波止場にて

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (439ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103999058

作品紹介・あらすじ

関東大震災後の横浜に生まれた異母姉妹の慧子と蒼。ミッションスクール、ジャズ、ダンスなどのヨコハマ文化を楽しみ、恋を知る二人。しかし戦争の暗雲が港町を覆い尽くす。3・11以降の日本で書かずにいられなかった、戦争と平和、生きることの歓びと哀しみ。

感想・レビュー・書評

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  • 戦前から戦後の横浜を舞台に、二人の腹違いの姉妹がお互いどのように接しながら生きていったのか、またそれぞれその時代をどのように過ごし生きたのかが描かれた物語だった。
    激動の時代を背景に描かれた、二人の腹違いの姉妹の距離、そして二人の人生が、とても興味深くて面白いストーリーだった!
    p389の、
    「自分の好きなこと、楽しいと思えることをやっちゃった方が、結局のところ、道は拓けていくものだって気がするわ。-予想もつかないかたちで、ね」
    ⇒無心にやりたいことをやっているほうが、ものごとはなるようになるのだ
    この部分が「きっとそうだ」というような気持ちになり、とても印象に残りました。

  • デビュー作でファンになり、以来小説とエッセイはすべて読んできたけれど常に期待を裏切られてきた感があり、ついに前々作をもって今後は読まないと決意するに至った。

    が、そこはやはり過去に好きだった人(笑)
    未練がましく今回も読んでしまった...(前作も...)

    結果、ついに報われたと感じる作品に出会った。
    20余年、長かった!

    著者が好んで用いて来たスウィートな言い回し---例えば「心臓、パタパタ」---を読むのがいつからか非常に辛くなっていたし、それらを抑えた少し"大人っぽい"小説は残念ながら単純におもしろくなかったし印象にも残らなかった。

    しかし今回は、こちらもきちんと正座をして対峙できるような文章だったことがひとつ。描写も細かく無理がなく、安心して読めるものだった。
    そしてなんといっても内容が濃かった。プロットが良かった。重い史実を交えながら、こういうものが描けるんだ、と、非常に嬉しい驚きをもらった。

    小説自体の内容は非常に重い。
    戦後70年の節目にして二度と戦争を起こしてはならないという決意を秘めたものであり、同時にどんな時であっても美しいこと楽しいこと愛することを大切にしながら人生を生き抜かねばという希望にも満ちている。

    ああ、ぜひまたこんな作品を描いてください。私はきっとまた野中さんを追ってしまうでしょう(笑)

    ★4つかなと思ったけれど、嬉しさと期待を込めて5つ。

  • 昭和元年に一歳になり、戦前、戦中、戦後を駆け抜けたふたりの少女を描いた一冊だ。
    舞台は港町、横浜。生糸の貿易商として財を成した父親と男爵令嬢の母親をもつお嬢様の慧子と、妾腹で腹違いの妹、蒼。
    対照的なようでどこか似通った点もある姉妹が、自分を、人を、未来を信じて生き抜く姿がすがすがしい。
    野中柊の作風と、舞台と登場人物の雰囲気がぴったりとあっていて、長い古い映画を見ていたような気持ちになった。

  • 最初から最後まで、すごく丁寧に描かれた物語。
    とても良かった。

  • p.366
    人間、どこでどんなご縁があって、周りのひとたちの思惑や心配なんて知らない顔で、勝手に幸せになってるかもしれないわけでしょう?

