アンのゆりかご―村岡花子の生涯 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (431ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101357218

感想・レビュー・書評

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  • この本をドラマの原作、と思って手に取ったひとはあてがはずれます。ドラマは中園さんのオリジナルであり、この本は原作ではあるけれど、ノベライズではないからです。
    むしろ村岡花子の周囲にいる綺羅星のような女流作家や市川房枝のような政治家、ヘレンケラーなど訪日した偉人たちとの交流をリアルに描いています。
    テレビドラマはフィクションなので、こんなに実名のあるひとたちを出すわけにはいかないでしょう。そこで白蓮と花子の友情と、家族に的を絞ったのだと思うのです。
    作者は、母親である花子の養女みどりが亡くなったとき、ルーツをたどりたいと花子の評伝を書いたといいます。その過程で詳しく交友関係をたどり、歴史の中に花子を置くことによって、花子の人生が浮き上がっていきます。花子の評伝にとどまらず、女性の昭和史ともなっているところが、この本の一番面白いところでした。

  • 赤毛のアンの翻訳をした人、としてしか知らなかった村岡花子。
    女性運動家としての1面もあったとは。
    彼女の生涯を綴った今作を通して。
    自分がいかに戦争を知らないか気づかされた。
    教科書で習った程度の知識しかないな、と。
    もちろん、この本を読んで戦争とはどんなものかがわかったとは言わない、けれど。
    どれほどの人が、あの激動の渦の中、時になす術もなく押し流され、時に凛として抗い、家族や信念を守るため闘ってきたのか。
    その片鱗を垣間見ることができた。
    また、
    村岡花子の瑞々しくやわらかな輝きを持つ美しい文章。あたたかく優美に紡がれる言葉にうっとりした。
    ご主人の村岡儆三氏との素敵な夫婦関係にも憧れる。あんなに想いあえる関係もなかなかないけど
    それをストレートに伝えてくれる日本人男性は今でも少ないと思う。
    あの時代にあんなにも先進的な人たちがたくさんいた事を知ったと同時に、あの人たちが今の日本を作ったんだな強く思った。

  • 中学のころからモンゴメリが好きで、新潮文庫の村岡花子訳の物はすべて読みました。
    中学の頃は、訳者がこんなに古い人だったなんて気が付かずに読んでいました。それくらいに訳が自然で綺麗なんです。
    村岡花子さんの人生も劇的ですね。一度も海外へ行ったことがないにもかかわらず、この訳が出来るなんて…。綺麗な翻訳をするには、英語力だけでなく、確かな日本語力も必要だとは常々思っていましたが、まさに村岡さんってすごいなあ、って思いました。

  • NHKの朝ドラ「花子とアン」のモデルになったことで一気に知名度をあげた翻訳家・教育者村岡花子の評伝。本人の著作・書簡類は言うに及ばず、周辺人物に関するものまで多岐にわたる一次史料・二次史料を使って丁寧に、かつ温かい目で描かれている。

    言うまでもなく、本書の白眉は前半、東洋英和女学校時代を舞台とした1~3章である。そこには、川原泉の少女漫画かはたまた小公女セーラかという世界が展開されている。著者により多少の演出は入っていると思われるが、いきいきとした描写にひきこまれた。

    本書でもドラマでも大きくとりあげられているのは『赤毛のアン』だが、花子の仕事は決してそれだけではない。『赤毛のアン』に至るまでの彼女が、児童教育、女子教育、そして女性解放運動において果たした役割の大きさを考えると、「村岡花子」とその仕事は明治・大正期における女子教育の最大の果実のひとつといってよいだろう。そして、その教育がキリスト教伝道者によって為されたというところも、見逃せないところだ。

    比べるのもおこがましいが、同じく語学を生業とする者として大きくうなずいたところを2点。

    ”豊富な語彙を持ち、その中の微妙なニュアンスを汲んで言葉を選ぶ感受性は、翻訳の上では英語の語学力と同じくらい、あるいはそれ以上に大切な要素だと思う。季節や自然、色彩、情感を表現する日本語の豊かな歴史を思えば、日本の古典文学や短歌や俳句に触れることも大切。”(343頁)
    ”花子が一度も洋行したことがないと言うと、驚かない人はいなかった。外国人と冗談を交えながら、あるいは真剣に、流暢な英語で会話をする花子を、誰もが外国生活の経験があると思い込んでいた。(中略)花子の語学力の基本は徹頭徹尾、東洋英和女学校時代の10年間にカナダ人婦人宣教師から授かった。その後、5年間の教師生活、さらに、翻訳の仕事で英語と日本語を研磨し続けた。”(364頁)

    それにしても、本書のように、多くの史料や文献にあたりながら一つの物語をまとめていくという作業は想像以上に手間がかかるものである。著者の労に敬意を表したい。

    『赤毛のアン』はアニメでしか見ていないし、ドラマも未見。それでも大変おもしろうございました。

  • 戦争へと向かう不穏な時勢に、翻訳家・村岡花子は、カナダ人宣教師から友情の証として一冊の本を贈られる。後年『赤毛のアン』のタイトルで世代を超えて愛されることになる名作と花子の運命的な出会いであった。多くの人に明日への希望がわく物語を届けたい・・・。その想いを胸に、空襲のときは風呂敷に原書と原稿を包んで逃げた。情熱に満ちた生涯を孫娘が描く、心温まる評伝。(背表紙より)

