あの胸が岬のように遠かった

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103326427

作品紹介・あらすじ

熱く、性急で、誠実ゆえに傷つけあった――。「知らぬまま逝つてしまつた きみを捨て死なうとしたこと死にそこねたこと」「わたくしはあなたにふさはしかつたのか そのために書き、書き継ぎてなほ」――。妻が遺した日記と手紙300通を見つけた夫が初めて明かす、若き日の出会いと命がけの愛の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 「二人のひとを愛してしまへり」。妻の手紙と日記に綴られていたのは...... 『あの胸が岬のように遠かった』 | BOOKウォッチ
    https://books.j-cast.com/topics/2022/03/23017578.html

    永田和宏 『あの胸が岬のように遠かった―河野裕子との青春―』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/332642/

  •  ここまで、書けるんだ、あるいは、ここまで書くんだ、まあ、そういう驚きの連続でした。ボクたちが、テレながら、笑ってしまう「愛」ということを信じている人がここにいます。
    「わたしは、ウソは書きません。あったことは全部書きます。そこに今の私がいます。」
     と、自らの人生を、母の死、後に妻となった女性との出会いからたどり直そうとなさっている様子には、青春回想記と云ってしまえばそれまでですが、やはり胸打たれるものがありますね。
     そういうふうに生きている歌人がココに立っています。
     ブログにもあれこれ書きました。よろしく!
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202403070000/

  • 永田和宏は、歌人であり、生物学者である。有名な歌人である河野裕子と1972年に結婚したが、河野裕子は2010年に亡くなる。河野との最後の日々を綴った著書に「歌に私はなくだらう-妻・河野裕子 闘病の十年」がある。本書は、主に、河野裕子との出会いから結婚までを、河野の日記や短歌を用いながら描いたものである。
    読後の感想は2つある。1つは、若い頃の著者・永田和宏の情けなさ。そして、もう一つは、当時から現在に至るまでの永田和宏の正直さ・誠実さ。
    京大生であった永田和宏は、京都女子大の河野裕子とつき合い始める。それは、軽いつき合いではなく、お互いの魂を求めあうような激しいつき合いである。3年生になった頃から永田は悩み始める。河野裕子、および、彼女の両親が、早く結婚したがっていることに。もとより結婚することに否はないが、早すぎると永田は考えている。それは、永田が学者としての道を歩むために、大学院に進学を考えていたこと、また、歌人としても身を立てたいと考えていたこと。結婚・進学・歌の道の3つをどのように両立させるかを悩んでいたのである。悩み過ぎて、大学院進学の勉強に身が入らず、大学院受験に失敗してしまう。そして自殺を試みる。その後、働き始めた河野裕子を妊娠させてしまい、中絶させてしまう。そして、その時には知らなかったことであるが、河野裕子をも自殺未遂に追い込んでしまう。結局、永田はいったん就職をし、河野と結婚する。その後、再び大学に戻り研究者の道を歩むと同時に、短歌でも身を立てることに成功し、河野も有名な歌人となる。追い込まれて自殺を図る、そして、河野を妊娠させてしまう永田は格好悪い。
    しかし、そのようなことの詳細を、赤裸々に、詳らかに永田は本書にしたためている。河野の当時の日記や短歌、自分自身の当時の短歌や記録を用いながら書かれている。このような記録を書く作業は、とんでもなくつらい作業であったはずである。自分がとった行動に対しての後悔や恥ずかしさ、また、それが河野を傷つけたことに対しての悔恨の念。そのようなものを感じながら書いていたはずである。そこから逃げずに、最後まで書ききった永田和宏は、正直で誠実な人であると信じることが出来る。
    永田と河野の短歌には、このような激しい感情が表されていたのだということを知ることが出来たこと、というか、短歌というものが、そのように出来ているものだということを知ることが出来たことも、本書を読んだからこそ。

  • 短歌は、1首だけならすごくいいなと思うんだけど、というか本当はすごく好きだと思うんだけど、短い言葉にあまりにもたくさんの思いが凝縮されていて、あと、短歌の中にあるリズムをつい探してしまって、いくつも読むのはすごく疲れるので触れないようにしてきた。
    この本は短歌集ではなく、合間合間にそのときを詠んだ短歌があるのが私にとってはちょうどよくて、堪能できた。

    思い詰めて倒れてしまうほどの恋って、そんなことあり得るのかと思ったけど、読んでいくとすごくわかる…。
    才能と才能が運命的に出会って、
    でもその運命がもう1つ現れる。
    2人の運命の人に引き裂かれるような思い。
    これは小説や少女漫画の世界ばりの苦悩…!

    あの胸が岬のように遠かった。畜生!いつまでおれの少年    永田和宏『メビウスの地平』


    私には短歌をどこかパフォーマンス的に感じてた部分もあったけど、短歌に詠まれた言葉が、どれも短歌のためにあるのではなくて、短歌にすることでようやく表せる言葉なんだと感じられた。

  •  妻が逝った10年後。遺品から、10数冊の日記と300通もの手紙が見つかった。そこに書かれていたのは、結婚前の妻が、永田への思いと、「青年N」への思いとの間でくるおしく揺れ動いていたという事実だった―。

     妻は、2010年に64歳で没した歌人河野裕子。高校時代から、永田と出会って結婚に至るまでの約7年の日記は、河野の歌〈陽にすかし葉脈くらきを見つめをり二人のひとを愛してしまへり〉に秘められた物語を明るみにした。

