩みながら読んだ。

    そして結末は読者の解釈次第て…謎は残ったけど、そんなことはどうでもいい。多分あの人だ。そしてあの人じゃない。よかった、と勝手に解釈。猫と犬の名前はなんとなく、暗示的だと思う。

    中村文則さんの解説は大変失礼だけど、本当おまけみたいなものです。あとで読んでほしい。あとからなるほど、と思えば充分。

    ただビールについての言及は流したかな、と思って読み返してみたら、流石西さん!と妙に納得。ビール飲みにしかわからないとは思うけど。ごめんなさい中村さん、おまけとか書いちゃって。

    まず読んだあと中村さんのように「余韻に浸」りつつぼーっとして、気になるところや、謎とか不明なとことかをもう一度読み返したりとか、がいいと思います。反芻?

    未読の「サラバ!」いまさらだけどすぐ読めなかったことが悔やまれる。文庫はまだしばらくないかなぁ。

    とにかく西加奈子、恐ろしい子…。

  • 初めて読んだのはまだ制服着てた記憶があるから、たぶん中学生か高校生のとき。
    やっと登場人物と同じくらいの年齢になって読んでみる20代後半になってみないとわからない価値観とか感受性とか羨望とか審美とかを携さえて読んだこの短編はもう溜息つきたくなるくらい綺麗だった。
    綺麗とか怖いとかって気持ちは便利な形容詞って機能で表現してしまえるからこそぼやけてしまうこともあるけど、表情・空気・景色・温度・記憶・五感にまつわるありったけの表現を動員して非現実的な雰囲気を生々しく描ける西加奈子さんの表現力はもう読み切ったら頭の中全部持っていかれるくらい世界に没頭させてくれる興奮剤でもあるし鎮静剤みたいな力を持ってる。

    「窓の魚」で描かれる生と死、美と醜、高慢と偏見、静と動、性と愛と憎悪すべてが、ガラスケースにしまって照明当てて少し離れて座って何時間でも眺めてたくなるくらい繊細で綺麗なものに見える。

  • 西さんってこういう文章を書くんだと思う。
    4人が同じ場所に集まっていても、何か傍目からはわからないものを抱えている。
    結局人はいつだって1人の孤独な生き物なんだということを思い知らされているようにも思う。
    そして宿には死体が見つかる。個人的には、はかなさの象徴のようにも思う。
    4人がそれぞれ抱える闇をいつか克服する日は来るのか。
    おそらく来るけど。

  • 二組のカップルが喧騒から離れた川沿いの温泉宿を訪れる。それぞれにいろいろな過去を抱えて、お互いに何か思うところもありそうで。

    安易なミステリー物にせずに、丹念に過去の描写をして含みのある会話と行動をさせるところが良い。

    この物語の真相も、その後も、一つに結論づけるのではなく、いろんな可能性を想像してみるのも面白いかなと思う。一気に読み進めて、その後でじっくり反芻して自分なりの輪郭をもたせてみたい。


    2015.8.19

  • 男性の描きかたとか、話のつじつまとか、ビミョーにちぐはぐじゃないかと思わないではないけど、間違いなく傑作。最初はまぁ、この程度かと思ったけど、重ねれば重ねるほど面白くなっていくのは、テクニック、技術がすごい。一つ一つの細部が本当に良くできている。ぜひ、読んでみて。

  • 作者が西さんで、裏表紙のあらすじにひかれて手に取った。
    日を空けて少しずつ読んだのだが、これは何度も読み返しても違った味がするやつだと思った。

    登場人物それぞれが恋をしていたのかは分からない。し、誰にも共感はできなかった。これが恋愛感情なのだとしたら本当に暗の部分を書かれていたのだと思う。
    しかし情景描写はリアルなので神様視点でこの物語の中に没入できた。

    謎は謎のままなのでスッキリとはいかないが、解説の中村さんも書かれてたように余韻に十分浸れる作品だと思いました。

  • こんなのも書くんだ!
    音や風の描写がさいこー

  • 一つの物語を、4人の登場人物のそれぞれ4つの主観で描くことでだんだんと深めていき、色付けていくあたりとても面白く、秀逸な作品だと思う。
    最初何気なく読んでても、読み進めるにつれてだんだん引き込まれていく。面白い。

    何となく謎を残した感じで終えるのも良い。

  • 読むたびにゆらゆらゆれて、掴みどころがない。
    それがいい。

  • 西加奈子さんの文体はやわらかく、今まで避けてきた。が、これは傑作。
    どこか芥川の「藪の中」を彷彿とさせる話。それぞれの登場人物が事件に関する胸中を語るが、どれも辻褄が合わない。解決しているようで、事件は解決していない。ただ、それがいい。

  • なんか、不気味だが美しい話

  • 描写が素晴らしくて、
    風景が目の前に浮かんでくる感じがした。
    いろいろと疑問に残るところがあるが、
    心地いい疑問だった。
    自分の中でうまく
    解釈して行こうと思う。
    また、読み直したら
    ちがうように感じるのかな。

  • 人が誰しも持っているであろう屈折した一面、を徹底的に突き詰めた、ゾッとするけど清々しい小説。
    西加奈子さんの本はまだ数冊読んだだけだけど、漁港の肉子ちゃんだったりうつくしい人だったり、どちらかといえばほっこりするような作品だったからこういう話も書くのかー、と新鮮に感じた。白いしるしはちょっとだけこっち寄りかもしれない。
    自分の読解力ではこの小説をすべて上手に消化することができなかった。それはつまりまだ味わえていない魅力が残っているということだから、焼き魚を頭と骨以外ぜんぶキレイに食べられるくらいになったらまた読み返したい。

  • 決して混じり合わない、でも時々予想もしないところで混じり合う、人と人の心。好きとか嫌いという感情だけではくくれない、誰かに対する気持ち。生きてるといろんなことがある。誰にもわかってもらえない気持ちを抱えながら、決してわかりあえない誰かを愛したり憎んだりする。そういうもんだよなーと思った。すごい小説だった。

  • キツイなー。描写が濃厚すぎて、不安になる。何気ないシーンでもドキドキしてしまう。
    恐ろしい。
    おそろしい作家だ。この人は。

  • この作品の持つ気怠さに五つ星!
    筆力がすごいです。
    章ごとに各人物からの視点で語られる手法も、人の心を覗き見るようで読み進んでしまった。
    幻想的でありながら、深く抉られてる歪み。
    読み手の数だけ答えがありそうな、そんな作品。

  • まず西さんの風景描写の繊細さやその感性に惹かれて、世界観にどっぷり浸かってしまいました。4人の気持ちが噛み合っておらず、どこか異様な雰囲気も放っているのに、西さんの文章が綺麗だからか、とても美しい物語だと思いました。
    明言されていない部分もあってもやもやしてしまうかと思いきや、それが嫌な感じの謎ではありませんでした。むしろ自分で想像して自分なりの物語を思い描ける、とプラスに考えることができました。それも、物語が美しかったからかもしれません。

著者プロフィール

1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年『あおい』で、デビュー。07年『通天閣』で「織田作之助賞」、13年『ふくわらい』で「河合隼雄賞」を、15年『サラバ!』で「直木賞」を受賞した。その他著書に、『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『まく子』『i』などがある。23年に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題となった。

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