ノエル: A Story of Stories

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 268
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103003359

感想・レビュー・書評

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  • この小説は光の箱、暗がりの子供、物語の夕暮れ、4つのエピローグに分かれていて、それぞれ全部関係ない短編かと思いきや、実はところどころで繋がっている。

    エピソード内で出てくる童話がどれも面白くて、温かい気持ちになれる。だけどただただ明るいお話というわけではなくて、登場人物が現実の悩みから一瞬でも逃れて、別の世界を体験するために作ったお話だからか、どこかもの悲しさや深みがある。ただ最後には明るい気持ちになれる。
    これが与沢の「まだ物語をつくったことのない人は、作ってみなさい。そうすれば強くなれるから。いつか辛い事があっても、きっと平気でいられるから。…物語の世界に逃げ込むという意味じゃないんだ。物語の中で、いろんなものを見て、優しさとか強さとか、色んなものを知って、それからまた帰ってくるんだよ。…自分でつくる物語は、必ず自分の望む方向へ進んでくれるものだから。」という言葉を聞いて物語作りをはじめた圭介や、与沢本人だからこそつくれる物語だったんだなと感じる。

    どのエピソードも素敵だったけれど、やはり最後の物語の夕暮れには著者の想いが最も込められているように思える。
    与沢は、妻と一緒に絵本の園児に読み聞かせをするボランティアをしていたが、脳溢血で妻に先立たれた。妻の死、子供がいないこと、なにも出来なかったこと、何も残せなかったこと…色々な思いが重なって、このまま生きる意味を見い出せず、練炭自殺を図る。最後まで妻の面影を追って、幼い頃妻と一緒に行った祭りを思い出すために、祭囃子を電話で聞かせてくれるよう圭介に頼んだり、物干し竿についた雫に実家で見えた月桂樹と海の懐かしい景色を写そうとしたりするのが一途で切なかった。
    それと同時に語られるやもりとカブト虫の話。
    かぶと虫は与沢、やもりは圭介と重なって読める。かぶと虫は自分は光を失って、何もできないと考えていたが、実は水滴を落とすことでやもりを救っていた。やもりは光の箱を取り戻すことでかぶと虫を救っていた。
    与沢は自分は妻を失って、何も残せていないと思っていたが、実は圭介が物語をつくるきっかけを与えていて、圭介は作家にまで成長していた。圭介はいま電話越しに祭囃子を聞かせる形で与沢を救っている。

    現実はここまでうまくいかないというのはわかる。絶望すること、悲しいこと、辛いことばかりで、最後も物語のように希望があるとは限らない。それをよく知っているからこそ、筆者はこの小説を書いたのだと思う。ままならないことばかりの時こそ、物語を読んで、現実ではありえないような希望にひたって、頑張れる力を少しだけもらって、もう1回現実に帰る。それを繰り返していくのが人生なのだろう。だから与沢のように自ら死のうとする前に、物語のような希望を1回信じてもう少し生きてみてほしい。筆者がそう優しく語りかけてくるように私は感じた。

  • バトンリレーになっている短編集、「光媒の花」に続いて読んだけど構成は同じと言っても趣はかなり異なるので新たな気持ちで読めた。
    それにしても私の世代にはよ〜く解る昭和の背景やパーツを渦中になかった著者が何故に巧みに表せるのでしょうかねぇ♪面白楽しく読了しました。

  • (2017/12/20読了)
    クリスマスの時期を選んで、ずっと読みたかったこの本を読んだ。
    星はおまけして四つ。陰の題材を盛り込みつつ、心温まる物語になっている点と、少し変わった(直接的ではないというか)連作集であることを加算して。
    主人公がたくさんいる。最初の童話の著者を思わず検索したら、作中の童話作家だった。私以外にも検索した人は多くいるのでは?
    最初のシーンと、次に来る同じようなシーンの間に時間のズレがあることと、「マサキ」のひっかけは、ドヤ顔的な感じがしてしまった。なぜかな?書き方かな?

    (内容)
    物語をつくってごらん。きっと、望む世界が開けるから―暴力を躱すために、絵本作りを始めた中学生の男女。妹の誕生で不安に陥り、絵本に救いをもとめる少女。最愛の妻を喪い、生き甲斐を見失った老境の元教師。切ない人生を繋ぐ奇跡のチェーン・ストーリー。

    (目次)
    光の箱
    暗がりの子供
    物語の夕暮れ
    四つのエピローグ

  • 久しぶりに道尾作品を読みました。なんだか優しげなお話。

  • 3つの話が最後一つにつながって、人の人生もそういうことが知らずにあるんだろうな。素敵なファンタジーのようでそれでいて人の内面を如実に表すような、深みのある道尾さんの話に心を奪われます。

  • 道尾テイストの素敵ストーリー。
    3パターンの主人公達の関係がループしていたのも良かった。
    ラストも幸せな感じで終わって、少し泣きそうに。

  • 心温まるお話。
    1話目であれっと思うところがあって、謎なんですが・・・。
    短編が全て繋がっていて、面白かった。

  • 道尾秀介苦手なわたしですが楽しめました

  • 「光の箱」はStory Sellerで既読だったけど、あらためて読み直すととてもよくできた、それでいて読後感のよい秀作である。「光の箱」の主人公ふたりの書いた絵本が巻き起こす、ほんの小さな奇跡のようなお話。こういう道尾秀介もいいもんだな、と。2013/029

  • 童話をめぐり人の運命が静かに変わっていく。
    現実から逃れるための物語が現実に向かっていく力を与えてくれる。

著者プロフィール

1975年生まれ。2004年『背の眼』で「ホラーサスペンス大賞特別賞」を受賞し、作家デビュー。同年刊行の『向日葵の咲かない夏』が100万部超えのベストセラーとなる。07年『シャドウ』で「本格ミステリー大賞」、09年『カラスの親指』で「日本推理作家協会賞」、10年『龍神の雨』で「大藪春彦賞」、同年『光媒の花』で「山本周五郎賞」を受賞する。11年『月と蟹』が、史上初の5連続候補を経ての「直木賞」を受賞した。その他著書に、『鬼の跫音』『球体の蛇』『スタフ』『サーモン・キャッチャー the Novel』『満月の泥枕』『風神の手』『N』『カエルの小指』『いけない』『きこえる』等がある。

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