- Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
- / ISBN・EAN: 9784102122013
感想・レビュー・書評
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『夜間飛行』飛行士だけが体感する空間…しかも現代のようには技術が発達していない頃の、危険を伴う夜間の飛行。暴風の中での非常に緊迫した飛行の状況と、地上にいて運行の責任を負う支配人の苦悩。リアルに迫ってくる勢いを感じる作品でした。訳は古めかしい日本語だけど雰囲気にぴたりと合って素晴らしいです。
後半の『南方郵便機』は私には難解でした…。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
サン=テグジュペリと聞いて、すぐわかる日本人はどのくらいいるのだろう(ブクロガーさんは別ですよ〜)
でも「星の王子さま」を知らない日本人は少ない
そう「星の王子さま」の著者サン=テグジュペリの作品である
サン=テグジュペリ(サンテックス)という人物を知ったうえで、本書及び星の王子さまを読むとまた世界観が変わり、深い感銘を受けることになる
少し紹介したい
1900‐1944
名門貴族の子弟としてフランス・リヨンに生れる
兵役で航空隊に入り、除隊後は航空会社の路線パイロットとなる
第2次大戦時、偵察機の搭乗員として困難な出撃を重ね、’44年コルシカ島の基地を発進したまま帰還せず
このようにサンテックスは飛行機とともに生きた人物だ
兵役除隊後くらいから執筆活動が始まるのだが、操縦士体験を元に作品が生み出されている
そしてこの作品を読むにあたり、時代背景が必要であろう
「夜間飛行」はまだインフラが整っていない時代、夜間(夜間というのがネック)の郵便飛行業が命がけだったころの作品
文字通り郵便事業に命を懸けた男たち物語だ
「人間の尊厳と勇気」が主題と言われている
当然操縦士の活躍は生々しく緊迫感あふれるものなのだが…
誰よりも会社の全航空路にわたる責任者である支配人リヴィエールの異色な存在がぶっちぎりである
彼は自分で行動しない
操縦士の能力を最大限に引き出すことが仕事だ
完全なる管理
弱気は認めず、一つのミスも許さない
規則は絶対で例外はつくらない
情け容赦は一切なし
アンドレ・ジッドの解説を引用しつつリヴィエールの人柄がわかる部分を抜粋
〜人間に向けられたものではなく、人間の持つ欠点に向けられるのであって、人間の欠点を矯正しよう!と言い張る
人間の幸福は自由の中に存在するのではなく、義務の甘受の中に存在するのだ
義務と危険な役割に、全身的、献身的に熱中し、それを成就させたうえでのみ、幸福な安息を持ち得られるのだ
「愛されようとするには、同情さえしたらいいのだ ところが僕は決して同情はしない いや、しないわけではないが、外面に現わさない…
僕は不測の事変に奉仕している身の上だ…僕は人員を訓練しておかなければならない…」
「部下の者を愛したまえ、ただ彼らにそれと知らさず愛したまえ」
「罰しさえすれば事故は減少する…責任の所在は人間ではないのだ…処罰しなければ罰しえない闇の力のごときものだ」
毎晩、空中で、劇的な事件が行われているのだ
わずかな意志のたるみも、惨敗のきっかけになり得るのだ
全力を注いで戦わなければならないような大事件がもちあがるやもしれないのだ〜
なかなかのストイックぶりである
目的のためなら手段を選ばず平気で人を解雇する
そこまでやる?
やるのです!
部下や操縦士に愛情を持っていないわけでなないのだが、思考回路が一般的ではない
リヴィエールの根本を示すようなひとこと
「見たまえ、恋愛に二の足を踏ませる彼のあの醜さがなんと美しいことか…」
面白いんだなこの感性が
だいぶ歪んでるんだけど、ちっとも憎めない
もっとも真面目に考えればリヴィエールは“私情を挟まず、すべてを夜間郵便飛行業をいかに成功させるかだけを考え全力で戦っている…”
となるんだけど、不思議な感性の持ち主がこの人物の魅力になっていて、彼の言動に目が離せない
いやいや本書に面白いや笑いの要素なんて全くない!と反論されるであろうことを覚悟のうえで…
彼は自分の孤独さを実感している
孤独のもつ美しさも知っている
その美しさは自分だけが理解している…ということか
よく言えば崇高、そして若干ナルシスト
リヴィエールは職務を全うするために人生を懸けている
操縦士と同じように命がけなのだ
だからと言って血も涙もない…ということもない
自分の孤独さを知っているし、心の動きも少しある
感情が奥底に押しやられて、心の震えを気づかないフリをしているうちに頑なな性格も出来上がったのだろう
そして頭より心が動きそうになる時は自分の使命を自分に言い聞かすのだろう
わずかに見え隠れする彼の心の揺らぎの描写が素晴らしい!
