孤宿の人(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101369327

作品紹介・あらすじ

加賀様は悪霊だ。丸海に災厄を運んでくる。妻子と側近を惨殺した咎で涸滝の屋敷に幽閉された加賀殿の崇りを領民は恐れていた。井上家を出たほうは、引手見習いの宇佐と姉妹のように暮らしていた。やがて、涸滝に下女として入ったほうは、頑なに心を閉ざす加賀殿といつしか気持ちを通わせていく。水面下では、藩の存亡を賭した秘策が粛々と進んでいた。著者の時代小説最高峰、感涙の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • これから本書を読める人は幸せです。
    本書によって私の生涯ベスト10のランキングが変わった!宮部みゆき、おそるべし、「孤宿の人」、あっぱれ!
    阿呆の「ほう」という登場人物の着想が素晴らしく、純真無垢で一途な愛すべきキャラが誕生しました。
    またもう一人忘れてはならないのは、ウサギのようにはしっこい「宇佐」の存在です。脆い「ほう」を妹分として助ける「宇佐」、その二人を支えようとする優しい大人たち、さらに大人の事情と村の厄介な因習などを絡めて話は展開してゆきます。
    筆者はあとがきで、作品自体の発想は幕末に丸亀藩で起こった史実で、妖怪といわれた幕臣が明治元年に大赦を受けるまで、丸亀藩預かりとなり流人生活を送ったことをベースにしている、とあります。
    本書は、感動で何度も泣けてしまう時代小説ですが、「悪霊」を押し付けられた小藩の苦労と度重なる人災や災害を「悪霊」のせいにしようとする領民とそれを悪用しようとする一派との攻防も見どころの一つです。
    秀逸な登場キャラ、面白いストーリー、さもありなんと納得できる展開、三拍子そろった時代劇人情噺の傑作をご堪能ください。

  • いい本に違いないのはわかっていた。間違いないんですよ、宮部お姉さんは。よーくわかっているので、それゆえについ後回しにしてしまう。今頃読んでほろほろと泣く。

    上下巻をたっぷり読んでいる間ずっと、私は丸海のどこかで生きていたと思う。ひたひたと胸に迫ってくるこのリアリティは他の時代物にはないものだ。ほうも宇佐も加賀様もみんな切なくなるほど身近に感じられて、心から離れない。

    宮部さんにはどっちかというと現代物を書いてほしいと思うけど、こういうのを読むと、苦手だった時代物にフラフラと手が伸びる。そう、「おまえさん」読まなくちゃ。

  • 久しぶりに本でぼろぼろ泣いた。人がたくさん死ぬけど、人の命ってそんなものなんだろうなとも思う。下巻は映画を観てるような感覚があった。左手に残るページの厚みが薄くなってくると寂しくなった。 読んでると夏のむせかえるような草の匂いやら高いところから見る海や風とかが感じられるようなお話だった。

    宇佐と渡部さん結婚して欲しかったなぁ。


    なんでかずっとよしながふみの絵柄で脳内再生された。とくに石野様とかよしながふみの本に出てきそうだったし。ただよしながふみがかくならほうは男の子で宇佐も男の子なんだろうなと思うけど。それはそれで読んでみたい。

  • すごかった。
    読み終わった後に吐き出した息が深く重く、魂の一部まで持っていかれたかと思った。

    下巻では加賀様をとうとう涸滝の屋敷にお迎えする。
    江戸の町では疫病が流行り、町民は皆加賀様の祟りだと恐れる。
    そんな中涸滝の屋敷で働いていた女中が頓死し、代わりの女中をということで身寄りのないほうに白羽の矢が立つ。
    ほうはひょんなことから加賀様と出会い、対話し、ものを教わるまでの関係になっていく。
    いっぽう下町では疫病、落雷、信心の揺らぎから領民の心が荒れる。加賀様は「鬼」で、丸海藩の人々を皆殺しにしようとしているのだといううわさがまことしやかに流れる。もっともそれは、加賀様の処置を考える匙家と幕府の仕組むたくらみ通りではあったのだが。
    加賀様を鬼と仕立てる裏で交錯する幾重もの陰謀。
    ほうを救う加賀様、加賀様を慕い始めるほう、そしてそのほうを手放したことを悔やむ宇佐、宇佐を気にかけ琴絵の死を嘆く渡部。
    それぞれの思いを抱いて、事態を収めるべく丸海藩が激震する・・。

