一週間

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (524ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103023302

作品紹介・あらすじ

昭和二十一年早春、満洲の黒河で極東赤軍の捕虜となった小松修吉は、ハバロフスクの捕虜収容所に移送される。脱走に失敗した元軍医・入江一郎の手記をまとめるよう命じられた小松は、若き日のレーニンの手紙を入江から秘かに手に入れる。それは、レーニンの裏切りと革命の堕落を明らかにする、爆弾のような手紙だった…。『吉里吉里人』に比肩する面白さ、最後の長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • えっこのエンディングある?

  • 関連する知識があればより楽しめると思う。

  • なんという大作。そして、なんという虚無感。
    結末に至る赤裸々な、またドラマティックな展開もさることながら、最後のこの落とし方。
    これは、結局こうするしかなかったんだろうか。

  • 語学、歴史、地政学、体験譚を相当な編集力で再構築してからではないとこんなすごい作品は書けない。現存の日本人作家の誰がこれを書けようか。ものすごく集中し、一命を賭した平野啓一郎あたりか?
    やけに日本語達者な外人だらけが気になるが、それもギャグとしているような。
    井上ひさしの左一辺倒では決してない正義、それも最終形態を示してくれている。これが実はもっとも刺さった。
    本当にすごいのはこれがおもしろいということだ。ジェームスボンドみたいなのだ。本当に。

  • ソ連捕虜となった日本人の反乱

  • 極寒と恐怖に支配されたシベリア抑留のシリアスな状況が継続するにも関わらず、コミカルな空気が通底。
    その軽妙さが却ってブラックな妙味を生んでいます。
    惨い私刑だとか拷問だとか、会話の中には登場するけど、登場人物が直接そういう目に遭う場面が描かれないことがポイントなのかも。

    それにしても、軍国主義と共産主義の欺瞞に対する強烈な嫌悪感が小説全体から横溢している感じで、井上ひさしという作家の生き様が滲み出ている点では遺作に相応しいと言えるように思います。

    もともと文芸誌へ連載された作品で、単行本化にあたり加筆・修正が予定されていたところ、著者の逝去により叶わなかったという事情があるとのこと。
    全体の整形がされていればさらにエクセレントな出来栄えになったろうに…と思う一方、この荒削り感が小説の雰囲気には合っていると言えるのかもしれません。

  • シベリヤのある収容所での一週間の出来事。

  • 井上ひさしの絶筆となった作。らしいのだがこの大御所の本を読んだのがまず初めて。500頁超の大作だったが途中からのめりこみすぐ読了。これを読むまで、大戦後のシベリア抑留問題についてはほぼ知らなかった。恥ずかしい…。
    そこにあった問題は、ソ連の対応だけでなくこの本で描かれる帝国陸軍の持ち込んだ問題も現実なんだろう。
    ソ連と大本営を含む祖国の戦争そして戦後の対応を批判しつつ、それに抗い闘おうとする1人の捕虜の物語。本当に長すぎる一週間。ジャック・バウアーの24時間に匹敵するとも劣らない。
    寂しすぎるほどあっさりしすぎるラストも、この物語にふさわしいような気がする。
    著者の他作も読んでみたい。ありがとう。

  • 著者の井上ひさし氏が2010年4月に肺がんで亡くなった後、その年の6月に刊行された遺作「一週間」を読了しました。
    第二次世界大戦後、シベリアに抑留されている小松修吉のある月曜日から日曜日までの一週間を描いた物語です。

    この作品の魅力の一つは、徹底的なリサーチに裏付けられた、圧倒的にリアルな描写です。
    そのことについて、大江健三郎氏は次の様に述べています。
    『シベリアの苛酷な風土、市街の景観、日本語をそれぞれ高度に習得した赤軍将校たちの自己表現。ていねいに、しかし何気なく示されるそれらのいちいちが、じつにふんだんに集積された情報を注意深く整理したものであることを感じとる読者は多いでしょう。井上さんはロシア文化を、日常レヴェルで多面的に体得していられる夫人、その姉の米原万里さんのお二人に、徹底的に学習されたはず。こうした確実な細部の基礎がためこそが、ディケンズ以来、本当に偉大なエンターテインメントの条件です。(新潮社『波』より)』
    まさに小松氏が現実にシベリアで文章を書いているかのような、現実味に引き込まれます。

    また、ハラハラドキドキさせ、あっと驚かせるミステリー小説の様な展開の妙や、深く痛烈な社会批判も、この作品の主要な魅力です。

    軽い文体ですが、ずっしりと重い読み応えのある作品でした。
    超オススメです。

  • 著者の絶筆ともいうべき作品です。終戦直後のシベリアを舞台とした旧ソ連、そして旧日本陸軍(関東軍)の非道さを告発する内容ですが、ユーモアに富み楽しく読ませてくれます。チェチェンの民族問題が当時からの問題として出てきており、スターリンの罪状の大きさを感じます。 また魯迅・周恩来・宣統帝(ラストエンペラー)などが非常に自然に物語の中に出てくるということで、リアリティを高めていました。ユーモア小説であることを忘れ真剣に読んでいたときに、主人公の小松が元軍医・入江に会って大変だった脱走記を書こうとしたらロシア女にモテモテの大名旅行だった!で初めてパロディを感じたというところでした。また入江から渡された若き日のレーニンの手紙がソ連の体制を揺るがしかねないという内容でそれを、小松が、ソフィアに託した際のソフィアの反応が笑わせる楽しい内容だと思ったのですが、これはどんでん返しがありました。月曜日から始まり、土曜日になったところで、展開が速くなりすぎ、もしかすると、中途半端で著者が絶筆に成らざるを得なかったのかとその点が残念ですが、十分楽しかったです。恐らく目次だけがある日曜日が完結編だったのでしょうか?

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著者プロフィール

(いのうえ・ひさし)
一九三四年山形県東置賜郡小松町(現・川西町)に生まれる。一九六四年、NHKの連続人形劇『ひょっこりひょうたん島』の台本を執筆(共作)。六九年、劇団テアトル・エコーに書き下ろした『日本人のへそ』で演劇界デビュー。翌七〇年、長編書き下ろし『ブンとフン』で小説家デビュー。以後、芝居と小説の両輪で数々の傑作を生み出した。小説に『手鎖心中』、『吉里吉里人』、主な戯曲に『藪原検校』、『化粧』、『頭痛肩こり樋口一葉』、『父と暮せば』、『ムサシ』、〈東京裁判三部作〉(『夢の裂け目』、『夢の泪』、『夢の痴』)など。二〇一〇年四月九日、七五歳で死去。

「2023年 『芝居の面白さ、教えます 日本編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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