そしてある意味不器用なリヴィエールの滑稽さに親しみを持ったり、奥底の秘めた悲しみを感じたり、近くに居たらちょっと苦手なんだけど、最高に気になる存在なのである
(偏った個人的な読み方だと思うので、一応お伝えしておくと本来は操縦士たちの“緊張感した意志の力によってのみ達成できるあの自己超越の境地”が満載な真剣勝負の本である 方向性の異なるレビューと思ってください)
「南方飛行機」
こちらはサンテックスの処女作
訳者である堀口大學氏も「『南方郵便機』は『夜間飛行』以上に読者に精読を要求する作品だ」と断言していらっしゃるだけあり、深くて掴みづらい内容だ
“飛行機と恋愛を絡めたストーリー”
なんて言って欲しくない作品である
飛行士である主人公
何かが足りず満足できていない人生
繊細な感情と不思議な世界観
哲学を感じるほどの深い話で、正直自分の力では全く紹介できない
そして1回読んだだけでは、感覚的な部分を触ることしかできない
なんなんだろうこの本は…
「星の王子さま」でもわかるように、基本多くを語ってくれないサンテックスであるが、それにしても…
散文的であり、場面がわかりづらく、一人称なのか二人称なのか、語り手が誰なのか…(途中でいろいろなことに気づいたり、繋がる)
こういう部分があまり高く評価されていない原因かもだが…
内容も決して明るいストーリーではないが、個人的に居心地がとても良く、繊細な「美」を感じる
空を掴むような虚しさと、掴めそうで掴めない蜃気楼のような、掬ったら手のあいだからこぼれ落ちてしまうような…
素晴らしい書である
伝える力不足が悲しくなるほど…
あとがきによると、
サンテックスは20年来、絶えず危険と紙一重の生活をし、4度死にかけた
言葉通り命をかけ、常に自分を律し勇気を携え向き合ってきた人間からほとばしる言葉の深さが、人の心を揺さぶるのであろう
というわけで、
「人間の土地」を読んで、再度「星の王子さま」を読んで、また本書に戻って理解を深めてみたいものだ
そして本書を読んで「星の王子さま」の自分のレビューを読み返すと理解の浅さがよくわかる
サンテックスの書は彼の人生と同じようにとても深いのだ -
昔の人は仕事に命かけるほどの気持ちがあったのがすごいと思った。私だったら死ぬぐらいなら仕事したくない。今当たり前にあることは、昔の人が命をかけて作り上げてきたものだと知ると、今の当たり前に感謝しようと思った。
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サン=テグジュペリの最高傑作とも言われる作品。夜間飛行と南方郵便機の2編収録されているが、それぞれ作品のテイストが異なる。当時の時代背景を調べながら読むと理解が深まると思う。
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サン・テグジュペリの小説では必ず言いたいことがある。この本は人生には解決法はない。勇気をもって前進していくしかない。そうすれば解決法なんか一人でに見つかるとこと。だから何事も一歩踏み出さないといけないのだ。”星の王子様”では目に見えないものにこそ価値があると言っていた。我々は困ったことがあっても行動することが大切だ。人生というやつには矛盾が多いのでやれるようにしていくよりしょうがないものだ。人間の勇気ある生き様を見た気がする。やはり本書は文学性は高いのではないか。
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「夜間飛行」は、比喩的表現が多く、趣きあり。また、昔の夜間飛行がとても危険であること、パイロットの心情などがよく分かり、読み応えあり。
「南方郵便機」は、サハラ砂漠の上空を飛ぶ飛行士の話で、無線とか、砂漠に不時着する話とか、風景の方が迫ってくるとか飛行士ならではの感覚などがリアルに描かれている。が、こちらは、比喩的表現が夜間飛行に比べものにならないほど多く、何のことを示しているのか常に考える必要があり、なかなか読み進めることができない。ベルニスともう一人の二人称の構成で、これは、自分が自分に語りかけるもので実質的に一人称なんだろうと思って読んでいたら、最期に、ベルニスが死んで、そのことをもう一人が語る場面があるので、やば別人だった?もう一度最初から読み直すのがいいかも。 -
久々に綺麗な日本語を久々に読んで満足。
リヴィエールの考え方よりもファビアンの飛行の描写にドキドキしました。管理職の苦悩よりも一社員とその家族の生活の方が自分ごとに捉えれたということかな。 -
サンテグジュペリ 飛行シーンがリアルな2編。「 夜間飛行 」は 飛行士の崇高な使命感、「南方郵便機」は 日常と死をかけた飛行の対比 が印象に残る
読みにくいが 慣れると 小説の中に引きこまれ、読み手は リヴィエール、ファビアン、ベルニスを追体験できる
「 夜間飛行 」上司リブィエールの厳しい言葉
*人間=生の蝋(ろう)→魂を吹き込み意志を造る必要がある
*過誤が 現れたときに 見逃すことは 罪悪
*不測の事変に対応するために 人員を訓練する必要がある
*勝利、敗北という言葉に意味がない〜勝利は国民を衰弱せしめ 敗北は国民を衰弱から鼓舞する〜大切なのは進展
アンドレジッド の序