    加賀様がほうを救い、ほうに心を開いてゆく様子も、ほうが一途に加賀様を慕う様子も、宇佐が一心にほうを思う気持ちも、すべての人物が誰かを思い、誰かのためを思って生きている。
    そのまっすぐさがこそ胸を打つ。
    ほうには幸せになってほしいなあ、と思っていたんだけど・・。
    「孤宿の人」はほうのこと・・かな・・加賀様っぽくもあるな・・。でもほうはこれまでいろんな家をたらいまわしで帰る場所がなかったから宇佐さんと幸せになってほしかったな。
    まあそんなほうが「方」を決め、唯一の「宝」となるということに加賀様が噛んでくる意義があるのだろうから、一人になるので正しいような気もするけど。
    切なく美しく優しくほろ苦く、でも感動のラスト。
    一気に読んでしまいます。

  • 久しぶりに先が気になって夢中で読んだ。
    どんどん先が気になる面白さはさすがの宮部さんだった。
    けれども、生きる鬼、悪霊と恐れられた
    加賀様は少女ほうと接して心穏やかに死を迎え、
    讃岐国丸海の普通に穏やかに暮らしていた
    民衆たちはいないはずの鬼、悪霊を恐れ、だんだんと
    疑心暗鬼になって破滅に向かって進んでいくという
    後味の悪い終わり方だった。
    ただ謎を深めるためだけに殺されてしまったような
    人もいて、なんだかあまり納得がいかなかった。
    最後はまるくおさまったけれど、再読はないかな。

  • こんなに泣けた時代小説は初めてだった。

  • ぅーん。
    号泣ですね。最後の最後で、もう涙が止まらない感じでした。
    人の優しさ。
    人を掛け値なしに信じられる心の美しさ。

    ふと、仮にどんなに悪い人であっても、とある誰かにとっては神だったりとか、最愛の人だったりとか、そういうことってあるよなぁと思った。
    それは、別に愛は盲目とかそういうことではなくて、人間の多面性とでもいうもので、ある面ではA、ある面ではB、ということが、普通にあり得るよなぁとふと思った作品。

    宮部さんは、「異世界」感はなくて、さらっと読める割に、心の動きが静かに激しく興味深い。
    久々に号泣本に出会った感じ。

  • この時代に生まれた人の「命」とは、なんと儚いものなんだろう。何の為に生きているのか。何が正しい事なのか。すごく考えさせられました。望まれずに生まれてきた幼子が生きていく苦境の中で、出合う人々との暖かく、悲しい物語です。最後は感動で涙が溢れてました。

  • 鬼・悪霊だと言っても、人は人のままだという、和尚さんの言葉に、はっとします。藩の為にやっていると偉い人達がどんなに言っても、いつも最初に割を食うのは弱い立場の人で、舷州先生だってほうを枯滝に行かせたことは、許されることではないと思います。石野様最後までいい人でしたね。

  • 最後にほうが床下を這って加賀様に会いに行くときの場面を3回読み直した。ある場面に戻って繰返し読むことは久しぶり。ほうの子供独特のふっくらとした手と加賀様の年輪のごとく皺が重なっている手がそれぞれきちんとひざに置かれ、静かながらも命をかけた言葉が交わされているようすは激しい感動を呼んだ。
     悪者を作れば団結力が強くなるということはよく言われるけど、そういう団結力は疑心暗鬼を生み最後には崩壊するということも感じられた本だった。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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