- Amazon.co.jp ・本 (524ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103023302
感想・レビュー・書評
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捕虜になりハバロフスクの収容所に収容されている.小松修吉.日本語新聞の記事にするためある脱走兵にインタビューを行うがそこで思いがけず.若かりし頃のレーニンの手紙を託される.発足間もないソビエト連邦も根幹をも揺るがしえる,この手紙の争奪戦が始まる.シベリアの厳しい気候などが正確に描かれる.
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ソ連の捕虜収容所の劣悪な条件の中で、もと共産主義だった日本人の月曜から土曜までと日曜日。レーニンの手紙を武器に、孤軍奮闘。
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井上さんには、平和憲法の意味とか、農業問題とか、いろいろ教わることの多かった作家でした。今回は、シベリア抑留と戦時下の共産党の運動なのです。権力と特権に胡坐をかいて大きな顔(ソ連共産党幹部、日本軍将校)をする人間と、善良であってしかもしたたかな庶民(一兵卒)との知恵比べがあります。最後は、演劇的なスラップスティックな展開に戸惑いました。思想というものに眉に唾をつけて対処して、最後までぶれないで発言してくれたことに感謝しきれません。明るく憲法にふれてくれる論客を失ったのです。
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ソ連体制に闘いを挑んだ日本人の一週間のはなし。ソ連の日本人シベリヤ抑留と強制労働を、旧日本軍体制を持ち込んだための悲劇と断罪。日本人論や日本の呼称からロシア料理、民族問題まで盛り込んで、しかも面白い。そんなバカな、のホラ話満載。
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あれだけ権勢を誇った関東軍が、あの終戦の日にいとも簡単に、武装解除したために、どれほどの日本人が苦労したか!!
特にロシアに抑留された人達がどんなに悲惨な時間を費やしたかを知らしめてくれた。井上さんの気のきいたユーモアに隠されてはいるけど、人間が人間をおとしれることの愚かさを教えてもらいました。
この本とは、直接、関係ないけど、北方領土の問題も日本政府は余程の覚悟をもって臨んで欲しい。 -
笑いをふくめた闊達な語り、ドンデン返し続きの大冒険活劇、二重三重にたくらまれたプロット、井上ひさしの大エンターテインメントの手法の集大成と思う。それでいて、シベリア抑留はなぜ起きたのか、当時のソ連や日本軍とは何だったのか、考えさせられること深い。取材の鬼・井上ひさしの事だから、この本から知ったシベリア抑留の実態は真実を反映してるのだと思われる。
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売れている本~小松修平は旧日本軍の体制を残しているシベリアの収容所からハバロフスクの捕虜向け日本新聞の出版局に連行され,哲学者である同僚二等兵が収容所で上官から撲殺された経緯を面接で訊ねられ,この不当な抑留がソ連と日本両政府の合作であることを悟る。火曜,軍医中尉のモスクワの東南360kmのミチェリンスクからトルコとの国境の町バツーミ市まで3000kmの脱走譚の聞き取り,脱走を助けたチェチェン人の老法学者から,レーニンが自分の出自が少数民族であることを記した手紙を預けられる。水曜,間抜けな奴だと思っていた衛兵が日本語に通じていて,機密文書である手紙を所有することがばれ,困窮する同胞を救う武器にしようと,手紙を日ロ混血の女性に咄嗟に預けるが,日本の共産党組織を潰した通称Mが出入りしていることを直感でさとり,殴りかかっていく。木曜,手紙の在処を探るソ連側は,月曜から出逢った日本人達を処刑場で銃殺する芝居で攻めてくるが,直前に芝居であることに気が付いた。金曜,日本へ帰してくれたら厚木で手紙を渡す取引に成功し,賄いの母娘も連れて行くことを追加条件とすると,手紙を母娘が持っていることを勘づかれ,DC2から無関係な人を突き落とす拷問に堪えきれず娘がスカーフの中に隠し持っていることを告白してしまう。金曜,偽物だと気が付いた極東赤軍法務部最高顧問ではあるが,自分の外套の中に縫い込まれているとは知らず,オロチ人の看守と小松はカミソリを隠し持って,日向ぼっこを楽しむ顧問の外套から手紙を抜き取ることに成功するが。日曜,小松はシベリア極北の収容所へ~月曜日から始まって日曜日まで。連載したのは2000年から2006年までで,小説新潮に。それも徐々にペースが落ちていく。単行本化されても,最初の月曜日は超大で,火曜も長く,水曜辺りから短くなって,最後の日曜はたった2行。病気で体力が落ちて気力も落ちたのか,書きたいことを最初の方で書いてしまったからか,調べモノのペースが落ちたのか,判然としない。読み終えると,ああそういう計算があったかも知れない,と思いもする。加筆訂正はなされなかったらしいが,はじめの方を少し削って後ろへずらしてくれれば良いのにとは思う。月曜の一日分は一週間分もありそうだ。Mの話か,レーニンの手紙か,どちらかに絞れば,もうちょっと締まった話になるのだが,元共産党員で転んだという過去を持たないと,このしぶとさは産まれないかとも。シベリア抑留の悲劇は,旧軍体制を残したままであったことに全て帰結しそうだ
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井上ひさし氏の最後の長編小説。シベリア抑留の過酷さは様々な小説,で語られているが、元軍医の脱走録の話しを通じ悲惨さの中にもユーモア溢れ、いかにも井上小説らしい。ソビエト国の横暴さが沢山の日本兵を死に追いやったと思っていたが、現実はこのようなこともあったのだろうと考えさせられた。
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読み始めたら止められなくなって、一気に読了。シベリアの日本人捕虜収容所を舞台に展開されるが、笑いあり、ハラハラどきどきありで、深刻な題材をユーモアたっぷりに描いて秀逸。連載終了後手を入れる予定がならず絶筆となる。それを含めて感動した。
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著者最後の長編小説。この夏、シベリア関係の特番を見たり、『二つの祖国』を読んだりしていたので、話にすんなりついていけた。あっと驚く結末なのだが、加筆・修正せずに出版されたためか、謎が謎のままになってしまっていたりして、残念。義姉にあたる米原万里へのオマージュなのかと思ってみたり。天国で二人で話しているのかもしれない。著者の冥福をお祈りします。