神の悪手

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103500834

感想・レビュー・書評

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  • 今まで読んだ将棋小説は当たり外れが大きくて。将棋を知らない自分でもこれはちょっとなぁ、と思うものもあったりするのだけど、これは間違いなく正真正銘の大当たり!

    将棋の世界。藤井君のおかげで将棋のルールを知らなくてもなんとなく身近になった世界。
    それでも私たち部外者が見ているものは、表面の、いや表面ですらない外側の一部分なんだと思い知る。
    基本的なルールと、将棋盤と駒さえあればだれでもできる。しかも、1人だけでもできる勝負の世界。
    この単純明快な勝負の、奥の奥にどんな世界があるのか。

    勝ちと負け。勝負であるからには必ずどちらかが勝ちどちらかが負ける。けれど、不思議なことに将棋というのは完全に勝つ、あるいは負けるまで指すことは少ない。その手前で勝敗が決まるからだ。
    その、負けを受け入れる瞬間こそが将棋の残酷さなのかもしれない。

    ここにある5つの物語は将棋が持つ可能性を、残酷さを、救いを、恐怖を、そして希望をつきつける。
    己の身体と頭脳を極限まで使い切る真剣勝負の世界の、その孤高の刃に震えた。

  • 将棋のルールはわからないのだけれど、読んでいて深く胸に刺さるものがあった。きっと将棋のことを知っていれば、もっとその奥深さを味わえるのかなと思う。しかし芦沢先生はどうしてこうも人の深いところ、根底に流れているものを取り出し、表現するのが上手いのだろうかと感じる。
    短編集でありどれも素晴らしいのだが、私は特に「ミイラ」「恩返し」が好きだった。

  • 将棋の世界を描いた短編集です。私は駒の動かし方を知っているくらいなんですが、なんて厳しい世界なんだろうと思いました。

  • 「将棋には、運が割り込む余地がない」(P28)
    棋士や駒師など将棋に関わる人たちの人間模様が書かれた短編5つ。将棋の盤上がその人の人生を写し出す。

    どの短編も面白かったけど、頭二つぐらい抜けて良かったのは表題作「神の悪手」。読む進めるページと比例して動悸が増した。

    ミステリ要素がある作品たちだったので高速で読んでしまった。もったいない。

    将棋が分からなくても読めます。面白いです。

  • 決して巧かったり強かったりするわけではないが、将棋の面白さは知っている。悪手とは読んで字のごとく、悪い一手。避けられずにその一手を指すしかない場面もある。

    余談だがハンター×ハンターのネテロ会長がキメラアント編で「受け攻めいくつか予想しとったがそりゃ悪手だろ蟻んコ」と言っていた。痺れるシーンだった。

    それはさておき、今作は将棋にまつわる5編の物語。どの物語にも様々な苦悩が滲んでいる。将棋には物語があるのだ。将棋をテーマにこれだけのネタがあるとはさすが。それぞれの物語の長編バージョンも読みたくなった。

  • とても面白かった。将棋に関係する短編集なのだけれど、同じ人物の名前が登場しながらも、それぞれ切り口がまったく違い、それでいてどの短編も読ませる。登場人物たちの人生を感じられる、素敵な短編集だった。芦沢さんは将棋まで書けてしまうのか、という驚きもある。

  • 将棋にまつわる5話からなる短編集。

    「弱い者」
    被災地を訪れた棋士。
    彼はそこで天才的な将棋の能力をもつ少年と対戦する事になる。
    所が、少年は肝心な所でポカをしてしまい負けてしまう。
    棋士としての自分の将来に限界を感じていた主人公は少年を引き取り弟子にしようとするがー。

     何故、少年が負けたのか、その理由が意外なものだった。被災地ならではの理由で、いつでもどこでも、最も弱い者にしわ寄せがいくんだな・・・と情けなくなる話。それにしても、棋士は男性と女性でそんなに違いがあるのか・・・とも思った。

    「神の悪手」
    大事な将棋の試合の前日に、先輩棋士に呼び出される主人公の男性。
    先輩は明日の対戦相手に必ず勝って欲しいと、勝てる棋譜を主人公に見せるがー。

     何となくおかしな話だと思った。何故、強敵を倒せる手を思いついているのに、主人公にそれを見せて勝ってくれと頼むのか。その辺は私が将棋の事について全く知らないから思う事なのかもしれない。

    「ミイラ」
    詰将棋の雑誌の添削をしている男性。
    彼は投稿作の中に明らかにミスをしている作品を見つけて指摘するが、後に作者からそれはおかしいという反論が届く。
    そこには作者なりの特殊なルールが存在し、それには彼の特殊な生い立ちが関係していた。

    「盤上の糸」
    子供の頃に交通事故にあい、両親は死亡、自身は記憶障害となった男性。
    彼は棋士である祖父のもと、将棋を学び、プロになる。
    そんな彼とその対戦相手との目線で描かれた話。

    「恩返し」
    将棋の駒を作る職人。
    彼の作った駒はタイトル戦で使われる事になるはずが、すんでの所で翻ってしまう。

    私は将棋の事は全く知らないけれど、ちゃんと小説として読めた。
    だけど、話によっては確実に将棋の事を知ってたらもっと面白いと思えただろうというのがあった。
    個人的には最初の「弱い者」と「ミイラ」が面白かった。

  • 将棋に関わる人々を描いた短編集。アスリートにも似た己との孤独な戦いや迷いの数々、奥歯を噛み締める様を描いた「神の悪手」駒師と棋士、勝負にかけるそれぞれの葛藤を描いた「恩返し」
    一夜にして白髪になるかの様な鬼気迫る作品だった。

  • 199冊目読了。
    美しさと悲しさが印象的な柚月裕子の盤上の向日葵、とにかく熱い!塩田武士の盤上のアルファと盤上に散る、それに負けず劣らず、さらには他の作品よりも将棋そのものに寄った作品で駒の配置や流れもあり、どの話もガッツリのめり込んだ。
    何年経とうが将棋が好きで好きで好きすぎる人らの想いが伝わってきた。
    ひさしぶりだけど無性に将棋を指したくなった。

  • ほとんどが棋士を主人公とする、将棋を巡る短編小説集。
    被災地を訪問した棋士が出会った才能ある子どもを描く、冒頭の「弱き者」が一番完成度が高いと思った。詰将棋雑誌の検分者が悲劇の少年の謎を解く「ミイラ」もいい。
    表題作の「神の悪手」と「盤上の糸」は設定はとても興味深いのに、結末がやや投げ出された感があって少し物足りない気がした。
    「恩返し」は他4作と比べて面白みには欠けるけど、棋士へのリスペクトによって書かれた作品なのが伝わってきた。

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著者プロフィール

1984年東京都生まれ。千葉大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2012年『罪の余白』で、第3回「野性時代フロンティア文学賞」を受賞し、デビュー。16年刊行の『許されようとは思いません』が、「吉川英治文学新人賞」候補作に選出。18年『火のないところに煙は』で、「静岡書店大賞」を受賞、第16回「本屋大賞」にノミネートされる。20年刊行の『汚れた手をそこで拭かない』が、第164回「直木賞」、第42回「吉川英治文学新人賞」候補に選出された。その他著書に、『悪いものが、来ませんように』『今だけのあの子』『いつかの人質』『貘の耳たぶ』『僕の神さま』等がある。

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