    波止場にてというタイトルとジャケットに惹かれて手に取った本です。
    優しくて温かい気持ちにさせてもらえました。
    なんかよく分からないけど、すごくよかったです。

  • 腹違いの姉妹、慧子、蒼の昭和。
    震災、戦争、復興。
    勉強して、恋もして、働いて、出会いあり、別れありの二人のドラマチックな人生。
    そしてその生は現在へとつながっていく…。
    昔の豊かさは物や情報ではなく、なんかもっと根っこが豊かだなーと思った。よい話だった。

    谷村志穂さんの本だっけ?と途中思った。

  • 港町横浜を舞台に、戦前戦後を逞しく生きた異母姉妹の話。

    お嬢様育ちの慧子と妾の子蒼はまるで違うタイプですが、2人の持つ芯の強さは、やはり姉妹だからなのか、その時代の女性だからなのか、感じ入るものがありました。
    蒼の母鞠、慧子の家の家政婦タツと、魅力的な女性がたくさん出てくる話。

    戦時下の状況も、悲惨な様子は描かれてはいるものの、どこか夢のような異世界の様子が感じられるのは、作者の筆力のせいでしょうか。

    晩年の慧子の章から、2人がその後も逞しく輝いて生きたということ、そして、曽孫の美帆へとその生き様が受け継がれていくような気配に、嬉しい気持ちになりました。

    良い本に出会えました。

  • 戦前から戦後間もない横浜を舞台に,腹違いの姉妹 慧子と蒼がたくましく生きる物語だが,蒼は妾の子であるにもかかわらず前向きに力強い.二人は同じ学校に通うが,慧子の母の死後 後妻に来た多恵の雑言に蒼は母の鞠と自立し,横浜市電の車掌,運転手として働く.空襲に襲われる中,二人は何とか生き延びるが,密かに開いたダンスパーティで慧子は蒼に従兄弟の広也を紹介する.広也が出征する間際の逢瀬で身ごもった蒼.戦後になって洋服を手掛けて人気を博する二人だが,慧子は進駐軍の日系兵士の矢崎綸太郎と恋仲になるが,朝鮮戦争に出征する際に腕時計を託される.本文を読んだ後,冒頭の序章と最終章を読むと,二人の波乱に満ちた生涯が思い出されて ぐっとくる感じだ,お妾さんの話で「畜妾届」なるものがあった由.驚いた.

  • 大正〜現代を強く、しなやかに生きた女性・慧子の一代記。若くして亡くなった母、おおらかな父、父の妾・鞠、鞠の娘で同い年の妹・葵、父の後妻・多恵、その子どもたち。愛した男たち。結局、結婚もせず、子どももいなかった慧子だけど、人に恵まれ、愛され、波乱万丈ながら幸せな人生、老後を送る・・・。序章が現在から始まり、人生を振り返るかたちで物語が進み、最終章でまた現在に戻る、というのはあまりにも典型的なパターンではあるが、大好き・・!こういうおんな一代記がとにかく好きなのです。時代が昭和をまたいでいるとなおさら。戦前、戦中、戦後を力強くしなやかに生きる物語は、とにかく元気が出る。そして、「二度と戦争をしてはならない」t強く思う。戦争がからむ小説は、半年に1回くらいは読んで、忘れないようにしなくてはならない。

  • 慧子と蒼、正妻と妾の子の間柄ながらお互いを必要として、戦争を生き抜く。
    蒼の二度目の結婚と、慧子より先に亡くなった詳細が気になります。

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著者プロフィール

野中 柊(のなか ひいらぎ)
1964年生まれ。立教大学卒業後、ニューヨーク州在住中の1991年に「ヨモギ・アイス」で海燕新人文学賞を受賞して作家デビュー。小説に『ヨモギ・アイス』『小春日和』、『銀の糸』、『公園通りのクロエ』、『波止場にて』『猫をおくる』など、エッセイ集に『きらめくジャンクフード』など、童話に「パンダのポンポン」シリーズ既10巻(長崎訓子 絵)、『ようこそ ぼくのおともだち』(寺田順三 絵)、「本屋さんのルビねこ」シリーズ既2巻(松本圭以子 絵)、絵本に『赤い実かがやく』(松本圭以子 絵)など著書多数。『すてきなおうち』(マーガレット・ワイズ・ブラウン 作/J.P.ミラー 絵)など翻訳も手がける。

「2020年 『紙ひこうき、きみへ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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