     けれども、それは序章に過ぎない。本書は、その後「母」「傷跡」をキーワードに、二人が互いに秘めていたものを共有してゆく過程が読みどころでもある。

     出会いは1967年。学生運動が高揚する直前、京都大と近隣の大学短歌会との交流で二人は出会った。河野は、背の高い永田を「寂しい人」だと見抜いた。「ドーナツだ」「真ん中がない」。空洞を抱えた永田の幼少期には、産みの母親をめぐるさびしい真実があったのだ。

     永田のそのさびしさを受け止めた河野にも、母親をめぐる、誰にも言えなかった傷跡があった。そのような秘め事の共有が、若い二人を強く結びつけていった。

     その二人に、1970年、危機が訪れた。本書で初めて明かされた、永田の歌〈昏睡の真際のあれは湖【うみ】の雪 宥【ゆる】せざりしはわれの何なる〉の背景は重い。大学院入試に失敗した永田は、研究と結婚と短歌の間で思い悩み、自殺をはかった。机の上に放置した曼珠沙華の凄絶な枯れ姿を、むしろ美ととらえたほど、ぎりぎりの精神状態に陥っていたのである。

     しかもその後、数カ月ぶりに会った河野に、若さゆえ、より深い傷を負わせることにもなった―。

    「歌に私は泣くだらう 妻・河野裕子 闘病の十年」(新潮文庫)に次ぐノンフィクションで、今春、NHKでドラマ化されたばかり。現代短歌史や関西の学生運動史の観点から読み深めることもできそうだ。
    (2022年5月8日掲載)

  • 共に歌人である永田と河野の若き日々を、二人の日記や歌集を元に、永田自身が著した。
    自身の語りづらい出来事までも、正直に振り返っていることに驚く。永田氏は、こうやって河野裕子を失ったことを納得させていくのかもしれない。

  • 妻の遺した日記に、夫の日記、回想、双方の手紙を挟みながら、二人の出会いから結婚に至るまでの出来事、心の動きが、その時詠まれた歌とともに綴られていきます。稀有な才能の二人の真摯な青春の実録であり、叙情性に満ちたサスペンスのようでもありました。何より河野裕子さんの著者を愛し抜こうとする気持ちに心を打たれました。

  • この本に基づくNHKだったかのドキュメンタリーを見て原作を読みたくなった。

    河野裕子さんの歌が好きで、この歌人が生涯にわたり書き記した日記や歌を読んでみたい気持ちからだったが、ちょっと肩透かしを食らった印象。
    永田氏が書いているから仕方ないんだろうけど、河野さんよりも永田氏の青春の痛みを描いた本という印象。
    2度の大学院受験失敗、自殺未遂、初体験で妊娠させた挙句、無責任にも女の方から中絶を言い出させたことなど永田氏への見方はキツくならざるを得ない。
    しかしそんな男に生涯愛を与え続けて、「このようにしか私は生きられなかった」と言い切る河野さんが清々しい。
    だけどその言葉を借りて永田氏が「そのようにしか私たちは生きられなかった」と言うのはちょっとズルい気がするな〜。

    もっと河野さんの歌を読みたい。

  • 歌人、河野裕子の死後、発見した日記をも引用し、当時の河野さんから見た思いなども綴られた、
    夫、永田和宏さんの書く
    2人の出会いから結婚までの物語…

    文章のうまさにやはり引き込まれた。
    永田さんの青春時代を語るに必要な要素である
    幼少期の話から、すっかり世界に
    没入した。
    頭の片隅にシーンが浮かぶように、
    寂しかったであろう少年時代の光景が浮かんだ。

    2人の出会いから既に短歌の世界…
    好きな歌は多々あれど、やはり女性の心理描写に長ける河野さんの歌に心惹かれる。

    ①君が在るそのことのみの愛しさに夕べは早くあかりをつけぬ
    〜たとえ逢えなくとも、京都には確かに君が在る。そう思うだけで、幸福感に充たされて、夕べのあかりを点す。
    とても美しいと思った。たったこれだけの所作のことにこれだけの意味を込める。この若さで!やはり才能ある人だったんだなあと感じる。

    ②多くの人が好きな歌にあげるだろうけど…
    たとへば君 ガサッと落葉すくうようにわたしを攫って行っては呉れぬか


    ③詩片のいちぶ〜
    あなたがまた生まれていなくて
    わたしがもう死んでしまっていて

    運命を思わせるフレーズ。
    ものすごい偶然とさだめに導かれ、
    今ここにいるんだと思わせる、パワーを感じる。

    ここまで私的なことを曝け出し、書くのかと
    歌人であること、作家であることの因果なのか。
    お2人が生きた時代が
    そうさせた面もあるのかもしれないが
    ここに描かれた物語の
    臆面もない愛のパワーに圧倒される。

    誰かの為に、何かの為に、という大義名分では決して短歌は作れるものではない。短歌はもっとつきつめた、ひとりぼっちなものだと思う。
    〜河野さんのあとがきが全てなのだろう。
    時がたっても私たちの心に何かしらの
    波を立てる歌のかずかず…
    心底、魅力的な人であったと思わされる。

  • 買おうかとおもっていたが、図書館で貸し出していたので6月に申し込んだら11月初めに届いた。貸し出期間二週間なのでいそいで読もうとしたら、読み出したら止まらず一週間で読み終わった。永田先生夫妻の結婚までの恋愛記であり、大学闘争と短歌にのめり込んだ大学生活の青春記です。先生の出自の苦悩など、赤裸々に語っている結婚までの半生を短歌を織り交ぜ語り書けてます。文庫本になったらすぐに買おうとおもいます。

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著者プロフィール

永田和宏(ながた・かずひろ)京都大学名誉教授、京都産業大学名誉教授。歌人・細胞生物学。

「2021年 『学問の自由が危ない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

永田和宏の作品

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