    NHK朝ドラを観なければ手に取ることもなかった命名作です。白蓮の物語をさきに読んだので、ドラマチックさにおいては違いすぎますが、彼女の人生もまた、自分というものを信じ、ぶれずに、堂々と生きた素晴らしい人生。女として十分に羨ましく憧れる人です。伝記ものはもともと好きですが、もっともっと好きになりました。「赤毛のアン」に興味がなくても、女性なら読んでおくとなにか得るものがある1冊だと思います。

  • 何と深い愛に包まれて我々は育ったのだろう。

    日頃何気なく読んでいた児童文学に、明治から昭和初期の激動の時代の女性作家の子供達に向けた慈愛が隠されていたことを知らなかった。

    迫害・貧困・震災・戦争から子供の夢を守ろうとする一途な思いに、思わず涙がこぼれた。

    曾てラジオのおばさんとして子供たちに語りかけた村岡花子氏は、子供のための翻訳書を通して、没後も子供たちに語りかけているようだ。

  • ハードカバーが出た時点で読みたいなと思いながら、文庫になるまで引きずり、二年も経ってしまったのは、なんとなく踏ん切りがつかなかったからだ。
    赤毛のアンの信奉者としては、モンゴメリと同様村岡花子女史は星のように輝く存在であり、おそらく苦しかったであろう生涯を、お孫さんの手による、つまり「生きた」評伝で読むのは躊躇いが抜けなかったからだ。
    村岡女史が東洋英和の出身なことはよく知られていることだが、柳原白蓮と親交があったというエピソードには驚いた。与謝野晶子、市川房枝といった当時の著名な女性たちとの広い交流も、何故だか意外に思えた。大きな社会のうねりの中に、文字通り身を置いて、よくもあんなに美しい文を書けたものだ、と思う。

  • 村岡恵里
     マガジンハウス (2008/6/5)

     あの「赤毛のアン」の翻訳者 名前はよく知っていても 何も知らなかった
    すごい人だ
    あの時代英語ができるのだからどこかのご令嬢だとばかり思っていた
    全く違ったんだね
    たくさんの激しい波をくぐりぬけての生涯
    家庭人として 翻訳家として クリスチャンとして 志高く生きた女性だ
    交友をたどればまるで近代文化史
    写真などの資料も豊富で 彼女と一緒に戦前戦後をたどっていける

    文庫が今年出版されその解説(梨木果歩)がとてもいいとのことです

    私の大好きな大好きなアン
    夢中で全巻読み通した若い日々
    翻訳はまさに命がけだったのですね

    著者はお孫さん
    とてもあたたかい一冊でした

    ≪ 少女らに 夢を届けて 足は地に ≫

  • 秋葉原の古本屋で100円で購入した。100円の元は圧倒的に取れる良い本だった。

    赤毛のアンの日本語版は読んだことないと思うが、翻訳にこれだけの情熱と、歴史が積み重なっていたとは。
    そもそもこの村岡さんの歴史が、自分でも名前を聞いたことある有名人たちに囲まれている。
    芥川龍之介、与謝野晶子、菊池寛、宇野千代、樋口一葉、平塚らいてう…
    第一次世界大戦、第二次世界大戦、そして日本の敗戦… アンの翻訳をしながら、非国民と呼ばれながら原稿を守り、女性の権利向上にも協力し、翻訳文学、そして児童文学というもの自体がまず無い文化の中、子供のために海外児童文学を翻訳し続けた… うーむ、すごい。
    この人の友人関係もすごすぎたので、この本は「赤毛のアンを翻訳した件」どころじゃなく、この人達が歴史を作ってきた証明だった。甘く見てた。赤毛のアン自体は正直あんまり出てこないし、出てくるのもだいぶ後半なので、どちらかというと近代史の歴史小説として楽しめるかと思う。

    しかし、ラブレターが全部保存されていて、万人に公開されるってどんな地獄だよ。「帰り際のkiss…… まあなんて困る人だとあなたは思ふたでしよ。」とか気が狂いそうになる。旦那さんも墓から蘇ってそう。

    そして肝心の本のタイトル、もともと「赤毛のアン」ではなく、村岡さんは「窓辺に倚る少女」にするつもりだったらしい。それだったらだいぶ違った未来になってた気がする。編集者が「赤毛のアン」を提案したが村岡さんは一旦即却下したが、娘のみどりが絶対これにするべきと推したためらしい。ただ、ちゃんとこれを読むのは若い人だから、若い人の感性に合わせるとして了承した村岡さんもあっての明断。

    この間読んだ「キラキラネームの大研究」にもあったが、変わった名前は今が特徴ではなく、むしろ英語が入ってきた時代やちょっと昔も相当アレだったというのを、ところどころ感じた。特にガントレット恒子という名前が強すぎて本に集中できなかった。エドワードガントレットさんに嫁いだかららしいから当たり前なんだが…

  • 「赤毛のアン」を翻訳された村岡花子さんのお話。「赤毛のアン」が好きなので読んでみました。

    辛い体験も多い中で、信念を持って生きる強さが感じられました。

    自分の娘にも「赤毛のアン」を読んで欲しいなぁと思います。

著者プロフィール

1967年東京都生まれ。1991年より姉の美枝とともに、祖母・村岡花子の資料をまとめ「赤毛のアン記念館・村岡花子文庫」として保存している。著作に、「アンのゆりかご 村岡花子の生涯」など。

「2014年 『赤毛のアン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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