- Amazon.co.jp ・本 (140ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103032359
作品紹介・あらすじ
芥川賞受賞作『苦役列車』の主人公・貫多が抱く身内への思い、憤懣と怨念。同棲する女に怒罵と暴言を浴びせかける貫多。人生の先行きに不安と畏れを抱く15歳の貫多。没交渉だった母親からの手紙に心揺らされる貫多。大切な師の〈淸造忌〉を陰鬱な気持ちで挙行する貫多。出ていった女への後悔と幻影に涙滲ませる貫多。43歳で芥川賞を受賞した故の悩ましき日々と、不穏な苛立ちを炙り出す私小説六篇。
感想・レビュー・書評
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ご存知、北町貫多シリーズである。
時代の異なる短編6編を収録。
「本の雑誌」(2022年6月号)に収録された「北町貫多クロニクル」も参照しつつ概要を紹介したい。
「形影相弔」は、貫多44歳の作品。
芥川賞受賞後、古書市に藤澤淸造の直筆原稿3点が出品されるという内容である。
今さらだが、貫多シリーズは、著者・西村賢太氏が自身を主人公・貫多に投影したれっきとした私小説。
もちろん脚色はあるだろうが、ほぼ西村氏本人の実人生をなぞっていると思われる。
西村氏が芥川賞受賞をどう受け止め、それが彼の人生にどういう影響を与えたか、その一端が分かって興味深かった。
「青痣」は、貫多34歳の作品。
ベランダに置くベンチを買い、同棲する秋恵と幸せに暮らすはずだったが暗転するという話である。
毎度のことながら「身から出た錆」というほかない展開。
貫多よ、なぜ学ばない?
でも、そんな貫多が愛おしい。
「膣の復讐」(すごいタイトル笑)は、貫多35歳の作品。
秋恵が出て行って10日(だから言わんこっちゃない)。
慚愧と後悔に苛まれつつも、肉慾だけは旺盛な貫多が女を買う話。
もう、しょーもないと言えばしょーもない下品、下世話な話なのだが、すこぶる面白い。
「感傷凌轢」は、貫多44歳の作品。
二十数年来音信不通だった母親から突然手紙が届くという話。
母親に対する複雑な胸中を吐露する貫多に、心揺さぶられるものがあった。
「跼蹐の門」は、貫多15歳の作品。
中卒で家を立て最初の様子である。
最後1ページにある「――生きて、いけるんだろうか?」の独白が痛々しくも彼の行く末を暗示している。
「歪んだ忌日」は、貫多46歳の作品。
芥川賞受賞後の淸造忌に抱いた貫多の憤懣を描いて読ませた。
つまり、どれも良い。
悪いわけがない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
著者の私小説短編集。今回はいろんな年齢の貫多が出てくる。賞を取ったあと、彼女と同棲していた頃、家から出て一人暮らしを始めた15歳。どの年齢の貫多も感情のおもむくまま我慢せずに生きている感じがする。刹那的。賞を取って環境が劇的に変わったあと、著者の心境の変化はあったのだろうか、それが気になる。
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文章に妙な力みを感じる。露悪的な内容は個性的で面白い反面、鬱々とさせられる。
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図書館借り出し
形影相弔
青痣
膣の復讐
感傷凌轢
跼蹐の門
歪んだ忌日
芥川賞を取った後の北町貫多 -
西村さんの作品を読むたびに「貫多ひどすぎる」と思いつつ、なお読むのをやめられない。
今作でも新たな貫多情報を得ることができて満足。 -
私のブログ
http://blog.livedoor.jp/funky_intelligence/archives/1998052.html
から転載しています。
西村賢太作品の時系列はこちらをご覧ください。
http://blog.livedoor.jp/funky_intelligence/archives/1998219.html
「形影相弔」
芥川賞受賞した43歳頃の話。それほど面白くない。
「青痣」
秋恵シリーズ。ベランダ用にベンチを購入したばかりに喧嘩の発端となり大喧嘩。貫多が秋恵の下着について言及し、秋恵が機嫌を損ねるも、逆ギレする貫多。どう贔屓目に見ても貫多が悪い。
「膣の復讐」
一昨日読了した「棺に跨がる」の中の「破鏡前夜」の続き。つまり、秋恵に去られた直後の話。
「感傷凌轢」
芥川賞受賞後に実母から手紙が来た話。縁を切った素行不良のドラ息子が芥川賞受賞するなんて、母親もびっくりだろうな。
「跼蹐の門」
中学卒業後3ヶ月経過し、独立生活を開始した直後の話。糊口を凌げる先を見つけて彼なりの豪遊をしたら、翌朝寝過ごしてほぼ一文無しになってしまった情けなくも楽しい話。
「歪んだ忌日」
芥川賞を受賞した後、46歳の貫多。貫多のお陰で奇しくも藤澤清造にスポットが当たりそれを苦々しく思うも、一過性のものであり杞憂だったという話。 -
6編を収録した最新短篇集。とはいえ、そのうち半分はほとんど掌編に近いので、あっという間に読み終わってしまう。ページ数も140ページほど。
中身も、西村賢太にしては総じて薄味だ。
6編とも、骨子だけを取り出してみればすごく面白そうなのに、思ったより盛り上がらない。たとえば――。
「感傷凌轢(りょうれき)」は、長年音信不通だった母親から北町寛多に手紙が届く(報道で芥川賞受賞を知ったという)ところから始まるもの。そこからのドラマティックな展開を予想させながら、けっきょく寛多の手紙に対する思いだけを描いて尻切れトンボに終わってしまう。
「膣の復讐」(かつての「腋臭風呂」に匹敵する下品タイトル)は、秋恵が出て行ったあとの小さな一挿話を描いたもの。読者がいちばん読みたい秋恵との修羅場は描かれず、寛多が腹いせに買春に出かける顛末が描かれるのみ。
本チャンの修羅場は別の短編で描くつもりなのだろうが、これではまるで、目的地周辺まで来た車が周辺をぐるぐる回っているようなもの。慊(あきたりな)いったらない。
それなりに楽しめる1冊ではあるが、西村がちょっと「守りに入っている」というか、力を出し惜しみしている印象だ。「いま持っている力を全部注ぎ込んだ」という迫力みなぎる短篇集が、そろそろ読みたいところ。 -
芥川賞受賞後の状況変化を描いた作品が大部分を占める。
印象に残ったのは「感傷凌轢」。
20年来音信不通だった母親からの便りにざわめく心境を綴る。毒づきながらも「(三百万までだな)」との具体的な金額の提示は手紙に「すべてを取り寄せてもらったのです。」と書いて寄こした母へのメッセージと受け取った。
ところで、“三百万円”という金額で思い出すのは秋恵の実家からの借金のこと。こちらは返済したのだろうか。 -
この本は芥川賞もの、秋恵もの、母親もの、藤澤清造ものと多彩だ。秋恵ものは最後の別れのエピソードであり完結編だ。芥川賞をとってガラリと変わるかと思いきや、そうでもなかったり、生き別れた母親への複雑な感情や、師匠である清造への想いが伝わる小説で、いずれも人間の心を実によく描写している。著者ならではの世界観だが、もうそろそろこの手のテーマだけで小説を書くのも困難な気がする。それを跳ね除けて、ここを更に深化させることが出来るのだろうか。西村氏なら出来る気がする。