*人間の幸福=自由の中でなく、義務の甘受の中にある
*義務の危険な役割に〜熱中し、成就した中に幸福がある
*勇敢な人間は、金持ちが慈善を隠すと同様に、その行為を隠す
「南方郵便機」僕は泉を見つけ出した〜ジェヌヴィーヴ
*ストーリーテラー=ベルニスの友人
*日常と死をかけた飛行の対比→住むことと飛行の対比
*ジェヌヴィーヴ=日常、住むの象徴
「南方郵便機」の構成意図
*1部 ベルニスの飛行=非日常。飛行士目線の風景を楽しめる〜描写うまい
*2部 ベルニスの回想。ジェヌヴィーヴとの恋=日常
*3部 ストーリーテラーの回想。恋とベルニスの結末
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郵便を少しでも早く配達できるよう試みで始まった夜間飛行。無謀ともいえる”夢”のような夜間飛行。”夢”に対し、犠牲を払いつつもその夢の実現のために奮闘した人の物語。大人になってこの物語に出会ったけど素敵だったな。
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文体の美しさとストーリーの過酷さよ。
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夜間飛行
夜間の郵便飛行がまだまだ危険だった頃、その事業にかける支配人と従業員である飛行機乗りたちの物語。従業員たちを生死の危険が伴う夜間飛行に送り出さなければならない支配人の苦悩と使命感が語られている。命よりも大切な目的とは…というくだりはとても興味深かった。 -
サン=テグジュペリの初期の作品ふたつ。
危険だと知りながら、命はないものになると知りながら、それでも…と空へと向つていく。
命のやり取りはそれはもう極めて論理的に行はれる。大義名分など彼らにはない。生きるか死ぬか。ただそれだけだ。燃料が尽きれば飛行機は墜ちる。嵐に巻き込まれても墜ちる。航路から外れれば仲間でさへ見つけられない。賴れるのは心もとない電波通信と計器、握つた操縦桿。乗つてしまへば、あとは委ねるより他ない。何に? 空に大地に海に未来に。
この時もはや操縦者は誰でもない。死と隣り合はせの、たつたひとりの「ひと」である。地上では愛する者が仲間が待つてゐるかもしれない。しかし、空では己ひとりで生命の賭け事に飛び込まねばならない。人生は他でもない自分の人生だ。空はそのことを冷酷に、確実に搭乗員に示す。
彼がパイロットとしてあるひは作家としてどのやうな経緯を辿つたのかは知らない。けれど、どこまでも残酷でそして確かな人生といふことに関して、どこかで握りしめたには違ひない。そしてそれは飛行機として身を結んだ。これが海に出ていたとしたらなら、ヘミングウェイであつただらう。
ジッドはその序文で『夜間飛行』を評価してゐる。夜間飛行は、ただひとりのパイロットとしてだけではなく、支配人として命令する、地上の人間をも描ききる。死に赴くパイロットも、それも命令する支配人も同じ人生だ。パイロットだから特別なのではない。何かを選び決定するといふそこに、違ひなどない。それは義務と呼ばれる何かを超えたもの。ひとがひとである何かに根差してゐる。操縦士としてのサン=テグジュペリを越えた、ひとりの作家としてのサン=テグジュペリの目覚めだ。 -
澄んだ空気の 夜明け前独特の
あの冷たさが、文章で感じられる
本を読んでいてこんな戦慄を味わったことはなかなか、なかったなと思う
透き通っている飛行艇乗りたちの見つめた夜明けが
私にもありありと見える
永続性のある完結した物語だ
実際、すべては過去のことだけれど
今この瞬間にも世界のどこかで
郵便を運ぶための飛行艇が中継地点から飛び立っているんじゃないかと思う
過去を変えることはできないから
美しい過去とは地上最強のものだ
どんなものすらもはや適わない、唯一無二の美しさがある
時間とは常にそういった暴力的な面を持っている
過去の中では
狂気でさえも肯定され美しさをはなつことができる
時間とはそのように強力なもの
それでも人は美しいものが好きなのだからしょうがないのかな -
老人と海といい白鯨といい、圧倒的な自然と命をかけて向き合う物語が自分は好きなのかもしれない。
自身が操縦士だったこともあり、文章に散りばめられた嵐と風の匂いがフランスっぽいまわりくどさを緩和していて、幻想的な文体でした。 -
切なさなんて100年前に超えてしまった圧倒的な孤独に惹かれるのではないですか。著者の意図とも無縁かもしれない、孤独を拾って読みました。南方郵便機が、読みにくいけど好み。
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今や夜は征服されてしまったけれど、30年代には、まだ暗闇は未知の恐怖だった。
愚直で儚い人々の緻密な描写。
言葉が星の光を受けて光っている。 -
こういう方たちの仕事の積み重ねで今があると思うと感慨深いです。
危険だと分かっていても仕事を続ける姿は、どこか言い訳めいて見えて、葛藤と言うか、弱くも強い意志が印象に残りました。
一度読んだだけでは理解できない文章が多かった。何度読んでも何が表現されているのか解らなかったり、現代だったらこう訳されてはいないんじゃないかと思えたりで、原文や新訳も読んでみたくなりました。